私は片付けられない女。自宅にいても全く癒されません……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室50】
✳️今週のお悩み✳️
私は片付けられない女です。全く自宅にいても癒されません。汚い部屋が気にならない訳でもありません。先日、必要に迫られてかなりの物を処分しましたがまだまだ雑多な物が残ってます。貧乏性な性格は変えられないんでしょうか。
(さおち・広島県)
宇多丸:
またまた片付けられない問題、来ましたね。
ただ、そのときにも話したように、僕も完全に同類ですから。相談する相手、間違えてるんじゃないのかな……。
とりあえず、さおちさんの相談文で印象的なのは、「自分だって部屋が汚いことが平気なわけではない、むしろ不快ですらある」っていう心情を明らかにしているところですよね。これこそまさに、僕らタイプの汚部屋魔が抱えている問題なんですよ! 「あそこ片付けなきゃな」とは思ってるのに、何もしない。問題の存在も自覚してるし、その解決法だってわかっているのに、実際に行動するめんどくささのほうが、放置することで当然残ってしまう不快感に勝っちゃってるっていう。 「今そこにある危機」をついつい見て見ぬフリしてしまう体質、それこそが汚部屋的な病み=闇への第一歩なんだよな……。
こばなみ:
私も汚部屋魔ですが、オフィスでは昨年末に机まわりを断捨離しましたよ。ただ、自分だけの意志ではできないので、後輩に「迷ったらゴミ」「使わなきゃゴミ」「思い出の品を捨てても思い出は消 えない」「過去を捨てなくては未来の場所がない」などなど、片付けの格言を読み上げてもらいながら。
かなりキレイになって、気持ちがよかったです。だけどこれ、オフィスだからできたことで、自宅となると、やっぱりちょっと違うかな。
あ、あと、そのときにずいぶん昔に宇多丸さんを取材したエフエム東京のフリーペーパーを発掘して、ついつい読んだら、大笑いしてしまいましたよ。原チャリ免許の試験に落ちた話など(笑)。そうやって、捨てられないものってやっぱりありますからねぇ。
宇多丸:
わかる! いいかげん整理しようと思ってモノの山を片付け始めたら、すっかり忘れてた自分の昔の仕事とか、懐かしい資料とかがちょいちょい出てきてさぁ、つい読み始めたらこれがまた面白くって、いつしか作業の手が完全に止まっちゃう。あげく、やっぱこれは捨てられないよなぁってことになって、結局大して山の分量は減ってないっていうね。
だいたいそういう面白懐かしいモノって、前にも一回、不要品整理の波を生き残っていたりするんだよね。すでに選抜されているメンバーなんだからさ、そりゃ実力はあるに決まってるよ!っていう。なかなか捨てらんないよなぁ、やっぱこういうのは。 そりゃあね、1年に1回は読み返すか?っつったら、確かにそれはまずないですよ。でも、5年に1回でもいいよ、たまに読んだらほぼ確実に楽しませてもらって、あぁ取っといてよかった、とか思ったりするわけでしょ?
こばなみ:
そうそう。
宇多丸:
こばなみに取材されたフリーペーパーなんて、一度捨てちゃったら後から買おうったってそうはいかないモノの典型でもあるしさ。そういうのはもう、良しとしようよ!
