クリスマスはシングルベルで憂鬱。楽しい過ごし方、ありませんか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室75】
✳️今週のお悩み✳️
こんにちは。もうすぐクリスマスですが、私にはここ数年、予定がありません。憂鬱です。友達や同僚は家族や恋人がいるので先約済み。そしてなによりもイヤなのが、24日、会社を出る時に、どのタイミングで出ればいいかすごく迷うことです。早すぎてもどうかと思いますし、残ってるのもなんだか……。またあの人、シングルベル!?という目で見られてる気がします。それに気分的にケーキが食べたいのですが1つ買うのもなんですし、ホールじゃでかいし。クリスマスなんて大嫌い! なにか楽しい過ごし方はないでしょうか。ちなみに明石家サンタは毎年楽しみにしています。
(ヨーデル・37歳・東京都)
宇多丸:
「シングルベル」なんて言葉があるんですね……、知らなかったよ!
それはさておき、こういう「クリスマスをひとりで過ごすのはさびしいよね」的なプレッシャーってさ、もうとっくに過去のものだと思ってたんですけど。
一番盛り上がってたのは、やっぱり僕が高校生から大学入りたてくらい、80年代後半ですよね。 『POPEYE』や『ホットドッグ・プレス』みたいな当時のファッション誌も、こぞってそういうイベント感を煽ってたしさ。 イブ当日は彼女をお洒落なレストランに連れてって、高価なプレゼントをあげて、高級ホテルを予約してお泊まりして♡……っていうデートプランが、まるでデフォルトのように掲載されてるわけよ。
ま、実際にはそんなデート、一日でいくらかかるんだよ?って話だし、普通の学生とか働いてる人には当時にしたってまず無理な話だったろうから、実際のところ僕も含めてたいていの人は、雑誌を眺めて「他のみんなはこんなクリスマスを過ごしてるのか……」と悶々とするだけだったんじゃないかと思うんだけどね、いま冷静に考えてみると。 バブル期全般、大半の人にとってはそんなもんだったと思うよ。今の人が想像するようなバブル的な恩恵にあずかれてたのはごく一部の業界の連中だけでさ、ほとんどの一般人にとっては、メディアに躍る景気いいイメージと、自分の現実のギャップに、余計劣等感を募らせるだけの時代だったんじゃないかな~。
ちなみに日本でクリスマス=恋愛決戦日!的なイメージが決定的になったのって、やっぱあれでしょ、JR東海の「クリスマス・エクスプレス」のコマーシャル。山下達郎のご存じ『クリスマス・イブ』とセットでさ。 最初の深津絵里のバージョンが1988年ってことだから、ヨーデルさんが思春期に入る頃にはもう、その刷り込みが完全に出来上がってたわけだよね。
で、なんでそこまでそういう空気が盛り上がったかというと、もちろん今で言うバブル期で消費を煽る意味もあったんだけど、なにより、「80年代はセックスが偉い時代だった」という問題があると僕は思ってる。
こばなみ:
セ!? セックスが偉いってどういうこと?
宇多丸:
さっき言ったような『POPEYE』とか『ホットドッグ・プレス』の古いバックナンバーを僕はコレクションしてるんだけど、特に80年代後半あたりのを読むと、服からお店情報から何から、ホントにすべてが結局、「女の子とヤれるかどうか」に直結してるんだよ。
70年代までは『POPEYE』だってすっごい硬派で奥手だったのに!
