私が仕事で共有したプログラムやアイデアで褒められている後輩にモヤモヤ……。広い心で接するにはどうすればいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室410】
✳️今週のお悩み✳️
「自分がやった仕事」へのこだわりが強すぎて悩んでいます。26歳、社会人3年目です。昨年から部署に後輩が入ってきたので、指導というほどではないですが、たまにアドバイスなどをしています。その後輩も優秀なので、どんどんアドバイスを吸収して仕事をこなしているのですが、私が書いたプログラムを使いまわして素早く仕事をして褒められていたり、私が「○○なんじゃない?」と後輩にフィードバックしたものを後輩がそのまま会議で発言して上司に「いい観点だね!」のように褒められていたりすると、「本当は私がそれをやった(言った)のになあ……」とモヤモヤしてしまいます。かといって、私自身管理職ではないので「私が後輩にアドバイスをする行為」といったものは評価対象ではなく、後輩によかれと思ってプログラムを共有したりフィードバックしたりしています(後輩からもそういったことを求められるという側面もあります)。このような後輩への軽い指導を思い切ってやらない、見て見ぬふりをする、という選択肢を取ることも正直可能ですが、「それはさすがに心が狭すぎるだろう……」と思ったり、後輩が仕事をできるようになると私の仕事量が減るという純粋なメリットもあるので、結局そういったアドバイスをしては後悔する、後輩のことをずるいと思う、の連続で、最近は特に後輩と同じプロジェクトに入ることが多いので毎日ストレスになっています。どうすれば広い心で後輩と接することができるでしょうか……。
(うな・さーまん・26歳・エンジニア・東京都)
宇多丸:
こばなみはこういう経験ってありますか?
こばなみ:
こんなふうにしれっとやってる後輩はいないですけど、人が考えたアイデアを「俺が考えたっス!」って言って、あとから「お前じゃねーだろ!」ってみんなから突っ込まれたときに「俺だって褒められたかったんだよぉ~!」と叫んで、その器の小ささに職場で大爆笑が起こったという後輩(ギャグキャラ)はいましたけども。
でも私、これ読んでいて、うな・さーまんさん、立派な方だなと思ったんですよ。
誰かをサポートする、それで業務効率が上がることをちゃんとわかって自らやってるって、そういう人こそが「仕事ができる」人だよなと思いますけどね。この歳にして、よくできてる、素敵だなって。
宇多丸:
逆にさ、どんな理由からであれ、いろんなことをちゃんと教えないとかの非協力的なスタンスをとり続けていると、これまでの経緯など関係なく、うな・さーまんさん側の評価が下がっていってしまう可能性があるよね。
こばなみ:
評価対象ではないと言ってるけど、けっこう上の人は見てると思うけどなぁ。
「後輩が仕事できるようになると私の仕事量が減るという純粋なメリット」って書いてあるんですけど、この考えは本当に素晴らしいし。
そうやってやっぱり仕事ができる人をどんどん増やしていく、逆にそうしないと会社は発展しないので、こういう考えができる人は貴重だと思いますよ。
私はものすごく、応援したい気持ちになりました!
宇多丸:
それにしてもその後輩、いつも感謝してます、っていうような気持ちがちょっとでも感じられるようなそぶりを、ホントによっぽど、まったく見せてないんでしょうね(笑)。
こばなみ:
もしそれがあったなら、もう少し心安らかにいられるんじゃないかな。
後輩、かなりちゃっかり系なのですかね。
宇多丸:
かと言って、相談文に書いてある程度の協力はやはり継続してゆかないと、さっき言ったように、むしろこっちにはっきりデメリットが出てきてしまいそうですしね。
もちろん、その後輩に直接不満のたけをぶつけるとか、上司に「あれはホントは私の手柄なんです!」と訴える、という選択肢もないわけではないけども……(笑)。
これもやはりおそらく、うな・さーまんさん自身の人間的評価に、逆に悪影響を与えかねないアクションではありますからね。本来こっちは悪くなかったとしても。
言っちゃえば、礼儀としてもっとこまめに感謝の意を示すなりなんなりすべきなのに、というその後輩側の人間的問題とは別に、うな・さーまんさんが今しているようなサポートは、現状維持のために最低限必要なこと、でもあるわけですよね、事実上。
要は、やってること自体はやっぱり、ぜんぜん間違ってないんですよ。
となると結局、少なくとも今のところはやはり、どうすればもっと心穏やかでいられるのか、というのを考えるしかないのかな、と。
こばなみ:
評価制度のなかで自己評価シートがあるならそこに書くとか、面談があるならその場で上司に話すとか、ですかねぇ。
宇多丸:
ただ、僕は会社勤めしたことないからわからないけど、そういう機会が今のところあまりないからこそ相談してる、というのはあるでしょうからね。
こばなみ:
あとは、この後輩、この感じが続くとも限らないですよね?
