日本の国会議員に女性が少ないのは「やりたい性格の人が少ないから」と言う夫。「女性の性格」を理由にするのには違和感があり、モヤモヤしています。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室358】
✳️今週のお悩み✳️
1カ月くらい前、夫とご飯を食べているときに「日本は国会議員の中での女性の割合が低く、G7諸国の中では最低なんだって」と話題にすると「もともと女の人は、そういうことをやりたい性格の人が少ないからなんじゃないの?」「嫌なものを無理やりやらせるのもどうかと思うよ」と言われびっくりしました。女性活躍推進とか言ってもガンガン出ていきたい人ばかりじゃないのに、頭数だけ合わせたって平等じゃないでしょ、というのが夫の意見です。女性活躍推進がさかんに言われるようになりましたが、私は「女性は控えめなのが美徳」という価値観がまだあると思いますし、家庭のこと、子育てのことなどを多く担っていくなかで、キャリアを諦める女性がいるのも事実です。背景には「家庭や子育てはやっぱり女性が主体でやるのが良い」という価値観があると思っています。そういったことの結果が「国会議員の中での女性の割合の低さ」となって現れているのだと思うし、国会議員うんぬんに限らず女性が人生のいろんなことを選択する場面で、無意識のうちにこういった価値観に影響を受けているのだと思うのです。だから一括りに「女性の性格」を理由にするのには違和感を感じる、ということを話したのですが、いまいち腑に落ちない様子でした。時間が経ってもこの一件がなんだか妙にモヤモヤしています。大事なパートナーであっても暮らしていれば価値観が違うこともあって当然、と頭では理解していてもモヤモヤが晴れません。宇多丸さんやこばなみさんだったら、こんなときモヤモヤする気持ちをどうしますか? また私の考え方についてどう思われますか?
(C子・42歳・東京都)
こばなみ:
前回に続き、パートナーのジェンダーに対する考えに驚いたということですけれども……。
宇多丸:
言うまでもなくですけど、C子さんは間違ってないですよ。
前の相談に続いて、男性のひとりとしては、登場する男たちのあまりの意識の低さに、恥ずかしいやらイラだつやら情けないやらという感じで、出てくる言葉もつい厳しめになってしまいます。
あんま読んでて楽しい回じゃなくなっちゃうかもしれないけど、ごめんなさいね。
だってさぁ……。
たとえ「性差別問題に関してはいろいろすでにわかっているつもり」「自分自身アップデートを心がけているつもり」であっても、それでもなお、既得権益側ならではの無意識な加害性みたいなものが、時折ちょっとした発言などからちょいちょい顔を出してしまったりしがちだから、まだまだ自戒と勉強を重ねてかなきゃいけないよね、オレたちは……って段階の話に、今はなってると思ってたんですけど。
しかし、彼らの言い草を聞く限り、日本の男性たちの知見はやっぱりそのはるかずっと手前、性差別とは何かとか、下手すりゃそれの何が悪いのかとかを、イチからわかっていただかなきゃならないレベルに、いまだあるのかもなぁと……、そりゃあなるほどジェンダー・ギャップ指数も、156カ国中120位だ。
そんなんでいつまでも先進国ヅラしてんじゃねぇよって話ですよね。改めて、恥ずかしいしイラだつし情けないよー!
特に今回の、そのダンナさんみたいなタイプがタチ悪いのは、彼の中ではたぶん、差別的なことを言っているという自覚が1ミリもないどころか、「むしろこちらこそが冷静で知的に、フラットに物事を見ているからこその意見だ」くらいに思ってる、ってことですよね。
むしろ愚かさを露呈しているというのに……。
まずもう、「もともと女性は政治を志向する性格の人が少ない」って理屈からして、どこからつっこんでいいかわからないくらい底の浅いたわごとで、げっそりしちゃいます。
ニュースとかボサッと見てるだけでも、海外では首相や大臣その他、重要ポストが女性だったりするのが今はホントに普通になってるってこと、わかりそうなもんですけど……、あの人たちのことはなんだと思ってんだろ。
だからこそC子さんは、日本はその点すごく遅れてるというシンプルな事実を伝えようとしているだけなのに、それを「女性全般、本来の資質のせい」みたいにねじまげて解釈するのって、話ちゃんと聞いてた?って感じだし、そもそも性差に対する偏見が強すぎて現実認知が歪んじゃってさえいる人なんだな、と断じざるをえない。
「違和感を感じる」どころじゃない、わりとはっきり悪質なセクシズム発言ですよ。
もちろんそうした他の国々だって、もともとはゴリゴリに男性優位主義が支配的だったのを、さまざまな議論や試行錯誤、あるいは抵抗活動を積み重ね、仕組みや考え方から少しずつ改善して、ようやく今ここに至っている、というだけのことですからね。
つまり日本のこのていたらくも、単純にそういう取り組みがいまだにじゅうぶんなされてないし、機能してないから、ということなのは明らかなわけでしょ、順当に考えれば。
なのにダンナさんは、たとえばアファーマティブ・アクション、ポジティブ・アクション的な措置の意味も、どうやらまったく理解してないわけだもんね。
この調子だとほかの差別問題、レイシズムとかにかんしても、本質がまるっきりわかってないままなんでしょうねぇ。
ざっくり言えば、差別というのは社会構造や我々の精神のなかにあまりにも深く入りこんでしまっているものなので、表面的に「平等」をうたったとしても、それだけでは実際のところ真の「公平」性の実現は阻まれてしまいがちで……なぜなら、放っておけばこれまで通り、既得権益を持っている側、支配的な力を現に持っている強者側に有利なようにすべてが運ぶばかりなのは、自明なので。ちょっと考えればわかることだけど。
で、その圧倒的な無力感のなかで、悲しいけど差別される側さえも「現実」を追認、なんなら迎合~内面化してゆかないとやっていけなかったりもする。日本の今の状況は、まさにそれですよね。ダンナさん、「ガラスの天井」って言葉聞いたことないかな?
