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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室433】趣味に没頭しており、誰ともお付き合いしたことがありません。楽しく生きているのに、なぜ周囲に哀れに思われなきゃいけないの……?


✳️今週のお悩み✳️
私は今年26歳になりますが、今まで誰ともお付き合いしたことがありません。あまり社交的な人間ではないため、他者から恋愛感情を寄せられた経験もありません。私はラジオ、音楽、アニメ、漫画、演劇、落語、映画などが大好きなサブカルクソ女で、自分の人生における一番の優先事項は、さまざまなエンタメに触れることです。過去に2回ほど、エンタメ摂取時間を減らしてでも一緒にいたいと思うほどに恋愛感情を抱いた人が2人いました。しかし、人付き合いをないがしろにして趣味に没頭してきたツケもあり、なかなかうまく距離を縮められず、お付き合いすることはできませんでした。

20代も半ばとなり、今まで恋人がいたことがない、告白をされたこともないと正直に話すと、ドン引きされたり、哀れまれたりする機会が多くなりました。そのたびに、「この人たちは、恋愛にウェイト置いた人生を送っているからそう感じるだけで、私とは価値観が違うんだ。私は毎日趣味を謳歌できて、今の人生が楽しい」と思うようにしています。しかし、心の奥底ではそんな言葉に傷付いているのか、たまに家で一人涙が止まらなくなることがあります。「私は確かに他者から恋愛的に愛されたことがないけれども、それでも楽しく人生を生きている。なんで哀れまれなきゃいけないんだろう」と、悲しくなってしまうのです。また、普通の人が当たり前にできていることが、自分にはできない劣等感も抱いてしまっています。

周囲からは、マッチングアプリへの登録をしきりに勧められています。しかし、そんなことをする暇があったら趣味に時間を割きたいので、なかなか気乗りしません。また、「自分に恋人ができたら、今の楽しい人生がもっと楽しくなるのかな」という憧れも持っています。今は気の合う両親がいるので、日々生活していてさみしいと思うことはあまりありません。しかし先日父が病に倒れて以降、「今後両親がいなくなったら、友人も少ない私は本当に孤独になってしまう。今後に備えて、パートナーを探し始めた方がいいのかな」という焦りも生まれ始めました。いろいろとそんなことを考えつつも、「恋愛については、また好きな人ができたら考えよう。今は、大好きな趣味を謳歌しよう」と一旦結論付けたのですが、やはり不安がぬぐい切れません。私はこれからどのように生きていければいいのでしょうか。

(不健康運動・25歳・会社員・広島県)


定期的に相談が来る「誰ともお付き合いしたことがありません」ですが……、この不健康運動さんのケースは、本人的には基本それでなんの問題もなくやってきたのに、周りからあまりにもごちゃごちゃ言われ続けすぎて、ついには不安や引け目を感じるようになってしまった、っていうことじゃない?

なので、結論ははっきりしてますよ……。そんなバカどもの言うことなんか、いっさい聞く必要ナシ! 

不健康運動さんは、最初からいっこも間違ってなかったんだから。

あとはただただ、なんとかしてご自身の生き方への確信を取り戻せるよう、我々なりに元気づけてあげたい、ってことに尽きるわけですけど。


ホント、なんで哀れまれなきゃいけないんだろう。涙が止まらなくなっちゃうって……。


シンプルな話、不健康運動さんの「周囲」とやらが言ってきてることって、いまどきそんなこと言う?レベルの、人を無神経に傷つける有害なお節介以外の何ものでもないですからね。

事実そのせいで不健康運動さんは、本来悩まなくてもいいようなことに悩みだす羽目になっちゃったわけで。

たとえば、「親がいなくなったあと孤独を埋めてくれる存在としてのパートナー」がやっぱ必要なのかな、とか考えだしちゃってるわけですけど……、はっきり申し上げれば、パートナーというのは本質として親の代わりじゃないし、そんな役割を求めてもまず、お互いロクなことにならないですから。

そんな、言わば「他者への期待」なんていう不確定なファクターに依存した生き方なんかより、不健康運動さんが本来そうしていたように、むしろ「ひとりでも楽しくやっていける」スタンスのほうこそ、なんなら万人が最終的には目指すべき境地なんじゃないのかな、と僕は考えているし、この連載でも繰り返し主張してきたあたりなわけですけど。


自分の好きなことがあって楽しそうですし、ぜんぜんいいじゃん!って本当に思いますよ。


ねぇ。

自分の中の優先事項をこれだけはっきり確信的に言える時点で、ホントはかなりイケてる部類なはずなんですよ、不健康運動さんは。

少なからぬ割合の人たちは、そこまで夢中になれるようなもんも見つからないまま、それこそ「孤独を埋めるためにパートナーを手っ取り早く見つくろっては、当然のようにすれ違いばかりを感じて余計に孤独を増す、みたいなことを繰り返してたりするんだからさ。

ひょっとしたら「孤独」という概念を、多くの方がちょっと間違って認識してるんじゃないか、という気もするくらい。

孤独ってそういう問題じゃないだろう、っていうね。

たとえば、すぐそばにいる他者たちと、しかしなかなかわかりあえない、という状況は、そのまま孤独感に直結するものでしょう?

