なぜ女子部のお悩み相談を男性が担当しているの? これは性別権力に起因する構造なのでは?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室326】
✳️今週のお悩み✳️
性別権力について友人と議論しましたが、もやもやしてしまい、男性の宇多丸さんには内容が失礼かもしれませんが、相談させていただければと思います。この女子部JAPANのお悩み相談室を知ったきっかけは、宇多丸さんの大ファンの友人でした。Twitterで友人がリツイートした女子部のツイートを見て、宇多丸さんってどういう方なんだろうって思って初めて記事を読みました。とても共感できる価値観と、素敵な感性の方だと思いました。毎週楽しく読ませていただいている中、ある日、ふと疑問に思ったんです。なぜ女子部のお悩み相談室を男性が担当しているのだろうと。もちろん、宇多丸さんの回答と優しいアドバイスは大好きです。それとは別で、単純に疑問に思ったんです。女子部は、女子が発言するコミュニティなのに、なぜお悩みの相談は男性にするのだろうって。結局は、「女性は男性に頼る」フレームに変わりないし、他にも同じ価値観や思想を持った女性が多くいるはずなのに、なぜ「お悩み相談室」は男性に任せているのかと思い、これは性別権力に起因する構造なのではないかと疑問に思いました。
女子部の企画意図や、フェミニズムを主張しているのか、どういう思想を持ったコミュニティかは詳しく知らないまま、そう思いました。もちろん、宇多丸さんだからこそ、女子部のお悩み相談室を担当されているとは思っています。そこで、先ほどの友人は、女子部は女性がメインで発言するコミュニティであり、その中でただ一つの「お悩み相談室」に男性がオファーされたのであり、性別権力ではないと反論しました。要するに、宇多丸さんはゲストで、こばなみさんがメインだから、男性に発言力を与えていることにはならないとのことです。したがって、世の中の男性がメイン、女性がサブ、といった構造とは異なるとのことです。私は、友人の説明と、宇多丸さんへのオファーの経緯などを聞いて、確かに女子部というコミュニティ全体から見たら、あくまで女性がメインの発言者で、宇多丸さんはゲストとして招かれた立場であることは理解しました。ですが、もし宇多丸さんが女性だったら、今のような立ち位置になれたのか、お悩み相談室に招かれたのか、疑問が残ったままです。また、同じ思想を持っていて同じ影響力、才能を持っていて、同じぐらいのスポットライトを受けている同じ年代の女性がいるのか、社会認識のそのものに対して疑問に思いました。
おそらく私は、「女性が男性に頼る」という既存のフレームは望ましくないものであり、女子部だからこそ、ロールモデルとなれる中年女性を、アドバイザーかつメンターとして、お悩み相談室の発言できる機会を与えるべきだと思うのだと思います。また中年男性は世の中で、発言できる権力を持っていると思います。実際専門家としてテレビに出演する人の男女比を見てもすぐわかると思います。だから、このような女子部というコミュニティの相談役に、男性がなること自体、性別権力だと思うのです。もちろん、オファーの背景や企画意図を踏まえると、適切なオファーですし、相談役として宇多丸さんは好きですが、これとあの話は別だと思うのです。宇多丸さんという人物が相談役なのは好きだし納得できるオファーですが、女子部の相談役を男性がすることについて、既存の「女性に助言する中年男性」というよくあるパターンとして感じ取り、抵抗があるのだと思います。また、妥当な理由があり、女子部の相談役が男性になったとしても、既存のステレオタイプと同様な構造になってしまうことは、どう受け取ればいいかわからないです。
結局友人とは話の結論が出ず、話が留まってしまいました。もし差し支えなければ、この件と「性別権力」というものに関し、宇多丸さんとこばなみさんのご意見をいただけますでしょうか。そして友人とどう仲直りすればいいでしょうか……。失礼なことたくさん書いてしまい大変申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。
(はる・27歳・会社員・東京都)
宇多丸:
はるさんの指摘はハッとさせられたし、たしかに、「女子部」と銘打たれている場で連載されている人生相談の回答役になぜ男性である僕が起用されているのか、やってるこっちも最低限、外に向けて説明できるような言い分は持ってないとダメだよな、とは思ったんですよね。それに納得してくれる人がどれくらいいるかは別として。
まず、この連載が始まった経緯から話しておきますと、こばなみとは以前から何度も一緒に仕事してきていて、機会があるたびに「なんかまたやろうよ」って言い合ってるような間柄ではあったんですよね。
こばなみ:
はい。この連載は2013年の7月からやっているのですけども、もともとは2004年あたりからTOKYO FMのフリーペーパーでRHYMESTERのお悩み相談連載がはじまり、私がそれを担当していたのが最初なんですね。その連載が終わり、その後は国士舘大学のフリーペーパーで宇多丸さんのお悩み相談連載をはじめ、それも終わってしばらく経って、女子部JAPANの前身となる「iPhone女子部」を2010年に立ち上げたんですけど、そこでしばらくして、女子向けのお悩み相談連載をやりたい!と思って、ご連絡したという経緯です。
宇多丸:
なので僕ら的には、ここでまた新連載を始めるというのも、ごくごく自然な流れではあったんです。
もちろんはるさんも別に、そういうところを非難してるわけではないからこそ、文中でも繰り返しフォローしてくださっているんだと思いますが。
僕からすると、大学生限定の次は女性限定のお悩み相談ということで、要は「自分とは違う立場の人たち対象、ゆえに、異なる視点からの意見に価値がある」タイプの仕事として、それなりの連続性を感じてもいたんだけど……。
まぁそんな風に、僕らにとっては当然のことすぎたからこそ、それが外からどう見えるかとかは特に考えていなかった、無頓着だった、という面はたしかにあるかもしれない。
たとえば、女性限定のコミュニティで僕が連載を始めることに、他の編集部員とかから、意見とか懸念とか出なかったの?
