「夢の国でバイトしてる」と嘘をついてた彼。受け入れられない私は心が狭い?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室111】
✳️今週のお悩み✳️
私には付き合って3ヶ月間になる一つ年上の彼氏がいるのですが、最近彼氏のしょうもない嘘を知りました。彼は、夢の国でアルバイトをしていることが誇りらしく、会うと毎回バイトの話をします。しかし、その話を共通の知り合いである先輩にしたところ、「え、あいつバイト先コンビニだよ」と言われました。そして、その後彼に聞いたら、最初はかたくなに夢の国だと主張していましたが、先輩に聞いたと言うと、本当のことを白状しました。嘘の内容のしょうもなさと、嘘の意図がよくわからず、問いただしたのですが説明もよくわかりません。「いつか夢の国でバイトしたいと思っている」ということしか伝わってきません。あれ、この人頭おかしいのかなと思い電話を切って、困惑しながらも別れることを決意しました。別れる理由が自分でも笑ってしまうのですが、意味不明すぎるしょうもない嘘をつきとおしていたことに冷めてしまいました。ちなみに私は夢の国は好きではありませんし、彼にそのようなことも言っていませんが、彼なりに見栄を張りたかったのだと思います。それを友人や先輩に相談したら、「え、そんなことで別れるの? 許してあげなよ。いい人だよ」と言われました。2人にしか相談していませんが、2人ともこのような反応です。許すとか許さないとかそういう次元ではなく、私にとって彼氏は関わりたくない人カテゴリーに入ってしまったのでどうしようもありません。今度会うときに別れを切り出すことはほぼ変わりないのですが、この件をどう処理すべきかよくわかりません。この嘘を受け入れられない私は心が狭いのでしょうか。
(みりん・20歳・埼玉県)
宇多丸:
本題に入る前に念のため。みりんさんが言ってる「夢の国」って、もちろん「ディズニーランド」のことだよね?
だとしたら、この場でわざわざ名前伏せる必要、なんにもないと思うんですけど……。
こばなみ:
ちなみに宇多丸さんはディズニーランドは好きですか?
宇多丸:
だ~いすきですよ!
実は結構な歳になるまで、「あえて行かない主義」で通してたんですけどね。 でも、大学5年のときかな? サークルの後輩たちに連れられて意を決して行ってみたら、やっぱ最っ高~!って。 ワールドバザール付近でもう、あの「細部までいちいちよくできてる感」にヤラれてはしゃぎまくっちゃって、後輩たちに「士郎さん(僕の本名)、中に行けばもっといっぱいすごいとこありますから……」って呆れられたくらい。
僕、そもそもいわゆる「館もの」が大好きなんですよ。博物館とかテーマパークとか。 それ自体はまったく生産的じゃない巨大な展示物や仕掛けが、とんでもないお金かけてドカーン!と置いてある、あの空間の異常さ、怖さがたまらなくてさ。 で、ディズニーランドなんかまさにその王様だもんね。嫌いなわけがない! ちなみに、一番好きなのは「イッツ・ア・スモールワールド」です。やっぱ、ぶっちぎりで狂ってるから!
で、問題のこの彼ですけど……、まさしくリアルにクレイジーというか、そこはかとないサイコパス感すら漂わせるエピソードですよね。
見栄張っちゃったにしたってセコさが異常というか、価値観が謎すぎだし、言い訳の仕方の「中身のない前向き感」もなんだか気持ち悪いし……、みりんさんが決定的に引いてしまうのも当然だと思いますよ。
こばなみ:
みりんさん、心が狭くなんてないですよね、全然。
宇多丸:
ハタチそこそこ、付き合って3ヶ月、と。
たしかに、そろそろ相手の他者性が目につくようになって、モメたり別れたりはしやすくなってくる時期かもしれないけどさ。
この彼のケースは、向こうの意図がよくわからなすぎて、なにかもう、コミュニケーション不能な感じがする域まで行っちゃってるもんね。
本当の意味で「何を考えてるかわからない人」と対峙していることに気づいてしまった恐怖感というか。
ちなみにこばなみは、このレベルで彼とかに嘘つかれたこととかってある?
こばなみ:
不気味なのを1つ。マンションに住んでるって言ってたメンズがいたんですけども、何かの拍子に住所を見たら、明らかに一軒家の住所だったんです。あれ?って思って聞いたら、シェアハウスだって言われて。でもなんか辻褄合わないなぁ、おかしいなぁ、だったら最初から言えばいいのにって思って、夜な夜なGoogleマップで見ちゃったら、ふつうに表札のある一軒家で、しかも子供用の自転車とかあってビックリ!