ま、これぞまさしくモノを溜め込む人間の典型的思考法ってことですが……。
それより僕の場合、一番の問題は「服」かもしれない。 とにかく困るのがライブTシャツね。 だって、自分たちのワンマンとかだけじゃなく、誰かのライブにゲスト出演したり、大きめのフェスに出たりするたびに、ほぼ必ずと言っていいくらい記念のラ イブTっていうのをもらって帰ることになるわけだからさ。これだけ長く活動してれば、そりゃもうとんでもない量になるわけですよ。
ライムスターのTシャツなんてさ、僕自身は、普段は絶対に着れないわけじゃん! 街中で自分のTシャツ着て歩いてるミュージシャンとかって……、ねぇ?(笑)。 それでいて、無造作に捨てる気にもどうしてもなれないっていう。思い出のフライヤーとかに近い感覚なのかな。 もっと困るのが、ステージ用にオリジナルで作った衣装。そんなもん、たぶん二度と着ることもないのに、かと言って捨てるわけにもいかないじゃん! そのくせ、やたらとかさばるんだよなぁ、ああいうのって。
あとはCDも、やっぱり何かといだだけてしまうことが多いぶん、常に家の収納力をオーバーしている状態ではあるよね。 でも、それこそちょっと前までの日本語ラップとかって、ネットに音源が上がってるわけでもなく、一度捨てたら二度と手に入らないものが多いからさ。やっぱり簡単には捨てられない。 もちろん片っ端からデータ化していくのも手ではあるんだけど……、これは僕の知人が強く主張していたことで、なるほどなぁと思ったのは、要するに現状はみなさん、あくまでなんらかのかたちでデータを「圧縮」して取り込んでいるにすぎないでしょ、と。元の音源そのままのクオリティで保存しても容量的に問題ない時代がまだ来てないのにオリジナルを捨てちゃうのって、実は取り返しのつかないことしてるんですよって。
こばなみ:
本もたくさん積まれているんですよね?
宇多丸:
引っ越した当初は、なんとか本棚に入るぶんに保とうと思ってたんですけどね……、「本タワー」があちこちにできるのはわりと早かった。
僕の場合最悪なのは、買ったのに読んでない本がどっぷりたまってるってこと。それを捨てるわけにいかんだろう、なにせまだ読んでないんだから!
こばなみ:
雑誌なんかは自炊している人もいますけどね。本を裁断してスキャナで取り込んでデジタルデータ化するのを「自炊」っていうんですけど、1冊50円とか100円とかでやってくれる業者もいるんですよ。iPadユーザーでそうしている人、何人かみましたけど、私はやっぱり雑誌は雑誌として重いな~とか 言いながら読みたかったりしますね。だから、なかなか古い雑誌も捨てられていないです。
宇多丸:
僕の自慢の70~80年代『POPEYE』コレクションも、「モノ」として揃ってることに意味があるわけだからね。あの紙質とか込みで時代感だからなぁ。パソコンの画面でいくら眺めても、なんかピンと来ない気がする。
こばなみ:
うちにも『Olive』と『TVBros.』あるけど、捨てられない!
宇多丸:
そういう風に自分のなかでの価値がはっきりしてるものは別に捨てる必要ないんだよ。
そういうんじゃない、自分でも捨てたほうがいいと思ってるようなガラクタが日常生活のスペースを浸食してるのが問題なんだよね。
こばなみ:
生活スペースを侵食してるものだけまずは片付けるとか?
宇多丸:
あのさ、「順位が上の方から捨てる」って話、ここでしたことあったっけ?
以前ラジオでも言ったことがあるんだけど、前に一回がんばって大掃除したときに、Tシャツでもなんでも、捨てるかどうか迷うような境界線上のものは後回しに して、まずははっきり捨てるのが惜しいもの、自分のなかでランクがかなり上のものから、思いきってゴミ袋に入れちゃうんですよ。いきなり神7(かみセブン)から切ってく、みたいな。 そうすると、それより全然ランク的には下の雑魚が残ってるのとか、むしろ腹立たしくなってくるんですよ。さっき言ったような神7級を捨てるのが辛ければ辛いほど、「お前ごときが残れるわけがないだろう! バカか!」ってなって、即決できる範囲が大幅に広がる。
こばなみ:
それ、すごいいい方法ですね! 独自で編み出したんですか?
