美人と言われることもあり、人に妬まれることに異常に怯えています……。この警戒心を解きたい……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室44】
✳️今週のお悩み✳️
私は人に妬まれることに、異常に怯えています。対象は、年齢を問わず女子全般です。母も含むときがあります。自分には仲のいい大事な女子の友達が数人いますが、 女子全般に受けるかどうかはわかりません。美人ね、と同性からも言われる時があり、そのことも関係している気がします。実際に女子から怖い目にあったということでもないのですが、子どもの頃からいつも自分で気をつけているところがあり、羨まれたり、嫉妬されることを恐れています。そうは周りは思ってないと思います。ツンとしてるなんて言われるくらいですので(自分では半目でぼーっとしてるくらいに思ってます)。 自分に起こったいい出来事や、起こるかもしれないポジティブな何かについて女子に話すことにとても強い警戒心があります。口ではいいね、と言っていても冷たい気持ちで見ているんじゃないのか、とか。もう少し、この警戒心を解きたいと思う時があり、ご相談いたしました。どうぞよろしくお願いします。
(まるこ・36歳)
宇多丸:
少し前に、小林麻耶さんが生放送中に泣いちゃったって事件があったじゃない? ブログでファンの人に自分の経験からアドバイスしていたつもりが、「結局自慢話じゃないか」みたいな非難のコメントがたくさんついちゃって、「自慢じゃないです!(泣)」っていう。それ以前に、その番組内でも、やれブリッコだなんだって、なにかと振る舞いが批判されがちだったっていうのもあると思うんだけど。
とにかく、個人的にはあの件をちょっと連想しました。
ああいう風に、良かれと思ってやったことすらことごとく「自慢かよ!」みたいに取られてしまいがちな人は、確かにいるわけだよね。早い話が妬まれやすい人。 で、前に「嫉妬」の話になったときも言ったけどさ、そうやって攻撃してくる人って、自分の動機がつまるところ妬みであるってことをまるっきり自覚してなかったりするからさ。余計に厄介だっていう。
なので、「自分に起こったいい出来事や、起こるかもしれないポジティブな何かについて」すら話すのが怖いって、たぶん全然ありうることなんだろうなぁ、とは思います。 とは言え、僕も男だし、ツラ的には明らかに妬む側チームの人なんで、まず「こんな悩みが存在するんだ!」ってこと自体に感心しちゃったというのが正直なところ。
こばなみは女性としてどう思うの? 例えば、ずば抜けて美人な友達がいるとするじゃない。 で、その子と一緒に異性に会うと、視線とか「優しさ」的なものがことごとくそっちに集中するのが、はっきり感じられると。 彼女自身はいい子だし、いま言った事態だって彼女の責任じゃないのはわかってる。 それでも……やっぱり正直、毎回ちょっとずつイラッとはしてしまう!みたいなさ。そういうのないの?
こばなみ:
うーん……。まわりにものすごい美人がいるわけじゃないけど、合コンとか行くとカワイイ子との差はあからさまに感じますよね。イラッというよりはわかってはいたけど落ち込む……。
宇多丸:
僕だって、まわりに尋常じゃないモテ男が結構いるから、そういう思いはもう、日常的にしてきてますよ。
それにしても世のみなさんは、よく合コンなんて過酷な場所に平気で出かけていきますよね! だって、はっきり言って「品定め会」じゃんよ。会った瞬間に「今日はハズレだわ~」とか思われたりするんだよ? そんなの、人として一番避けたい、ツラい場面じゃん! そんなとこに進んで飛び込んでいくって、みんなよっぽど自信があるのかな……僕は無理!
こばなみ:
わたし思うんですけど、まるこさんが実際にどうだかはわからないですが、自意識過剰気味な人っていますよね。人の目を気にしすぎているというか。私それにちょっとイラッとしちゃうとき、あるんです。仲良し具合にもよるけど、見られるのが嫌だから、みんなと温泉に入らない、とか。やたら自分のTwitterやFacebook発言を気にするとか。そんなに人は人のことを見てないよ! 気にしてませんよ!と。なので、この件に関してもちょっとそう思っちゃいました。
宇多丸:
ただ、そう思ってしまうような、何かしらのきっかけはあったんだろうしね。
こばなみ:
今読んでる漫画「アオハライド」の主人公の女の子も、モテてひがまれるのは嫌だから、わざとガサツに振る舞ったり、大食いキャラを演じたりしてましたよ。
宇多丸:
じゃあやっぱり、ある程度普遍的な悩みなのも確かなんだね。
しかし大食いキャラって……正直その感じはすごく「萌え」ですけどね。のんきなことぬかしてすみません!
