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話すのが苦手。会話が上手な人のように笑わせたいけど緊張して失敗……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室68】


✳️今週のお悩み✳️

昔から会話が苦手でしたが、成長するにつれ、世間話は苦でなくなりました。ただ、どうしても自分のことを話すのが苦手です。会話が上手な人のように笑わせたいと思って緊張して失敗します。それが悪いのはわかっているのですが、どうしても相手の反応を気にしています。親に学校のことを話しても、それはあなたが悪かったと言われたり、笑われることが多かった記憶があります。いまでもあしらわれるのがいやで、あまり今日のおきた出来事を話せません。相手を信頼すればいいだけなんですが、恐いです。やはり自分のことを話さないと相手に信頼してもらえないと思います。でも、結局こうして考えているときも、思考が内向きになり、自分のことばかり考えてしまうのがいやです。
(シャンディーガフ・27歳)


宇多丸:
要はこれ、「苦手意識」の問題だよね。

で、シャンディーガフさんの場合、それはどうやら、親御さんに植え付けられちゃったものらしいっていう。
恐らくは子供の頃、「ねぇねぇ聞いて聞いて! 今日学校でこんなことがあって……」とか無邪気に話そうとしたときに、少なくともシャンディーガフさん側からすれば、取りつく島もなく否定的に受け流されてしまいショック!みたいな記憶が強烈に残ってしまったと。

もちろん、人によって対象やレベルが全然違ったり、原因となったのが親だったり先生だったり友達だったり、その時期やきっかけもそれぞれだろうけど、ひとつだけはっきりしてるのは、誰だっていくつか必ず持っているものではあるよね、こういう風にどうしても苦手意識が抜けないものって。

こばなみ:
それ、ありますね。私は自分で食べる分にはいいのですが、人に料理を振る舞うことが苦手で、もう恐怖の域です。その昔に付き合っていた彼に「下手!」とか「あ~あ、そうやっちゃうんだ」とか突っ込まれてから自信喪失。いまだにダメですね。ゆで卵くらいですかね、まだ人にお渡しできるのは……。

宇多丸:
そうやって原因を作った、とこっちが思ってる当人には、実はそんな意識はまるでなかったりもするんだろうっていうのがまた、怖いあたりだけど。
僕なんかほぼ間違いなく、誰かにとってはそういう存在になっちゃってるんだろうしな~。

シャンディーガフさんの親御さんだって、かつての自分たちのなんの気なしの言動が元になって、お子さんがそこまで根深い葛藤を抱えることになったと知ったら、結構ヘコんじゃうかもしれないよね。
ま、いちいちそんなこと気にしてたら子供なんて育てらんないっていうのもあるだろうけど……。

ちょっと話はズレるかもだけど、「褒められて伸びるタイプ」と「怒られて伸びるタイプ」とかって、よく対比して話されるけどさぁ。
後者が「何クソ!」と奮起できるのって、ベースに実は「自分はホントは出来る子なんだ」っていう、ちょっとやそっとじゃ揺るがない自負があるからで、それが形成されるためには、むしろ初期段階ではかなりきっちり肯定された経験がないとダメでしょ? 
つまり、基本は誰だって「褒められなきゃ伸びない子」なんだと思いますよ。
いきなり萎縮させられたら、そりゃ伸びるもんも伸びなくなるって!

こばなみ:
たしかに、最初からコテンパンにされるとやる気も何も……。

宇多丸:
ちなみに僕が成長過程で植え付けられてしまった最大の苦手意識と言えば、「運動」一般ですね。

僕、目が悪いのが一番の原因だと思うけど、昔から、球技があんまり得意じゃないのね。
特に、向こうから飛んでくる物体の距離感が上手くつかめないから、よく顔でドーンってキャッチしちゃったりさ(笑)。
それなんかまさにそうだけど、ボール関係でギクシャクするのって、いろんな失敗のなかでもひときわカッコ悪く見えちゃうんだよね。
しかも、そういうのに限って体育でやたらとやらされる!

当然のように、小学校なんてモテるのはただただ運動ができる順だからさぁ。
女子たちからはバカにされるし、思春期を前に強烈なコンプレックスの元になっちゃいましたよね、そりゃあ。
あと、中学に入って、よせばいいのにそのとき親しかったメンツがいるからってだけ&人の適性とかまるっきり考えてない担任の勧めで、よりによってサッカー部なんかに入っちゃったのが、さらに最悪の選択でしたよね。
結果として、一時期はすっごく卑屈な性格になっちゃってた。

でもね。もうちょっと大人になって振り返ってみると、僕も別に、運動能力全般が劣ってたわけじゃなかったんじゃないの?って思うんだよね。

例えば、特に三十路越してからよく人から言われるようになりましたけど、明らかに体力はかなりあるっぽかったりするわけですよ。
ライブや他の仕事してても、俺って人よりちょっとタフなのかも……っていつも思うもん。

考えてみると、体育の授業でも長距離走は全然苦にならなかった、っていうかむしろ好きなほうだったりしたもんなぁと。
何より全部自分のペースで行けるのが最高!ってことなんだけどね。

