カルチャーやバリューは、「ここは一緒」の拠り所。社員の多様化からイノベーションを生むための人事戦略とは
2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。
今回は
家計簿アプリや会計ソフトをはじめとした
ウェブ系金融サービスを提供する
マネーフォワード株式会社さん
(以下、マネーフォワード)におじゃまして、
人事を担当するPeople Forward本部 本部長
石原 千亜希さんにお話を伺いました。
国内外からエンジニアを募集し、2024年度を目処にエンジニアの組織で英語の公用化を目指すなど、画期的な取り組みが注目されているマネーフォワード。
従業員数約2,000人の企業へと急成長し、社員が多様化するなかで、企業のミッション、ビジョン、バリューに加え、カルチャーの浸透が重要だったといいます。さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが活躍するためにどんな工夫や取り組みをしているのか、石原さんに伺いました。
<History>
「英語の公用語化で、採用マーケットを海外にも広げるとともに、多様なメンバーで継続的なイノベーションを」
——石原さんは、People Forward本部の本部長ということですが、まずは現在のお仕事内容について教えてください。
入社した2016年当時は、社員数は200人ほど。私は、会計士の資格を持っているので、最初は経営企画部に所属しました。その後、人事に主務を移し、経営企画 で得たビジネスや組織の理解を組織開発に生かしマネジメントをしています。
People Forward本部は、採用、労務、人材育成など人事全般を統括する部署となります。人事=人の管理というイメージがありますが、私たちは、人が成長して活躍することを応援する、という意味でこの名前をつけました。
——2024年度中を目処に、エンジニア組織で 英語を公用語化することを発表されましたね。
マネーフォワードでは、今、新規/既存サービスともに業績が伸びていて、エンジニアの確保が重要なのですが、採用難易度が年々上がっている状態です。
そのようななかで、母語の違いという制約を取り払い、優秀で同じ思いを持つ方にジョインしていただくことで、マネーフォワードのミッションビジョンをより早く実現できると考えました。日本語不問の採用を始めたことで、世界中から応募頂けるようになり、素晴らしいメンバーの採用につながっています。
——採用マーケットが「世界」になるということですね。DE&Iという観点では、どのような期待がありますか?
そうですね。多様な人がいる方が、多様なアイデアが生まれやすくなるはず。会社としての継続的なイノベーションにつながっていくと期待しています。
「言葉の壁だけでなく、文化の壁を超えていく取り組みも実施しています」
——日本人メンバーは、どのようにこの変化を捉えているのでしょう?
エンジニアに占める Non-Japanese メンバー(日本語を母語としないメンバー)の比率は、38%(2022年11 月末日時点)と、かなり増えてきていますが、日本語を母語とするメンバー もこの変化をポジティブに受け止めている方が多いですね。 英語ができると、キャリアの可能性も広がりますし、業務の一環として英語を勉強する研修にも積極的に取り組んでいる方が多い印象です。将来的にはエンジニア全員がTOEIC700点以上となることをめざしています。
——コミュニケーションを英語に切り替えるにあたり、どんな工夫をされましたか?