こばなみ:
ないですね。当初は自分とあともう1人くらいで運営していたので、懸念も何もなかったですね。iPhoneとあんまり関係ないよねって話は出たことがありましたけど。
それと、誤解なきよう先に申しますと、もともとiPhone女子部も女子部JAPANも女性向けに発信しているコミュニティ・メディアとしてWeb発信とイベントの両輪で運営しているのですけど、記事やイベントのゲストには男性の識者の方に登場していただくこともあります。ただ、イベントの参加対象だったり、お悩み相談やほかの企画の投稿は女性限定としています。読むのは、もちろんネット上にあるので、どなたさまでもという感じですね。そこは多くの女性向けメディアや女性誌と変わらないかと思います。
宇多丸:
ただ、僕自身も、最初のほうこそこれまでの連載と同じようにやればいいやって感じで、あえてガサツに回答したりもしてたんだけど、途中からだんだんと、「ここで僕があんまり上からバッサリやったり、余裕こいてふざけたりするのは良くないかも」と思い始めて、そこから少しずつモードを変えてきたりはしてるんですよね、実際。
そして、それはまさに、「そもそも男の自分が女性の悩みに答えることなんかできるのか、答えてていいのか」という自問に起因することで。
それこそ性差別に関する話題とか、お前は加害者側だろ!ってことにもなるわけだから。人様にアドバイスなどできた立場じゃないのかもしれない、と。
しかしあえて、それでもそこで男性が回答側に立つ意義、というのを考えてみるならば、たとえばさっき言ったような「違う立場」同士の橋渡し役というか、両者の風通しを良くするような機能、というのは、一応期待できなくはないかな、という気もするんですが。
実際、ここまでいろんな女性の腹を割った悩みを聞く機会というのは、普通に暮らしてるだけだと当然なかなかなかったので、毎回本当にこっちも勉強させてもらってる、という感じなのは間違いないんですよね。
意外と男性の読者も多いというし、そこからこっちサイドも少しずつ色々学んでゆく、という意義はゼロではないと思いたいですが。
こばなみ:
男性読者からの声はたしかに聞きますね。女子部以外の仕事関係でも、よく言われます。
宇多丸:
でもまぁそれとは別に、「女子部だからこそ、ロールモデルとなれる中年女性を、アドバイザーかつメンターとして、お悩み相談室の発言ができる機会を与えるべき」というご意見も、たしかにもっともだなと思うので……。
早い話、ジェーン・スーを連れてくれば、すべて解決なんですよ!
念のため補足しておくと、ジェーン・スーさんは、僕を飛び越して出世していった直接の後輩のひとりです(泣)。
こばなみ:
私はそこは思っていなかったんです。あ、もちろん、ジェーン・スーさんはすごくいいと思うんですけども、それこそ女性向けのお悩み相談だからこそ宇多丸さんにお願いしたい、そうしたらこれまでのお悩み相談とまたちがう解決法が見いだせるんじゃないかというのは、当初から狙っていたところもあり……。
お悩み相談に関して言えば、こばなみ調べですけども、女性向けメディアにおいては、女性がやってることが多いと思うんです。
たとえば、大手小町は押切もえさん、壇蜜さん、シティリビングははあちゅうさんなど。
それと近年は、男性MIXが増えて来ている印象があります。「Marisol」でみうらじゅんさんと辛酸なめ子さんが連載していますね。
そしてそのロールモデルというのは、本当は私の力足らずなところでこれまた申し訳ないのですが、自分も含め私たち編集部が中年女性としてがんばりどころではあるなと思っています。
構造に関して、性別権力に見えるということに対しては無頓着で申し訳ないのですが、そういう思いはありました。
宇多丸:
こばなみとしては、単純に編集者として、女性向け人生相談の回答者には同性が起用されているパターンがむしろ多い、という認識のもと、だからこそまさに「違う立場」の人を投入してみたい、という意図があったわけだね。
こばなみ:
はい。あと恋愛相談などはとくにですけど、まわりの女友達には相談できるけど、なかなか男性に相談しづらいこともあるのかな、とか。
宇多丸:
その意味で、男側の意見を聞くいい機会にもなるだろう、みたいな感じかな。
あとはおそらく、まさにこの女子部をやってるこばなみの会社もそうだろうけど、僕ら周りの職場環境や人間関係がまだ比較的恵まれているというか、性別権力的な構造をそれほど意識しないで済んできた、というのも大きいのかもしれないね。
こばなみ個人は、そういう性差の壁みたいのを感じたことないの?
