人に意見をするのが苦手な私。言葉や表情で人の意見を汲み取るのが苦手な彼と、上手くいくのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室395】
✳️今週のお悩み✳️
私が相談したいのは「はっきり言わないとわからない彼と、はっきり伝えるのが苦手な私は上手くいくか」ということです。
私はどちらかというと内向的で、人と会うのは苦になりませんが、一人で部屋にこもる時間も必要です。それに対して彼は外交的なタイプで、建築系の仕事をしていますが「壁のない部屋が良い」、「外と内の仕切りがなく人が集まるスペースも欲しい」といった話をよくしています。
私が「個室や一人の時間が必要」と言うと、理解はしてくれ、会うのは土日のみにしたり連絡頻度を減らしてくれたりしました。しかし、たまに一緒にいるのが疲れたとき「今日は泊まらずに帰ろうかな~」などと勇気を出して言うと、明らかにムスッとします。しかもそんな自分に気づいていないようで「僕は人に合わせるのが上手」と口癖のように言います。
また、彼は自分の友達に私を会わせるのが好きで、よく彼の友達と一緒に行動しています。気の合う人もいますが、例えば彼の女友達(私より10歳上)3人で遊ぶときは気まずく「二人で遊んでくれたらいいのに」と思います。でも彼は「~ちゃんは友達が少ない。君が一緒に遊んでくれて喜んでるよ」などといつも連れて行きます。
先日は彼の知り合いが自宅の庭で映画の上映会をするということで、私はまったく興味のない映画だったので「私は今回は遠慮しようかな」と頑張って言いましたが「友達に紹介したい。でもどうしても嫌なら別に良いよ」と言われ、私は断るのが苦手なタイプなので嫌でしたがつまらない映画を我慢して観ました。
人は違って当たり前なので、なるべく彼に合わせるよう努力しています。彼が悪気がないのもわかります。しかし、一緒にいて疲れてしまうことが増えています。
彼は人の言葉や表情で意見を汲み取るのは苦手なので、私がもっと意見をはっきり言えると良いのですが、私は人に意見するのが最もストレスになり、結局相手に合わせてしまいます。上手くいく方法があるなら知りたいですが、何かアドバイスがあればよろしくお願いします。
(とうふ・28歳・会社員・北海道)
宇多丸:
彼の、「ひたすら外向きな“いい人”感」に疲れちゃうのもよーくわかるけど、対するとうふさんの「人に意見するのが最もストレス」というのも、考えるだになかなか困難なハードルなのはたしかですよね。
誰しもしょせんは他人同士、なんだって基本的には言わなきゃ伝わらないもんだと思うけど、そもそも言いたくないんだ、となると……、最初からすべてを言わずともわかってくれる相手を探すしかないわけで。
当然、そんな人が現実にいるのかという問題もあるけれども……。
こばなみ:
カップルが性格が真逆ってことはよくありますが、とうふさん、なかなか悶々とされていますね……。
宇多丸:
ただ、パートナーシップで大事なのってさ、もちろん合うところは合うとか、互いに歩み寄るとかもあるけども、同時に、それぞれの領域を侵害しない、関係ないところには巻き込まないみたいな、そういう他者同士だからこその尊重し合い、というようなところも、けっこうデカいわけじゃないですか。
たとえば一緒に住むなら、ふたりともパーソナルなスペースをしっかり確保したうえで、共有空間にそれがなし崩しにはみ出したりはしないよう心がける、ルール作りをする、みたいな……、ま、それにしたって、その線引きのコンセンサスだけはやはり、最低でも一度は話し合わないとならないわけだけど。
だから、とうふさんなりの本当の一線というのを、いったん彼にしっかり理解させさえすれば、そこから先はだいぶ楽になるはずなんですよ。たまにどうしても微調整は必要になってくるにしてもね。
とうふさんの場合、その「最初にきっちりわからせる」プロセスをなんとなく回避してるから、いつまでもグズグズと不本意な状態が続くことになっているわけでしょう。
でも、そこでワンアクション起こすことこそが一番の苦痛なんだ、ということだから……、となるともう、彼側に変わってもらう機会自体が作れないわけだから、解決や改善のしようもない。
たぶん彼からすれば、そこまで嫌ならちゃんと言って欲しかった、ってことに尽きると思うけど。
こばなみ:
勇気を出して今日は帰ろうかなって言ってはみたけど、ムスッとされたりしたことで、怖くなったり面倒くさくなってしまって、心を閉ざしてしまったのですかね。
宇多丸:
その気持ちもわかるけど、でもやっぱり、そこでコミュニケーションをすっかりあきらめちゃったらもう、その先がないのも当たり前ではありますよね。
そう考えると、そこで「何? 嫌そうな顔してるじゃん」「してないけど(怒)」みたいに、ケンカというかたちの対話が自然にできるというか、意見の相違をサクッと可視化して対峙し合えるようなカップルは、やっぱかなりマシなのかもしれないですよね。
たとえば、女友達と遊ぶ件も「私、毎回はキツいから今回はバス」とか、上映会も「じゃあ映画が終わったら呼んでよ」とか、ノリはライトでありつつやっぱりきっばり断るような言い方は、本来いくらでもできるはずじゃん?