こばなみ:
まぁでも、女子全般に無理してウケなくてもいいんじゃないですか?
宇多丸:
もちろん、それはそうだよね。数人も仲良しさんがいるんだったらいいじゃんね。
ただ、「もう少し警戒心を解きたい」ってことだからさ。
根本的なところから改めて考えていこうか。
まず、美人ってさ……、「自分は美人だ」ってことは、やっぱり知ってるんだよね?
こばなみ:
そりゃ、知ってますよ。
宇多丸:
知ってる上で、それを意識的に武器として使えてる人と、そうじゃない人がいる。前者のほうが確実に同性には嫌われそうだけど、たぶんそんなのは織り込み済みっていうか、屁とも思ってないようなタイプだよね。で、まるこさんは明らかにそっちではない……。
そっか、
・美人で同性に好かれる
・美人で同性に嫌われる
この差を突き詰めて考えていけばいいのかも。
それとも、そもそも「美人で同性に好かれる」なんてのは欺瞞で、本当はやっぱりみんな心の中では「このやろう!」って思ってたりするのかな?
こばなみ:
それはないと思いますよ。美人でも好かれてる人もいるし。
宇多丸:
そもそも「美人」という武器って、つまるところ異性に対して使うものだよね。
こばなみ:
そりゃそうですよね。異性の前で態度が変わる、とかじゃないですかね。対男性、ということがなければ、つまり女同士の関係性のなかで、美人だから好かれるとか嫌われるとかってないと思いますね。
宇多丸:
あれ? でも、例えば女子校のなかだったら、やっぱり美人がモテたりするんじゃないの?
こばなみ:
私、中学高校と女子校だったんですけど、「美人」っていう武器って、ネガティブもポジティブもないと思いました。ヒエラルキーのトップは「美人」ではないというか……。おもしろいとか、オシャレとか、頭がいいとか、特技があるとか。顔だけ美人でも同性にはモテないのでは?
その証拠といったらなんですが、私モテましたもん。おもろ&ショートカット(スポーツ系)ってことで(笑)。えへへ。
宇多丸:
つまり、この相談文には特に書いてないけれども、「対異性」というファクターが絡んできたときに初めて、この「美人問題」は生じるってことなんだね、どうやら。
こばなみ:
そうだと思います。
宇多丸:
ただ、逆にその「相談文には特に書いてないけれども」ってところに、まるこさんの恐怖の根深さが現れているような気もしますね。直接書くのは憚られるくらい、「対異性」っていう問題の本質が、彼女のなかでタブー化されてしまっているってことじゃないですか。
さっき、
・美人で同性に好かれる
・美人で同性に嫌われる
この差が出る例として、こばなみが「異性の前で態度が変わる」っていうのを挙げたじゃん。実際、その文句は女の子の口からものすごくよく聞きますよね。
でもね、もしかしたらまるこさんは、男性たちに優しくされたり、注目が集まったり、とにかく美人ならではの恩恵を一身に受けているとき、心の中では「うわぁ、また来ちまった! 周りの女子たちの目が気まずいよ~!」という感じで、ひたすら困惑しちゃってるんじゃないんですか? そして、その様子がまさに、端からは「異性の前で態度が変わる」人に見えてしまってたりするのかもしれないですよ。
なーに男の前だと急に大人しくなっちゃって!とか。 あるいはご自分でもおっしゃってる通り「ツンとしてる」ように見られちゃったりね。 実際はただ緊張してるだけなのに、そういう誤解を与えている可能性は結構大きいと思うんですよね。
そもそもさ、異性の前で態度が変わるって、そんな悪事のように言われなきゃいけないことなんですかね? いいとこ見せたくて露骨に頑張っちゃってるとか、場に対する一種の気遣いとしての「媚び」であるとか、どっちにしてもすごく人間的な、素直な反応とも言えると思うんだけど。
逆に「美人で同性に好かれる」タイプって、異性の前でも同性といる時とまったく態度が変わらない、いわゆる「自然体」な人ってヤツでしょ? でもさぁ……むしろそっちのほうが、より高度な訓練を積んだ「自然体演技」なのかもしれないじゃん! 特殊工作員みたいなもんだと思ったほうがいいかもしれませんよ!
こばなみ:
まるこさん、どんだけの美人なんだろう。
宇多丸:
いや~、はっきり言って相当の美人だと思いますよ。自分で自分の力が恐ろしいほどの……。
こばなみ:
でもそんな美人ってまわりにいます?