こばなみ:
あんまりないんです。職場では、男女の差がないのがデフォルトでしたし。
宇多丸:
それはなによりですが。
しかしいっぽうで、はるさんが言ってるような、「ご意見番として発言の機会が与えられるのはいつもおじさんばかり」というような構図も、昔よりはだいぶマシになってもきたんじゃないかとは思いたいけども、やはり残念ながら、現状の日本社会に間違いなくまだまだドスンと残ってはいるものでしょうからね。
僕とこばなみはあくまでフラットに仕事してるだけのつもりでも、結果としてそういう構造と重なって見えてしまう可能性もあるんだということは、やはり厳しく認識しておかないといけないんだと思う。
さて、どうしたもんかね。
要は、僕とこばなみはこういうつもりでやってます、というミクロな事情に対して、とは言え世の中全体では差別的な構造がまだまだ是正されていないなか、それと同じものにも見えてしまいかねないよ、という、言わばマクロな視点からの批判的指摘があったわけですよね。
それに対してこちらはどう回答し、また折り合いをつけてゆくべきなのか。
不正や失言があったというわけじゃないから、いきなりじゃあ辞めますってのも変というか、逆に感じ悪いだろうという気もするけど。
こばなみ:
女性のお悩みを男性も考えるきっかけになっているのであれば、続ける意味はあるんじゃないですか?
そういうふうに見える構造があるのはたしかだけど、これを続けていくことで、その構造が少しでも変わっていきませんかね?
そういう構造をよしと思ってやってるわけじゃないよ、違うものもあるんだっていう意味でも、この形を続ける意義はある気がするんです。
宇多丸:
そうね。
そんな感じで、女性向けメディアにあえて男性をこそキャスティングしている意味や意義というのが、はるさんをはじめ様々な読者の皆さんにきちんと伝わるよう、こちらも常に心がけていかないといけないというのはたしかでしょうね。
言うまでもなくそれ以前に、僕自身が、男性原理を無神経に振り回したような発言などうっかりであってもしないよう、できる限り意識をアップデートし続けてゆく努力を怠らない、というのは最低限の条件だろうと思いますし。
もちろん、情けない話ですが、昭和生まれの中年男性としての限界もままあろうと思うので、そのへんのチェックはこばなみにも厳しくお願いしつつ……。
とにかく、はるさんの今回の問題提起はとても大事だったと思うし、こうやってひとつひとつの案件に、すぐは答えは出せなくとも改めていちいち向き合ってゆくことでしか、世の中というのは良くなってゆかないものでしょうからね。
ご友人とも、あそこから当事者的にはこういう議論になっていったよ、というのをとっかかりに、また話し合ったりなどしてみてはいかがでしょうか。
こばなみ:
議論している仲だったらぜんぜん仲直りできると思いますしね。
宇多丸:
僕らのこのひとまずの着地に、はるさんが納得していただけるかどうかはわからないけども……。
なんにせよ、そういう見え方をしてしまう可能性というのをしっかり考えていなかった不用意さ、というのはホントに反省しなきゃだよね。
こばなみ:
はい、不用意でした。
そこはやっぱり、自分たちの周りに性別権力があまりないからといって、それでスルーするのではなく、そういうことがあるという事実を見なきゃいけないし、そう見えるんだということなど、いろんな可能性を考えておかなくてはいけないと、とても勉強になりました。
なんだかすみませんといいますか、ありがとうございます、といいますか。
私、個人的には、そういうことに疎い体質でもあるので猛省です。
宇多丸:
そのうえで僕が、これも当たり前のことではありますが、それこそ性差を超えて「余人をもって代えがたい」と皆さんに思っていただけるような回答をしてゆかないと、ということでもある。
精進いたします!
こばなみ:
女子部JAPANとしても「日本中の女子の一助になる」というミッションを掲げているのだから、女子の意見や相談にきちんと向き合い、とことん考えたり、行動したりしていきたいです。
まだまだ小さなコミュニティ・メディアですが、見てくれた人、参加してくれた人、関わってくれた人がハッピーになってくれたら!というのは、立ち上げ以来、変わらず思っていることなので。それに私は、そうやって女子がハッピーに生きることが、少しずつかもしれないけれども、性別権力がなくなる方向につながると信じているので。
改めて、ここからがんばりたいと思います。
はるさん、ありがとうございました!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年6月27日に公開したものを再編集し、掲載しています。