それこそ結婚だの出産だのをしてからそれを味わってる人だって、世の中腐るほどいるわけだから。

その点、何か好きなものがあるという人は、同じものが好きな人や、なんならそれを作った人、といった他者たちと、時空すら超越してすでにつながっているわけですから。

その時点でもう、そこまで孤独ではないはずでもあるんですよ。


周囲の人は、不健康運動さんが自分の好きなことに没頭していて羨ましい!とかあるんですかね?


いやいや、そんな立派なもんじゃないでしょう、どう考えても。
明らかにただ無神経なだけでしょ、十中八九。

なんにせよ、その連中が本当には何を考えてようと、そんなのはこっちに関係ないことだから。

そもそもこの「周囲」って、誰なんですかね。

仮に友だちでこんなこと言うやついたら、普通に縁切っていいと思うけどね。


マッチングアプリへの登録をしきりに勧めてくるというね。


で、そいつは、不健康運動さんにとって大事な人なの?
ひょっとして、わりとどうでもいい人だったりするんじゃないんですかね。

だってたぶん、この調子じゃ話もきっとほとんど合わないだろうし……、あっちはあっちで、不健康運動さんのことを何ひとつわかってないし、わかろうともしてない。
そんな人の言うことにいちいち食らう必要、ある?

それ以前に、僕は本気で不思議なんですよ。

なんでこうも、当たり前のように「恋愛は絶対的にしたほうが良いもの」って前提で話を始める人が多いのか。

だって、恋愛とひとくちに言っても、実際にはネガティブな面もたくさんあるっていうのは、みんな知ってることなはずじゃない?

むしろ、サイコー!みたいな時期は比較的一瞬で、ツラい結果に終わることだって多いし、続くにしてもそんなきれいごとばかりなわけもなく、って感じだろうしで、なんにしたってそこまで全部がいいものとは言いがたいのは、いい大人ならみなさんイヤってほどわかってることだろうに……。

これきっと、恋愛に限らずだよね。

◯◯してないなんて人生半分損してる!みたいなことをみなさん大変嬉しそうにおっしゃいますし(笑)、その気持ちもよーくわかるけど、なんだって一長一短だろ、そんなものは。

特にいまどきはもう、異性愛の成就をすべてのゴールとするような考え方って、単に古くさいだけじゃなく、人に押しつけたりしたら一気に暴力性、抑圧性を帯びてしまうものだというのが、だいぶ社会の共通認識になってきているはず……だと、思いたいところだけどもね。


まぁでも恋愛はとくに、若い頃とかはこういうのありましたよね。

めちゃくちゃ言われましたよ!
なんで恋しないの? なんで彼氏いないの?的な質問。


そういう失礼きわまりない輩にはその場で鉄拳制裁していいですよって、たしか日本国憲法に定められてませんでしたっけ?(笑)

しかしたしかにそんな感じで、特に僕たちの世代は、世の中全体が恋愛至上主義的だった、というのは間違いなくあるよね。
恋愛してない人、できない人は劣ってる、みたいに思いこまされてきた時代。

ロクなもんじゃない!

そんなのぶっちゃけ、資本主義的都合が加速させてた風潮ですからね……。やれデートだレジャーだ記念日だっつって、何かって言うと金使わせるためですよ!

イケてる若者はフツーこうするもんなんですよって、いらぬ劣等感をあおって、焦らせてさ。
で、最終的には、「適齢期」になったら結婚して子を持って家買って、みたいな、家父長制再生産サイクルに乗っけてゆく、という。

そうでなきゃおかしいよ!という社会的圧力が、圧倒的に強い世の中でしたよね。

その意味で、不健康運動さんの「周囲」が無遠慮に言ってきてることって、まさにそのころのマインドそのまま、って感じだもんね。
頼むからそっちはそっちで勝手にやっててくれ!としか言いようがない。