宇多丸:
例えばテレビとかで一緒に仕事するような、アイドルでもモデルでも女子アナでもいいけど、そういうような人たちはやっぱり、ちょっと普通とは美人のケタが違う感じはありますよね。仮に、あれ級の人たちが自分の美を武器にするような仕事に就かず、一般人に混じって暮らしてたら、ひょっとするとまるこさんのような葛藤も生じたりするのかもしれない、とは思いますね。
あ、でもな……前にある雑誌の取材でご一緒した女優さん、間違いなくただごとじゃなくキレイな方ではあるんですが、お会いしてみると、以前からそういう人だって話は聞いてたんだけど、ホントにサバサバしてて気取らない、むしろ男っぽい性格の方で。で、そういう素の状態だと、色っぽさみたいのはもう、ほとんど感じられないんですよ。これが、撮影に入るとちゃんと「オンナの顔」を作れるのがまた、さすがって感じでもあるんですが。 つまり、美人だし、それを武器にすることも全然できるけど、本人の雌性みたいのとは実はあんまり一致していない。こういう人って芸能界には意外と多いんじゃないかな。
こばなみ:
それ、わかります。後輩にベッキー似のかわいい子がいるんですけど、自分が「かわいい」っていうのわかってると思うけど、そのことにすごく無頓着なの。そこにこだわりが一切ない。
宇多丸:
彼女にとっての「かわいい」は、「何もしないでも最初からできちゃってること」だから、みんなが言うほどの価値がよくわかんない、的な感じかな。
別に努力して手に入れたものじゃないから、私が偉いわけでもスゴいわけでもないし……みたいな。
こばなみ:
そうそうそう!
宇多丸:
なんとか自分に置き換えて想像してみると、僕にとっての「東京生まれ東京育ち」みたいなことなのかな。
僕としてはただ事実を言ってるだけなんだけど、人によっては「自慢かよ!」って取る場合もあるかもしれないし、確かに、その恩恵を自覚してる部分がないと言えばウソになる。
でも、別に努力して手に入れた立場ってわけでもないから……って、その「何とも思ってない感じ」がまたカチンと来る人もいるんだろうな、とか。
とは言え、「美しさ」っていうのは能力でもあるからね、実際。 その意味では、我々から見れば、美人とか男前っていうのは、一種の「超能力者」なんですよ!
……あっ、そうか。 だからまるこさんはさ、現在まだまだ大ヒット記録更新中の『アナと雪の女王』、とりあえずあれを観れば、ずいぶん溜飲が下がるんじゃないですかね? 要は、エルサの気持ちがすごく良くわかるんじゃないかと思うんです。
こばなみ:
♪ありの~、ままの~、姿みせるのよ~、ありの~、ままの~、自分にな~る~の~!
宇多丸:
「♪ありの~、ままの~、私は美人なの~」と、まるこさんも『Let It Go』してみたらいかがでしょうか。
劇中のエルサになぞらえるなら、まるこさんは、恐らく過去にあった何か苦い思い出がきっかけで、自分の「美人」という能力をネガティブに捉えるようになってしまったわけですよね。うっかりその力を発揮すると、人を傷つけたり、嫌われたりするかもしれない……そう思えば思うほど、まるこさん自身は人に対して壁を作り、内へ閉じこもっていってしまうし、そのことが結果としてさらに、近寄りがたいとか自意識過剰だとかの印象を与えていたかもしれない。そういう悪循環に入っちゃってたわけです。
でも、本当はそれは、呪いじゃなくて、恵みの能力なんですよ! 上手く使いさえすれば、まわりの人を幸せにすることだってできるかもしれない。
だからまずは、自分自身が自分の「ありのままの姿」を全肯定してあげること。 つまり、美人であること含めて自分を丸ごと、『Let It Go』することです! それができて初めて、いずれ他人の前でも自信を持って『Let It Go』できるようになるんだと思いますよ。 とにかくまずは『アナと雪の女王』、まだまだあちこちで上映してると思うので、ぜひ観に行ってください!
こばなみ:
泣けますよね。♪レリゴ~、レリゴ~、あれよかったですね(泣)。
宇多丸:
いや、ちょっとちょっとちょっと……、いい気持ちになってエルサに感情移入してるけどさ、我々凡人は本来「アナ」側の立場ですからね!
【今週のお絵描き】
『アナと雪の女王』大ヒット記録更新中
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年5月17日に公開したものを再編集し、掲載しています。