結婚して2年、夫に対して愛情はあるけれど、触れ合いたくない。そんな私は変?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室416】
✳️今週のお悩み✳️
結婚して2年になります。子どもはいない夫婦二人暮らしです。私が思っていることは変なのか、お二人に聞きたくて投稿しました。夫に対して愛情はいっぱいあるのですが、触れ合ったりすることがあんまり好きではなくなってしまいました。むしろ「触れ合いなし」を希望。一緒にいてとても楽しいので、別れたいという気持ちは1ミリもないのですが、触れ合ったりは(それ以上のことももちろん)、したくなくなってしまいました。友達に話すと「結婚2年でそれはおかしい」「本当は好きじゃないのでは?」と言われるのですが、好きではあるのです。なにか原因があったわけではないので、もともとそんなに触れ合うことが好きではないのかも? そんな私はやっぱり変?
(まーさん・38歳・千葉県)
宇多丸:
私は変か?という最終的な質問に対しては、すぐに答えが出せますよ。
変じゃないです! まったく。
「アロマンティック」「アセクシャル」って言葉もだいぶ浸透してきたように、恋愛欲求がない人、性的欲求がない人、そのほか本当にいろんなスタンスの人が実際にはたくさんいるんだ、という社会の認知もだいぶ進みつつある昨今、まーさんくらいのテンションを外野からいきなりおかしいと決めつけたりするほうが、いまやよほどおかしいですよ。
もちろん今後、ダンナさんにまーさんのそのモードをどう伝えてゆくのか、どういう関係性にしてゆけるか、という問題は立ちはだかっているわけだけど、それはまた別件というか、ある意味どんなパートナーシップの持続にも必要な、すり合わせの話だからさ。
なのに、なんでそのお友達は、そこまで一方的にもろもろを決めつけられてしまうのか。
いまどきははっきり失礼の部類だと思いますよ。
「結婚2年でそれはおかしい」って、じゃあ何年ならいいんだよ?って、バカみたいな話になっちゃうしさ。
「本当は好きじゃないのでは?」にいたっては、余計なお世話以外の何ものでもないよ!
自分のなかに「本当に好きならばこうであるべき」みたいなイメージがなんとなくあるんだろうけど、その「べき」思考こそが、いろんな人を生きづらくしてきたんだっつーの!と言いたい。
決めつけ、レッテル貼り、「普通はこうだ」……、それはいつか、それこそ自分自身に跳ね返ってくるものかもしれないのに。
こばなみ:
普通はって多数派のことで、それがイコール正しいっていうようなニュアンスなんなんでしょうけど、やっぱり自分を肯定したいからってことなんですかね。
宇多丸:
まぁそのお友達はおそらく、単純に想像力や知識が足りてないだけ、という気もするけど。
特にこの場合、言われた側が「やっぱり自分がおかしいのかな?」と思い始めてしまってもいるわけじゃん?
つまり、多数派の論理を無神経に押しつけられた少数派が、不安になってそれを内面化してしまうという、なかなかにひどい構図ができあがってしまってるわけで……。
もちろん、例によって「悪気なく」なんでしょうけど。
こばなみ:
無意識に言ってるんですよね、きっと。なんかそういうの、やっぱり多いなぁと感じるし、人を傷つけているっていつまでたっても気づかないのですかね?
宇多丸:
いや、当然人にもよるだろうけど、きっかけ次第でもあるんじゃない?とは思うけど。
要は「なるほど、そういう人もいるのかぁ」と抵抗なく気づけるような体験を、仮に擬似的にであれできればいいわけで……。
マネージャー小山内:
NHKでやっていたドラマ『恋せぬふたり』を観るといいですよ。
高橋一生と岸井ゆきのが出てる、アロマンティック・アセクシャルの人たちの話。あれは認知が進むと思います。
宇多丸:
へぇー!
日本でもそういう作品が増えてきてるのはいいことですよね。
そうやって、自分の生活圏内ではあまり出会えない、気づけないような視点や生き方を知ることができる、というのは、フィクションにせよノンフィクションにせよ、さまざまな創作物に触れるひとつの大きな意義と言えるだろうし、そうこうするうちに知らず知らず意識がアップデートされてゆくっていう、だいたいみんなそういうもんじゃない?
僕だって常に「すみません! ぜんぜんわかってませんでした!」の連続だし……、そんなのはみんなお互い様、でもあるでしょうし。
逆に言えば、「わかってませんでした」が続くうちは成長の余地がある、とも言えるわけで。
むしろ、なんでもかんでも最初からわかったつもりの人こそが、「べき」思考を乱暴に振り回しがちなんじゃない?
その意味では、こういう人生相談企画こそまさに、あらかじめ自分の中にある考えを押しつけてるだけになっちゃってないか、気をつけていかなきゃいけないんですよね。
こばなみ:
先日行われた、宇多丸さんと星野概念さんとのトークショーでも言っていましたよね。
宇多丸:
ということで、ついついそのお友達発言への反論が続いてしまいましたが、とにかく、まーさんがパートナーとの身体接触に関してそういうモードであること自体は、変とかじゃまったくない。
それこそ、さっき小山内さんが教えてくれたドラマを観たりとか本を読んだりして、多種多様な人の在り方というのをまずはまーさん自身が改めて学んでみたりしたうえで、自分の感覚もまたアリなんだ、という確信を深めてゆくことが、実は第一なのかもしれないし。
そのうえでやはり、ダンナさんとはいずれ遠からず、ちゃんと話しあう必要があるのは間違いないですよね。
そこから先どうなるかは、彼の考えもあることなので現時点ではなんとも言えないけど……、まーさん側に愛情は間違いなくあるし、これからも一緒にずっと生きてゆきたいからこそ率直に話してるんだよ、というような、要は真摯な気持ちが伝われば、彼だってきっと、できるだけ落としどころを探ってみようとしてくれる、はず!
さらにその先の話で言うと、僕もあんまり詳しくないけど、夫婦で受けるカウンセリングみたいなのも、あるよね?
言うまでもなくだけど、まーさん側を「矯正」するというような目的ではもちろんなくて、あくまで夫婦両方が納得して心おだやかでいられるようななにかを、フラットでプロフェッショナルな第三者のほうが与えやすかったりもするのかな、と思いまして。
とにかくそういう力をちょっと借りたりするのも、ぜんぜんアリなんじゃないかと。
なんにせよ、いろんな人がいていいように、パートナーシップのかたちもいろいろあっていいわけですから……、これがダンナさんとむしろ理解を深めあういい機会にでもなれば、最高ですよね。
こばなみ:
パートナーシップに限らずですけれども、ここ最近のお悩み相談を通して、「いろいろある」ということがもっと普通になるといいなぁとつくづく思いました。
だからこそ、その第一歩は、自分でも学んでいきつつってことなんですかね。私もふとした瞬間に「べき」思考になってることがあるので、視野や視点を新たにして、気をつけていこうと思いました。
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