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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室315】父と疎遠なのですが、それに対して説教じみたことを言ってくる友人。聞き流すしかない?


✳️今週のお悩み✳️
ここ5~6年ほど、訳あって父親と会っていません。口が悪く差別心の強い人で、なおかつキレたら尋常ではない怒り方をする人なので、彼の孫にあたる娘たちにも悪影響かと思い疎遠になっています。私は会うのをやめたことでストレスが減り、現在は平穏な日々を過ごしています。しかし、それを咎める友人に辟易しております。年末年始などに必ずと言っていいほど周囲から「実家には帰らないの?」等聞かれるので、近しい友人には事情を説明したりしているのですが、ほとんどの友人は「そうなんだ」「いろいろあるよね」という反応。でも一人の友人は、「お父さん可哀想」「家族なんだからあなたも素直になってさ……」などと勝手に「親子の絆を取り戻す」みたいなモードに入って説教じみたことを言ってくるのが嫌なんです。彼女から家族間の問題はあまり聞いたことがなく、両親や兄弟と良い関係を続けているようなので、家族間の亀裂はイメージできないようです。ついでに言うと、彼女の弟のお嫁さんについても「家族に馴染めないのは自分勝手」「お嫁に来たのに覚悟が足りない」みたいなことを言うので、なんだかなぁと思ってしまいます。こちらは既婚で子ども2人、友人は独身なので、いろいろなことに想像が巡らせられないのは仕方がないのかなとも思いますが……。数少ない友人の一人ですし、今後も良好な友人関係を続けていきたいとは思うのですが、聞き流す以外にないのでしょうか。聞き流すにしてもどうしても心がささくれ立ってしまうので、上手な聞き流し方があればいいのになと思います。
(カランコエ・30代・パート・東京都)


宇多丸:
前にやっぱり、お父さんの言動がアレに感じられてきて……みたいな相談があったけど、カランコエさんの場合、そことの距離の取り方に関してはすでにご自分なりに答えを出して対処してるわけで、そっちの問題じゃないんだよね。

要はそのご友人が、『余計なお世話だバカヤロウ』ってことに尽きるわけだけど。

ただ、その人と険悪にもなりたくないからどうしましょう、と。

こばなみ:
家族のこととかって、いろいろあるから、言わなくてもいいのに……。

宇多丸:
家族観の違い、人生観の違い、みんなそれぞれあって当然なのに、自分の基準だけが正しいと疑いもなく思い込んで他人にもそれを押しつけようとしてくる人って、残念ながら決して少なくないですよね。

本人的には本気で良かれと思ってのことなので、余計に厄介、というね。

そのご友人にはですね、マーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』でも観せればいいんじゃないですかね?(笑)

要は、こういうことなんだよ!って。

フランク・シーランという実在したマフィアの殺し屋をロバート・デ・ニーロが演じているんだけど、劇中、幼いころから彼の暴力性を恐れてきた娘が、最終的には、ある近しい人を父が殺したことを確信して、以降は完全に縁を切るという、作品の主題に関わる重要なくだりがあるんです。これも実話が元になっているんだけど。

悲しいのは、フランク的には「すべては家族を守るためにやったことだ」って認識なんだよね。他の家族からすれば「守るって、何から? 私たちが恐れていたのは他ならぬあなたなのに」ってことでしかないんだけど。

とにかく、問題のあるお父さんと意識的に距離を置いたカランコエさんなら、「わかる~」って話だと思うし、そのご友人にも、「私はこのペギー(娘)だから」って言えばいいんじゃない?

もっとも、観せたら逆に「お父さん、かわいそう」テンションを助長してしまうかもしれないけどね(笑)。

人間の「正しくなさ」にも寄りそえるというのが物語やアートの効能だし、『アイリッシュマン』はまさにそこに力点が置かれた、いかにもスコセッシらしい作品でもありますから……、ま、詳しくはわたくしの時評でもチェックしてしみてください!(公式書き起こしはこちら

ひょっとしたらカランコエさんにとっても、そういうどうしようもないお父さん、そうとしか生きられなかった哀れなひとりの男、というようなところにも、思いが至るきっかけになるかもしれないし。

だからって優しくしろって言ってるわけじゃないんですけど。

こばなみ:
なるほど。私も観てみます!

宇多丸:
あと、毎度毎度同じ作品ばっかり挙げて申し訳ないけど、やっぱり『葛城事件』だよね。

あそこで三浦友和が演じているお父さんのエグみは、カランコエさんが感じてる「この人、無理」感に、かなり近いものがあるんじゃないかな。

ちなみにカランコエさん、「いや、うちにはうちの事情があるし、そこはほっといてくれないかな」とかって、普通に言い返したりはしてるのかな?

それで「あ、ごめん」ともならず一方的に逆ギレしてきたりするようなやつは、しょせんそこまでの相手だよ、とも言いたくなるけど。

ただまぁ、家族、子ども、このあたりに関してはたしかに、人によっては激烈な反応が来たりしますからねぇ……。

こばなみ:
本当にそうですよね。やっぱりずっと信じて生きてきた自分の家族観だから、肯定しかできないんですかね。

宇多丸:
今の自分を肯定するためにもそこは譲れない、みたいなことなんだろうけど。

こばなみ:
それでもいいけど、でも人それぞれいろいろあることは理解してほしいですね。

宇多丸:
誰も親は選べない。

だからこそせめて、大人になってから選択できることをカランコエさんはしてるだけなんだからね。

「あなたも素直に」って、別に意地張ってるわけじゃないんだよ!って。

ようやくあのオヤジの暴力的支配から脱することができたんだから、ってことなのに。

こばなみ:
友人の方にも『アイリッシュマン』、『葛城事件』を観てもらって、他の家族観も感じてもらえることを祈っております。

宇多丸:
あと、ご友人の無神経な善意の押しつけは、『葛城事件』で田中麗奈が演じているキャラクターにも通じるものがあるので、「あんたコレになってるから!」ってやってもいいかもね(笑)。

そう言えば「嫁入りしてきた側のドン引き視点」も描かれてるので、やっぱりそのご友人には『葛城事件』、観せたほうがいいよ! 劇薬だけど!

なんにせよ、こちらが切実に訴えている苦言にも聞く耳を持ってくれないような「友人」とは……、それこそさりげなく距離を置くようにしたほうが、実際んところ精神衛生上いいんじゃないですかね。

またぞろ戯言を聞き流すしかない状況になったら、「他の部分ではいいやつなんだし!」とか強く念じでもして(笑)。

それも本気でアホらしくなってきたら、いよいよマジで疎遠タイミング、っことじゃないですか?


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年3月28日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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