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私の料理に「ずっと我慢してたけどひどいときがある」と彼。ショックです……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室120】


✳️今週のお悩み✳️
私の作る料理のことで相談です。彼氏とは大学で知り合い、付き合って1年になります。お互い一人暮らしをしているので、バイトが無かったり、時間に余裕のある方が晩御飯の準備をして家で待つ、ということが日常になっています。最近は私も彼氏も就職活動が無事に終わったので、私は卒業研究に向けてバイトのシフトを減らしたのですが、逆に彼氏の方はシフトを前よりもシフトをたくさん入れるようになりました。当然私が晩御飯を作る機会が多くなるのですが、ある日バイトから帰った彼氏が晩御飯を食べるやいなや「ずっと思ってたんだけど、いつも何を見て料理作ってるの?」とキレ気味に聞いてきました。 料理番組やネットを見て作ってるけど……と答えると、「ちゃんとその通りに作ってる?」と言われました。そこで初めて料理の味に問題があるんだと気づいたので、自炊を始めて3年になるから、だいたいの目分量で作ってるよ、と言うと、「せっかく分量が書いてあるのにその通りにしない意味がわからない。ずっと我慢してたけどたまにひどいときがある」と言われました。その後で、最近バイトが多くて疲れてたから言い過ぎた、と気をつかってくれましたが、ずっと我慢して料理を食べてたんだと思うと申し訳ないですし、自分の味覚音痴具合が恥ずかしいです。付き合いたてのころは「気持ちがあればいいよ」と言ってくれたのにショックです。これからはちゃんと分量を計って作るつもりですが……。宇多丸さん、こばなみさん、相談というか慰めてください……(笑)。
(ゆーみん・22歳・東京都)


宇多丸:
奥さんや彼女が作ってくれたご飯に文句言うとか、僕は絶対しないですけどね。

この彼が付き合い始めに言ってたっていう、「気持ちがあればいいよ」でさえ抵抗あるよ。事実上「おいしくはないけど」って言ってるも同然じゃん! なんか偉そうだし。

こばなみ:
本当ですか~? 実際には、じゃ、食べたものがうっかり「なんじゃこりゃ~!?」みたいな味だった場合は?

宇多丸:
たまに、作った本人がひと口食べて「こりゃ失敗した! 無理して食べないでいいよ!」的なことを繰り返し言ってるようなときは、「まぁ、たしかにちょっとしょっぱいのかな」程度は同調したりもするけど、その後はやっぱり「でも全然おいしいよ!」つって、きれいに平らげますよ。

あ、でも、学生のころ、母親には言ったことあるかも。

「なんでここにニラ入れる? ニラの味しかしねぇよ!」とか「このカレー、水で薄めたろ? シャバシャバしちゃってるよ!」とか文句タレては、「じゃあ食べないでいいわよ! 明日から自分で作んなさい!」って返されるっていう、まぁ、思春期のガキがいる家ならどこでも繰り広げられているであろうやりとりですよ。

それでもちゃんと残さず食べて、ごちそうさまでしたって言うんですけどね、もちろん。

ひとつ言えるのは、日頃から料理してる人ほど、目分量で、文字通り「適当に」あるもの使ってチャチャッと作ろうとする傾向はあるよね。

昔は僕も、人の料理してるとこ見て、「なんでレシピとかちゃんと見ないの?」って、まさにゆーみんさんの彼氏とまったく同じ疑問を抱いたりもしましたけど……、毎日作ってりゃそりゃ、「ま、だいたいこんなもんだろ」って感じにもなってくるだろうし、それでいいんだと思いますよ。

食べる側も、別に店じゃないんだし、ある程度その適当さ込みで、「これはこれ」としておいしくいただくもんでしょ、普通は。

この彼の場合、なまじ自分でも料理はできるから、余計に「もっとこうすればいいのにな」みたいな部分がわかっちゃうのかもしれないですけどね。

それにしても、そこをいちいち指摘してたらそりゃ角も立つし、間違いなく相手を傷つけるよね。それを彼もわかってるからこそ、すぐにフォローを入れたんだとは思いますが。

こばなみ:
女子部員さんからはこんな意見も来ていますよ。

Q. 自分が作った料理についてパートナーに文句を言われたとき、どんな対応をしましたか?

「『もう作らない。感謝してからダメ出ししてよ』と不機嫌なまま過ごした」(ちなマム)

「髪の毛入ってたって言われたときは『生きてるからだよ』って返しておいた」(さくら)