で、問いつめたら、泣き始めて、「人には言えないことがある」「マンションも持ってる」とかって説明も意味わかんなくて。 しかも、既婚ならまだしも、既婚ではないと言うし、それに絶対に家庭があるとは思えないサイクルで旅行をしてたんですね。だったら離婚したとか別居中とか言えばいいのに、泣くだけだからさらに不気味さを感じ……。
気持ち悪くなってシャットダウンしました。
そんな人だと感知できず近づいてしまった自分も本当にダメだなって。いつも言ってる「授業料」ですね。
宇多丸:
ひえ~……、それはかなりキテるね……。
こばなみ:
女子部員さんからこんな意見もありましたよ。
Q.異性にしょうもない嘘をつかれたことはありますか? それはどんな嘘ですか?
この辺までは、え?と思うけどまだ理解できたのですが、以下はなかなかツワモノ。
宇多丸:
なんにせよ、その人を支える根本の行動原理みたいなものまで疑わしく思えてきちゃったら、もう普通に付き合い続けるのは難しいよね。
何度も引用しますけど、「愛するということは信じるということで、それ以外の方法はない」(映画『カジノ』より)ってことですから。
なのに、みりんさんが相談した友人や先輩の、答えの的外れっぷり、頼りにならなさと来たら……、こっちはそれなりの理由があってそいつが理解不能で怖いって言ってるのに、ただ「そんなことで」とか「いい人」とか言われても、なにひとつ納得なんかできねぇよ!
こばなみ:
常々気になっているんですけど「いい人」って表現、どうなんでしょうかね。
何をもっていい人って言うんですかね?
危険な言葉じゃないですか? 顔がいいとか羽振りがいいとかはわかるんですけど、いい人、つまり性格がいい人ってこと……? どんな人でもいい面と悪い面、あるじゃないですか? それをばっくり「いい人」ってまとめちゃうのってどうなのかな、って。
この彼だって「いい人」っていうけど、実際ヤバいわけだし。
宇多丸:
せめてさ、今回の件なんか「そんなこと」レベルでチャラになるほど、絶対信用していい「いい人」だとお前らが断言するその根拠を、具体的に示してみろっての!
どうせ、「自分に対しては“いい人”だった」って程度の、一面的な印象で話してるだけなんだろうけどさ。
僕が大好きな『エル』って映画に、病的に嫉妬深い男と結婚してしまった女の人が、周囲に彼の異常性を訴えるんだけど、そいつは世間的には信心深くて真面目な名士で通ってるから、誰も取り合ってくれないどころか、「あんたのほうが悪いんじゃないか」って逆に責められちゃって、より絶望が深まってしまう、っていうくだりがあって。 今回のみりんさんの境遇にも、似たものを感じちゃいました。
一方、これも僕のオールタイム・フェイバリット映画『ヤング・ゼネレーション』の中盤、主人公が、それまでずっと素性を偽っていたことを意中の女性に告白するっていう展開があって、当然のようにその女の人は大いに悲しみ憤るんだけど、後になって、ちょっとだけ彼のことを「許す」のね。 なぜかと言えば、彼女には、彼がなぜそんな嘘をついてしまったのか、その気持ちが少しだけ理解できたから、だと思うんです。
でも、みりんさんの場合は、ご自身もはっきり仰っている通り、許すとか許さないとか、そういう次元の話ではもはやないですからね。 彼の嘘とそれがバレたときの言い訳は、少なくともみりんさんや僕らにとっては、弱さとかズルさといった人間的な心理として理解できる範疇を、微妙ではあるけど決定的に、越えてしまってる。セコさの発露にしたって、ちょっと常軌を逸してるだろ!と。
もちろん、ひょっとしたら彼も、先輩や友人が言う通り、ほかの部分ではまったく問題ない「いい人」で、今回たまたまこの件についてだけ魔が差してしまっただけ、なのかもしれないけど……、もし仮に本当にそうなのだとしても、こちらにとっては、いったん「コミュニケート不能=怖い」とまで感じてしまった人物を、再び「最も信頼できる相手=パートナー」ってとこまで思い直せるかっていうと、それはやっぱり難しいよねぇ。
ということで、「こいつ、ナシだわ」と即決したみりんさんの判断は正しいし、倫理的にも責められる筋合いのものじゃないと思います。 それより、無事に別れられてるといいですけどね……、ぞぞっ!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年9月5日に公開したものを再編集し、掲載しています。