人材派遣業務の常識を覆す「電話面談」に一人で挑戦。目指すは、誰もが幸せに働ける職場づくり。
2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。
今回は
今回は人材ビジネスを行う
ワークスアイディ株式会社さん
におじゃまして、
ダイバーシティに取り組む
朝比奈一紗さんにお話を伺いました。
「人材派遣業務はこうあるべきだ」。そんな常識を覆し、社内に働き方改革をもたらしたワークスアイディ株式会社 HRS事業統括本部 HRSマーケティング部長の朝比奈 一紗(あさひな かずさ)さん。2021年には、フラットな関係性による“SHOKUBA”の共創に光を当てる「リクナビ NEXT」主催の「第7回 GOOD ACTIONアワード」にて審査員賞を受賞、第8回の同アワードでもノミネートされました。
なぜ朝比奈さんは社内の働き方改革に取り組むことになったのでしょうか。そして、キャリアとどう向き合い、仕事に取り組んできたのでしょうか。また、今後の目標は? あれこれ聞いてみました。
<History>
「でも、このままでは自分の居場所がなくなると気づいたんです」
——まずは、ワークスアイディさんの業務内容や社員構成について教えてください。
会社の事業としては大きく2つありまして、ひとつは人材派遣業務などの「人材ビジネス」、もうひとつが単純作業を自動化するようなRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をはじめとした「DX」に関する業務になります。
社員は全部で541名おり、男女比は女性が43.4%と、やや男性が多めでほぼ半々に近い状態ですが、役員を見てみると男性が中心です。平均年齢は32.8歳で、20代が最も多く4割を占めています※。
※派遣社員・契約社員を除いた数値(2022年11月時点)
——朝比奈さんは、今どのようなお仕事をされているのでしょうか。
今はHRSマーケティング部という人材派遣業務の営業活動以外全部を行うような部署の部長をさせていただいています。メンバーは現在15名で、うち13人が女性ですね(2023年1月時点)。
——これまで、いろいろなチャレンジをされてきたと伺っています。現職までの経歴を教えていただけますか?
この会社は私にとって2社目ですが、入社当初は人材派遣の営業職に配属されました。新規のクライアントを開拓したり、スタッフさんをクライアントさんに紹介したりといった業務を担当していたのですが、5年目に人材開発事業部という新設の部署に左遷されまして(笑)。当時は、まだ全社の社員も200名ほど。新設の部署に上司と私の2人が配属されたのですが、1人あたりの仕事量も多いなか「私たちが抜けていいんですか?」という状態でした。
当時、社内に人事的な部署がなかったため、人材開発事業部で人事部の先駆けを作ってほしいという意図だったようです。でも、弊社の社員はみんな、人材系の法務や人事的な知識を持っていました。知識的な面でフォローは必要されていないし、私たちが面談をするというのも図々しい……。でも、このままでは自分の居場所がなくなると気づいたんです。
そこで、営業職時代を思い返し、効率化できる業務はないか、スタッフさんにもメリットを感じてもらう方法はないかと考え始めました。
「本当にこのプロセスが必要なのかと客観的に見る機会が生まれた結果、『電話面談』を生み出すことができました」
——部署異動が、働き方改革へ進むきっかけだったのですね。
そうですね。当時の営業は、働き方がホワイトな今と違い、昼間は外回りを行い、夕方帰ってきてから事務作業や面談をして、退社するのは21時や22時頃という日も。
さらに、その頃「人材派遣で働きたい」という人には、会社に来てもらって経歴などを登録してもらう必要があったのですが、会社に「交通費は出るのか」「休みを取って行くが、絶対紹介してもらえるのか」といった問い合わせの電話も多かったのです。
人材派遣業とはそういうものだ、と思っていたのですが、営業職ではなくなったことで、本当にこのプロセスが必要なのかと客観的に見る機会が生まれた結果「電話面談」という方法を生み出すことができました。
——営業職の負担を減らすというのが、一番の目的だったのでしょうか。
そういった一面もありますが、電話の問い合せを受けて感じていたのは、登録に訪れるスタッフさんの負担。それを少しでも軽くすることも目的でした。なぜなら、弊社はだれでも聞いたことがある大手企業というわけではありません。弊社を選んでもらうために、何か差別化する必要がありました。
——電話面談は、朝比奈さんが一手に担っていたのでしょうか。
はい。当時、面談はコーディネーターと呼ばれる人が行うことになっていたので、「営業職経験のある自分が担当するのなら、問題ないでしょう」ということで電話面談を始めました。
これまでの対面の方法だと、1人あたり2時間かかるようなケースもあり、1日8時間で最大4人が限界でした。でも電話面談では、1人あたり30分で進めることができ、1日8時間で16人と面談することもできたのです。この結果を上司に報告していたのですが、突然登録者数が増えたので「何が起きているのだ?」と、経営陣はびっくりしたようです。
そのタイミングで、ある育休明けの方が職場に戻ってくることになりました。どの部署に配属するかという話になったのですが、最終的に私の部署にくることになりました。電話面談の仕事なら、決まった時間に行って切り上げることができるため、限られた時間の中で活躍できる結果に。周りからは、「退社する18時までの間に、16人も面談しているけど、何をやっているの?」と注目を集めるようになりました。
「産休・育休から職場復帰した方たちの居場所作りもしたかったんです」
