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飲食店の店主である私が地元の有名人に! ファンとアンチも現れて……、人との境界線の引き方に悩んでいます。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室300】


✳️今週のお悩み✳️
こんにちは。いつも楽しみにしています。現在40歳。地方で飲食店の自営業をしています。今年で商売を始めて10年目、少しずつ拡大して山あり谷ありですが何とかやっていってます。若い頃は必死に働いて遊んで目の前のことに一生懸命でした。近頃商売が軌道に乗ってきて、加えて田舎で人間の種類が少ないせいか、しょぼい飲食店の店主である私が地元の小さな有名人になってきました。30代の前半は無邪気にそれを受け入れていた時期もありましたが、10年経ち心の中に自意識の歪みを感じるようになりました。もともと地元のスクールカースト最下層だった私が、都会帰りで返り咲きしたというのも居心地が悪くいたたまれない気持ちになります。私のファンという人が現れて更にアンチも現れ、地元の小さな街なのに人と目も合わせられず変装までしたくなります。近頃は昔ハードにいじめてきた同級生まで近づいて来て精神的に参ってます。お客さんに話したプライベートなことも筒抜けになったり辛いです。ビジネスに対する情熱はあり、今後も頑張っていきたいと思っていますが、人との境界線の引き方に悩んでいます。お二人が自分のステージが変わるときに心がけていたことなどありましたら、助言いただけたら幸いです。

(みどり・40歳・滋賀県)


宇多丸:
お客さんとプライベートなことまで話すということは、飲み屋的なニュアンスが強いお店なのかな。

コミュニティが狭い地方だからこその悩み、というところはあるんだろうけど……。

こばなみ:
メディアに取り上げられた、とかなんですかね?

たとえば、もし東京だったら、そこまで窮屈じゃないかもしれないですね。

宇多丸:
まぁでも、みどりさんの気持ち、ちょっとわかる気もしますけどね。

僕も昔は、スキンヘッドにサングラスのまま、しかも上下革!みたいなビッキビキの「ザ・宇多丸!」ルックで出歩いたりしても、要はまだ大して知られた存在でもなかったし、目立つにしてもその場限り、という感じだったのが、ここ数年ですかね、街中で「あ、宇多丸だ!」的な反応をされることが、やっぱ増えたようには感じますよね。

サングラスしてなくても話しかけられたり、「今、二度見されたな」って感じだったり。
それこそTwitterとかで、「今そこで宇多丸を見かけた」とか書かれてたり……、明らかに人違いだよそれ!ってことがほとんどだけど(笑)、ぶしつけなもんだなーとは思うよね、当然。

そうなると、必然的にヘイターめいた層も倍々で増えていくしさ。
昔とは立場が違うんだな、というのをひしひしと感じる場面、確実に増えたっちゃ増えましたよね。

そういう意味では、僕もみどりさんと似たような思いしてるところはあると思いますよ。
特にSNSが浸透しきった今、最初言ったようなコミュニティの広い狭いは、もうあんまり関係ないのかもしれない。

電車とか乗ってても、僕のほうをチラチラ見ながらスマホでなんかやってる人がいると、何か書き込んでいたりするのかな、リアルタイムはさすがに勘弁してほしいなぁ、とか、ついつい疑心暗鬼になっちゃったりもしますからね。
自意識過剰って言われりゃそうかもしれないけど、そう思えてしまうときがあるのは仕方ない。
そんなときつくづく、あぁ窮屈だなぁ、とはどうしても感じちゃいますよね。

こばなみ:
なにか気をつけたりしてることはありますか?

宇多丸:
うーん、でもまぁ、いくら生活や行動に日ごろから気をつけていても、嫌な思い、するときはするからねぇ。

それこそ『FLASH』に撮られたりですとか。あれなんか最たるもんですよね。
僕ごときに張り込みまでして……、ご苦労なこってすよ。

だから、プライベートも筒抜けかよ!っていう怖さや面倒さも、わかりますよ。
だからと言って、もっと生活全般360°完全ガード!な暮らしができるほど儲けてるわけでもないし……、そもそもそんな生活したくねーよ!

ただまぁ、僕はやっぱり、曲がりなりにもエンターテインメント業界、ショービズ界にいるんだから、昔から言われるように「悪名は無名に勝る」という考え方もできるわけだけど。
言うまでもなく、世に向けて何か発信する者として、批判も謙虚に受け入れる覚悟を持たないといけないわけだしね。

前にいとうせいこうさんが言ってたんですけど、人前に出る立場なら、アンチとファンが8:2なら御の字、くらいに思っといたほうがいいよって。いとうさんほどの人でもそうなら、もう仕方ないや、と思いましたよ。
それに、ヘイトをわざわざ示してくる人って、それだけ関心があるわけだからさ。実質ファンと紙一重、という考え方も全然できる。

こばなみ:
そうですよね。だって気になって気になって仕方ないんですもんね。

宇多丸:
とにかく、みどりさんも間違いなく、ざっくり言っちゃえば嫉妬の対象、人から羨ましがられるところに来ちゃったんだ、ってことですよね。

そのこと自体は、努力の結果いいことが増えたぶん、それまでは考慮しなくて良かったようなマイナスも出てくる、という、まぁ世の中そんなもんだ、としか言いようのない話でもあるわけだけど。

