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激しい”嚙み付き合い”的なコミュニケーションが苦手です……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室249】


✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さん、こばなみさん、こんにちは。私の悩みは「激しい”嚙み付き合い”的なコミュニケーションが苦手」です。「噛み付き合い的なコミュニケーション」というのは私が一人でそう呼んでいるだけなのですが、要するに飲み会の席なんかで行われる「相手への暴言、挑発、からかいなどを通じてお互いむしろ仲良くなっちゃうアレ」です。
と言うと「酔った勢いと称して相手に失礼なこと言うやつは最低ですね。パワハラモラハラアルハラ死すべし」みたいな話になりがちですが、そうではなくて(そういうのがけしからんのは当然として)、私が思っている噛み付き合い的なコミュニケーションは、やってる本人たちはセリフこそ剣呑ですが、あくまで「最後は両方笑顔」なことがほとんどです。じゃあ「そういうの苦手なのに仕掛けられちゃったの? 言ってるほうが一方的に気持ちよくても相手が嫌がってるのにやるのは最低ですね」的な話かと言うとそうでもなくて、私自身がそういうやり取りの張本人になることはほとんどありません。というのもその手のコミュニケーションをする人は往々にしてバランス感覚が良く、空気も読めるので「言うと本気で洒落にならない暴言」は言わないし「仕掛けられると単に困っちゃう人(a.k.a.私)」にはそういうことをしません。見ているとそういう場で言われるのは口に出しても「コラーッ!(でも笑顔)」で済むような暴言であり、言われてる人も「今度という今度は許さーん!(でも最後は笑顔)」が成り立つ相手同士がほとんどです。
たまにその範疇を飛び越えてキツイ暴言が提出されて「おいそれはちょっと」という雰囲気になることはありますが、それはあくまでも「そのフレーズ」「その相手」が間違いだっただけで、「そういうコミュニケーション自体」は当人達にとって楽しい時間として流れていきます。
だったら問題ないじゃない、といえば話は終わるし私も何が問題なのかわからなくなりそうですが、そういうのを嗜まない者(というか私)からすると激しい噛み付き合い的コミュニケーションに「またそれかよー」「そういうので『仲良し!』みたいのはむしろヘンだよー」と思ってしまうのです。
私も頭では「要するにこれは、毒蝮三太夫さんが観客に『おいくたばり損ない』とか言って、言われたおばあちゃんもニッコリ、的なやりとりなのだ。仕掛ける方の暴言は『私はこれだけキツイことを言ってもあなたとの関係が崩れないと信じていますし、私もあなたが私に対して同じように思っていると信じています。この信頼が通じていますか?』というコールであり、暴言への応戦は『私はあなたのメッセージをわかっているし、私もあなたに同じ気持ちです』というレスポンスである。これは信頼と親愛のなせる高度なコミュニケーションなのだ」と理解しています(良く言い過ぎかもしれません。でも私にはそんな風に見えるのです)。
しかし実際目の前で「おいオバハン適当こくなや」「誰がオバハンだテメーのツラ見て言え」的なやり取りが延々続くと(あぁ……、もうウンザリだよ)と思います。(そして叩きあった二人は後に肩組んでピースアンドスマイル)結局お前の相談はなんなのだ、と言われてしまいそうですが、要は「横でそういうやり取りを見聞きするのがしんどいです。どうしたらよいでしょう」ということなのです。
ただ、飲み会自体は嫌いではないし、フィクションにおける暴言・舌戦は物にもよりますが好きです。ネット配信でラップバトル、ディスりあいを見たことがありますが、すごく楽しかったです。
また、繰り返しになりますが私自身が望まぬまま暴言を吐かれたということでもありません(それなら「失礼なやつっていますよね」ということでおしまいにできます)。ただ現実に自分の知り合い同士や職場の人同士がガンガン嚙み付きあったりするのはなんだかイヤになっちゃうのです。そもそもそんなに嫌ならそういうことが起きる飲み会になんか行くなよ、というのも一つなので実践していますが、別に飲み会に限らずこういうことは起きます(飲み会での発生率が高いので、極力そういうことが起こりそうな飲み会は避けます)。今では「当人同士が楽しくやっていることを傍で見て勝手に憂鬱だなんて、気持ち悪いやっちゃな」とすら少し思い始めています。どうしたらよいのでしょう。

(ハナハナ・26歳・会社員・千葉県)


こばなみ:
これはお悩みと言うより自分の気持ちを整理したいという感じな気もしますが。
宇多丸さんは「激しい”嚙み付き合い”的なコミュニケーションが苦手」、じゃないですよね、きっと?

宇多丸:
て言うか、まさにそれ型のコミュニケーションをちょいちょいやってしまってる側なので! 
ホント、申し訳ないの一語で……。

ただ、ハナハナさんも書かれてるように、僕だってさすがに、そういう甘嚙みし合い相手というのはごくごく限られてて、当然ながら誰彼かまわず吹っかけてるわけじゃない。
僕の場合はほぼ、特定の友人2名限定です! 「アトロク」を聴いてる人ならわかると思うんですが、コンバットRECと高橋ヨシキさん。

こばなみ:
結局は楽しくてやってるんですよね?