ゆえに、そこを打破するには、現状の弱者側が進出していきやすい仕組みを、意識的にシステムそのものに組みこんでゆかないといけない。少なくとも、本当の意味での公平さが世の中全体に確保されるまでは……、とまぁ、おおむねそういう理屈ですよね、まず「頭数」を揃えようとしているのはなぜかと言えば。
こばなみ:
女性管理職の比率を増やそう、とかもそうですね。
宇多丸:
あと、例の森喜朗元首相の失言の元になった、IOCからの改革要求もたしかそういう話でした。
もっと華やかなところで言うと、アカデミー賞作品賞ノミネートの条件が改められたのとかも、性差のみならず様々な不均衡を是正するためのものですよね。
だから、別に「嫌なものを無理やりやらせ」てるわけじゃないよバカ!って。
そもそも道がせばめられてるし、女はあっち歩いてろってひっきりなしに強制や誘導されるし、って話じゃんね。
だから、まずは通れる道を作って、広げるところから始めなきゃいけないんですよ。そういう段階の話をしている。
ところが実際には日本ではさ、たとえば東京医科大学が入試で女性の受験者を一律減点してたっていう例の最低最悪の事件とか、むしろ「逆アファーマティブ」しちゃってんじゃん!
終わってますよ、マジで。
こばなみ:
あれは信じられなかった。しかも1校だけではないし、謝罪も中途半端な感じだったし。
宇多丸:
誰も本当の意味では責任とってないじゃんね。大量に人生狂わされた人たちがいるのに。
とにかく性差別や、もちろん人種・民族差別なども含め、もろもろ社会に放置されたままの理不尽さ、すなわち非効率でもあるところを克服してゆかないと、それこそ国力的な意味でも、日本がこの先さらにどんどん世界に取り残されてゆくいっぽうなのは、残念ながら間違いないあたりだと思いますよ。
こばなみ:
社会全体に対して負に働いていますよね。
ただ、これはもう結婚しているパートナーであるので、どうわかりあっていくか……。
宇多丸:
ねぇ。
C子さんの問題意識こそが正しく、対するダンナさんの発言は思いっきりアウトだというのは異論の余地がないことだとして、ではいったんあからさまになってしまったその認識の溝が、今後の夫婦関係にどう影響を与えるのか、あるいは与えないのか。
前回同様、僕らは彼のいいところというのをまったく知らないまま話すしかないので、どうしてもハードな意見になってしまいがちですが、C子さんにとっては当然、それ以外の要素のほうがはるかに大きいんでしょうしね。
無論、夫婦であってもしょせん他者同士、価値観の違いがあったって全然いいわけだし。
でも同時に、曲がりなりにもパートナーと称している以上は、「とは言えここは譲れない、ここだけは共有できていたい」という一線も、やはりどこかに必ずあるはずだと思うんですよね。なんだっていいってことは、誰でもいいってこととイコールになってしまうわけで。
つまり、要するにやっぱり、前回と同じく、その人にとってのプライオリティの話になってくる。
こばなみ:
今回のC子さんみたいなことがあったら、どうしますか?