あとは、そういう状況の変化を自分のなかでどう整理して、対処してゆくか、ということですよね。

まず、ヘイター的な人の捉え方として、僕のオススメは、「この人はきっと、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』や『ブラック・クランズマン』、『Cobra Kai』などのなかで、ポール・ウォルター・ハウザーさんが演じていたようなヤツに違いない!」と考えるようにする……というのがありますね(笑)。
特に『アイ、トーニャ』の「ウォルター」かな。とんでもなく偉そうかつ攻撃的にフカしてるけど、実体は……っていうね。
とは言え、そういうところに逃避せざるを得ないような彼の現実の人生、というのもあって、可哀想っちゃ可哀想でもあるんですよね。
それも含めて、気持ちがちょっとだけ楽になりますよ、どうせいちいちディスってくる暇人なんかこんなヤツなんだろうし……とか想像すると(笑)。現代社会をサバイブする知恵として、オススメです!

それから、かつて自分をいじめていたような連中が、こっちが成功した途端すり寄ってくる問題。
以前とある番組で、ボクシング元世界チャンピオンの内藤大助さんをゲストにお迎えしたときに、まさにそんな話をされていて。
チャンピオンになってから、地元で開かれたパーティに呼ばれて出席したら、そこに、自分を昔いじめていた人が来ていたんですって。
そしたらその瞬間に、内藤さん、身体がガタガタと震えてきちゃったって。
拳で世界の頂点にまで登りつめた男が、ですよ?
みどりさんもきっとそんな感じで、相手の顔を見るだけでも、内心かなりキツい思いをされているんでしょう。

ちなみに内藤さんの場合、結局向こうから話しかけてきてしばらく会話するハメになったんだけど、あっちはいじめたことはロクにおぼえていない、どころか、俺たち仲良かったよな?くらいのノリで来るもんだから、なんだかアホらしくなってきちゃったって。
しょせんその程度の、ペラッペラなやつらだってことですよ。

まぁなんにせよ、そんな連中と無理して付き合う必要も、まして許す必要もないはずですからね。
かと言って、客は客だし、あまりむげに扱って地元の人間関係をことさらに険悪にするわけにもゆかない、みたいな現実的事情もあったりするのかもしれないし。

まずやっぱり、プライベートとオフィシャルの線引きを、自分の中でかなり明確にしといたほうがいいと思いますよ、精神衛生上。

僕だったら、ライブやテレビに出るようなときは、サングラスにスキンヘッド、衣装もビシッとキメて、ある意味「宇多丸というキャラクター」を演じ始めるわけですけど。
でも、そういう公のステージを降りたら、普通のメガネにかけ替えて、言動も極度におとなしくなる。なんなら「宇多丸というキャラクターをうまく回すためのいちブレインとして、勉強もするし仕込みもするし」程度の距離感でいるように心がけてますよ。
まぁ、実際にはそこまで完全に割りきれているわけでもないんだけど、基本的な考え方としては、ね。

どうせ人というのは、大なり小なり自分の都合のいいようにしか相手を見ないものなんだから、「本当の自分」的なものは、わかってもらうにしても一番近しい人たちレベルにしか期待しないようにしたほうがいいんじゃないかと僕は思います。
それだってあんまり頼りにしすぎないほうがいいくらいで……。

当然、場合によって話していい内容と人は、かなりはっきり選ぶべき。
筒抜けになって困るようなプライベート情報なんか、そもそもやたらと人に話しちゃダメ、ってことですよ。

あと、実像以上に金持ちだと思われてたり、妬みを恨みの域にまで一方的に煮詰めちゃってるような人だっていかねないんだから、セキュリティとかもガチで気をつけたほうがいいですよ、これからは。

こばなみ:
たしかに!!!

宇多丸:
どこに住んでるとか、生活サイクルとか、他人にはできるだけ把握されないようにしたほうがいいと思います。

とにかく、人間関係をいくつかのはっきりしたフェイズで区切って、それぞれに相応の距離感で接する。
あとは、外に見せる「自分」と、内面のセンシティブな部分も、なるだけ切りわけて考えるようにする……みたいな感じじゃないですかね。

ま、疲れる話ではありますけど。
他人に囲まれて生きてゆく以上は、仕方ないことでもある。

こばなみ:
私は有名とかではないですけど、でも人間関係でいえばそういう層は確実にあるのだと思います。親しい仲でも仕事のこの部分のことはマル秘、とか。でもそれは誰だってあるんじゃないですかね。

だから家に帰って、一人になると、ふは~、誰にも気を使わなくて大丈夫だ~ってなるじゃないですか。

宇多丸:
逆に、ひるがえって自分のことを考えてみれば、そこまで徹底して口が固い、ってわけでもないしね(笑)。だから、「自分を信用してる程度にしか他人も信用しない」、ってだけの話ではあるんですよね。

こばなみ:
それ、わかります!

そして、それくらいに思っておいたほうが楽ですし、備えもできる気がする。

ただ、宇多丸さん言っていたようにセキュリティは本当に気をつけてほしいですね。

宇多丸:
心のセキュリティと、物理的なセキュリティね。

でもこれはやはりきっと、成功の証でもあるわけだから。
状況や気持ちをうまくコントロールできるようになるといいですね……、お互いにね!



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年11月9日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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