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【浜田敬子さんに聞く女性活躍の現状と根本的な問題】 一つひとつ「おかしい」ことを指摘しないと、構造や制度は変わらない。

「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? AERA編集長時代から女性の働き方を発信し、現在はダイバーシティや働き方について広い知見をもとに活動されている浜田敬子さんに、日本の女性活躍の現在地や、課題、女性活躍という言葉がなくなるくらい当たり前になるために大切なことなど、あれこれと聞いたお話を連載でお届けします。

まず、なかなか進まないという日本の女性活躍の現状と進まない理由について伺いました。


やりたいことがある女性が、誰にも遠慮なく「やりたい」と言える社会へ。


——女性活躍推進が必要だと感じながらも、F30プロジェクトでは「女性」と掲げることにモヤモヤを感じています。そこで、今回は、女性活躍についていろいろなお話を伺いたいと思っていますが、まず現状と課題について教えてください。

女性活躍推進法が2015年8月に成立して、もう7年が経っていますが、実はそれほど状況は改善していません。やはり自然に変わることを待っても、無理だと思っています。

では、海外はどうやってドラスティックに変えていったかといえば、制度をつくり、数値目標を義務化することで、女性の活躍を推進してきました。これまで特権※を持っていた人が、その特権を手放すことはとても難しいから、過渡期には義務化や罰則が必要だと思います。

※あるマジョリティー側の社会集団に属していることで労なくして得る優位性のこと。


■諸外国の国会議員に占める女性の割合の推移

日本の国会議員(衆議院議員)に占める女性の割合は9.7%。
国際的に見てもかなり低い水準となっている。
内閣府「男女共同参画白書 令和4年版」より


多くの男性が自分の特権に気づいていないと思いますが、男性だというだけで優位性があるのが、今の社会です。だから、その優位性があることを、まず男性に気づいてもらい、男性と女性が本当の意味でフェアに評価してもらえる土壌が必要です。

やりたい気持ちがある女性自身が「この昇格は、女性活躍推進のための上げ底なのか」と感じること自体が、ジェンダー不平等な社会です。

子どもの頃から「女の子だから」「女のくせに」と言われるような社会だから、「私がやりたいと言っていいのかしら」と、自分の健全な野心すら言えなかったりする。

限りなくジェンダー平等に近い社会であれば、女の子たちが誰にも遠慮しないで、自分の希望や意見を言えたり、女の子だからといって何かを諦めたりする必要はないはず。それは大人になっても同じですよね。

これが146カ国中116位※という、ジェンダーギャップ指数にあらわれているわけです。

※世界経済フォーラム公表「The Global Gender Gap Report 2022」より


※内閣府「男女共同参画」Webサイトより


■ジェンダーギャップ指数の日本とアイスランドとの比較

※内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」(令和5年1月)より


ジェンダーに関わらず、やりたいことがある人たちが、やりたいということを誰にも遠慮なく言える社会であってほしいです。

家事・育児が女性だけに偏ることなく、働くことを女性だけが諦めなくてはいけない社会から脱却するために、女性が変わるだけでなく、男性も含めて構造的に変えていかないといけません。



一つひとつ「おかしい」ことを指摘して、構造や制度を変えていくこと。


——昔からの社会のあり方、人のなかに刷り込まれた意識など、いろいろなものが絡みあって女性活躍の壁になっていると感じます。

そうですね。意識は変わりにくいので、まずはいろいろな制度によって環境を変えていくしかないと思っています。

例えば、2018年に発覚した医学部の不正入試問題。女子受験生と多浪受験生は一律減点という不利な状況で扱われていました。これは誰でも不平等だとわかりますよね。それでも、「女性の医師は、出産後、働く時間に制約ができるから宿直勤務や長時間労働、緊急対応ができない。そうなると男性医師や若手医師の勤務状況が厳しくなる。だから女性医師が増えてもらっては困るから、入口で差別する」という本末転倒な理屈で、不平等を正当化する声もありました。本来解決しなければいけない問題は、医師の労働環境です。女性の医師が働きやすくするためには、どうすればいいかを議論すべきところを入り口で差別してしまった。