「『一緒に作ろう。好みの味を教えて~』と言うかなぁ。怒ったらケンカになって解決しないので」(モトコ)

私はすごく料理下手でして、茹でる、焼く、生で食べる!くらいしかできないんですが、それにはトラウマがありまして……。

大学生の頃に付き合ってた彼が料理上手だったんですけど、たまたま自分が作らなきゃいけない状況になりまして、野菜を切ってたら後ろから「あー、そうじゃな い」とか「なんでそう切っちゃうかなぁ」とか。で、自信喪失。それがあって今でも人に振る舞うことなんて絶対できない!って思っています、はい。

宇多丸:
要はさ、自分は料理が上手かろうとなんだろうと、パートナーがせっかく作った手料理を、たとえ良かれと思ってであれ「批評」なんかするのは、2人の関係に浅からぬ傷を残す危険があるぞ!っていうことじゃないですか。

やっぱ、食べ物のもめごとって根が深くなるもんだなぁ……。

こばなみ:
あとですね、ネットのレシピ、とくに投稿サイトのって、分量通りに作ってもイマイチなものってありますよね。

クックパッドとかは、有料会員になると人気順でレシピを見ることができるんで、いいらしいですが(友人談)。

宇多丸:
お金出さない人にはそこそこのレシピしか見せない! イヤなシステムだねぇ(笑)。

なんにしたって、料理の腕をある程度上げるってこと自体は、その気があればすぐできることではあるはずだけど。

でも、今回の相談って、実はそこが本質じゃないんじゃないかな。

ゆーみんさんの彼も、別に日頃からそういうことに口うるさい人っていうんじゃ全然なくて、疲れててうっかり言いすぎてしまったって、後から一応は謝ってるわけでしょ。

余裕がなくなると失言しちゃうような人でいいのか、っていう問題もあるけど、僕らを含め、まぁ誰だって、図らずも人を傷つける発言をしてしまうってことは、当然いくらでもあり得るわけで。

で、慌てて詫びて、向こうもその場では許すようなことを言ってくれてたとしても、今回のゆーみんさんのケースのように、実は小さくないわだかまりが残ってしまう場合というのも、やはりどうしてもある。

こんな風に、誰かのひと言が棘のように刺さって、すぐ抜いたつもりでも、一番鋭い部分だけがちょっとだけ皮膚の下に残っちゃってて……みたいなことって、みんな身に覚えがある、すごく普遍的な話だと思うんですよ。

その後も何事もなかったかのように親しく付き合えてはいるんだけど、何かの拍子で、その抜けない小さな棘が疼きだして、自分でもコントロールできないほどモヤモヤしてしまうことがちょいちょいある、みたいな。

ゆーみんさんの悩みは、そことどう折り合いをつけていくべきか、もっと言えば、どうすれば近しい人の失点を「許す」ことができるのかっていう、誰にとってもなかなかに重大な問題を含んでいると思いますよ。

だとすると、無論ここで簡単に答えが出せるようなことでもないんだけど……。

こばなみ:
そういえば!

母との間で半年前くらいにあったことですが、仕事(バイト)が大変だ! 大変だ!って母がそればっかり言ってるときがあって、最初は愚痴とか聞いてたんですけども、あまりにしつこいから「バイトなんだし、そんなに嫌なら辞めればいいじゃん! 代わりなんてたくさんいるよ!!」ってついつい言っちゃったんです。そしたらそれを根に持ってたらしく……。

2カ月後くらいかな、今度は私が「あぁ~、もう(仕事が)大変だ! 大変だ!」って言ってたら、「そんなに大変なら辞めればいいじゃん! 代わりなんてたくさんいるよ!!」ってまんま返されて。

すごい傷つくしムカついたし、そしてこんなにも根に持ってたんだーっ、くーって。

「ごめんね」って言ったら、「そのまま言ってやったわっ」って笑ってましたけど。まぁ、それで仲直りしましたから、結果的には良かったんですけどね。

宇多丸:
こばなみとお母さんは、最終的にはそうやって率直に気持ちをぶつけ合えるような、言ってみれば、奥まで入り込んだ棘をあえてもう一度表面に引っ張り出せるような関係だったからこそ、互いに痛みを共有して、和らげ合うことができたってことだよね。

これ、単に親子という究極の気の置けない仲だから、というだけじゃなくて、こばなみはこばなみで、なんだかんだちゃんと先に謝ってるし、対するお母さんも、 ユーモアで怒りを中和して過度に刺々しくならないようにしてたりして、なにげにお互いに対する気遣いがしっかりあるあたりがポイントなんだと思います。