それと、球技は苦手って言ったけど、ドッヂボールで球をよけるのだけはムチャクチャ上手かったんだよね。
そういう子、よくいなかった? 最後の生き残りにいつもなるんだけど、ボールがキャッチできないから結局最後は負けちゃうヤツ(笑)。

とにかく、要はそれって、反射神経とかはそれなりに良かったってことじゃん?
 ラップで食ってるくらいで、リズム感とかだって悪くないはずだし。

だから、当時の体育のカリキュラムではただ運動音痴の烙印を押されて終わりだったけど、ホントはちゃんと得意な面もあったはずなんだから、そこをしっかり見出してアゲてくれるような教育の仕方とかできなかったわけ?って、ないものねだりなんだろうけど、やっぱついつい思っちゃうんだよねぇ。
だって、たぶん性格とかだって変わってたと思うよ、そこに余計なコンプレックス抱かされてなければ。

こばなみ:
体育でそういう思いをした人って、けっこう多い気がしますねぇ。でも大人になったら、体育ができるって、本当に関係なくなりますよね。話題にもあんまりならないし。

宇多丸:
その話と今回の相談をリンクさせるなら、僕が「自分は運動全般が苦手だ」と思い込んでしまったのは、単に狭い枠組みで能力を図られてしまったからじゃないか?というのと同じように、シャンディーガフさんは本当に「話すのが下手」なのか? そもそも「話すのが上手い」ってどういうこと?という次元から、改めて考え直してみる余地はあるんじゃないでしょうか。

たとえばさ、芸人さんが出てくるテレビのバラエティ番組をそのまま真似たような話し方して、それが「面白い」「上手い」しゃべり方だと思ってるような人って、そこらじゅうにいっぱいいるわけじゃない?

飲み屋で隣の席から、ちょっと前ならやたらと「からの~?」の連発が聞こえてくるとかさ。
もう、こう言ってるだけでイライラしてくるけども……。

そこまで軽いノリじゃなくても、人の話にいきなり「オチないの?」とか言ってきたり、やれボケだツッコミだ天丼だって、本来あくまで職業的テクニックだったはずの芸人さん用語を当たり前のように駆使して、素人同士が会話スキルをジャッジしたりするような傾向って、ある時期から確実に強まってると思うんですよね。
まぁ、テレビのお笑い番組自体がそういうところを打ち出すようになって久しいんだから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ……。

シャンディーガフさんが話すということに過度にナーバスになってしまうのも、ひとつにはそういう風潮の影響もあるんじゃないですかね?

だとしたらはっきり言っとくけど、そんなの「話が上手い」わけでもなんでもないから。
ていうかむしろ、この世で一番つまんないタイプの会話ですよそんなの!

ちなみにライムスターのDJ JINという男は、まさしく典型的な「話すのが下手な人」なんですけど(笑)。
何か面白いことがあったっていうのを伝えようとしてるらしいんだけど、先にてめえで笑っちゃって、途中から話が全然前に進まないとか、まぁそういうタイプですよ(笑)。

でも、だからってJINが「つまらない」男ってことには別にならないですよ。
それどころか、そういうJINこそが最高に「面白い」わけで。

だからその、話が流暢にできるとか、そういう技術的な上手さって、別に日常の会話で求めるもんじゃなくない?ってことですよ。
たとえば友人同士だったら、我々はその人そのものに魅力や「面白さ」を感じているのであって、仮にJINみたいに話の仕方が不器用であっても、それはその人らしさのうちなんだから、印象としてプラスになりこそすれマイナスになるわけがないでしょっていう。

少なくとも、それこそ「からの~?」とか、安易なパクリというだけでなく日常で使うと実際んとこ失礼でもある物言いが本気で「面白い」と思ってるような輩よりは、一千億倍マシ!

こばなみ:
宇多丸さんやDさんがJINさんを囲むような、いい環境がシャンディーガフさんにもあるといいんですが。

宇多丸:
周囲にどういう人たちがいるかによりますけど、シャンディーガフさんが思っているより、「話が下手」ってことは欠点と思われてない、というかそもそもそういう基準での評価自体をしていない、みたいな可能性は結構高いと思いますけどねぇ。
僕みたいにペラペラ話せばいいのかっていうと、それで墓穴を掘ることもあるしね。
つーか、話下手な人なんかより、しゃべり過ぎて嫌われる、っていうパターンのほうが実際はるかに多いんじゃない? 
とにかくさ、「話なんて不器用でいいんだ、芸人じゃあるまいし」ってことですよ。

こばなみ:
そうですね。私もよくiPhone女子部のイベントで話すときに「これウケるかな?」ってすぐ気にしちゃうんですね。すると一緒にイベント進行をしている後輩スタッフが「ウケなくていいんですよ。だって私たちが説明するのiPhoneのことであって、お笑いネタじゃないんだから」って言ってくれて我にかえったりします。考えてみれば本当にそうなんですよね。芸人みたいなしゃべりを期待もされてもいないだろうし。

宇多丸:
ただまぁ、そういう風に笑わせるって方向じゃなくて、スピーチやプレゼンなど、どうしても人に向かってきちんと話をしなければならない局面っていうのも、社会ではままあるかもしれませんからね。
曲がりなりにもしゃべりでお金をもらうこともある立場から、ちょっとだけ実用的なアドバイスをしておくと……。

