ライフステージの違う女性同士で働く現場には、モヤモヤが渦巻いている。こんなとき、どうする? 《ライフステージ編-8》
リーダーとして働く女性たちが
実際に体験した、
コミュニケーションや人間関係の課題と
それに対するアクションの
ケーススタディ。
同じような課題を抱える人のヒントになれば、
という思いで届けていきます。
地方銀行の本店で課長を務めるハルさんには、男性はもちろん、育児中の女性、独身の女性、いろいろなライフステージの部下がいます。チームでフォローし合うために采配を振りますが、個々人には割り切れない感情もあるようで……。
スローガンや配慮は”子を産み育てる”女性へのものが多い
私の勤める地方銀行でも、ここ数年で、子育てや不妊治療をしながら働く同僚や部下が増えてきました。おのずと、それに起因する遅刻・早退・欠勤もかなり多くなりました。そうしたときのサポートやフォローは独身女性が行うことが多く、どうしても負担を公平にできないジレンマがあります。
この不公平さに対して、会社としての決まりやルールはないんです。「多様性」や「ダイバーシティ」という言葉は掲げられてはいるんですが……。目線はフォローされる側に向きがちで、フォローする方を労うシステムは確立されていません。
地方銀行はザ・男性社会で、トップの人たちには現場の実情が見えていない。我関せずという印象すら感じてしまいます。
時短や欠勤には周囲のフォローが必要だけど、誰がやる?
私が課長になりたてぐらいのとき、課長代理の女性が育児による時短勤務になりました。朝は1時間遅く来て、夕方は1時間早く帰る。
それでも、もともとがんばり屋さんな彼女は、仕事の手を抜こうとはしませんでした。アポイントも結構入れていて。ただ、お子さんが熱を出しやすいそうで、大幅な遅刻や早退、欠勤になってしまうことも多々ありました。
いざアポイントの当日になって彼女がいない場合は、急にリスケジュールするのもお客さまに申し訳ないので、誰かが代わりに行くことになります。手が空いている男性か、独身の女性か。
そこで、私はただメンバーの空き状況だけを見て、チーム内で仕事の割り振りをしていたんですが、あるとき20代半ばの独身の女性部下に、打ち明けられたんです。
「自分もいずれその立場になるかもしれないから言いづらいけれど、自分より職位が上の人とか年齢が上の人とかが、こんなふうに頻繁にリカバリーを求めてくるという状況に、ちょっとモヤっとする」と。
言いたいことも言えない、実は八方塞がりな独身女性
すごく考えさせられました。自分の采配は間違っていたと反省もしました。お願いすれば「いいですよ」と受けてくれるし、捌くのも上手なので、つい無意識に振っちゃってたのかもしれないなと。
当の時短勤務の女性のお給料は勤務状況に応じてそれなりに下がってはいるんですが、フォローする側にとっては、それが納得できる理由にはならないですよね。
同じ女性だからこそ、自分が将来その立場になった場合のことを考えると、大声で嫌とも言えない。そして、フォローに追われていても、それを誰かが評価してくれるわけでもない。
それならば、と私が上層部に掛け合おうとも考えましたが、あちらは皆男性。しかも、時短勤務などの働き方や女性の社会進出を受け入れるのが難しい、仕事一筋でがんばってきた世代の方々です。彼らに相談したらむしろ、育児中の女性の方に批判が向きかねません。
チーム内に渦巻くモヤモヤを減らすために、リーダーとして行動する
この状況で私にできることといったら、私自身の手元に余裕を持つようにして、自分がまず受けること。基本的に自分のところで捌こうと心がけるようになりました。そのうえで、部下への采配を考えます。
それに加えて、不満が募らないよう声をかけ、ガス抜きさせることができるようにしています。「気にかけてもらえている」という印象を持ってもらうことも、大事だと感じています。
ただ、育児中の部下に対しては、私自身が独身なので経験値がないから、心情を汲み取れずもどかしいという悩みもあります。
とある女性社員は「子どもが保育園に行くのを嫌がる。自分が仕事をしていなかったら保育園に預けることもなかった。子どももそんな悲しい思いをすることはなかった」と言って、泣いていたこともありました。
私自身がベビーシッターに預けられて育った経験もあるから、この女性のママとしての思いにはなかなか共感できなくて。
前向きになってほしいから慰めてあげたいけれど、どんな声をかけたらいいのか、わかりませんでした。
女性もいろいろ、ママだっていろいろで、まるっきりイコールの人っていないんだなと、日々痛感しています。
近い将来は地方銀行というものの在り方にもまた転換期がくるし、そのなかであらゆるライフステージの女性の働き方についても、もっと考えなくてはいけない。「多様性」や「ダイバーシティ」といった言葉が看板倒れにならないようにするにはどうしたらいいか。課題意識として持って、ゆくゆくは仕組み作りなどにも取り組んでいきたいと思っています。
イラストレーション:高橋由季