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少人数だからこそ、一人ひとりの力を活かせる職場づくりを。いま、小宮商店が進化しつづける理由


2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。

今回は
社員17名の小さな会社でありながら
前向きな取り組みが注目を浴びる
小宮商店にお邪魔しました。

中小企業は大手企業に比べて
働き方改革が進みづらいと
言われていますが、
制度改善ができた理由は、
どこにあるのでしょうか。

<History>

〜小宮商店 社内改革の歩み〜
●2013年 
 伊藤さん、小宮商店に入社。
 男性従業員の高齢化・職人の後継者不在・卸売り主体。
 安価な輸入傘におされ日本製手作り傘は絶滅寸前。

●2014年
 20代女性社員の入社。
 製造卸店一筋だったところから、小売業開始。直営店をオープンする。

●2015年
 小売店売上実績が増大。

●2016年
 女性採用を強化したいが、社内に女性が働き続けるキャリア形成モデルが存在せず、ロールモデルを作りたいと思い立つ。

①伊藤さんが「東京都女性活躍推進人材育成研修」に参加。
 
研修で感銘を受け、社員に向けてその内容を伝える勉強会を行う。 
 併せてアンケートを実施し、社員の意見を募る。
②社員の働き方を次々と改善    
社内動線の見直しや資料や部品等の片付け
・雑談を通して社員の業務時間の使い方を把握し、作業負担を均衡化
・就業規則変更・短時間勤務制度、週4日制、テレワークの導入
・業務の複数担当制の導入
・職人の育成・"職人の勘"を言語化数値化し、マニュアルを作成
・女性職人の誕生

●2020年
 東京都女性活躍推進大賞(産業分野)受賞。

●2021年
 「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」に選出、優秀賞を受賞。


「ライフスタイルの変化で働けなくなる人がいるのは、会社にとっても惜しいこと。だから働きやすい環境づくりに着手しました」


株式会社小宮商店 経営企画室 室長  伊藤 裕子いとう ゆうこさん

——2020年に東京都女性活躍推進大賞(産業分野)を受賞、2021年に「東京ライフ・ワークバランス認定企業」に選定され優秀賞を受賞するなど、中小企業のなかでも働く環境づくりにおいて大きく注目されている御社ですが、そもそも、取り組みを始めた背景やきっかけはなんだったのでしょうか?

私が小宮商店に入社した2013年当時、海外製の安い傘が増えたことで日本の傘産業は厳しい状況に陥っており、小宮商店も例外ではありませんでした。

そんな折に、ちょうど本社の1階のスペースが空いたんです。そこで会社の経営を立て直すために製造と卸売りだけでなく、ショールームを開設して小売業と並行することになりました。私が入社して1年ほど経ったときでした。その際に百貨店での勤務経験がある20代の女性社員を採用して直営店を開店したのですが、店内のレイアウトや接客にはじまり傘商品の企画まで彼女にお任せしたところ、若年層の女性ファンが増え、売上が増えていきました。


色鮮やかな商品が並ぶ店内。デザインは社員が考案する


傘の柄は取り外し可能で、好みの形を選択できる


今までは男性中心の職場だったため、女性のニーズに応える商品は作れていなかったんですね。そこで、その後も女性の視点を生かして企画・販売を行なった結果、購買層も拡大し、売り上げも伸びまして、会社としても女性スタッフを前向きに採用していこうという動きになりました。

ところが、社内の雰囲気も明るくなって喜んでいたところに、次の課題が見えてきました。やっと採用した女性社員たちが結婚・出産をしたら仕事を続けられないのではないか、せっかくスキルを積んできたのに、辞めてしまうのではないかという不安が、大きくなっていったんです。というのも私自身、昔、祖母の介護で当時勤めていた会社を辞めざるを得ないことがあったから。女性が家庭と仕事を両立させて継続したキャリアを形成できるような会社にしないと、という思いが沸いてきました。

また会社としても、実力もあり一生懸命働いてきてくれた人を手放して再び採用活動を行うのは、コストも時間も余計にかかり経営的に良くないことではないかと思いました。

そこで、女性がライフイベントに左右されず長期的なスパンでキャリアを描けるように働く環境を整えたいと考え、社内改革に乗り出しました。



「アンケートをしてみたところ、性別に関わらず、みんな働きづらさを抱えていることがわかりました」


——社内の制度改革にあたり、どのようなことをしましたか。

まずは自分自身が企業の人材育成について学ばなければいけないと思い、「東京都女性活躍推進人材育成研修」に参加したいと社長に相談し許可をもらいました。そこで女性活躍推進の背景やライフ・ワーク・バランスの重要性について学びました。

男女の役割の先入観と人口の変化など、研修の中身はとても学びが多く、私だけが知っているのはもったいないと思いました。そこで、毎週20分の時間をもらい社内全体の勉強会をしたいと社長にお願いしたんです。研修資料をアレンジしたものと自作のプレゼン資料を使って、何週間かに分けて従業員勉強会を行わせていただきました。


——勉強会に対し、社内の反応はどうでしたか?

