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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室43】アイドル好きの彼氏に嫉妬……。そんな自分に嫌気がさし、自己嫌悪……。


✳️今週のお悩み✳️
私には付き合って7ヶ月の彼氏がいます。共通の趣味もあって仲が良いのですが、向こうが大のアイドル好きで、それが私のコンプレックスを刺激し辛いです。彼氏が好きなのは華奢で可愛らしい中高生の女の子達。大柄で老け顔の私とは正反対のタイプです。 彼と付き合っているのは私だし、芸能人と自分を比べるなんて不毛だと自分に言い聞かせるのですが、どうしてもアイドルの女の子に嫉妬してしまい、落ち込みます。そんな自分に嫌気がさし、自己嫌悪でさらにどうしようもない気持ちになります。どうしたらこの感情をうまく処理出来ますか? 宇多丸さん、教えて下さい。

(みま・22歳)


宇多丸:
こばなみは、男性アイドルの追っかけやってたとか、そういう時期はないの?

こばなみ:
ヤクルトスワローズの古田敦也ですね。中学生の頃、古田が初めてベスト9に入ったときから高校生いっぱいまでは神宮球場に追っかけに……。ちょうど野村ID野球で、ヤクルトが強かったときです。

宇多丸:
フジツボ、地下鉄に続き、またこばなみの謎の嗜好が……古田!? もともと野球が好きで、選手として応援してたってこと?

こばなみ:
中学高校はソフトボールやっていて、キャッチャーになりたかったんですね。結局、肩が弱くてなれなかったんですが、その頃はグローブにサインをもらって、それをみて毎日がんばる、っていう生活!

宇多丸:
異性としてじゃなくってことだよね?

こばなみ:
結婚したいー!とかじゃなくて、尊敬ですかね。生き方や考え方がリスペクト。それこそ宇多丸さんはアイドル好きだと思いますが、どんな経緯で?

宇多丸:
そもそも僕が中学生の頃、80年代前半くらいまでは、アイドル好き=オタクって感じじゃ別になくて、単純にヒットソングを歌ってるのがアイドルたちだったから、オレは誰それが好みだな~とか、あの歌が好きで~とか、みんなもっとライトに話題にする感じだったんだよ。最近の雰囲気もそれにちょっと近くなってるかもしれないけど。

風向きが変わったのは80年代後半からだよね。ものすごくざっくり言っちゃえば「時代と合わなくなった」ってことだけど、とにかく急激にアイドルというジャンルがマイナー化していった。いわゆる「アイドル冬の時代」の始まりですね。
僕自身、特に岡田有希子が亡くなったあたりから気持ちがさーっと引いてって……90年代いっぱいはむしろアイドル的なものからは距離を置いてたんですよ。あ、安室ちゃんとか、アクターズスクール勢はちょっと好きだったけど。

でも、90年代末にモーニング娘。が出てきて、お、これは面白いじゃんって。
気がついたら夢中になってましたね。

ただこれさ、興味ない人にはなかなかわかってもらえない部分なんだけど、疑似恋愛の対象では全然ないんですよ、少なくとも僕の場合。
どっちかっていうと、さっきのこばなみの古田の追っかけに近くてさ。あくまで「選手」として応援してる、リスペクトしてる、って感じなんだよ。
あと、握手会とかにはまったく行きたくない。本人に認識なんかされたくないっていう、僕はそういうスタンスですね。

こばなみ:
付き合っていた女性に嫉妬されたりとかは?

宇多丸:
まぁ、内心どう思ってたかは知らないけど……、どっちかっていうと一緒に「最近の後藤いいよね」みたいな話はできるムードだったとは思うけど。

だからホント、プロ野球を楽しむのと同じようなもんなんだよ。「今度の新人、すぐ二軍落ちだろ」とか、「継投が上手くいってねぇんだよな~」とか、プレーや采配、果ては経営方針にまでいちいちやいのやいの言うの含めて、ひいきの球団を丸ごと応援してる感じだよ。ハロプロ全体をリーグとすれば、チーム間のトレードや、たまにオールスター戦もあったりさ。そういうのがトータルで面白いの。
その点では、AKB48はまさに、そういう楽しませ方を受け継いで、というかより過激化させて成功した例だよね。

まぁもちろん、そういうんじゃなくて、モロに疑似恋愛的な意味で特定のコが好き、って層も当然まだいっぱいいるしさ。一方では、普通の女の子が同性アイドルのファンだったりするのも、最近は別に珍しいことじゃなくなってたりするでしょ。

だから、ひとくちに「アイドル好き」と言っても、いまどきはずいぶん多様化してるんですよ。そんななかでみまさんの彼氏がどういうスタンスの人なのかは、この文面からは正直わからないんだけども。
みまさん自身は、たとえばジャニーズとかK-POPとか、まぁEXILEまわりでもいいけど、とにかく男性アイドル的な人が、ちょっとでもカッコいいなって思うことはないんですかね? 
もしそうなら、そういうのとリアルに付き合う相手は別物、って感覚は理解できるはずなんだけど……。

こばなみ:
それに、別に彼に何か嫌なことを言われたってわけじゃないんですもんね。

宇多丸:
でも、みまさんの場合は、そういうもろもろの道理も頭ではわかってるつもりなんだけど、それでもどうしても嫉妬してしまう、ってことに悩んでるんだもんね。

まぁ確かに、立場を入れ替えて想像してみても、たとえば、テレビを彼女なり奥さんなりと観てるときにさ、ある俳優さんが出てきた途端、やたらと「かっこいい!」だの「素敵!」だの熱っぽく言われたら、隣にいる現実のブサイクとしては、やっぱりそんなにいい気持ちはしないかもしれない。
だからまぁ、特にどちらかがアイドル好きというわけじゃなくても、普遍的にどのカップルにも起こりうる事態だと思いますよ。

そう言えば僕も、その方向でとんでもなくやらしたことがあったのを、いま思い出しました……。大学生の頃に付き合ってた彼女から、結構後になって言われたことなんですけど。
「私はある時期からなぜか、宮沢りえが大嫌いになっていた」と。で、なんでだろう?って理由をよくよく考えてみたら……、昔、一緒にテレビを観てるときに、僕がこう言ったらしいんですよ。「キミは自分のことをかわいいと思ってるかもしれないけど、いくらかわいいったって、宮沢りえほどじゃないわけだからね」!