——効率化のための電話面談を取り入れたことが、産休明けの方の働く場につながっていったんですね。
当時は残業するのが常になっていたので、自分自身が早く帰りたいという側面もありつつ(笑)、産休後の職場復帰のモチベーション作りも重要だと考えていました。そのための仕組みを作りたかったのです。
職を失ったら保育園も退所になると、そのとき初めて知りまして。どうせ働くなら楽しく働いた方がいい。そのためにも、産休・育休から職場復帰した方たちの居場所作りをしたいと思っていたんです。
どういうロジックなら上層部にも納得してもらえるかを考え、目に見える数字なら理解してもらえるのではと思い至りました。その結果、産休明けや扶養内で働きたいという女性が集まり、チーム化していくことができました。
——その次には、どのような展開をされたのでしょうか。
次に目指したのは、営業の仕事を軽くすることです。営業経験があったからこそ、営業の人たちにとって「かゆいところに手が届く」対応をすることができました。まずは事務処理を自分が担い、営業から信用を得ていったのです。
——朝比奈さんが仕事の範囲を増やしていくことに、社内から反発などはなかったのでしょうか。
もちろんありましたが、結果を出し、上層部に認めてもらうことで反対意見に対抗しました。それに、私たちが電話面談や事務処理などを担えば、常態化していた残業も減らすことにつながり、今は不満なく仕事ができるようになったと思います。
「様々な働き方を受け止めることこそ、人間関係なんだなと感じます」
——女性活躍推進という面においては、これまでどのような変化がありましたか。
かつては女性の比率が低く、役職についている人はほぼゼロという状態でした。しかし、今ではリーダーレベルなら男女半々に。マネージャー職をみても、女性が増えてきたと感じます。
また、私が入社した当時、女性は結婚したら「ワークライフバランスが取れないから」と辞めてしまう方が多かったのですが、今は年齢を重ねた女性も増えています。
——社内の状況が変わっていった要因としてどのようなことが考えられますか。
世の中の流れもありつつ、手前味噌になりますが、自分たちのチームの存在感もあるのではないでしょうか。いろんなところで同時多発的に変化していったのだと思います。なにより上層部が理解してくれたことも大きかったと思います。
でもそれは、実績があったからなんですよね。自分だけでなく、チームメンバー、直属の上司の働きがあって、役員や社長の目線が変わってきた。カメラのポジションに変化がおきたことで追い風になったのだと感じています。
——朝比奈さんはもともと営業職志望のキャリア志向だったとお聞きしました。部署が異動になったことをきっかけに、マイノリティーになっている女性の存在に気づいたことで、ご自身にはどのような変化があったのでしょうか。
前の会社では、周りはほとんど男性で紅一点のような状態。そのなかで気づいたことは、男性は社会に出て働くことが当たり前という風潮がある。働くための動機付けが必要ないんです。一方で女性は、出産、子育てといったライフイベントによって生活が大きく変化するなかで、専業主婦になるなど働く以外の選択肢を選ぶ人も多いです。そこで「なぜここで働くのか」というモチベーションが必要なのではないかと感じました。選択肢が多い分、マネジメントも1つの方法では通用しないんです。
そのことに気づいたのは、最初のチームができたとき。自分にとって「フルタイムで働く」ことが常識だと思っていましたが、そのときのメンバーは扶養内だったり子育てしたりなど個々の事情で、さまざまな働き方をしていたのです。こういった彼女たちの個性ともいえる働き方を受け止めることこそ、人間関係なんだな、とそのとき気づきました。
みなさん、それぞれ得意分野があってプロフェッショナルなんですよ。お互いに支え合っている感じです。
「もう男性・女性という枠組みではなくなってきています。女性だけというのは幅が狭い議論です」
——コロナ禍によって世の中の働き方も大きく変わってきました。在宅勤務も増え、女性が仕事と育児を両立しやすくなっていると言われますが、御社ではどのように感じていますか。
広い目線で見れば、もう男性・女性という枠組みではなくなってきています。例えば、弊社では今、障がい者雇用について話し合っているのですが、そう考えると女性だけというのは幅が狭い議論ですよね。
でも、逆に考えると、まだ女性という部分しか問題を拾い上げられていないのかもしれないとも感じます。障がいのある方や外国人の方の雇用など、もっとほかに拾い上げなければいけない問題があるはずなんです。
また、弊社の上層部にはまだ女性の役員がいません。それも課題の1つだと思っています。
——今後、朝比奈さんの中で取り組んでいきたい課題はありますか?
男性・女性関係なく、人にはそれぞれ特性があります。男性だから営業職、ではなく、男性でも事務が得意だったり、家事が得意な人がいると思うんです。そういった人を内包できる部署にしていきたいですね。その先駆けとして、障がい者雇用を行いました。
また、働かなくてもいいなら、誰も働かないと思うんです。だからこそ、ひとり一人がなぜ働くという選択肢をとっているのか、一度立ち止まって考える機会を持った方がいいと感じています。そのとき「実はこういうことが実現したい」と思う社員がいたら、それを実現するための手助けができるような部署を作りたいです。
最終的には、一人一人の幸せを追求できるような部署にしていきたい。そして、社長にも話しているのですが、最初の女性役員を私は目指しています(笑)!
<お話を伺った人>
ワークスアイディ株式会社 HRSマーケティング部 部長
朝比奈 一紗(あさひな かずさ)さん
取材・文:ミノシマ タカコ/撮影:田中 亜玲