そこで多少場がピリッとしたとしても、いったんこちらの主張を明確に通しておけば、あっちだって次からは、それなりに覚悟していろんな提案をしてくるようにもなるはずで。
さらに言えば、さっき話したような、「パートナーシップ維持のためにこそ必要な、テリトリー相互不可侵条約」みたいなコンセンサスもしっかり取れてる状態なら、なおベストですけども。
なんにせよ、そういう小さなせめぎ合いの集積から、徐々に二人なりのルールを形成してゆく、という以外に、赤の他人同士が「ちょうどいい」バランスでやってく手立てなんて、なくないかな?
とうふさんはそこの部分を、「言葉や表情で意見を汲み取る」ことで埋める、というのを理想として求めてるわけだけど、それはいくらなんでもちょっと、一方的な話すぎないかなぁという感じが、僕はしてしまいます。
要は「言わずともわかれよ!」イズムでしょう。それってあんまり建設的なことにはならない考え方じゃないかなぁと、僕自身は強く思う。
こばなみ:
この状態、どうしたらいいんでしょう。
宇多丸:
少なくとも、とうふさんがこのままなら、当然彼もこのまま、というだけのことで。
だから、パートナーを「言わずともわかる」人に変えるか、とうふさん自身が変わるか、現状二択しかないですよ。
あ、でも、この手も一応あるか……、「彼と合わないな、と感じていること自体を、考えないようにする」という。
つまり、不満を感じていると自覚しないように、自己暗示をかける……、でもそんなの、楽しいか?
こばなみ:
たしかに何のために付き合ってるのかわからなくなってきますね。
最終的にはそれでも彼のことが好きか、ってことになると思うんですけど、こんな調子だと、好きも減ってしまいそうですよね……。
宇多丸:
しかもこれ、客観的には実は、何も起こってないんだよね。
よくいる「察しろ」派は、本質的に赤ちゃんなのでイライラが外にダダ漏れで(笑)、周囲は閉口しつつ気を遣わせられるわけだけど、とうふさんは「物言わぬ察しろ派」なので、不満があるということ自体、他の人にはわかりようがない。
もちろん、そんなんで済ませてもたいして問題ないような距離感の相手や問題なら、それでもぜんぜんいいんだけど。
どうでもいい職場の人とか、要は単に知り合いレベルなら、必要以上にわかり合うことなんかない、というスタンスも余裕でありだろうし。
でも、仮にもパートナーと呼ばれるような関係同士の二人が、コミュニケーションやコンセンサスをしっかり取らずに上手くやってゆくなんて、そんなのあるかな?
たとえば彼側からしてみれば、これまで二人のためによかれと思ってやってきたことがすべて、ホントは嫌だと思われていた、のみならず言われないからわからなかっただけなのに無神経扱いされている……って、けっこうきっつい話じゃない?
