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何をすれば性犯罪の被害者の力になれますか? 刑法改正の手助けができますか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室373】


✳️今週のお悩み✳️
テレビで「セックスと同意」という、性被害にあった方の言葉を紹介したり、性犯罪刑法の改正についてのドキュメンタリー情報番組が放送されていました。警察に相談しても証拠がないから被害届を受理できないと言われた方が多く、勇気を持って相談したのに被害者の方が報われず、日本の刑法では性犯罪は裁けるステージにも持っていけないのかと胸糞悪い気持ちになりました。
私はこういった性犯罪についてのニュースに関心があり、ニュースサイトに記事があるとコメントまで読むようにしているのですが、「誘っただろ、〇〇年後に訴えるのはおかしいだろ」等の心無いコメントも多数あり、日本の性教育の失敗と感じています。私はただの会社員ですし、カウンセラーでも法律にも詳しくはないですが、微力でも何かできることがあればしたいと思います。ただ何をすれば被害者の力になれるか、法改正の手助けになるか、関係のない私ができる最善の手段が分からないです。
性犯罪の事例でなくとも、何か良い事例があれば教えていただきたいです。
(ざくろ・29歳・会社員・埼玉県)


こばなみ:
この番組、拝見しまして、いまの刑法では加害者からの「暴行・脅迫」があったとか、あるいは被害者が「心神喪失・抗拒不能」だったということでない限り、性被害を受けたとしても被害届を受理してもらえない、それゆえ、6,000人近い性被害者のアンケートでも、警察に相談したのは15%、被害届を受理7%、そのうち暴行・脅迫があったのは6%という、被害が浮き彫りになっていかない状況なのだそうです。

また、性交同意年齢は諸外国より低く13歳だったり、時効が短いことなどもあり、4年前に明治40年の制定以来110年ぶりの大幅刑法改正はありましたが、まだまだ課題が残る状況というのが、よくわかる内容でした。

宇多丸:
そうした現状に対して、自分には何ができるか、ということですよね。

一番ライトな関わり方としては、たとえば、ここぞというNPOやNGOとかに募金をするというのは、間接的ではあってもそれはそれで間違いなく有効だし意義ある行動だと思いますよ。

僕も人道支援方向で、いくつか毎月引き落としにしてたりしますけども。

こばなみ:
番組のなかでも代表理事の方が法改正の検討委員会メンバーになっていましたが、「一般社団法人Spring」は、性被害当事者が生きやすい社会の実現を目指す当事者団体で、寄付をすることで国会議員や関係省庁へのロビイングを支援することもできるようです。

人権を守る国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」でも、「暴行・脅迫」要件を削除することや、13歳から16歳へ性交同意年齢の引き上げるなどの刑法改正に向けて、署名活動や寄付を募ったりしていました。

宇多丸:
さらにもう一歩踏み込むなら、そういうところの事務局でお手伝いするとか、ちょうどいい政治家が見つかるようならその後援をするみたいな、より具体的な行動に出るという手もありますよね。

こばなみ:
ヒューマンライツ・ナウでは、「ボランティ・インターン」もありましたよ。

そのほかにも、行動という意味では、花を身につけて性暴力に抗議する「フラワーデモ」というのもありました。ちょうど9月11日、本日全国各地で開催するようです。オンライン開催もありましたね。

宇多丸:
今回、東京はオンラインなんだね。参加してみようかな。

あとさ、被害者の方々の助けになるという意味では、それこそカウンセリングの資格をとって、文字通り直接の支援をしてゆく、というようなことだって考えられますよね。

どのくらい難関なのかとかはよくわかってないけども……。

こばなみ:
カウンセリングの資格だと「公認心理士」になるかと思います。国家資格です。大学院において定められている科目を履修など、ちょっとハードなイメージもありますが、詳しくはこちらです。

そこまでは難しいということであれば、都や県も「犯罪被害者支援セミナー」などを開催していることもあるようなので、そのような勉強会に参加してみるという手もあるかもしれません。

また、「性的同意」について考え、性暴力をなくす活動などをしている団体もありました。「ちゃぶ台返し女子アクション」では、イベントやワークショップも開催しているようです。

宇多丸:
いっぽうこの相談に対して僕は、男性のひとりとして、そもそも男たち側の意識のあり方に問題があるんだから、本来こっちこそが何かしないとダメだろ、ということも強く思わされましたね。

