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数日前、ソウルメイトだと思っていた彼に別れを告げました。しかし返信を待ってしまっている自分が憎いです……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室404】


✳️今週のお悩み✳️
「相手に期待をせず生きること」が生きるうえではとても楽になる方法であると本やSNS、友人の話を通じても理解はしているものの、実践が難しくて他人への期待をゼロに生きることができません。
私は数日前に1年半付き合った1歳年上の就活生の彼氏に別れを告げました。育ちや食の趣味、好きな音楽や生きづらさも含めてあらゆる価値観が重なっていて、自分の生き写しのような存在の彼は心の拠り所でした。家族のような、親友のような愛おしさも感じる存在でした。しかし、お別れの原因も彼と私が似通いすぎていたことなどによって恋愛感情が湧かなくなってしまったからです。彼の態度の変化に気づき問い詰めたら、「ドキドキがなくなった」と言われ恋人関係でいることに疑問を感じていたようでした。別れ話はそのときされず、就活が忙しくて問題に向き合えないと言われひとまず2カ月距離を置きました。その後私から連絡を取り始め一度ご飯に行きましたが、前のようにとても楽しくおしゃべりはできるものの彼は私にもう気がなさそうな様子でした。その後、また彼から「また1カ月待ってほしい、その後向き合う」と言われましたが、私もこれ以上待っても自分を苦しめるだけだと思い直し、数日後には彼に電話をして話し合いをしました。別れるつもりで電話をかけましたが、結局私は往生際が悪く泣いてすがってしまいました。
彼を待っていた2カ月間は身も心も自分磨きをして充実していましたが、心のどこかに苦しさがありました。彼も彼で、はっきりとした別れの言葉は言ってくれず、ぽつぽつと交際継続の希望がなさそうな旨を言うばかりでした。最終的には心変わりは厳しいけれど目の前の選考を終えてから考える、という話になり電話は終了。思わず冷静さを失っていた私は電話の後、彼の気持ちを尊重できなかったことが苦しくて、自分もこれ以上待てないと思いLINEで別れを告げました。まだ彼のことが好きだったので自分では言いたくありませんでした。彼からは「ごめんね、ありがとう。就活と電話で疲れていて眠いので明日きちんと連絡する」とだけ返信が来て、そのまま数日間音沙汰がありません。
私たちは多分別れることができたのだと思います。2カ月回答を出さずに放置されたこと、別れたいと思っても更に1カ月待たせようとしたこと、最後は結局私から別れを告げなければならなかったこと、その後音沙汰がないこと。彼の忙しさも、中高大と人生が順調に進む中、ここへきて留年と第一志望の企業に落ち挫折を味わっていること、内定が取れずに追い込まれていることも理解しています。蔑ろにされるのも仕方ないし、最後の電話をしてしまったのも悪いなという気持ちでいっぱいでした。しかし付き合っていた頃の誠実な彼はきちんと喧嘩の時も向き合ってくれていたよな、などと思い出すと苦しくて、一番私が苦しむ方法でしか別れられなかったのかなと思うと悲しくて仕方ありません。2カ月前の時点ではっきりと別れたいと言ってもらいたかったです。すがってしまったのも面倒だっただろうし謝りたいなとか、今までありがとうという感謝も伝えたいです。
心のどこかでは彼を諦めきれていない自分も知っています。人に期待をしたら生きづらくなることはよくわかっているのに、彼からの返信を期待している自分がいて、別れられたはずなのに毎日苦しいです。スッキリと前に進むことができません。結局彼を待っていた2カ月も、自分の器が大きくなれたので後悔はありませんが、また好きにさせてやる!と思い励んでいました。彼に期待だらけの日々でした。上手く他人に期待をせずに自分軸で生きるにはどうすればいいのでしょうか。返信を待ってしまっている自分が憎いです。きれいなお別れなんてなかなか存在しないというのも知っています。しかしソウルメイトだと思っていた彼ですらこうなってしまったのは虚しいです。
(ゆずか・21歳・学生・東京都)