宇多丸:
僕ならば……。
誰かを好きになる、好きでいるというのは、「この人から見た世界は素敵だろうなぁ」「この人と同じ景色を見ていたいなぁ」と思えることだ、というのが僕の考え方なんだけど、その意味で言うと今回みたいな「コイツの物の見方、最低だわ~」というのは、完全にその逆なわけですよ。
なかでも人権意識というのは、前回も言ったように、僕にとってはトップクラスにプライオリティ高めな問題なので。
大きく言えば、他者に想像力を働かし尊重できる人なのかどうかという、人生のすべての局面にかかわってくる話だから。
なので、そこに深刻なズレが露呈して、なおかつ別れたくもないんだったら……、まずはやっぱり、きちんと話し合いたいし、できるなら説得して、わかってもらいたいですよね。
そのためにまずは、最大限努力すると思う。
それでダメならどうするかな……。
それでもなお、本当に心からこれからも一緒にいたいと思えているのかどうかを、改めて己に問い直す、ってことにはなるのかな。
当然ながら人間関係というのは、ある一点のみでジャッジできるもんでもないですからね。
ただこれ、二人の間だけで完結する話ならまだ最悪それでいいけど、ぶっちゃけこのダンナさんの発言って、たとえば会社とかネットとか、とにかく公の場で言ったら、当たり前に問題になって、彼の社会的信用や地位を揺るがしかねないものでもあるわけじゃないですか。
特に今後は、世の中の変化からいって、どんどんその危険性が増してゆくとも思われるわけで。
だからやっぱ、単に見解の相違で片づけていい問題でもないんですよね。
ダンナさんのこれからのためにも、このままは良くない。
こばなみ:
ダンナさんが外でやっちまうのはC子さんとしても避けたいと思うので、その点からも何度も話した方がいいですね。
宇多丸:
こばなみはどうですか?
ダンナさんとこういう件、話したことある?
こばなみ:
前回の夫婦別姓の話とか、あとは女性管理職の話とかはしましたね。
私の仕事環境は男女差があまりないのですが、友達は管理職になるにあたり、何だか女性だから下駄を履かせられている気がして嫌だって言ってたとか話したり。
そうしたら、宇多丸さんと同じで、でもいまは数を揃えるのはしょうがないところあるので、そこは難しいけども気にしないようにしてやるしかないかもね、と。わりと言葉を選んで丁寧に考えるようにしているのだなとは感じますが。
宇多丸:
もし、なにか捨ておけない件が浮上したときは、どうする?
こばなみ:
それは……、実は蓋をしていることが、1つや2つありまして(苦笑)。
たとえば、うちはお金に関する考え方が違うので、よくそこは言い争いになります。
でもその場でギャギャギャって言っても効き目ないので、もう長期戦で、ことあるごとに話す。諦めてはないです。
宇多丸:
そっか。
ひょっとしたら僕の考え方が極端すぎるのかな、とも一瞬思ったんだけど。
とは言え社会の問題と2人の間柄は関係なくない?ともたしかに言えるのかなぁ、とか。
こばなみ:
でもやっぱり、気になると思いますよ。
さっきも言ってましたけど、パートナーがそれを自分のいないところでも発していたら……、この人が社会や職場からどう見られているのかと思うと、そりゃ好きだからこそ心配になりますよね。
宇多丸:
そうだね。
おもてだって叩かれるところまではいかなくても、軽い会話のなかなんかで同僚にその「持論」を得意げにご開帳してたりして、実は心ある人たちからは「あの人ちょっと……」と思われている、とかだって考えられる。
とにかくダンナさんは、差別というものの構造について、一度ちゃんとしたレクチャーを受けるべきなんですよね、ホントは。
なんならC子さん自身も、さらにしっかり本でも読んで、妄言に対してもっときっちりバッサリ論破できるようになっておく、とか……というか、「一緒に勉強してこうよ」的なモードに持っていければ、それが一番いいんですけど。
たとえばそういう講演会やトークショーに誘ってみる、入門書などをすすめてみる、という手も一応ありますよね。
ダンナさんが、最低限そこで、ちょっとは歩みよろうとしてくれる人でありますように……。
僕自身も、ここまでバーバー偉そうに言ってきましたけど、やはりかつては彼ともたいして変わらないくらいアホだった時期はあるし、恥ずかしながら後から本など読んでようやく、自分がいかに性差別にかんして無知で無自覚だったか、僅かずつでも学んだクチなので。
てか、いまだにそれは終わってないとも言えるし。
つまり、これは完全に「日本の男問題」でもあると思うけど、改善~進歩の可能性がないわけではない、と思いたい。
どげんかせんといかん、男……!
こばなみ:
あと、私たち女性側もC子さんみたいに、ん?と思ったことは声に出す、考えてみるって、改めて大切だなと思いました。まずはパートナーと、家族と、友人と、半径5メートルからでも、双方で話しあったり、理解しあったりしていく。その積み重ねでジェンダー・ギャップも縮まっていくと思うので、私も勉強していきたいと思います。