宇多丸:
そうそう。で、捨てちゃった神7級とかも、なきゃないで別にやっぱりまったく困らないっていうか、特に後悔したりもしないんだなぁってことに気づいたりして。
だからこの方法はホント、おすすめですよ。Tシャツはこれで相当捨てました。
それに、もともと普通にお店で売られてたようなソフト類は、本でもビデオでも、たとえ絶版になってたとしても、ぶっちゃけお金さえ出せばたいていまた手に入るわけじゃん? 今は特にネットもあるし。だから、ホントに必要になったらそのときに買い戻せばいいんだよね。別に。
こばなみ:
たしかにそうですね。
宇多丸:
まぁ、僕の場合は仕事が仕事なんで、資料がすぐ家で見つけられるっていう利点はやっぱり大きいんだけど。
僕んちのビデオコレクション、周りからは「UTAYA」って呼ばれてますけど、結構なんでも揃ってるなぁ!とか自分でも感心することあるし。
ちなみに、前に一人暮らししてたときは、何か必要な本やビデオがあって、それを自分が持ってることも、部屋のどのへんにあるってこともわかっていながら、あまりにうずたかくモノが積まれすぎてて、単純に「取れない」、だから買い直したほうが早い!なんてアホすぎることを年中繰り返してましたよ。 それからするとやっぱり、今は大進歩しましたよね!
とは言え、もっと本気でキレイに暮らすってことを考えるなら、さっきから僕らが話してるような「たまったら捨てる」みたいなサイクルは、実は根本的な解決にはなってないんだけどね。
こばなみ:
「捨てる」も難しいけど「ためないようにする」もできないんですよね。ダ~メだ~!
宇多丸:
僕の友人で一番厳格に部屋をキレイに保ってる人は、「できるだけ、モノを置くことで生じるデコボコを作らないようにする」って言ってましたね。要するに、なんでも必ず収納具にしまう。
そこに入らないような量のモノはそもそも持たないようにする。何かが増えたら、そのぶん何かを捨てる。
確かに人の暮らし方としてものすごく正しいんだろうけど……、まぁなかなか難しいよね。 こばなみだって、後から後から、たとえば仕事の資料とかたまってくるわけでしょ? 片付いたそばから捨ててる?
こばなみ:
データがあるので、紙はたいてい捨てますけど、データはパソコン上に残ってますね。あと、整理下手なので、大切なデータは後輩に送るとか自分のGmailに送るとかして、アナログな手法でクラウド保存(って言っていいのかな?)してますよ。
あ、ちなみにパソコンのデスクトップはすごく汚いです。
宇多丸:
(デスクトップ見ながら)うわ~、なにこれ!
なんで整理しないの? これじゃ仕事に支障をきたすでしょ?
こばなみ:
なんかこのへんは請求書とか、だいたい何がどこにあるかはわかってるので大丈夫です。あとは検索すればみつかるし!
宇多丸:
それ、汚部屋の人がいう言い訳と同じだよ! 検索って手間も余計にかかってるし……、どう考えても能率悪いだろ!
せめて仕事の種類ごとにフォルダにまとめて「整頓」とか、ホントの掃除より全然ラクなのに、なんでしないの?
こばなみ:
あ、でもこれはキレイなほうなんですよ。もっといっぱいになっちゃうと「◯月◯日デスクトップ」っていうフォルダをつくってすべて放り込むんです。ってのを定期的にやってるw。
宇多丸:
僕はフォルダをアイコンにするのが好きで、全部「2001年宇宙の旅」で揃えてますよ。壁紙も。
こばなみ:
あら、楽しそう!
宇多丸:
僕は新しいパソコン買ったら、まずそういう作業をしますけどね。楽しいじゃん。
とにかくこばなみのは、もし僕の部下のデスクトップだったら、「こいつ仕事できねぇな……」って判断しちゃうレベルですね!
だってさ、コンピュータは現実の部屋と違って、ほぼ無制限に収納することができるんだよ? 最悪、とりあえずどんどん見えないところにデータを入れていけばいいわけで、少なくともデスクトップ上はいくらでもキレイにできるじゃん。 あ~ホント、見てるだけでイライラしてくる!
というわけで、さおちさんのデスクトップは大丈夫でしょうか? デスクトップすらキレイにできないヤツが、現実世界の整頓なんてできるわけがない!
【今週のお絵描き】
着られないし、捨てられないし……
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年6月28日に公開したものを再編集し、掲載しています。