甘ったるいドラマとかマンガの見すぎ!ってことなのかもしれないけど、あれだって、「ちょうどいいところで終わってる」からいわゆるハッピーエンドに見えるだけで、実際の恋愛関係は、成就してから先の「維持」とか「着地」こそが大変なんだからさ。

この連載でも何度も言ってることですけど、たとえば『タイタニック』の主人公カップルが、仮にもし無事に結婚までしてたら、いずれ遠からず、『レボリューショナリー・ロード』の夫婦みたいになってただけだよ、きっと!っていう(笑)。

あと、不健康生活さんくらいの年齢だと、同世代が結婚したり出産したりっていうのが、本格的に増えてくるころでもあるでしょうからね。

それで余計なプレッシャーを感じさせられる場面が増えている、というのもあるのかもしれない。

でも、だからってそういう人たちが自動的に「幸せ」になるわけじゃないし、もちろん不幸を感じることがなくなるわけもない、というのも、これまでしつこいほど繰り返してきた、考えてみりゃ当たり前のことで。

そして、そうやって結婚や出産を選んだ人の人生をバカにする権利など誰にもないのと同じように、その選択をしてない人を他人がとやかく言う筋合いなど、言うまでもなくまったくない。

厳密に言えば、とはいえ前者は現状の社会では主流派的に認められている側なので、その潜在的な暴力性や抑圧性は後者と「同じ」とは言えないわけですが……、でもまぁとにかく、誰であれ人の生き方をジャッジなどすべきじゃない、ということに変わりはない。

とにかく、不健康運動さんの「周囲」ではまだまだそんな感じが多数派なのかもしれないけど、現在の良識から見れば明らかに、どうかしてるのはその人たちのほうですよ。


不健康運動さんはこのままの考えでいいってことですよね。


そうだし、もっと自信持っていい。ていうか、持ってほしい。

好きなものを好きでいる、それに勝る幸せなし!という、なんなら僕が常日頃推奨してる生き方をまさに実行してるような人が、よりによってこんなに苦しむことになってしまったなんて……、追い込んだやつら、許さん!という感じですよ。


「周囲」の人め~!


とはいえ、そんなやつらに対処するためになんらかのコストをかけること自体、ばからしいじゃないですか。

だからやはり、心理的にも物理的にも距離をおく、文字通り「取るに足らない」存在として扱う、というのがいちばんじゃないかと、僕は思いますが。

さっき言った「孤独」の話って、まさにこれですよ。
合わない他人がなまじそばにいることで、余計な孤独を感じさせられてしまった、って話で。

だから、手近な他者をその解消に求めるのは、むしろ逆効果。

逆に、元々の不健康運動さんみたいに、自然と単独行動が楽しめてるような人は、本当は「人間の本質的な孤独とうまく付き合ってこれてる人」なんだと思いますよ。

孤独なんぞデフォルト。だけど、たくさんある好きなものを通じて魂は豊かに他者とつながってるんだから、ホントは不健康運動さんみたいな人こそが、勝ち組なんですよ!

不健康運動さんには釈迦に説法だろうけど、たとえば100年前に書かれた小説だけど、これは自分のことだなぁって心から思えることとか、あるわけじゃない?

つまり、隣にいるバカは私をひたすら孤独にするだけだけど、とっくに死んじゃった昔の外国人が、今この瞬間の私の孤独を救ってくれた、そっちとは話がぜんぜん通じた!ってなことは、世の中いくらでもあるわけですよ。

てか、それが人類の文明というものだから! そこで初めて、さっきから言ってる人間の本質的な孤独が、少しだけ救われる、と言ってもいいくらい。

一方で、その「周囲」でごちゃごちゃ言ってくるやつら……、こういうのって、セクハラとかパワハラみたいなネーミング、されてないんですかね?

ライフハラスメント? 生き方ハラスメント? 生きハラ?

とにかくなんか、有害認定するような言葉が必要なんじゃないかと思うくらい。


多様なことを許せないってことなのかしら?


というか、自分の選択や生き方を肯定してほしすぎて、それとは違うものをサゲようとしちゃう、みたいな心理だと思いますけどね。

なんにしても「生きハラ」、いいかげんナシな世にしてきましょうよ!

そして不健康運動さん、エンターテインメントやアートを楽しめるということこそ、人類に与えられた最大の恩恵ですから。

改めて、あなたは間違ってない!


このままの考え方で楽しんでいって欲しいですね。そうすることで、不健康運動さんのような方で、もしつらい思いをしている人がいたら、救われると思うので。ご自身の生き方で!! 本当に応援しています!!




【今週のお絵描き】

画・宇多丸



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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※7/9からはKing of Stage Vol. 15
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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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