さっき、「話すのが上手い」ってどういうこと?って言いましたけど、僕の考えでは、それはつまるところ、「要点が的確に伝わる」かどうかってことなんだと思うんです。

だから、途中でつっかえたり間違ったりしたって別にいいの。
そんなの言い直せばいいだけなんだからさ。

そんなことより、いわゆる「話が下手」な人の傾向として、明らかに本筋にとっては大して重要じゃなさそうな序盤の細かいディテールばっかり無駄に広げちゃって、聞いてるほうは話が全然進まないからイライラしちゃうとか、逆に、どう考えてもそこは最後まで伏せとかないとダメだろうっていうような重要なネタをうっかり先にポロッと明かしちゃってどっちらけとか、とにかくエピソード全体の構造を事前に客観的に捉えるということをまったくしてないことが多い、というのは言えると思います。

なので、何か大事なことを話す前にはまず、「この話の要点は何か」というのを、自分のなかで改めて整理するクセをつけてみるといいかもしれません。

その上で、「その要点を伝えるために、最低限伝えなければならない要素」を箇条書きしてみる。
もちろん、メモとかもガンガン使っていいわけですからね。

あとはできれば、それらの要素を「どの順番で出してゆけば一番効果的に伝わるか」を考えておく。
この情報は、後のほうまで取っておいたほうがオイシいのか、あえて先に明かしてしまったほうがわかりやすいのか、みたいな。
ま、ここまでやっておけば、準備としてはもう十分すぎるほどだと思います!

こばなみ:
うちの社長が結婚式のスピーチが苦手で苦手で……。毎度巻物みたいなのに全部セリフを書いてますよ。ただ最初が一番緊張するみたいで、なかなか話し出さない。これ放送事故か?みたいな感じなんですけど、でもなんだかんだつっかえながらも読み上げる言葉にこっちは感動したりもしますからね。スムーズなスピーチだからって、心に響くとは限りませんし。

宇多丸:
あ、さっきの「からの~?」以上にムカつくやつ思い出した。
放送上でもなんでもない日常会話で「あ、いま噛んだでしょ~」とかいちいち得意げに指摘して、それが「ツッコミ」だと思ってるバカ!

ま、僕は放送上でも噛みまくってますけど……、それでも、そこが一番大事なところじゃないだろ、っていうのには変わりないと思ってるんですよね。

まして結婚式のスピーチなんてね。
たどたどしかったり、恥ずかしがってたり、そういう生っぽいところは全部プラス要素ですよ!

ただ、その社長みたいに全部セリフを書いちゃってると、逆にやりづらかったりしないかな?とは思いますけど。
さっき言ったみたいにもう少し焦点を絞って、最低限それだけ伝えればいいやって思って臨んだほうが、まぁ気は楽になるんじゃないかと。

だいたい結婚式のスピーチで、来場者に本当に伝わるべき要点なんて、突き詰めれば二つしかないはずですよ。
「自分と新郎新婦の関係」と「お祝いの気持ち」、これしかないでしょ! 
仮にアガりすぎてグダグダになっちゃったとしても、最悪後者が伝わってりゃオールオッケーなんだからさ。

それに比べりゃ「つっかえずにしゃべる」なんてのは、まったくプライオリティとして上じゃない、って言うか優先順位の中に入ってもいないことですよ!

こばなみ:
伝えておきます!

宇多丸:
余談ですが、たとえば会社の会議でブレストとかするとき、僕みたいのは思いついたことなんでもバンバン口に出してこうぜ~!って感じで、ペラペラペラペラとりあえずは何かしら話してアイデアを出し続けてるんだけど、そこでずーっと黙ってた人がさ、熟慮を重ねた結果なのか、最後の最後にボソッと出してきた発言に、一気に全部をドーンと持ってかれることとかって、結構あったりしない?
 一発で全員納得、決定~!みたいな。
要は僕とかはさ、「しゃべれる」ってより、そういう場で「黙ってられない」だけなんだよ!

こばなみ:
わかる! 沈黙、嫌ですしね。で、私も会議とかもしゃべりまくっているのですが、なんだか重みがない……。

宇多丸:
でもね、世界にはどっちも必要なんだと思うよ。
いっぱいしゃべって数撃ちゃ当たるの人も、無駄口叩かずに一発必中の人もさ。
だから、「話の上手さ」っていうのも、やっぱりひと通りではないってことですよ。
その意味では、シャンディーガフさんなりの伝え方っていうのも、必ずあるはずだから。

あとさ、最後にミもフタもないこと言うようだけど、話なんて、どんだけ上手にしゃべったつもりでも、こっちの真意の2割でも伝わればいいほう、程度に僕は思うようにしてますけど。
他人になんてわかってもらえなくて当たり前、万一わかってもらえりゃ儲けもん、第一こっちだって人の言うことを全部ちゃんと受けとめられてるわけじゃないんだろうから……くらいに考えておけば、ちょっとは気が楽になったりしませんかね。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年11月1日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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