宇多丸:
これはまず単純に、やっぱり時期の問題は大きいんだろうという感じが、僕にはすごくしますが。

就活に限らず、ある人のライフステージが大きく変ろうとしているタイミングって、当然のごとくそれまでパートナーや友人とは、いろんな意味でズレが生じやすくなるわけでしょう。

そんななかでも、というかそういうときだからこそ、お互いを気遣って寄り添い合える、というのが言うまでもなく理想ではあるんだけど……、今回の彼のように、極度に余裕をなくしてしまっていて、普通に考えたらダメダメな態度を心ならずも取ってしまうというパターンも、残念ながら人間だもの、特に若者であればやっぱり、ぜんぜんありうると思うんですよ。

こばなみ:
第一志望に受かったけど留年しちゃったのか、落ちたうえに留年しちゃったのか、ちょっとわからないですけど、Wパンチでけっこうなダメージですよね。

宇多丸:
とはいえ、当然そこで、ゆずかさん側がそこまで寛容であり続けるのは難しいというのも、まったくもって無理からぬ話だし。

プラス、その前の段階ですでに、恋愛初期のドキドキがなくなった、という件も浮上しているわけだけど、これもまた、どんなに相性のいいカップルだって普通に直面しうる、すごく普遍的な話ですよね。

「自分の生き写しのような存在」として惹かれ合った者同士が、ある種順当に倦怠期を迎え、ライフサイクルにもズレが出てきて、気づけばそれほど「似姿」ではなくなっている自分たちに気づく……って、たとえばそれこそ『花束みたいな恋をした』みたいでもあるわけで。

あの映画でも、それぞれの就職がやはり最大のターニングポイントになってましたよね。

こばなみ:
思い起こせば私も、就職がこれからという彼がつまらなくて、心ないことを言ったことがありました。それで怒らせて振られましたけど(苦笑)。

今思えば、私は就活してないので気持ちが全然わからないので呑気だったけど、彼としては実際相当大変で、理解してくれない、むしろ罵倒してくる私にムカついていたんでしょうね。

宇多丸:
ゆずかさんの彼に関して言えば、ズルズル答えを引き延ばしているこの感じ、つまるところ積極的に別れたいわけでもなくて、今はやっぱりただただいっぱいいっぱい、何が何やら自分でもどうしていいかわからない、というだけにも見えますけど。

こばなみ:
返信を待ってしまっている自分が憎いってことですけども、今はそのままでいいですよね? ちょっと時間を置くってことですかね?

宇多丸:
そうね。今はそうするしかなさそうだけどね。

この間に、よく聞くパターンだけど、SNSだけは頻繁にアップしてやがる! しかもまぁまぁ能天気な内容で!(笑)みたいなことだったら、また話は別ですけども。

もっとも、身もフタもないことを言ってしまえば、そうやって待ったはいいけど、それで時間を置いたから彼と元通りになれるという保証も、別にないけどね。

彼が、冷静にこの時期を振り返って反省してくれるような人なのか、それがすぐのことなのか、それとも何年か経たないとわからないのか、それは現時点ではわからないことだから。

まぁ、こればっかりはまさに、どこまで行っても「ご縁」の話ですからね。

仮に万が一、あまり望んだような結果にならなかったとしても、「単に今回は縁がなかっただけ」的な考え方を、ゆずかさんにはぜひしてほしいなぁと僕は思いますが……。

こばなみ:
あと、質問としては、「上手く他人に期待をせずに自分軸で生きるにはどうすればいいのでしょうか」ってことですけども……?

宇多丸:
「ソウルメイトだと思っていた彼ですらこうなってしまった」のだから、これからはもう他者には何も求めまい、と思いつめるところまで今は絶望してしまっている、ということですよね。

その気持ちもわかるけども……。

ゆずかさんの人生に、今後どのような人が現れるかなんてことは当たり前だけどまったくの未知数だし、それに対して「自分軸」がどれだけ独立した強さを持てるかというのも、はっきり言ってまだまだこれからの話というか、ゆずかさん自身がいろんな経験や実績を積み重ねていってナンボなことであって、今すぐ自己完結的にどうにかなる問題じゃないと思うんですよね、実際のところ。

