ナメた仕事をする後輩を上手く怒れません……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室113】
✳️今週のお悩み✳️
仕事上の悩みです。私はデザイン会社に勤めており、3人のアシスタントがいるグループリーダーをしているのですが、うまく後輩を怒れません。ナメたものがあがってきたときなど、カチン!とはするものの、悪く思われたらやだな、辞めてしまったらやだな、という思いから、上手く怒れません。気が弱いというのもあるのかもしれません。宇多丸さんは、後輩や人に怒るときや注意をするときは、どのようにしていますか。教えてください。
(りっちー・34歳・東京都)
宇多丸:
これはまず、同じように部下を持つ身として、こばなみの意見を聞きたいな。
こんな風に直接指導するような立場の社員って、今は何人くらいいるの?
こばなみ:
母体は小さな制作会社で、もうかれこれもう14年在籍してますので、部下といえばみんな部下ではあるのですが、女子部JAPAN(・v・)編集部と考えると、5人でしょうか。
宇多丸:
りっちーさんみたいな状況になった場合、どうしてる?
こばなみ:
けっこう普通に怒ってますかね。「おーい、ちょっとこれ、どうなってんだい?」と。ワンフロアでぶっちゃけ感満載な環境ではあるので、わりとその場でわーわー言っちゃうほうかも。
でもね、このりっちーさんの気持ちもわかるんですよ。かつて社内で中堅くらいのポジションのときは、同じようなことで悩んでいました。言うのが嫌で、自分でやっちゃってて、上の人に先輩としてダメだと言われてきたので。
いつ頃からか覚えてないですが、言わないより言ったほうが後輩にとっても自分にとっても、強いてはチームにとってもいいし、自分も先輩に言われてきて、できるようになったわけだし、と。
で、言い方としては、私は「ごら~、ふざけんなっ!」って感じの怒り系が得意ではないんですね。でも指摘&何かしら頭にきてるということは伝えたい。その場合は、自分なりに言い方を考えて、最近はMAX怒ってるときは「がっかりです」「残念です」って言ってますね。
宇多丸:
ひえ~!
しかしたしかに、頭ごなしに否定されて怒鳴り散らされたりするより、「がっかり」「残念」って言われたほうがこたえるかもね。
もともと自分に対して好意がなさそうな人から愛のないダメ出しされても、単に相手への反発心が増すだけだったりするけど、こっちのことをちゃんと認めてくれていたはずの人を失望させてしまった……!っていうのは、自分が至らなかったせいだって素直に考えやすいもんね。
そこでさらに相手のせいにできちゃうようなヤツは、そもそも何を言っても聞く耳持たないだろうし。
いずれにせよ、こちらが働きかけたことで、結果的に相手にポジティブなエフェクトが出ればいいわけだけど。
こばなみ:
人によりますけどね。どう言ったって響かない人もいるし。
あとよくあるのは、歯向かってくるというか、問題をズラすパターンも。
指摘したことについて「じゃあその件、先輩はできてるんですか?」というようなニュアンスで言い返してきたり、「○○さんはどうなんですか?」と他の人の話にすりかえて自分の足りないところを認めないって人もいる。 昔はそう言われると「すみません、私もできてないけども……」と狼狽えていましたが、今は目的は仕事を良くすることなのだということを伝えながら言うとか、ですかね。誰がどうだなんて責任問題は本来関係ないはずだから。
宇多丸:
「できるように努力しようよ」って話をしてるのにねぇ。
てめえじゃ利口なつもりのヤツほど成長する/させるのが難しいっていう、典型ですね。
でも、一番気を使うのはさ、必要以上にというか、こっちの想定を大幅に超えて、それこそその後の仕事やなんかにもしばらく支障をきたすレベルで、凹みすぎちゃう人じゃない?
その場である程度落ち込んじゃったりするのは仕方ないにせよ、その後もずーっとドヨ~ンとした空気出しっぱなしだったり、こっちが何か言おうとすると怯えたようなそぶりを見せるようになったりとか。 最悪りっちーさんが懸念してる通り、それが遠因となって辞めてしまうヤツだって、まぁ、出てきてしまう可能性もゼロではない。
こばなみ:
宇多丸さんはどうしていますか?
宇多丸:
僕の場合、いま誰かに説教するような場面があるとしたら、直属の部下とか後輩はいないので、マネージャーとかになるのかな。
とりあえず、これは何か言ったほうがいいなと思うようなことがあったら、できるだけ早く、可能ならその場で、サクッと伝えるようにはしてるかな。あんまり時間は空けないようにしてる。
あとは、なるべくマンツーマンで、人前では言わないようにする、とかかなぁ。 はからずも見せしめ風になってしまったりして余計な恥かかせちゃうと、下手すりゃ恨みを買ったりとか、関係ない力学が生じちゃうだけで、教え諭すどころじゃなくなっちゃうでしょ。 まぁ、適当なタイミングがなければ、その夜にメールで伝えたりね。
で、注意した後は、すぐ関係ない話を始めたりとか、意識的に空気を変えようとはしてるかも。 こっちはあくまで立場上必要なことを伝えただけであって、別に感情的になってるわけでも、人としてイヤとかってわけでもないの、わかってるよね?というのを、一応早めに確認しておく意味でもね。
こばなみ:
注意するときもした後も、できるだけ早くその場で完結させるってのは同意です!
宇多丸:
それと、あまりにも明白すぎる失敗のときは、本人にはあえて特に何にも言わないかもですね。
こばなみ:
寝坊して打ち合わせすっぽかしたとか?