こばなみ:
ひどすぎる!!!

宇多丸:
いやいやいやいや、僕が言いたかったのは、キミは「かわいさ」という1点で勝負している女性じゃないのだから、ってことで……、……いやホント、すみません……。

こばなみ:
と、このように、あまりにも言われると、わかっていてもいい気分は絶対しないですからね。

宇多丸:
まぁ、そういうレベルで相手に気を使うっていうのは、パートナーに対する礼儀として最低限守るべき部分ってことだろうけど……。
ちなみにみまさんは、彼との関係を「共通の趣味もあって仲が良い」と書いてますけど、少なくとも「アイドル好き」という彼のまた別の側面に関しては、むしろ激しく「趣味が合わない」わけだよね。

つまり、結構大きな部分で実は彼とはそもそも「合わない」んだ、という現実は直視しておいたほうがいいかもしれない。言い方を変えると、彼の「他者性」をきちんと認識しようよ、ということ。
だってこれ、彼に「アイドル好きをやめる」って言わせれば、すべて解決すると思う?

こばなみ:
しない!

宇多丸:
相手にすごく好きなものを放棄させてまで維持しなきゃいけない関係って……、酷ですよね。

たとえば僕はアイドル好き、厳密には「アイドルソング」好きなんだけど、まぁとにかく若くて可愛い女の子が歌って踊って……が好きなのは事実。
で、パートナーになるような人には、それを同じように好きになってくれとは言わないけど、やっぱり、「そこを含めての自分」を理解して、受け入れてほしいとは思うよね。そのぶんこちら側も、ちゃんと相手が嫌な思いをしないよう気を遣うのは当然としてさ。

こばなみ:
わりと根深い問題かもしれないですね……。彼に「ちょっともぉ~、あんまりアイドル好きだと落ち込むなりよ~!」みたいな軽い感じで言えないんですかね。それで彼から「なーに言ってんだよ、好きなのはオマエだ・け・だ・ぞ!」みたいなレスがあれば、一気に解決しそうなのに。

宇多丸:
そうかもね。ちなみにそういう時は、いつも言ってるけど、くれぐれも「怒って」言わないようにね。それはケンカにしかなりませんから。

こばなみ:
そんなこと心配してかわいいヤツだな~!って思われればいいわけですよね。

宇多丸:
正直に言ってもいいのかもね。「あなたがコンサートとかに行ってるとき、私は正直、寂しい思いをしてるんだ……」って。怒ってるんじゃなくて、本当に落ち込んでるってことを言う。
その上で、「どういうつもりでアイドルが好きなのか」を、彼に一度ちゃんと説明してもらいましょうよ。

現時点ではみまさんの彼氏がどういうスタンスのアイドルファンなのかはわからないけど、もし彼に誠意があるなら、「こういうところがいいんだよ!」というのを、みまさんが傷つかないように、一生懸命話してくれるはず。それこそさっきの僕みたいに、「もうちょっと野球とかに近い感覚で……」とか、誤解を解くための例えをいっぱい出してきたりさ。
そしたらもう、その一生懸命さ自体が、みまさんへの愛情の証明だと思うんだよなぁ。

こばなみ:
それでいきましょう!

宇多丸:
そこで逆ギレ反応しか戻ってこないような人なら、それまでのことだしさ。
自分の好きなものが相手を傷つけていることが判明しても平気って、そんな関係こそ維持する必要なし!

整理すると、アイドル好きっていう趣味も彼の一部なんだから、みまさん側もそれを尊重する努力はやっぱりしたほうがいいし、一方の彼側も、その趣味が図らずも相手を傷つけてきたのは確かなのだから、みまさんに対して改めて敬意を示す責任がある。
要は彼に「現実に好きな女はお前だけだよ! 当たり前だろ!」ってちゃんと言ってもらえば済む話なのかもしれないけどね。

でもこれ、改めて相談文を読み直すと、たぶん大丈夫なケースなんじゃないかと思った。
だって、「彼氏が好きなのは華奢で可愛らしい中高生の女の子達」「大柄で老け顔の私とは正反対のタイプ」ってあるけどさ。

もし、仮に彼が好きなアイドルが、リアルで付き合ってる相手と同じようなタイプだったとしたら……そっちのがヤバくね? そのアイドルが本当に異性として好み、ってだけの話になっちゃうじゃんよ! そういう人は、「同じ方向でもっとかわいいコ」が現実に現れたら、平気でそっちに乗り換えてゆきかねないよ。

でも、みまさんの彼氏はそうじゃなくて、アイドルというエンターテインメント、あくまで一種の虚構の枠内で「好き」なものと、現実世界で「好き」な人の間に、ちゃんと一線が引けているわけでしょう。みまさんが「正反対なタイプ」だからこそ安心なんですよ! 
ということで、僕にとっては他人事ではない相談でございました……。


【今週のお絵描き】
どういうつもりでアイドルが好きなのか?

エンターテインメント? それとも……!?


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年5月10日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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