要は、いろいろ決めつけるにはまだ早い!ってことなんですけど。

ひとつだけ言えるとしたら、これは僕の考え方ですけども、「生き写しのような存在」「ソウルメイト」っていう最初の期待値の置き方がやはり、比較的大きな失望を招きやすいものではあるのかな、という気はします。

この連載でも前に何度か言ったかもしれないですけど、恋愛初期段階って、「ここも合う!」「ここも合う!」って、互いの一致点を見つけては嬉しくなることが多いと思うんです。

特に、過去にそういう「合う」相手になかなか出会えていなかったという思いを抱えている状態、たとえば若いときとかは、そこにある種の運命性まで感じやすかったりして。

でも、言うまでもなく「相手は自分ではない」以上、遅かれ早かれ「合わない」ところも出てくる。

というか、冷静に考えれば絶対に「合わない」ところのほうが多いはずなんですよね、違うルートを通って生きてきた、違う肉体を持つ違う人なんだから。

つまり、「合う」点だけをよりどころにしているような関係は、いずれほぼ必ず、破綻するしかないとも言える。少なくとも僕はそう考えてます。

僕個人は、長じるにしたがって、特にパートナーシップなどできる限り継続してゆきたい関係ほど、互いに「合わない」部分をこそ、どれだけ面白がれたり、尊重できたり、せめて許容できるか……が分かれ目になってくる、と考えるようになりましたけど。

しょせんはやっぱり他者同士、大部分「合わない」のは前提で、それらと比較的ラクに共存できるようなら、それこそが「合う」相手ってことだろう、くらいの感じ。

たとえば散らかし癖がある人がいたとして、もうしょうがないなぁ、と笑って愛せるかどうか。

こばなみ:
散らかし癖……! まさに私はそれで救われていますよ。トホホ。

宇多丸:
ただし、自分にとってこれだけは譲れない!というようないくつかのポイントだけは、やはりできるだけ「合う」と確信できることが望ましい、とは思いますが……。

それすらも、「望ましい」くらいの慎ましいラインにとどめておくのがちょうどいい、気がします。

要は誰もが赤の他人同士、一緒にいても普段はまったくわかり合えてない、というのがデフォルト……、だからこそ、たまーに大事な一点が一致するのが、とんでもなく尊いし嬉しい!わけでしょう。

不一致はむしろ、一致を輝かせるんですよ!

ゆずかさんも、この時期ゆえの歩調のズレに今は目が行っちゃってるかもしれないけど、もっと根本的に大切な部分で、彼が本当に好ましいと思える人なのかどうか、改めてちょっと考えてみてもいいかもしれない。

それでやっぱり、どうしてもあきらめきれない!と思えるのだったら、むしろ当たってくだけろ精神で正面突破を試み続ける、というのも、それはそれでアリだと僕は思いますよ。

たとえ結局は失敗に終わったとしても、トライする価値がそれならある、というか。

いずれにしても、ゆずかさんのそのまっすぐさ、いずれ何年か経てば必ず、私も青かったなぁとか、もうちょっとこうできてれば良かったなぁとか、若干の苦みや気恥ずかしさとともに振り返れるようになるはずだし……、それこそがあなた固有の経験値、すなわち人生の糧、というものなので。

それこそ、後悔をいっぱい抱えて苦しんでいる人は、そのぶん優しくて賢く、人間的に豊かになっているんだと、僕は考えていますけど。

なので、特に20代前半という多感な季節に、こういう大きな出会いと試練を迎えられているというのは、実は大変恵まれているのかもしれないですよ……、まぁ、その真っ只中にいる当事者には、なかなかそうは思えないだろうけどさ(笑)。

こばなみ:
今回は就活のタイミングに加え、合う/合わないの考え方について、たしかにハッとしました。結局、私も結婚した人は自分と真逆のタイプだったので、本当に違いを「笑って愛せるか」どうかですね。って、でもこれ、今だからそう思えたところもあるので……。

ゆずかさん、今はちょっと辛い時期かもしれませんけど、この経験がのちに生きるよう、そして少しでも元気が出るよう、願っております!



【今週のお絵描き】

画・宇多丸




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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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