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気遣いができません。飲み会で空いているグラスを見つけてさっと動いたりできず、落ち込みます……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室437】


✳️今週のお悩み✳️
気遣いができない、気づくのが遅いことに悩んでいます。それをどうやったらできるようになるか? どうしたら、もっと早くまわりの状況や異変に気づき、気をつかえるようになるのか?
たとえば単純なことですが、飲み会で空いているグラスを見つけたらさっとお酒を注ぐ、飲み物がもうない人に気づいて注文をとる、そういったことが遅いのです。周囲を見張っていよう、と意識し続けると疲れてしまい、ふと気を抜いたときには他の方がドリンクを注文している……、そしてまた気遣いができなかった、と落ち込むサイクルです。気の利かない人、とカテゴライズされるのも嫌なのですが、現状はかなり気が利かないほうだと思います。
(こまきち・36歳・会社員・東京都)


こういうの、こばなみはどうですか?


私はこれ、ぜんぜんできない感じです。さっと行動できないっていうか。あと、そもそもガンガン飲んじゃってるし、誰かのグラスが空いてるとかは、気づかないことも多い。


でもさぁ、まずそんな、他人の空いてるグラスにいち早く気づく能力とか、飲み屋で働いてるんならともかく、普通に生きてくなかで、がんばってまで発達させるべきようなものなんですかね?


「飲み物ある? 同じのでいい?」とかって聞いてくれて頼んでくれたりするのは、ありがとう~!と思いますけどね。


ただ、仮にそれで嬉しく思うことがあったとしても、だからってやっぱり、そうしなかったら悪い、ってことではないはずだよね。

僕は正直、それぞれ自分のものは自分で頼めばいいじゃん派ですけどね。

たとえば料理の取り分けとかもさ、お気持ちありがとうとは思うけども、「いや、そんなに食べる気もなかったんだけど」とか、「これそんなに好きじゃないんたけどなぁ」みたいなときもあって、ぶっちゃけプラス面ばかりとも言えないないと思うんですよ。

酒だってさ、昔みたいに一律ビールってわけじゃなくて、みんなバラバラじゃん? ノンアルの人も増えたし。
要は、何がその人にとっていいことなのかが、けっこう違うってことがわかってきた。

むしろ、その違いに意識を向けるっていうほうが、なんかしら有意義な気の使い方なんじゃないかな、って気もしますけど。

それに、相談文の流れ上いまは飲み会に特化した「気が利く」話になってるけど、個人的にはそんなことよりも、街なかや電車のなかで、みんな明らかに以前よりは周囲に注意を払わなくなっている、それこそ「気が利かない」状態になりがちだってことのほうが、よほど問題ある傾向だろと思うんですけどね。

みなさんおわかりの通り、要は四六時中スマホに夢中だからなわけですけど。


宇多丸さんがたびたびこの連載でも言ってるけど、たまに冷静に車内を見回してみると、本当にみんながみんなスマホを見ていますよね。

自分ももちろん見ているんだけど。たまに文庫本とかひろげて読んでる人がいると、たしかに素敵に見える。


いや、言うまでもなく、スマホを見てることそのものが悪いわけじゃないんですけどね。
こばなみ同様僕だって当然見てるし。

ただ、たとえば周囲との距離感が、手のなかの電子機器に気を取られてて、なおかつイヤフォンやヘッドフォンとかまでしてたりすると、どうしても鈍感になってくるものだからさ。

実際電車とかでも、ほかにいくらでもスペースが空いてるのに、元からいた人のマジですぐ目の前に、スマホに目を落としたまま事実上背中で圧迫するような感じで突っ立って、すっごく迷惑なのになんにも気づいてないような人って、ホント多いのよ!

あとはもちろん、どう見たってしんどそうなお年寄りとかが目の前に立っているのに、いまや少なからぬ方々が意識的にせよ無意識的にせよ視界に他者を入れないようにしてるから、座ってるやつら全員まったく気にする気配すらなし、みたいなこと、明らかに増えましたよ、ここ十年で。

たまーに席を譲ってる若い人とか見ると、心底ホッとして泣きそうになっちゃうくらい。

とにかく、そういう類の気の利かなさにくらべたら、べつに飲み会のことなんかどうでもいいよ!って気が、僕はやっぱりしちゃいますけどね。

まぁ、先輩やら上司やらの世話を率先して焼いて回るべし、というようなイズムが支配している集団というのも、世の中にはまだまだ根強いというのが現実でもあるのかもしれませんが……。

