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過去のセクハラ……、あのときはどうすれば正解だったのかわからず、いまだにモヤモヤしています。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室339】


✳️今週のお悩み✳️
過去の終わった出来事なのですが、あのときはどうすれば正解だったのかわからず、いまだにたまに思い出してモヤモヤしているので相談です。学生のときスポーツをやっておりOBの先生(男性)に師事していました。ずっと師事している間も「本当に〇〇はかわいいねえ」と多々言われていたのですが師匠のように感じていたので何も気に留めていませんでした。ですが、最終学年になってからおかしくなり、2人きりになろうとしたり、食事に誘われるようになったり、別件の出先にいる際に呼び出されて車で迎えに来られたりするようになりました。もちろん既婚者、師匠だと思っていたので無碍にできず、されるがままになっていたのが良くなかったのだと思います。しかしあのときはスポーツの面でも大事な時期だったので見放されたらと考えると我慢するよう自分を納得させていました。卒業後にも食事に行き、上にBARがあるからと帰ろうとしていたのに連れて行かれ着いた場所はホテルの部屋だったのは今考えても自分もとても軽率だったと思います。しばらく連絡もなかったし元の師弟関係に戻れたと錯覚していました。恐怖でどうやったら無事に帰れるのかフル回転で考え、結論何事もなく部屋を出ることができました。 師匠を信用できなくなりスポーツも思ったような結果が出せなかったことも後悔の一つです。一緒に師事していた同期にももちろん話せず、諸々そういうことがいまだにモヤモヤしている原因かと思います。他の人の悩みに比べたらたいしたことない話だと思うのですが、来年結婚することになり、自分的にはモヤモヤした気持ちとはオサラバして心機一転したいです。
(しぐれ・28歳・秘書・東京都)


宇多丸:
前に、60歳だかの講師が抱きついてきた、という相談がありましたが、あれ級もしくはあれ以上に悪質な、説明不要なまでにド直球の悪質セクハラ野郎が来てしまいましたね……。

しぐれさんのモヤモヤした気持ちというのは、文中にもちょいちょい出てくるように、こっちも軽率だったのかもしれないとか、たいした悩みとは言えないんじゃないかとか、自分側を責めるような考え方をついしてしまうことから湧いてきてしまうものなんじゃないかと思うんですけど……。

だとしたら、そんな風に考える必要はまったくないですよ!ということは最初にはっきり言っておきたい。

彼は、しぐれさんが自分に対して力関係的にノーと言いづらい立場であること、周囲に波風を立てたくはないであろうこと、すべてわかったうえで、そこに「つけ込んできた」わけですから。

はなから被害者側が声を上げにくいようになっている構造まで含めて、これぞまさに、絵に描いたようなザ・セクハラですよ!

はっきりと断りづらいグレーな接近の仕方を重ねてくる感じもキモいし、なんと言っても、なし崩し的にホテルの部屋に連れ込もうとした時点で、一発アウトでしょ。普通に犯罪だよ。

こばなみ:
スポーツ界のセクハラ、話題になったことありましたよね。実際にもぜんぜんあることなんだと、ショックというか、あぁ……。

宇多丸:
そいつに嫌われたらその世界ではやっていけないかも、みたいな力学が幅をきかせているようなところなら、残念ながらどこでも起こりうることですよね。

そもそも、そこまで権力を絶対的なものにさせてしまっている構図自体が大変不健康で、即時是正されるべきものだろうと思いますけど。それを許してしまっている組織や集団のありかたそのものに問題がある。

しぐれさんの場合も、そのスポーツに打ち込む以上、当時はそこにすがる以外、選択肢がなかったわけでしょ。

その弱みを利用して、あわよくば搾取しようとしたやつが言うまでもなく500%悪い、というだけの話で、しぐれさん側に落ち度などあるはずもないし、当然なんら反省する必要もない。

こばなみ:
私は幸いにもそういうことがなかったのですが、まわりに聞いたら、けっこうセクハラってあるんだなって改めて認識しました。それが原因で会社に行けなくなっちゃった、とかいうことも近場であって。

もう、なんなんだ!

宇多丸:
だよね……。

世の中ちょっとはマシになってるところがあるとしたら、そうした暴力的状況が、ようやく少しずつでも公の場で問題になるようになってきた、くらいのことだもんね。

大きいところでは、数年前に明るみになった東京医科大学入試での恐るべき性差別システムとか、どこまで腐ってんだこの社会?と思わざるをえない現実が、次々と顔を出してくるわけで。

男性側としても、これがオレらの同類なのだと思うと、まったくもって恥ずかしいし、情けない限りです。

こばなみ:
どうしたらモヤモヤしなくなるでしょうか?