さっきのクリスマス用デートプランにしてもさ、一番肝心なのはやっぱり最後の「高級ホテルを予約してお泊まり♡」っていう部分で。 要は、そこまで手順を踏まないとなかなか手に入れられないものだったと言える、セックスが。
つまりね、まだセックスがありがたいものだったんですよ、特に若い男子にとっては。 逆に言うとまだ素朴なんだよね。今の視点で見るとむしろ、あの手この手で必死に女の子を落とそうとしてるのが、可愛く見えるくらい。
でも、90年代後半くらいからかね、いろいろ要因は考えられるけど、とにかくセックスの敷居っていうのがグッと低くなって、価値が暴落したんですよ。ちょうどバブルの崩壊とシンクロしてるのも面白いけど……。
今は、若い世代ほどそこに固執はしてないでしょ。 草食系とか言われるけど、要は昔ほどそれが「偉くなくなった」ってことですよ。 ということで、別にクリスマスだからって、このタイミングでキメなきゃ!みたいに力む時代でも、今さらないと思うんだけどなー……。 こばなみは今年、どう過ごすの?
こばなみ:
私は昨年に引き続き、iPhone女子部で12月24日に女子まみれのクリスマス会をやりますよ。
宇多丸:
みんなで楽しくわいわいやるっていうね。
まさにそういう感じが今どきのクリスマスなんじゃないかと僕は思うけどね。
こばなみ:
そうだと思うんですよ。でもね、開催するにあたっては賛否両論、いろんな意見があったのは確かです。ぶっちゃけ、さびしそうに見えるという意見もあったし。でも私含め参加者たちは、そうか~!?みたいな感じで、けっこう普通じゃん!って思ってるんですけど、まだまだそういった「クリスマスに恋人いない→かわいそう」みたいな見方はあるんだなって。
そんなの古い!古い!って連発しちゃいましたけどね(笑)。 だいたい、その宇多丸さんが読んでた当時の雑誌ばりに、イルミネーションを観て、食事して、いちゃいちゃして、ホテルとか家でもいいんだけど、その流れって、ちょっともう恥ずかしくないですか? 私がひねくれちゃってるのかもしれませんが、そのコースを案内されたら、けっこう照れますよ。
宇多丸:
いや、実は大学1年のイブにその真似事も一度だけしてみたことあるんだけど、当時からしてやっぱり、我ながらこっぱずかしさはありましたよ……(恥)。
ともあれヨーデルさんは、そのiPhone女子部のパーティに参加するも良し、もっとハジけたいなら、思いきって『さびしんぼナイト』でも行ってナンパされまくるのも良し……、僕、初期の頃は司会やってたんですけど、女の子は入場タダってこともあって、今や超巨大イケイケ社交場と化してるらしいっすよ。
こばなみ:
ひょー! 振り切ってるイベントですね。もしヨーデルさんの目指すところがシングル脱却ならば、いい機会になるかもしれないですね。
宇多丸:
でもまぁとにかく、今さらクリスマスだからどうこうって時代でもねぇだろって気分に変わりはないけどね。
表参道のイルミネーションもさ、前は「こっちがそんな気なくとも、暴力的にロマンティックな気持ちにさせられてしまう! ふざけんな!(遠い目)」くらいに思ってたけど、ここんとこはもう、「この季節になると渋滞して迷惑だなぁ」ってだけですよ。 当然、歳取ったせいもあるんだろうけど……。
こばなみ:
それにイルミネーションも今や1年中どこにでもあるし、普通の光景になってきていますよね。
宇多丸:
あ、それは大きいかもね。
この季節この場所ならではの特別感っていうのがもう、別にない。
あと、特別感が薄れたと言えば、クリスマスって、「年末感」とセットじゃん?