宇多丸:
たしかに。
部署が変わったりしたら、こんなにサポートを得られなくなって、そのときに初めてうな・さーまんさんのありがたみがわかる、みたいな。
こばなみ:
そうそう!
そこで、上司も「あれ? できる人って聞いてたんだけど……」みたいなことになったり。
じゃあ今までどうしてたんだってなって、うな・さーまんさんのサポートに気づくとか。
ちょっと時間は経っちゃうかもしれないですけど、そうやって発覚していく可能性もありますよね。
そういう意味でどっかではきっと真実って表に出るっていうか。そして、いいことをしてると、ちゃんといいこととして、巡ってくると思うんですよね。
宇多丸:
あとはさ、その人の後に新たに入ってきた人たちが、やはり同じようにうな・さーまんさんの指導のもとで次々と優秀さを発揮してゆく……というような例が重なってゆけば、「うな・さーまんさんの下につくと、みんなすぐ使えるようになるなぁ!」ってことにも、必然なってゆくと思うんですよね。
今はまだ3年目だからそういう指導的な立場に慣れてないところもあるだろうけど、うな・さーまんさんがその頼れる先輩ぶりを年々蓄積してゆけば、ご自身の評判もしっかり上がってゆく、という面は確実にあるはずだと思うんですけどね。
たしかに、あとちょっと時間はかかりそうだし、現時点ではなかなか実感も持てないだろうけども……。
それだけ人にいいことをしてあげ続けてれば、それはいずれ必ず目に見えるものになってゆくはずだし、逆に捨て鉢になっていいことはひとつもない。
その後輩はおそらくろくに礼も言わない無礼な人かもしれないけど、そんなやつは、他でもきっとやらかすだろうしね。
それと、ご自分でも「純粋なメリットもある」っておっしゃってるけど、その部分をもっと、強く意識するようにしたほうがいいんじゃないですかね。
あくまで自分がより働きやすいように、環境を整えてるだけだ、くらいの感じで。
で、もしさっき言ったみたいに、「うな・さーまんさんって、後輩育てるのうまいですよね」とか褒められるときが来たら、「いや、私は自分のためにやってるだけだから」ってかっこよく答える(笑)。
「だって部署がうまくまわらないと私が大変でしょう? あなたたちに仕事してもらわないとね!」みたいな。
こばなみ:
デキる人のセリフですね。
宇多丸:
今はまだ3年目でその立場に初めてなってるから、なんなら自分だけがちょっと損してるように感じるかもしれないけど、むしろ会社にいるうちって、今回みたいに新しい誰かにノウハウを伝えてったりするってことのほうが、のちのち当然多くなってくるわけで。
で、そういう部分って、たしかに目に見える手柄にはなりづらいものではあるかもしれないけど、結局はそういう無形の尽力の積み重なりが、社内でのその人の評価とか、とくに信頼というものをかたちづくってゆくもんなんじゃないかと思いますよ。
もっと大きな話をすれば、そういう他者からの評価云々以上に、何かあったときにどういう言動をとるかの蓄積こそが、「その人自身」というものを形成してゆくわけでしょう?
目先の損得を越えて周囲を助けてきた人なのか、はたまた見返りがないからと見て見ぬふりを続けてきた人なのか……、それが何年ぶんも堆積したのが未来のその人だとして、あなたはどっちの自分になりたいですか?っていう。
端的に言えば、自分に恥じない自分でいればいい、みたいなことですけど。
だから、今は人生のなかで単純にがんばりどきというか、まさにうな・さーまんさんが人としてワンランク上に成長している真っ最中だからこそ出てきた悩み、ということなのかもしれないですよね。
こばなみ:
ぜひ、乗り越えてほしい!