例えば、患者をチームで診るようにするするとか、宿直勤務ができない時期があったとしても別のタイミングなら対応することも可能になるでしょう。そもそも外科医に限って言えば、20代30代の年間残業時間が3,000時間という労働環境を変えなければ、女性だけでなく男性もこうした環境で働きたいとは思わなくなるでしょう。

こういったおかしなことが、いろいろなところで起きているんです。それを一つひとつ「ここがおかしい」と指摘して、変えていくしかありません。


では、企業の採用においては、同じことが行われていないでしょうか。

企業の人事の方からは、採用試験のペーパーや面接では女性の方が優秀だと聞きます。でも蓋を開けてみたら、総合職の男女比は 6:4 や 7:3 という企業は多いのではないでしょうか。そこには、何らかの調整が入っていると感じます。今の実力で決めるのではなく、「将来、この人は出産するかもしれない、出産したら育休や短時間勤務を取るかもしれない」といったことを考えるわけです。もしそうだったとしても、きちんと産休・育休を取り、復帰して実力を出してもらえばいいはずなのに。

透明性高く採用活動をしている企業もありますが、そこがブラックボックスになっている企業も多く、性別に対する無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)が、いろいろなところでチャンスを奪っているのが現状です。



すでに女性はがんばっているはず。必要なのは女性活躍ではなく、ジェンダー平等。


——女性活躍を進めるには、女性ががんばるだけでは駄目。結局は、社会や組織の構造が変わらないと進まないということですよね。

そうですね。「女性活躍」という言葉も少し違うと思っているので、私は「ジェンダー平等」と言うようにしています。「女性活躍」と言うと、女性のがんばりや意欲の問題にされてしまいます。でも、みんな十分がんばっていますし、がんばれないとしたら何か要因があるわけです。

社会にはびこる性別役割分業の意識や、企業の経営層の思い込みなどによって、女性のチャンスが奪われていることは多く、それによって女性本人は希望を失い、意欲をなくしていくという連鎖になっていると思います。

今、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を掲げる企業も増えています。エクイティ(Equity)とは「真の公平」と訳されます。

平等(エクオリティ)ではなく、公平(エクイティ)です。条件を同じにすることが、真の公平ではありません。例えば、育児は男性にもできますが、出産は女性にしかできません。産前・産後の女性には配慮が必要で、女性がどうしても一時期は職場から離れる必要があります。その部分も加味したうえで、公平な土壌は何かを考えることが、公平だということですし、同じ子育て中の女性と言っても必要な支援はそれぞれ違います。DE&Iが進んだ企業の担当者は「エクイティはつまり一人ひとりに必要な支援を届けること」と説明しました。


■男女に関する意識(平等感)

男女の地位は平等になっていると思うか聞いたところ、「平等」と答えた人は21.2%、
「男性の方が優遇されている」と考える人が74.1%だった。
※内閣府「令和元年男女共同参画社会に関する世論調査」より


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【浜田敬子さんに聞く女性活躍のヒント】 実力主義をうたう企業も、その「実力」の前提が男性社会的かもしれない。カギはリーダーの要件定義。
に続きます。



<お話を伺った人>

ジャーナリスト
浜田 敬子(はまだ けいこ)さん

前Business Insider Japan統括編集長。元AERA編集長。
1989年に朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。
編集長時代はネットメディアとのコラボレーションや1号限り外部の人に編集長を担ってもらう「特別編集長号」など新機軸に挑戦。
2017年3月末で朝日新聞社を退社し、世界12カ国で展開するアメリカの経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。
2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。
2022年8月にリクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。
「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』



取材:F30プロジェクト 文:武田 明子




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