こばなみ:
自分を彼に置き換えると、つ、つらすぎる……泣。
宇多丸:
だから、今の状態をズルズル続けることは、彼にとっても、ただただ残酷な時間を重ねてゆくだけ、になってしまうのかもしれない。
こばなみ:
言えば理解はしてくれて「会うのは土日のみにしたり連絡頻度を減らしてくれたりしました」にはなってるんですもんね。
宇多丸:
そうそう、まるっきり聞く耳を持ってないような人ってわけでもなくて、話せば歩み寄ってくれる余地も普通にあるっぽいもんね。
最初に相談文を読んだときは、まさに「絵に描いたような」彼の社交性に、反射的に反感をおぼえたりも正直しちゃってたんですが(笑)、ごめんなさい! それ自体が悪いわけじゃもちろんないし、とうふさんの不満に気づけてないのは残念だけど、それもちょっと無理からぬところがあったりして、少なくとも単純に悪役扱いしていい対象じゃないかなとは思いますよね。
無論ここから先、たとえば頑張って思いを伝えようとしても、結局やっぱり明らかに彼が不機嫌になって終わってしまうとか、あまり嬉しくない結果が出る可能性も、一応あるわけだけども。
それはあくまで、最低限のコミュニケーションを試みた後の、その次の段階の話だから。
こばなみ:
これからとうふさん、具体的にどうしたらいいんですかね?
宇多丸:
まぁ、ただでさえはっきり物を言うのが苦手ということだから、改めて彼と話し合いのテーブルを設ける、みたいなことは、今となってはちょっと、ホントに実行するにはハードルが高すぎるアクションになっちゃってる感じもしますよね。
要はそれって、さんざん溜め込んじゃったものを後から吐き出そうとしてるから、そこまで大事になっちゃうわけで。
逆に言えば、一個一個その場でサクッと処理してしまうのが、やっぱり一番楽に済むんですよ、結局は。
なので、今後はそちらにできるだけシフトしてゆくよう心がける……というのが、今からできることとしてはやはり、最も現実的なラインなんじゃないですかね。
たとえば、「コミュニケーションにまつわるわずらわしさ、ストレスを最小化するためにこそ、今ここで最低限のコミュニケーションを取っておくんだ」というようなメリット/デメリット計算で、苦手意識をちょっとだけでも克服すること、できませんかね?
それに、そんなのは言い方次第で、いくらでも穏当なニュアンスにできるもんだしさ。
「今日は疲れてるからマジごめん! みなさんによろしく伝えてねー」とかなんとか、日本語には便利な遠回し表現が山ほどありますよ!(笑)
こばなみ:
ふつうにそんなふうに言うことはありますしね。
宇多丸:
だから、こっちの意思を伝えるにしたって、適切なオブラートに包むっていうエチケットさえ守ってればべつに失礼にもなんにもならないし、たぶんそれが結局、一番コストが低い。
さっきも言ったように、そうやっていったん「物言う人」として認識されてしまえば、あとはどんどん楽になってゆくもんでもあるし。
そういうのってつまり、より自分が生きやすい、「快」と感じる部分が多い環境を整えてゆくための、ちょっとした知恵や努力であって、逆にそこを怠っていれば不快要素がポロポロと増してゆく、というのも、考えてみりゃ当たり前の話なんですよね。
そんななかで、今日は彼についていってみてもいいかな、っていう気分のときも、ひょっとしたら出てくるかもしれないし。
なんにせよ、私はコミュニケーションが苦手!って自分自身で決めつけて、心のシャッターを勝手に閉じちゃうと、それ以上何をどうすることもできなくなってしまうのは間違いない。
こばなみ:
なるほど、納得です。たしかに今回のお悩み、1つ1つは大事ではないんですよね。溜めると怖いですね。
宇多丸:
あとは改めて、彼が「話せばわかる」人であることを祈るばかりですね。
いずれにせよ、彼っていう人の本当の人間性が判断できるのも、あくまでそこから先の話、ということですから。
こばなみ:
とうふさん、付き合ってどのくらいかは書いてないからわからないけれども、でも基本はもちろん好きで楽しいから付き合っているのだと思うので、なんとか一歩踏み出して、彼との関係をアップデートできるといいですね。
と同時に、自分もたまに「物言わぬ察しろ派」になっていることはあるし、これ読んでくれている人のなかにもドキッとした方もいるのでは? そこはそれぞれ、その場面場面で気をつけていきましょう!!