宇多丸:
あとさ、その後輩にしたって、今はまだなんもわかってないだけで、いつか「あのとき支えていただいたから今の僕があるということに、最近ようやく気づきました!」とかなんとか、遅まきながら感謝してくる日が来るかもしれないし。
ま、来ないかもしんないけど!
こばなみ:
でもまぁ、こういう後輩っているでしょうね~。
宇多丸:
でもさ、ちょっと視点を変えてみると、一方でそう言ってる我々自身だって、自分一人でここまで来ましたってな顔をしてるけど、本当はいろんな人からの恩恵をさんざん受けてるはずだし、じゃあその恩義をいちいち全部ちゃんと返してきたかっていうと、そんなこともなかったりするわけじゃない?
それこそ最低限のお礼さえ言ってないことだって、普通にあると思うんですよね。
つまり、人間誰しもどっかしら、恩知らずを重ねてここまで来てるとこもあるんじゃないですか?っていうね。
本当はあの人に仕事を教わったのに……。
本当はあの人が推薦してくれたのに……。
後者なんか、ヘタすりゃ今もちゃんとわかってない場合すらありそうじゃない?
だからそういう意味では、全員お互い様、っていうのもあるのかもしれないし……、そこで、オラ知ーらね!となるのか、あるいは、ならばせめて自分も誰かを助けることで世の中全体に恩返ししよう、と考えるのか。
たとえば、芸人さんって、後輩の面倒をすごくよく見る風習があるっぽいじゃないですか。ご飯おごったり、旅行に連れてったり。
おそらくは徒弟制度の名残なんでしょうけども、あれって要はたぶん、自分たちもそうされてきたから、というのが大きいわけですよね。
上の人がしてくれたことを自分も下の世代にしてあげることで、その集団全体の持続性を支えてゆく、それで恩返しとする考え方、というか。
職場に関してもそんな感じで考えられれば、ちょっと気が楽になったりしませんかね。
もちろん、それこそ恩を仇で返すような無礼なやつもいるかもしれないけど、そういう自分だって、お礼を言い忘れたままの恩師、いるんじゃないか? そこにフリーライドしただけなのにその恩恵を受けたことに気づいてすらいないこと、あるんじゃないか?
今は遅ればせながらその埋め合わせをしてるんだ、と考えるようにしてみるのはどうでしょう。
こばなみ:
ドキッ! たしかに一人でやってきたような顔しちゃってることある! すっかり忘れてるってのはあるかも。たまに振り返って、謙虚な気持ちに立ち返るのも大事ですね。
宇多丸:
あとはもう、「新人育成モノ」の映画でも観てウサを晴らす!
なんか、クリント・イーストウッドが多いんですよね。結果うまく行く系だと『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』とか『ルーキー』とか……、『グラン・トリノ』なんかも一応その系譜かもしれない。
『ダーティハリー』や『ザ・シークレット・サービス』は、「いろいろあって結果うまく行かなかった系」だけど(笑)。
まだまだ世界中でメガヒット爆進中の『トップガン マーヴェリック』だって、言っちゃえばさっきの『ハートブレイク・リッジ』に『ファイヤーフォックス』の航空アクションを足したような、イーストウッドみあふれる新人育成モノでもあるわけですからね。
なんでこんな年寄りに指図されなきゃいけないの?とかほざいてたやつが、「大変お世話になりましたーっ!(泣)」となるまでの話、ですから(笑)。
しかもそのマーヴェリック(トム・クルーズ)自身も、36年前の一作目の時点では、まさにそういうことをまったく顧みないタイプの、優秀ゆえに傲慢な若者そのものだったわけで……。
その長期にわたる人間的成長のプロセス含め、今のうな・さーまんさんにはとくに刺さる内容かもしれないですね。まだご覧になっていないようなら、できればIMAXで、ぜひ!
こばなみ:
入社3年目、先輩1年生のようなことだから、大変だと思いますが、少し先を見据えながら、長いスパンで考えてがんばっていってもらえたら! うな・さーまんさんは、客観的にみて、すごくいい仕事をしていて、姿勢も素晴らしいと思いますよ。本当に応援しています!!