宇多丸:
まずは第一歩として、先ほどから言っているように、ほんのわずかでも自分にも非があったかのように考えるのは、やめるよう心がけていただいて。

そこはホント、大前提としていただきつつ……。

まぁ本来なら、そこまでのセクハラ加害者は、はっきり制裁を受けるべきなんですよね、法的にも社会的にも。

しかし現状は、しぐれさんの心の傷はまるで癒えていないのに、そいつはおそらく罪悪感もろくに抱かないまま、大手を振って生きているわけでしょう。

前の60歳と違って、詫びを入れてきてもいないわけだし。

こばなみ:
この人がまだ大学とかで教えていたら、同じことが起こっているかもしれないですね。

宇多丸:
あまり考えたくないけど、可能性はじゅうぶんあるよね……。

やつの罪を暴くことがこれ以上の被害者を増やさないことにつながる、という面もたしかにあるかもしれない。

しかし、だからと言ってしぐれさんに、出るとこ出てそいつと戦いなさい!などと、外野にすぎない僕らが安易に言うこともできないですからね。

当然、それなりの労力を使うことになるだろうし、余計に傷つく場面だってあるかもしれない。

今さら強い証拠を揃えるのは難しいし……というような現実的問題もあったりするでしょう。

たとえばですが、もし、しぐれさんが心から信用できるような人物がその世界にいるのならば、それこそ「一緒に師事していた同期」や先輩など、より直接的に事情をわかってくれる立場の方に、今からでも相談してみることはできないですかね?

そこで理解者が増やせるようなら、やはりそれが一番しぐれさんの力にはなるんじゃないか、という気がしますが。

いや、それで知人の間に望まぬ波紋が広がってしまうリスクは冒したくない、という感じであれば、専門の相談窓口に話を聞いてもらう、というのももちろん大変有効な手だと思います。

心のケアから法的なもろもろまで、言うまでもなく守秘義務ばっちりで、プロがバックアップしてくれるはずですから。

こばなみ:
窓口をいくつか紹介しますね。とくにセクハラ専門ということではないのですが、実際に電話をしてみて、寄り添ってくれそうな感覚がありました。セカンド・ハラスメントの可能性も少ないと思います。

★臨床心理士が話をじっくり聞いてくれる
「一般社団法人日本臨床心理士会」 

電話相談:03-3813-9990
受付時間:月~金19:00~21:00(金のみ9:00~12:00もあり)

臨床心理士が電話対応しているので、その場で相談することもできるし、 相談内容などによってもっと適切なところがある場合は、紹介してくれたりもするそうです。 電話代はかかりますが、カウンセリング料的なものは不要なのもいいですよね。 ※ただし、混んでいる可能性もあります

ちなみに、「一般社団法人日本臨床心理士会」のページで、日本全国の臨床心理士を探すことができる機能もありました。


★話を聞いてくれた後、本人の希望により専門機関につなぐこともできる
「法務省みんなの人権110番」

電話相談:0570-003-110
受付時間:平日8:30~17:15

電話はすぐつながりました。出たのは男性でしたが、相談内容を話す前に「女性の相談員がいい」と言えば代わってもらうこともできるそうです。今後どうしたいのかによって専門機関につなぐことも可能だし、特に「どうしたい」と思っていなくても、「気持ちをお聞きすることはできるので、どうぞお電話ください」とのことでした。

宇多丸:
あとまぁやっぱり、結婚するパートナーには、ちゃんと話してわかっておいてもらうのが、ホントは一番でしょうけどね。

痛みを共有してくれる程度の人ではあってほしいよね、やっぱ。

そこは改めて、お相手をご自分の目でジャッジしていただくとして……。

で、ここから先はしぐれさんの判断次第だけども、もし仮に、表沙汰にして彼に相応の罰を求めることにしたらしたで、このご時世、多くの人がしぐれさんに加勢してくれるはずですよ!

既婚者で名のある指導者でしょ? いまどき、どう見たってやつに勝ち目はないよ。

ちなみに、しぐれさんにはちょっとまだ刺激が強すぎる部分もあるかもなので要注意ですが、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ常習を暴いた歴史的調査報道、つまり、強大な権力を誇る加害者に対して被害者と支援者がいかにして戦い勝利を勝ち取ったか、そして世界を決定的に良い方向へ変えていったかの記録として、「その名を暴け」も、参考文献として女子部JAPAN読者のみなさんにはおすすめしておきますね。

とにかく、しぐれさんにとってはそう簡単にふっきれるような記憶ではないかと思いますが、少なくとも要らぬ自責の念で足を引っ張られるようなことは、今後だんだんとでも、なくなっていくといいですね。

そんでもって、いずれなんらかのかたちで、やつの身に正義の鉄槌が下りますように!

こばなみ:
少しはお役に立てるといいですが……。

また、落ち着いたら、女子部のイベントにも遊びにきてくださいね。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年10月17日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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