まずは、Non-Japanese メンバーを集め、基本的に業務で英語だけを使う『グローバルチーム』を1つ作りました。そこで英語でコミュニケーションを取りながら 開発する成功体験をつくってから、チームに所属していたメンバーを他部署に配属。部署ごとの特性に応じてタイムラインを設定し、徐々に英語化を推進しています。
また、言語だけでなく、文化の壁もあるので、メンバー全員に向けて「異文化コミュニケーション研修」をeラーニングで行っています。
ほかには、Non-Japanese メンバーに、有志のメンバーが、週1回日本語の勉強などのサポートを行う「TERAKOYA 」という制度や、和服で出かけるイベントなどを実施したり、無意識バイアスワークショップなどで多様性についての意識のすり合わせも行ったりしています。
「カルチャーやバリューの共有が、多様化する組織の「ここは一緒」の拠り所に」
——御社は企業文化(Culture)を非常に大切にされていると伺いました。
はい、当社はCultureやValueを非常に重視しています。たとえば全社の朝会でも、経営陣から頻繁に発信がありますし、メンバーも業務を進める際に、考えをCultureとからめて語るなど、かなり浸透しています。
マネーフォワードでは“同じ組織で働くメンバー 同士で大切にしたい価値観”として5つのCultureを、また、社会に対するコミットメントとして3つのValueを定めています。
会社の成長とともに、いろいろな価値観を持った人が入社して組織が多様化するなかで、ここだけはぶらさない、というものがないと、カオスになってしまいます。 違ったバックグラウンドや考えを持ったメンバーが、共に一つの目標を目指すにあたって、「ここが一緒」と、お互いにつながりを感じるための共通言語がCulture やValueだと思っています。
——CultureもValueも、とてもシンプルなキーワードですね。
あえてシンプルな言葉にすることで解釈の余地を残しています。
特に「Teamwork」や「Respect」を掲げているところが、マネーフォワードらしさだと思います。たとえば、私もそうですが、「子育て中で18時からは打合せができない」という場合も、みんながそれを尊重してくれるし、チームの仲間が助けてくれます。ライフスタイルを含めてお互いをRespectする、という視点が、DE&Iにつながっていると感じますね。
「マネーフォワードの産休育休は実際どうなの? 温度感が伝わるガイドブックになるよう意識しました」
——「産休育休ガイドブック」を拝見し、マネーフォワードのカルチャーを感じました。社員の皆さんがたくさん登場していましたね。
そこはすごく意識したことです。制度自体は社内ポータルなどでも解説していますが、「マネーフォワードの産休育休は、実際どうなの?」という、温度感はわかりづらいもの。それも含めて伝わるようなガイドブックになるよう意識しました。実際に妊娠・出産したメンバーだけでなく、そのメンバーをマネジメントする立場のメンバーにも登場してもらい、さまざまな視点からの等身大の声を通じて伝えています。
当社は、育休産休に関してすごくユニークな制度を整備しているわけではないのですが、他社に比べて男性の育休取得が進んでいると思います。制度はあっても産休育休が取りづらい雰囲気の会社もあると聞きますので、制度を整えることだけでなく 、心地よい環境で働けるような社内文化も大切だと考えているのです。
——ガイドブックの反響はいかがでしたか。
社内だけでなく社外からも大きな反響をいただきました。社内からは、男女問わず「ありがたい」という声をいただきました。男性からも「パートナーが妊娠して、何をしたらいいかわからなかったけど、ガイドブックを読んでわかった」という声がありうれしかったです。
将来的に産休育休を取得するかもしれないという方も、「この会社なら妊娠・出産してもキャリアを築いていけるかもしれない」と感じてもらえたようですし、採用候補者に対しても、会社のスタンスを伝えやすくなりました。
「活躍する女性のリアルな声を発信し、メンバーのチャレンジを後押ししています」
——一般的に、女性は管理職などのリーダー層になりたい人が少ないという調査データもあります。リーダー層に向けての取り組みについても教えてください。
次世代の経営を担うリーダーを育成するための「リーダーシップフォワードプロブラム」があり、性別を問わず参加できるものにしています。マネーフォワードで働く方はチャレンジ精神旺盛な方が多いですが、男女で比べてみると、女性の方が高いポジションに対して尻込みをしがちな傾向が見られます。
そこで、たとえば、今後リーダー層にチャレンジしてほしい女性には、上司が個別に声をかけたり、プログラム募集のアナウンスに、過去に参加した女性の声をちゃんと目立つように配置したりして、「自分もできるかも」と思ってもらえるよう、 工夫をしています。
よく言われる「女性が管理職をやりたがらない」状況 は、女性管理職の働き方のイメージが沸かないことも一因だと思います。裁量が大きいと働く楽しみも増えるし、最初は自信がなくてもやってみたら意外とできたりしますよね。でも周りにそういうふうに活躍している人がいないと、イメージが沸かずポジティブな側面が見えにくいのだと思います。
だから、今まさにリーダーとして仕事をしている人の、リアルな声を発信することが大事なんです。『女性活躍』と声高に発信するのではなく 、noteなどの記事のなかで、マネーフォワードで活躍している女性をありのままに継続的に取り上げることで、メンバーの背中を押すことができれば、と思っています 。
人事施策では、多様性を大事にしているので、男性だけ、女性だけという枠で考えることは意識的にしていません。人事にも女性だけのチームがありますが、逆にそれでは偏りすぎてしまい、全員に全然響かない施策になっている可能性もあります。なので、他のチームのメンバーにも意見を聞いたりする。さまざまな視点を取り入れることを意識的にしています。
「属性に関わらず、誰もがポテンシャルを発揮できる環境を整備していきたい」
——DE&Iの視点では、女性だけでなく、もっと広い意味の多様性が求められます。一方で、組織のなかを見ると、まだまだジェンダーギャップは大きな課題です。今現在、DE&Iにおいてどんな課題感を持っていますか?