ざくろさんのおっしゃる通り、性というものに対するきちんとした啓蒙が日本社会ではろくにされてこなかった結果がこのザマ、ということでしょうしね……。

情けない話ですが、以前の相談にあった通り、ここ日本ではいまだにけっこうな比率の男性が、何が性差別に当たるのかとか、何が問題なのかといった、基本的なレベルの知識や意識すら持ち合わせていなかったりするのが現実だろうと、体感としても思います。

たとえばだけど、僕が今年観た映画のなかでも今のところぶっちぎりのベストワンな『プロミシング・ヤング・ウーマン』にも、案の定と言うべきか、作中で何が問題にされているのかまったく理解できてないバカ丸出し感想というのが、やはり男性からは出てきやすい傾向というのがはっきりあるようで……、え、いまだにそんなこと平気で言ってしまえる段階なんだ?と、同性ながら愕然とさせられたりしますけど。

ただ、そういう僕自身だってとてつもなく愚かな段階というのはあったと思うし、まぁ今だってそうかもしれないけど、「あぁそっか、オレ何もわかってなかったな」と少しずつでも学んでゆくことは誰にもできるはずだと思うんで……、男性から男性に向けた啓蒙、というのももっと意識的にやってゆくべきだよな、とは思いました。

そしてもちろん、せめて若い世代にはちゃんとした意識を持ってもらえるよう、教育を整備してゆくのが何より肝心ですよね。

こばなみ:
最近、女性タレントさんが発信してたりしますよね。

SHELLYさんとか性教育チャンネルっていってYouTubeをやってますね。バービーさんも生理のことを話したり、2人で性的同意のことも話してました。

宇多丸:
素晴らしいと思うし、頭が下がりますよ。

それにひきかえ、男はホント、どうかと思うわ……、僕も男だけどさ。

女の人たちは、直接的な被害に遭わなくたって、普段からそこはかとない恐怖や嫌な思いを、さんざん味わわされているわけだもんね、無神経に男がふるまうこの社会で。

こばなみ:
たしかに、身近なところでいうと、駅でぶつかってくるおじさんとかいまだにいますしね。超痛いし、怖い! でもあれ、男性ってやられてないですよね?

宇多丸:
え、どういうこと?

マネージャー小山内:
最近ネットとかでよく言われてるんですけど、要は駅とかホームとか、すごく混んでるところを歩いてると、おじさんがぶつかってくるんですよ。でも女の人しか狙ってない、みたいなのがあって。

宇多丸:
一種の痴漢ってこと?

こばなみ:
いや、痴漢っていうよりは、もっと暴力性をはらんでるというか。単純に痛い。

宇多丸:
二人ともあるの!? それは傷害じゃないの?

マネージャー小山内:
本当はそう。で、iPhoneとかで撮ってる人がいて、なんか女の人で最近こういうことが起きてるんだっていうことで、「私もある」「私もある」みたいに結構SNSでひろがっていって。

宇多丸:
明らかに女性を狙った犯行なんだ……、ヘドが出そうな野郎ですね。

小田急の事件もそうだけど、女性嫌悪に端を発する犯罪だという本質が、もっと問題にされないといけないよね。

だって僕も、申し訳ないけど、お二方含めた女の人たちがかなりの割合でそんな目に遭ってるなんてこと、今の今までまったくわかってなかったし……、事程左様に男性はやっぱり、女性がさらされている危険とか怖さとかを、そもそも知らなさすぎなんだよな。

その意味では、徐々にではあるけど、こうやってひとつひとつの事例が可視化されるようになってきたということ自体は、せめてもの進歩とは言えるのかなと思います。

こばなみ:
ざくろさんみたいな方もいるわけだし、良くなる希望はありますよね。

宇多丸:
まったくその通りですね。

あとはこうした声が合わさることで、ちょっとずつでも立法行政司法を、動かしてゆければ。

それとは別に、さっきも言ったように、これは本来、男側こそがなんとかしてゆかないといけない話でもあるんで。

今まで以上に、自分に発信できることはしてゆかないと、と突きつけていただいたようにも思います。

こばなみ:
この連載も可視化される場として、役に立っていけるといいですね。お悩みやご意見も、引き続きお待ちしております。



【今週のお絵描き】

画・宇多丸



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。




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