それでもやはり、少なくとも現在の良識に照らせば、それが暗に求められるような場というのはよろしくない、というふうに社会全般なってきているのはたしかだし。

ましてそれが、もっぱら女の人がお酌して回る風習、みたいなことなのだとしたら、いよいよはっきりアウトな話にもなってくるわけで。

なので、こまきちさんが今さらその方向で努力しなきゃいけないんじゃないかと思ってしまうような雰囲気がもし職場などにあるようなら、それはそっちが時代錯誤的だってことなので、順応できてないことを引け目に感じたりする必要はまったくないと、僕ら的には言いたいですけどね。

だいたい、さっきこばなみも言ってたけど、そもそもグラスが空いてる本人が気がついてない、ってことなんだからさ。

その時点でもうたいした問題じゃないのは明らかだし……、たとえばおしゃべりに夢中で、というのが理由だったとして、わざわざその会話を止めてまで第三者が酒を注ぎ足さなきゃならない理由って、何? 

むしろ、盛り上がってる最中に邪魔すんなよ、って面も出てきうるでしょ。実際僕、そう感じる瞬間もありますよ。

ま、お酌しあうにしても、最初の乾杯用の一杯だけにしときましょうよ、というのが昨今のスタンダードじゃないかなぁ。
少なくともライムスのツアー打ち上げとかはそのシステムですね。

協力してひと仕事終えた互いの労を労う、という意味で、お酌という形式自体の意味がまったくないわけでもないと思うので、僕らはそうしてますけど。

あとさ、そういうのに早く気づく人って、要はてめえが飲みたいから、ってところも大きいんじゃない? 
僕がまさにそうだからわかるんだけど(笑)。


たしかに(笑)。


瓶ビールとかさ、さっさと空にして次のを頼みたいのよ、誰よりも自分が!

だから、空き気味のグラスを見つけてはどんどん注いでっちゃってるだけで……、つまり実は相手のペースとかお構いなしだから、意外と「あ、僕はまだいいです」とか「そろそろハイボールにするからいらない」とか、断られることも多いんですよね。

で、おそらくこまきちさんは、そこまで飲んべえではないんじゃないかな。
それゆえ、グラスが空くペースみたいのも、うまくつかめないという。

でも、そんなのはねぇ、よく飲む連中同士にまかしとけばいいんですよ!

まぁ、あえて言うならば……、「気が利く/気が利かない」を分けるポイントみたいなものがあるとしたら、状況に対して常に俯瞰的/複眼的な視点を常に持つよう心がけておく、みたいなのは、一応あるかもしれないですけどね。

その場にいるほかの人がいまどう感じているか、何を考えているかを、常時気にかけている感じというか。
そのぶんたしかに、常に気が休まらない状態ではあるんだけど。

そしてそれはたしかに、僕の仕事で言えば、番組やライブの進行などにはある程度必要な心構えではあるだろうし、もっと話を広げるならば、さっき言ったような人との距離感など、周囲の環境に対する鋭敏度、みたいなところにもつながってくる話かもしれない。

飲み会なんかは勝手に集まってやってることなんだから比較的どうでもいいんだけど、異なる利害や事情を抱えた他者同士がひしめき合いつつなんとか折り合いをつけてゆくしかない、公的、社会的な空間に足を踏み入れているときには、やはりみんな、ある程度意識的にその神経を働かせたほうがいいんじゃないか、というよりそれがマナーというものじゃないのか、公共性というものに責任がある大人ならば……というのが、少なくとも僕の考えではありますね。

たとえば、前も言ったけどさ、昼どきのメシ屋とかで、入口に行列ができて入店を断られてる人まで続々出てきている感じなのに、すっかり食べ終わってるヤツが空の皿を前にのんびりスマホいじってやがるとか、クッソ忙しそうな店員さんに平然と「お会計別々で」って言い放つとか、状況がホントに見えてないんだろうな、ほかの人がどうとかまるで考えてないんだろうな、と思う。

そんな言わば「社会的に必要な気遣い」、こばなみは何か思いつきます?


今回の相談のテーマからはかなりかけ離れてしまうけど、やっぱり「挨拶」ですかねぇ。気持ち良く挨拶ができているかどうか。


たしかに、それはわかりやすい話かもですね。

挨拶って要は、まさに「異なる利害や事情を抱えた他者同士」が顔を合わせたときに、まず何より先に、互いに「敵意がない」ことを示し合い、少なくともこの場では友好的に協力してゆきましょう、という合意を確認するための、儀式でありエチケットなんですよね。

職場であれば、「みなさんそれぞれに大変なものを抱えているかもしれませんが、とりあえず今日この場ではいったんそれを横に置き、お互いにこやかに気持ちよく仕事しましょうね!」という意志を、挨拶などのかたちで具体的な態度にあらわすべき、それが社会人としてのマナーだろ、というようなことですよね。


そうです! そうです!!