で、その年末ならではの盛り上がり感っていうのも、21世紀に入ってすっかり廃れたもののひとつだと思ってるんだよね。
なんでかって言うと、特に90年代から2001年までって、年を越すたびに大きな意味での「カウントダウン感」があったわけよ。 ノストラダムスの1999年、ミレニアムの2000年、21世紀突入の2001年までは、とにかく何かものすごく大きな時代の区切りに向けて、「あと5年」「あと4年」「あと3年」みたく、年号がカウントダウン的に「減っていく」感覚があった。 だから、年越しの瞬間とか、すげー盛り上がってたでしょ。
さっき言ったようなクリスマスまでに恋人を見つけなきゃ、キメなきゃ!みたいな切迫した気分もさ、ひとつにはそういう、20世紀末の「残り時間がどんどん減っていく」感覚、ゆえの高揚感みたいなのとパラレルだった気がするんだよね。
僕が歌ものに歌詞を提供した数少ない一曲にSkoop On Somebodyの『December』ってのがあって、個人的にはユーミンの『恋人がサンタクロース』の「恋人サイド」から見たアンサーソング、的な裏テーマで書いてみたんだけど、とにかくあれもそういうクリスマス~年末の、残り時間が少ないがゆえのドライブ感、みたいな気分を表現しようとしてたわけですよ。
でも今はさ、2014年が2015年になろうが、ただホントに数が一個増えるだけじゃん。 面白くもなんともない! これが「終わりなき日常」ってやつか……。
こばなみ:
年末年始も緊張感ないですからねぇ。
子どもの頃は何にも買えなくなるから、その前に買い出しに行ってたのに、今やコンビニがあるから何でも元旦から買える。
宇多丸:
確かに!
あの、見慣れてるはずの街全体が、いきなりひっそりして、それこそ「いったん死ぬ」感じね。
こばなみ:
自動販売機で缶ジュースしか買えない!みたいな。
宇多丸:
だからこそのおせち料理だったんだもんね。
こばなみ:
いま元旦からカレー食べてる家とかもあるらしいですよ。スーパーとかもガンガン元旦から営業してますしね。
宇多丸:
だからね、さっきセックスの価値が暴落って言ったけど、他にも、いろんなものの値段がガクーンと落ちちゃったわけですよ。
クリスマス暴落、イルミネーション暴落、年末年始暴落、おせち暴落……、まさにデフレ時代だね。
それこそ、『明石家サンタ』の話が相談文にあったけど、そうやって夜中から朝まで当たり前にテレビもやってるようになって、「深夜」の価値も暴落しましたよ。
昔は、まともな人は「夜になったら寝るんです!」が普通だったからね。 テレビも深夜には放送終了、『11PM』や『トゥナイト』だってせいぜい1時くらいまででしたよ。 だからこそ、夜ふかしや夜遊びにドキドキしたわけじゃんよ。 ラジオの深夜放送聴くのは特別な行為だったし、終電もない時間にクラブに出かけるだけで、「ワルいことしてる」ときめきがあったわけですよ。
でも、今は何時になってもテレビはやってるし、インターネットはあるしゲームはあるしで、要は夜中が「特別な時間」じゃなくなっちゃったんだよね。 ま、だからどうしたって話ではあるけど……。
こばなみ:
ではこの相談、どうしましょ?
宇多丸:
まぁ、とりあえずiPhone女子部のパーティに行きゃいいじゃん。
少なくとも会社の人に「今日、予定あるんです!」とは言えますよ。
で、パーティって何すんの?
こばなみ:
肉を食べつつプレゼント交換など。トホホな話での大笑いも歓迎。
宇多丸:
プレゼント交換か。
いま思い出したけど、大学の頃、サークルの後輩たちとクリスマスパーティやったときのプレゼント交換会が最高でしたね。
わざと「がっかりプレゼント」を仕込んでくる後輩たちがいてさ。一番すごかったのは、ポカリスエットとかゲータレードの、水に溶かして飲む用の粉末あるじゃん? あれの、いったん袋を開いた使いかけが、ゴムで閉じてあるっていう……。
こばなみ:
すごいイヤーーーーー!
宇多丸:
ホント、これだけもらってがっかりするプレゼントもなかなかないよね。よく考えられてる!
実際、当たっちゃったヤツはうなだれてましたよ。「俺が悪いのか……」って。
あれは笑ったなぁ。
こばなみ:
衛生的にもひどい! それはやめていただきたい。
でもがっかりプレゼントも楽しそうっちゃ楽しそうですね(笑)、メモメモ。
で、宇多丸さんのクリスマスは?
宇多丸:
普通に仕事だよ!(怒)
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年12月20日に公開したものを再編集し、掲載しています。