宇多丸:
そのときはそのときで多少ムカッとしてるかもだけど、トータルではもちろん、お互いそういうのが好きでやってますよ。

これはもう10年以上前の話だけど、新宿二丁目のど真ん中のカフェで、コンバットRECと、『のたり松太郎』と『どす恋ジゴロ』のどちらが優れた相撲漫画か? 朝まで生討論!みたいな。
で、何時間にもわたって激しい議論を戦わせた末に、出た結論。
「どちらも違う良さがあるので、比べるべきではない!」。

こばなみ:
あははははは。

宇多丸:
あと、これも同じくらいの時期だったと思うけど、ファミレスでRECと延々議論してるうちに、8時間後だか12時間後だかにはいつのまにかお互いの主張が180度入れ替わっちゃってて、それでも構わず言い合いを続けているのを見て、ずっと一緒にいた杉作J太郎さんが「ダメだこりゃ」と。

ちなみにそのときのトピックは、「『ラブ&ポップ』は『エヴァンゲリオン』の続編と位置づけて良いか否か」でした。そんなの庵野さんに聞くしかないから!(笑)
そもそも正解はないお題っていう。だから楽しいんだけどね。

対照的にヨシキさんとは、わりとちゃんとしたテーマについて、本来的な意味での「議論」をしている……つもりではある。

いずれにせよね、まさに僕は、ハナハナさんが言ってる「激しい”嚙み付き合い”的なコミュニケーション」の、常習犯なんですよね……、お恥ずかしい限り。
まぁ、近年はめっきり頻度も減りましたけど。

こばなみ:
ハナハナさん側からしたら、羨ましいというのもあるのですかね?

私がその場にいたら、退屈しちゃってやれやれ(苦笑)と同時に、羨ましいってのはあるかも……。

宇多丸:
羨ましいと言うか、二人で勝手にいちゃついてろよ!って感じにはなるでしょうね、はたから見てたら。

こばなみ:
逆に宇多丸さんは別の人がそうなっていたら、嫌じゃないんですか?

宇多丸:
仮にいたとしたら、仲いいね~とかいいながら、こっちはこっちで別の人と話したり、ですかね。
目に余るようなら適当なところで帰りますよ。発展性がないから帰るわ、じゃあね~って(笑)。

でもたぶん、そうなったらそうなったで、「え、なんで? さびしいじゃん! ごめんごめん、やめるやめる!」ってなると思うんだよね、僕らみたいな連中は。

こばなみ:
二人きりだとやるんですか? やっぱりオーディエンスが必要ってこと?

宇多丸:
二人っきりだと……、ひょっとしたらそこまで激しくはやり合わないかもね。

要は、「痴話喧嘩露出プレイ」みたいなニュアンスもあるのかな……、ハナハナさんならずとも、周囲のみんなが「いいかげんにしろ!」ってなるのも当たり前ですね。ホント迷惑!

そのうえでハナハナさんは、当人同士が楽しんでるなら放っておけばいいのに、横で一方的に不快がってるのもどうなんだとは思う、みたいなところまで考え抜かれてる。まさしく大人です。

その意味で今回は、ハナハナさんのお悩みそのものを、根本的に解決することはできないと思うんです。
ただまぁ、ハナハナさんの悩みのタネ側、元凶どもの実態はこんな感じ、という一端はお伝えできたかと……、トホホ。

一応その……、改めて言い訳しておきますと、最近はだいぶ減りました。だいぶやってないです。

こばなみ:
なんでですか?

宇多丸:
お互い忙しくなって会う機会もグッと減ったし、普通に歳とって丸くなったのも確実にあると思う。

まぁその、これはあくまで僕の場合の感じ方なんだけど、自分の考えや思ってることを、手加減抜きでばっこんばっこんぶつけられる友人がいる、というのを、やっぱり心底嬉しく思っている、って部分はあるんですよね。
そこまで行けるような相手と、一生のなかでそうそう出会えるもんでもないし……、まして大人になると、普段はやっぱ、社会性というネットを一枚張ってコミュニケーションしてるわけじゃん? そういうのを取っ払って、思う存分やりとりできる喜び、というかね。
なんつーか、セレブレーション!なところもあるんですよ、我々的には。

こばなみ:
ほんと、仲良しですね(笑)。

宇多丸:
あと、ライブのモッシュとかに近いところもあるかも。
外野から見るとケンカしてるように見えるかもだし、実際ケガとかもするんだけど、その輪のなかは好きで来てる人ばっかで、どつき合いすることで発散してる、っていうね。

ただ、いろんな人もいるフェス的な場だったら、モッシュゾーンをはみ出て、横で平和にライブを楽しんでる人にぶつかったりするのは当然マナー違反だし。
モッシュやる側も、いい歳して歯を折るまでやっちゃダメでしょうとか(笑)。
そういう線引きはできるはずだよね、どこかに。

こばなみ:
なるほど~。

宇多丸:
そんな感じで、僕個人に関しては今後はできるだけ、「モッシュゾーン」が明確な場でのみ、キャンキャンやるように気をつけますので……。

ハナハナさん側も、「いまちょっとモッシュゾーン出てんぞお前!」的な苦情を直接言うのは、もちろんありだと思いますよ。
ここまで僕が言ってきた事例でおわかりの通り、本人たちはいたってご機嫌で、周囲に不快に思ってらっしゃる方がいるということに想像力が働いてないだけでもあるので、ズバッと言われたら「そうだったんだ! ごめんすぐやめる!」ってなるんじゃないかなぁ、ある程度まともな大人なら。僕らがそうかは置いといて(笑)。

なんにせよ、重ね重ね、これまで大変ご迷惑をおかけいたしました!
これで、ちょっとでも気が晴れてくださればいいんだけども……。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年9月1日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
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詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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