勉強会の後、年配の職人さんから「うちの会社は進んでいるね~」と言われたときは本当に嬉しかったです。また、その後に当社のいいと思うところ、改善してほしいところなどを中心にアンケートを取ったのですが、当時在籍していた女性従業員全員が女性専用のトイレがほしいと回答しました。仕事以外に働きづらいと感じている面が一致していることが分かり、その日からトイレを男女別にしましたね。

ところが、女性活躍推進の勉強会を重ねていくと、「女性ばかりを優遇するのはおかしいのではないか」という一部の男性の意見もアンケートから出てきたんです。その後は、女性を優遇した制度を作りたいわけではないことを分かってほしくて、男性社員とも積極的に話をするようにしました。すると、だんだんとその男性の発言の意図も見えてきました。

例えば、男性は特に経済力で周囲からジャッジされる側面がありますが、前提として体力がないと出世してお金を稼ぐことができないケースが多いですよね。女性が抱える働きづらさと単純に比較できるものではないですが、男女それぞれ、悩みを抱えていることが分かりました。そこで、女性活躍推進という言葉を多用するのはやめ、男女ともに働きやすい環境づくりをしていこうと伝えるためにも、「ライフ・ワーク・バランス」という言葉を使っていく決意を社内に伝達していきました



「制度改革のコツは、一緒に作業しながら、現場のリアルに耳を傾けること」


——勉強会後は、まずどのようなところから社内環境の見直しをしていったのでしょうか。

現場の状況にコミットしたものでないと、結局長くは続かないと考えました。

小宮商店には洋傘職人、品質管理、販売、ECサイト、管理事務など、小さい会社ながらも複数箇所で仕事が行われているんです。そこで職人の工房や小売り店舗、事務室に足を運んで、会社の現状を具体的に把握することから始めました。

といっても偵察ではなく、一緒に仕事をしながら雑談を通してだいたいの状況を掴む、という感じです。当時は人手が足りない部署が多く、何でも手伝わなきゃという状況でしたので、入り込んで一緒に働いていると問題点が見えてきました。


そのほか不定期ながらもアンケートを継続し、会社のいいところ、不安点や改善点などを社員に記述してもらうようにしました。

アンケート実施後は、必ず社員に向けて結果のフィードバックを行いました。改善できること、できないことを伝え、現場での作業やスタッフとの会話を通して見つけた課題をひとつひとつ掘り下げ、次にすべき行動が具体的にわかるところまで課題の解像度を上げていきました。


——課題の解像度を上げた結果、どのように社内改革を行ないましたか?

就業規則を改正し、育児や介護など家庭の事情に対応できるよう短時間勤務制度を導入しました。そのほか、65歳以降も年金を受給しながら働きたいという声に対応し、週4日正社員勤務制度を選択できるようにしています。

また以前は業務が属人化していたため、その人しか把握していない仕事があり、どうしても業務の偏りが生じていたのですが、その状況を改善するべく、業務の複数担当制を導入しました。1つの業務に対して2番手・3番手の担当者を決め、手が空いた人が、忙しい人をフォローできるようにしたんです。すると、互いをフォローすることで各々のスキルが上がり、結果として賃金アップにもつながりました。

傘の制作現場では、テクニカルアドバイザーを採用しました。"職人の勘"に頼っていた部分を言語化・数値化しマニュアルを作成することで、人材教育を効率化することができました。そのおかげで職人の後継者が増えてきましたね。

上記のように、さまざまな角度から社内を変えていったことで社員の負担が減り、有給取得率が向上しました。2017年度は男性平均38時間/月、女性平均15時間/月だった残業時間も、2019年度はそれぞれ男性平均8.5時間/月、女性平均6.5時間/月まで減少したんです。

また業務の生産性が上がって人材流出が防げた結果、売上は伸び続けています。


——少人数かつ男性中心の職場で制度を大幅に変えていくのは、かなり勇気がいることだったのではと思います。社員の理解を得るために気をつけていた点があれば教えてください。