人間というのは、ちょっとした態度のすれ違いだけで疑心暗鬼に陥ってしまいがちな生き物だから、お互いそうさせないための義務が、社会的動物としてあるんじゃないですか、っていう。

その意味でだからやっぱり、前に議題になりましたが、「機嫌が悪い」とかホントにダメだし。


今時だと、オンラインで会うこともあると思うんですけど、ずっとミュートとかね。最初と最後くらい挨拶を交わしたいよねってのはある。


僕は僕で好きにやりますっていう、まさにそうした個人個人の違いを尊重し合うためにこそ必要な、最低限の平和協定のようなもの、と考えるといいかもしれないですね、挨拶って。

よく社訓とかで、「元気よく挨拶する」みたいなのが書いてあること、あるじゃない?

前から僕は、「こんな小学生が言われるようなことをわざわざでかく紙に書いて職場に貼らなきゃならないって、どういうこと?」って正直思ってたんだけど、あれはやっぱり、ルール化しないとやらない人が意外と多い、ということなんでしょうね。

もっとわかりやすい例を挙げるなら、道で人と軽くぶつかったりしたときに、まぁまともな人なら基本、まずはお互い「すみません!」って言うものじゃないですか。

あれって、字義通り「自分の非を認める」というよりは、「お互い、このくらいは問題ないということで済ませて、いいですよね?」っていう、要はやはり「敵意はない」ことの合意確認、的な意味合いが強いわけでしょ。

片側だけでもその譲歩を怠ったら……、喧嘩が起こるんだよ!
俺は礼儀として謝ったけど、何か文句あります?ってことになってっちゃう。

挨拶も同じで、おはようございます!って明るく言ってきた人に対して、同程度のテンションで返事をしようという努力のあとすら見えないようだとしたら、その時点でもう先方には、「え、何か文句でも?」と思われても仕方がない態度、ということになっちゃうわけですよ。

事程左様に、最低限の礼儀をオフにすると、人の世には途端に、バッドバイブスが充満し始めるわけで……、どんな場所、どんな人間関係にも、それは簡単に起こる。

そこで場の空気が険悪になってしまうことに無頓着な人とかこそ、はっきり害がある「気が遣えない」人だと僕は思いますけどね。

逆に言えば、そういう最低限の「社会的な気遣い合い」さえできているなら、ほかのことはわりとどうでもいいんじゃないですかね。


こまきちさんのお悩みをきっかけに、気遣いというものについて、改めて考えさせられましたね。


まぁ、現実にはそこすら怪しい人のが多いくらいかもしれないし、そう言ってる僕ら自身も、場合によってはぜんぜん、悪い意味での気遣えなさを発揮しちゃってることは、たぶん絶対にあるはずで。

なので、仮に誰かの言動に「あれ?」と思うことがあったとしても、さっきの例みたいにいきなりこっちも喧嘩腰になったりはできればせずに、あくまで「それでも自分は粛々と礼節を守ってゆきます」というのを、貫けばいいんだと思いますよ。

そうしないと、やたらイライラするばかりで、結果「バッドなバイブス振りまいてるのはお前だよ!」ってことになりかねなくて、本末転倒ですから。

礼儀やマナーやエチケットといった「社会的気遣い」は、何か見返りを求めてやるもんじゃなくて、それ自体に価値があるんだ、というふうに考えておきましょうよ。

ということで今回は、相談の内容からはちょっと広がりすぎてしまったかもしれませんが……。

とりあえずこまきちさんは、「自分の気の利かなさ」に真面目に思い悩んでしまうくらい、実は最初から、物事に対してじゅうぶん以上に敏感な感覚をお持ちの方だと思うんで。

ホントに鈍感なヤツは、そもそもそんなこと気にもしないよ!

だから、少なくとも今回真に問題にしたような種類の「気遣い」に関しては、きっと最初からまったく問題ないんだろうと、僕には感じられますよ。

そんなに自己卑下しないでも、たぶん大丈夫!


こまきちさん、なんだかんだ大きな問題提起となっていき、今回はいろいろ考えさせられました。ありがとうございました。

私たち一人ひとりが、まわりにいる人をいったん見ることを忘れないだけでも、だいぶ世の中、良くなるように思いました。自戒の念を込めて!




【今週のお絵描き】

画・宇多丸




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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。




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