ゆーみんさんに置き換えるなら、今度は彼が何か料理を作ったときに、「あら、レシピ通りに作ってこれ?」などと皮肉っぽく逆襲しつつ、「こないだのお返しだよ! 実は結構傷ついてたんだからねっ!(笑)」くらいのニュアンスで、こちらの切実な心情をやんわり伝える、みたいな感じかなぁ……、彼が、その途中で一方的に逆ギレしだすような手前勝手野郎じゃないことを祈るばかりですが。

まぁ、そんな回りくどいやりかたじゃなくとも、ゆーみんさんがどうしても気になって仕方ないなら、素直にその気持ちを彼に訴えていいんじゃないか、とは思いますけどね。

その上で、彼から改めて、ゆーみんさんが再び心穏やかになれるような言葉や行動を、誠意をもって示してもらうってことしかないんじゃないかなぁ、つまるところ。

誰だってさ、ある人との関係が長く、深くなっていけばいくほど、当然のように、お互い無傷のままじゃいられなくなっていくわけでしょう。

さっきから言ってるように、爪楊枝の先みたいな、小さな取れない棘が、互いのハートにどうしたってだんだんと増えていく。

こばなみ:
親兄弟、パートナー、友達、仕事相手etc. 付き合いが長くなればなるほど、どんどん刺さっていきますよね。

宇多丸:
一度でも棘が刺さった時点で無理!ってなって、いちいち関係をリセットしちゃってる人もいるんでしょうけど、そうなると、誰とも深くは付き合えないってことになっちゃうもんね。

あるいは逆に、棘をいっさい出さないよう、常にビシーッと気をつけてりゃいいのかっていうと……、それはそれで、ちょっとさびしい話じゃない?

たとえばさ、ゆーみんさんの彼も、バイトで疲れててうっかりキツい言い方しちゃったって、要は「つい甘えちゃった」ってことじゃんよ。

もちろんそんなのは大人として褒められた態度じゃないし、これからも年がら年中そんな調子だったら普通にブッ飛ばしていいと思うけど、ある意味、そういう人間的な弱さをポロリしちゃうところまで、ようやく2人の関係が深まってきた証し、とも考えられるじゃないですか。

私にだから甘えてしまったんだ、私にだけあんな面を見せてしまったんだ、と考えるようにしてみたらどうですかね。

こばなみ:
そう思えると前向きでいいですね。

宇多丸:
一緒に暮らし始めたりなんかしたら、こういう諍いやすれ違い、もっともっと増えていきますからね。

それでもなんとか仲良くやり続けられるかどうかは、結局のところ、「その人のことをちゃんと信じられているか」ってことにかかってるんだと思うんですよね。

つまり、ベースに「少なくとも自分には、悪気があって何かするような人ではない」という絶対的な信頼があるかどうか。

ゆーみんさんのケースだったら、彼の発言に一度は傷ついたとしても、「とはいえ、彼が自分に悪意を持って接することなどあり得ないし、現に彼も慌ててフォローを入れてくれたのだから、あれはやはり、八つ当たり的に文字通り“心にもないこと”を口走ってしまっただけに違いない」と、ゆーみんさんが心から思えるかどうか、ですよね。

そして、その確信がさらに深まるしかないような日々を、彼と重ねてゆけるかどうか……、何度も同じ引用して申し訳ないけど、「愛するということは信じることで、それ以外の方法はない」(映画『カジノ』より)ってことですから。

ということでゆーみんさんも、それこそ「彼を信じて」、料理事件以降どうしても疑心暗鬼になってしまうというご自分の気持ちを、まずはやっぱりきちんと伝える、というところから始めてはいかがでしょうか。

ちゃんとした人なら、きっと嬉しくなるリアクションを返してくれるよ!

それで気持ちがもう少し落ち着いてきたら、今度は、ショックだとか慰めてほしいとかっていう自分側の主張だけじゃなくて、そういう自分は果たして彼のことをちゃんと気遣えていたのか? むしろ、こっちが彼の優しさに気づけず、甘えてしまっていたところはないか?というレベルまで考えが及ぶようになると、さらにベストなんですけどね。

そこまで行ければ、人としても成長できるし、ひょっとしたら彼への愛もさらに深まるかもだし、いずれにしてもこの事件は無駄じゃなかった!と心から思えるようになるはずですよ。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年11月14日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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