宇多丸:
そうそう、本人だってやらかしちまったってことは重々わかってる場合。
それでろくに謝りもしてこないようなサイコパス体質野郎なら、いよいよ対応を考えたりもしなくちゃならないだろうけどさ。普通にとにかくひたすら平謝り!してる目下の者に、さらにわかりきった叱責を重ねても、ねぇ……、叱ってる当人が「ガツンと言ったった!」気分になるだけの、「事実の確認」にしかならないでしょ。
そこまで来てたら、まともなヤツにはむしろ、何も言わないほうが間違いなくよりプレッシャーかかるしね。
まぁ、寝坊とか、同じようなしょーもないポカがあんまり続くようなら、「目覚まし時計、買ってやろうか!?」とか、わりと大きな声で言いたくもなってくるだろうけど(笑)。
ただ、相談文にあるように、「ナメたものがあがってきた」っていうのは、先輩としてちょっと、放っておいちゃいけない事態なんじゃないかな。
何のために時として部下や後輩に注意を与えたりするかって言うと、それはひとえに、その職場とかチームの「クオリティ・コントロール」のため、じゃないですか。 その集団に託されている仕事なり課題に、求められているある一定の質を保つために、知識や技術が不十分な構成員がいたら、比較的経験豊富な者が指導して補う必要がある、ってことじゃんよ。
つまり、後輩の仕事に何か不足が生じているのを知りながら放置しておくっていうのは、立派に、先輩であるりっちーさん側の落ち度でもあるってことですよ!
だって、もし僕がりっちーさんの上役で、りっちーさんの後輩があげてきた「ナメた」代物がそのまま通されてるのを発見したら、まず、りっちーさんを叱責しますよ。 「こんなの、何でオッケーになっちゃってるんだ?」「お前がチェックしないでどうすんの?」って。 未熟者が未熟なことをやらかすのはある意味当然だけど、それを正すべき立場の人間がその義務を放棄してたとしたら、そっちの責任のほうがはるかに重いって僕は思いますから。
万が一、その後輩のナメた仕事ぶりがまんま世に出ちゃったりしたら、今度はその集団全体の信用に関わる問題になってくるんだからさ。
だから、「悪く思われたら」「辞められちゃったら」なんて低レベルな心配してる場合じゃないんですよ本当は!
で、ですね。 相談文を読み返しててひとつ気がついたんだけど、「怒る」って言い方がそもそも、あんまり良くないんじゃないか。 だってホント、「怒ってる」わけじゃないじゃん別に! さっきも言ったように、こんなのあくまでクオリティ・コントロールのための「指導」でしかないはずなのに、そこにこんな「感情」を表す言葉をよく考えずに使っちゃうから、話がおかしなことになってきちゃうんじゃないか。
ということで今後は、「こういう場面で“怒る”という日本語は使わないようにしよう」運動、ぜひ広めていきましょう!(笑) りっちーさんも、そもそもの大目的が何なのかと、自分も「別に“怒ってる”わけじゃない」というのを常に意識しつつ後輩に接するようにしていけば、いずれ自然と、必要なことがあれば適度なテンションで伝えればいい、という見切りがつくようになっていくんじゃないですかね~。
こばなみ:
たしかに私も「怒る」って言ってしまいがちです。反省! 目的はそこじゃないと考えると、普通に言えばいいだけかもしれませんね。
女子部員からもこんな意見がありましたよ。
これは後輩側の意見ですね。また、先輩側からは、
参考になれば!
宇多丸:
前から僕は主張してるんだけど、たとえ言ってること自体は正しくとも、その場全体の空気を必要以上に悪くしてまで誰かを叱責したりとか、まして感情的になるなんてのは、それこそクオリティ・コントロールという大目的から見て、やはり明らかにマイナスなんだから、厳に戒められるべきことだと思うんです。
ただし、たとえば「“指導”を受けても骨身に染みて反省していないため、その程度の課題をクリアする能力はあるはずなのに、それを十分に発揮しようという気概が見られない」みたいなヤツには、もう少し心理的負荷をかけないと進歩が見込めないような段階というのが、たしかにあったりもするのかもしれない。 そういう場合は、「指導」からさらに一段、攻撃性を増したモードになる必要があると。
それでも、「怒る」というのはどう考えてもおかしな言葉のチョイスだから……、「叱る」はまだマシなんだけど、「しつけ」という要素を含む、つまり、「普通に口で言ってもわからないから」というニュアンスが入るぶん、けっこう最終段階なワードかもしれない。 その意味で、「指導」の次はやっぱり、「注意」じゃないですか? で、それでも効き目がないヤツは、満を持して「叱る」。
こばなみ:
そうですね! たしかに最後は「叱る」だ。
宇多丸:
ということで、これはマジでためになりそうなんで改めてまとめておくと、上司や先輩として部下や後輩になにか言わなければならなくなったとき、以下の3段階を言葉上でも意識しておくと、無用のトラブルが減る……かもしれません。
1. 指導する
2 .注意する
3. 叱る
で、ここまで行ってもなお、聞く耳持たないようなヤツは……、「怒る」効果なんかもちろんありませんから、4段階目はずばり、
4. 見放す
これに尽きるんじゃないですかね……。 どうせ出来ない/やらないのがわかってるから、重要な案件は絶対に回さないようにするとか、適当にリスクを分散しておいて、いつでも比較的楽にバックアップできるようハナから手を回しておくとか、とにかく、結果として大きな不利益が生じなければそれで良し、と割り切ってさしあたっては接していくしかないっていう。
こばなみ:
指導する側もされる側も見放すまでは行きたくないですね……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年9月19日に公開したものを再編集し、掲載しています。