直近で取り組みたいのは前述の組織のグローバル化に加え、意思決定層における女性比率の改善です。当社グループの正社員のうち、女性の比率は35%ですが、管理職における女性比率は19%です※。
※コーポレートガバナンス(2023年2月24日)より
これまではヒアリングベースで課題を見つけて取り組んできたのですが、社員数も増えてきたので、今後はデータをもとに課題を可視化して、PDCAをまわしていきたいです。
たとえば、評価や昇格について。人は誰しも無意識バイアスを持っており、自分と似た属性の方を評価しやすい傾向にあります。そういった無意識バイアスを客観的な数字で見える化し、対策を打っていきたいと考えています。
——組織内のジェンダーギャップについては、いろいろな要素がからんでいます。石原さんは、ただ制度を用意するだけでなく、裏側でいろいろな策略を立て、コツコツと一歩ずつ変えていこうとされていますね。
そうですね。複雑なトピックであるがゆえに、何か一つの施策で大きく変えることは難しいので、地道にひとつひとつ対応していくことが大事だと考えています。一方で、風向きを変えるにはすごく象徴的なニュースがあるのも効果的だと思っていて。たとえば、マネーフォワードでは、創業メンバーである執行役員の瀧(男性)が、お子さんが生まれたタイミングで1ヵ月の休みを取りました。「執行役員が休めるなら自分も休める」と思った人は多かったでしょうし、私も夫が育休をとるかどうかの会話のきっかけにすることができました。こういった象徴的なできごとがあれば、コミュニケーションが早いですよね。
——今されている取り組みの先に、どんな未来を思い描いていますか?
難しい質問ですね。今の時点でも、マネーフォワードは働きやすい会社だと感じていますが、「より大きな仕事をやりたいか」という問いに対しては性差が出てしまっています。いろんなライフステージの方がいるので、仕事に全力投球することが難しいときもあるとは思います。でも、本当はできるのに尻込みしているのであれば、本人にとっても会社にとってももったいないですよね。マネーフォワードの人事では、人の成長を促進する「Talent Forward」が大きなテーマなので、皆がポテンシャルを発揮できるような環境を整備し、支援をしていきたいなと考えています。属性に関わらず、より自然体で皆が新しいチャレンジできるような未来が来るといいなと思います。
——私たちF30プロジェクトでは、2030年には「女性活躍推進」という言葉が必要なくなるくらいに当たり前になることをめざしています。そのために必要なことは何だと考えますか?
私個人としては、出産後に新しいチャレンジができていて、仕事は充実していますし、家庭との両立も無理なく楽しくできて います。でも周りの女性たちを見ると、悩んでいる人も多い。その境界線は何かと考えると、仕事というよりは家庭の中でのパートナーとの役割分担や関係性が大きいことに気づきました。
それぞれの家庭の事情もあるので、まったく平等である必要はありません。でも、どちらかに過度な負担がかかるような状況はサステナブルではないなと感じます。
一方で「男性は残業や転勤をいとわず仕事をがんばるべき」という社会的な風潮がまだまだ根強いのではないかと思います。男性の働きやすさは女性の働きやすさにもつながりますので、ここも企業側が主導して変えていかなければいけないですね。
取材後、
お子さんの生まれたタイミングで
1ヵ月の休みを取得した瀧さんに
バッタリお会いし、その話を伺うと
「いえ、たったの1ヵ月しか休めていませんから」
と。
他の企業と比較して進んでいるかどうかではなく、
DE&Iの本質を見つめて、
やるべき事に向けて一歩ずつ、着実に。
前へ進んでいるマネーフォワードさんに
浸透するカルチャーを感じました。
<お話を伺った人>
マネーフォワード株式会社
People Forward本部 本部長
石原 千亜希さん
取材・文:ミノシマ タカコ/撮影:田中 亜玲
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