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映画の感想が合わない会社の先輩。我慢して聞き続けるしかない?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室78】


✳️今週のお悩み✳️

凄い映画好きというわけではありませんが、気に入った映画は複数回観に行くし、誘われたら興味がなくてもついて行くようなスタンスです。その誘ってくれる友達の内の一人に会社の先輩がいて、他の趣味や好みはとても合うのですが、何故か映画の感想だけは合わないことが多いのです。私がつまらないと思ったものを絶賛したり、逆に面白いと思ったものを貶されたり……。最初はそのギャップが面白かったのですが、最近はキツくて仕方ありません。 誘われるうちの何回かは断るようになりましたが、感想が合わないだけで観たいもの自体は被るので、結局一人で観に行った事がバレると微妙な空気になります。そもそも職場が同じなので別々に観に行っても感想は聞かされる事になり……。どうすればいいでしょうか。もう我慢して聞き続けるしかないでしょうか……。
(nap・31歳・神奈川県)


宇多丸:
まず大前提として、映画の感想というか好き嫌いなんて人それぞれ違ってて当たり前、ではあるんだけどね。

これは映画に限った話じゃないけど、どれだけ趣味が合う人同士でもさ、当たり前だけど違う人間である以上、全部が全部同じように思うなんてことは絶対にありえないし、仮にもしそんなことになったら、気持ち悪い以上に、たぶんつまんないよ。

むしろ映画好きな友達同士とかってさ、普段からお互い、あーでもないこーでもないと好き勝手に意見を言い合って、たまにそれがバチーッと一致することもある、くらいだから楽しいんじゃないの?
 少なくとも僕は、友人たちといつもそうやってキャッキャやってるし、ラジオの映画時評コーナーも、リスナー含めてそういう空気を作っていければな、と思ってやってるんですけど。

もっと本業映画評論家の領域でもさ、たとえば僕も文庫版に解説を書かせていただいた町山智浩さんと柳下毅一郎さんの『ベスト・オブ・映画欠席裁判』とか、長年のコンビなのに作品毎の評価は結構バラバラで、それがまた漫才っぽい掛け合いとあいまって面白かったりするわけよ。

だから、人と感じたこと思ったことが違うっていう、それ自体がダメってわけじゃないはずなんだけど……、いや、「最初はそのギャップが面白かった」ってことだから、napさんだって、もともとはその視点も全然あったはずなんだよな。
おそらくnapさんは、今のところは先輩の意見をずっと一方的に聞かされているだけの状態で、そこにストレスを感じてるってことなんじゃないですかね。

こばなみ:
先輩と後輩、立場の違いがあるからフェアに言えないってことなんですかね? でも友達の一人とも書いてあるし、そんな圧力的な感じではなさそうだけど。

宇多丸:
でもさ、もしnapさんも対等に意見を言えてるんだとしたら、「私がつまらないと思ったものを絶賛したり、逆に面白いと思ったものを貶されたり」って、それってつまり先輩側にとっても丸々同じことが言えるでしょ、ってことになるわけだから、それじゃあお互い様じゃね?で話が終わっちゃうじゃん。

やっぱり、相談文の「別々に観に行っても感想は聞かされる」「我慢して聞き続けるしかないのでしょうか」って書き口からしても、先輩側に悪気はないにせよ、napさんがフラットになんでも話せるような状態じゃないのは間違いないでしょ。

まずその先輩はさ、napさんがそこまで自分と違う意見を持っているってことに、現状まったく気づいてすらいないんじゃない?
 だからこそ、napさんを前にして自分の感想を言うのに、なんの遠慮も躊躇もない。
なので、第一歩としてはやっぱり、両者の評価軸の違いを、先輩側にもはっきり認識してもらうってことですよね。

ただ、僕が思うに、「感想が合わないだけで観たい物自体は被る」ってことだから、実はそれなりに共通の言語はある者同士なはずなんですよ。
映画好きったっていろいろ守備範囲の違いがあるなかでそうなんだから、全体から見ればむしろ結構近いほうと言っていいくらいだと思いますけどね。

そこでひとつアイデアなんだけど、二人とも観てる映画はだいたい同じようなラインナップなわけだからさ、お互い年間ベストと、なんならワーストを選出して発表し合う会でもやってみたらどう? 
ちょうどあちこちで2014年度ベスト企画みたいのも出だす時期だし、提案するには絶好のタイミングでしょ。
で、せーのドン!で出してみたら、「あれっ、結構違う!?」「ええっ、こっちのベストがそっちのワースト!?」みたいに、お互いのスタンスの違いが一目瞭然でわかるっていう。

こばなみ:
それいいですね!

宇多丸:
そもそも年間ベスト的な企画の醍醐味って、そういうものでしょ。
チョイスや順番自体が、その人のスタンス表明になってるというかさ。
お互いのベスト見て、「らしいな~」と納得したり、「そう来るか!」と関心したり、「なんでこれ?」と驚いたり……、まさに「人それぞれ違う、からこそ楽しい!」の典型ですよ。

もちろん知らない作品があったりすれば、勉強にもなるしさ。
投票集計結果みたいな最大公約数的「ベスト」より、「この人が選ぶんだからこんな感じだろう」ってのがわかるぶん、よっぽど参考にもなりますよ。

こばなみ:
ただちょっと心配なのは、まったく合わなかった場合……。

宇多丸:
て言うか、その先輩のほうこそ実は「合わない」ことにヘソを曲げちゃうようなタイプだったりすると、ちょっと困っちゃうよね……、実際んとこ、そういう人のほうが多数派なのかもしれないし。

たとえばだけど、もし職場にもう一人くらい同じようなテンションの映画好きがいるようなら、その人も引き込んで三人以上でベストを突き合わせてみれば、その「合わなさ」も少しは中和されるかもね。

とにかく、そうやって一回でも「あーでもないこーでもないと好き勝手に意見を言い合って」盛り上がることができれば、今後の関係性もだいぶ変わってくるんじゃない? 
絶対楽しいと思うんだけどな~。

こばなみ:
いい新年会になりそう!

宇多丸:
ただまぁ、これまであまりにも一方的に「合わない」感想を聞かされ続けたせいで、napさんも今さらそんな意見交換なんかもしたくないほどその先輩のことが嫌いになっちゃってたりしたら、もうどうしようもないけど……。
その場合は、「映画、実は全然好きじゃないです!」アピールでも改めてしといたほうがいいかもね(笑)。


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年1月10日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
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その他のライブ情報は
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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