まずはやはり、上長の理解を得ることだと思います。自分はこれがいいと思っても組織の中で勝手に動くことはできません。取り組みの効果を予測しやすい資料を作り、何度も相談したことで上長の理解を得ることにつながっていきました。

あとは、従業員一人ひとりとしっかり話し、信頼関係を築くことが大切だと思います。

制度改革に具体的に踏み切った2016年当時、私は入社してまだ3年程度でした。だからこそ、ベテラン男性社員の方々とお昼ご飯を一緒に食べ、会話の中から商品の変遷や苦労話などこれまでの会社のことをいろいろ教わる時間は、とても貴重でした。

そうしたたわいもないおしゃべりの中から、会社の事情だけでなく社内一人ひとりの強みや弱みを把握し、より現場にフィットした制度をつくることができたのだと思います。



「中小企業も大企業も、規模の違いはあれどやるべきことは同じかもしれません。それを行動に移すか、移さないか。」


——女性社員9名、男性社員6名(2022年時点)、管理職は3名中2名が女性(2021年時点)となりました。今後、どのような体制を目指していきたいですか。

今後も今までと同じようにひとつひとつ、新たな課題を解決していければと思います。私が入社した当初は10人に満たなかった社員も、今では20人弱に増え、一つだった会社の拠点が現在は複数に分散するなど、会社の規模も少しずつ変化しています。

規模だけでなく社風についても、創業93年の伝統ある古い会社ではあるものの、自分で考えて行動に移せる社員が増え、それをよしとする雰囲気に変わってきているんです。社内の情報共有ツールとしてGoogle Workspaceを導入するなど拠点が分散しても働きやすいようにDX化も進めていますよ。

これからも状況の変化に応じて、柔軟に働き方を見直していきたいですね。


——社内制度を改善したいと思いつつ、なかなか一歩踏み出せない中小企業の担当者の方もたくさんいるかと思います。何かアドバイスがあればお願いします。

大企業と比べて中小企業はできることが少ないと思われがちですが、小さい会社は稟議が早く、スピード感をもって仕事を進めることが強みだと思います。

私は課題が見つかると、最終的な目標を紙に書き、そこから逆算してタイムスケジュールと今やるべきことが何かを考えるようにしています。そうすることで「まず、これをやらなきゃ」など、具体的な行動が見えてくるんです。

最終的には、見えてきたタスクを実行するかしないか。実際にやってみると、頭の中で思っていた結果と違う事が起きて、やってみないとわからないことに出合えます。

2016年に行動して始めた取り組みが、まさかこんなふうに記事に取り上げてもらえる未来は想像もしないことでした(笑)。

ほかには、企業交流会などに参加して、他の企業担当者の方の取り組みを学んでみることも勉強になります。

会社の規模は違えど、小さな会社でも「これなら真似できそう」と思える取り組みも見つかったりします。

また、小規模な会社は社内人事担当が自分だけ、というケースも多いと思います。業務量も負担も多く、その上、働き方改革まで考えるとなると、仕事がパンパンで行き詰まってしまい、投げ出したくなるときだってあります。そんなとき、企業交流会で知り合った同じ立場の方々と情報交換したり、励ましあったりできたことで、私はずいぶんと救われました。そういった横のつながりができたこと、皆さんに支えていただけたこと、社内も含めて周りの方々に恵まれて大変感謝しています。

最近では、傘の部品を作ってくれる会社さんなど仕事でお付き合いのあるところから、採用や後継者不足の件で相談を受けることも増えました。

職人さんやメーカーさんがいなくなってしまったら、私たちの会社だけがいくら売り上げを伸ばしても商売を続けていくことはできません。自社だけでなく業界全体で考えていかなくてはならない課題だと感じています。





静かながら淀みのない
伊藤さんの語り口から、
社員全員が働きやすい会社へ
変えていくことへの
強い熱意を感じました。

小さな会社でも、
やることは大きな企業と同じ。
そう言って具体的に行動を起こしていく
伊藤さんから
大きな勇気とヒントをいただきました。

ありがとうございました!

<お話を伺った人>

株式会社小宮商店
経営企画室 室長
 伊藤 裕子いとう ゆうこさん

大手金融系企業で働いたのち、祖母の介護のために退職。その後、2013年に小宮商店にパート社員として入社する。 現在は、経理、人事、営業部門を統括する社内のマネージャー的立場。



取材・文:齊藤葉 /撮影:鈴木愛子




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