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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室412】二人で観て盛り上がり、また観に行こうと約束した映画を、映画評論家の低い評価により「もう行かない、面白くない映画だから」「考え方は変わるものだから」と言う彼。正論だけど納得できず……。


✳️今週のお悩み✳️
私には同い年の彼氏がいるのですが、先日彼と少し喧嘩をしてしまい、悩んでいます。私も彼も映画が好きで、よく一緒に映画館へ出かけるのですが、ある映画を一緒に観たときに二人ともすごく楽しんで、面白かったからまた絶対観に行こうと約束しました。それから一週間後に私が観に行こうと誘うと、彼からは「その映画あまり行きたくない、別の映画にしよう」との返答。急な心変わりを不思議に思って理由を聞くと、どうやら彼の大好きな映画評論家の方が(宇多丸さんではないです。念のため)、その映画を結構低く評価していたらしいのです。彼曰く、だからその映画はもう行かなくていい、面白くない映画だから、とのことらしいのです。私としてはこの彼の行動に戸惑ってしまって、「でも面白いって言ってたよね?」と聞くと「そのときはそう思ったけど今は違う。考え方は変わるものだから」との返答。彼の言い分は正論だとは思うのですが、私は何故か素直に納得できずにちょっとした口論みたいになってしまいました。
結局その映画の2回目を観に行くことはなく、この件に関してはお互い気まずいのもあって二人とも触れないようにしています。彼はもともと映画の感想を話すときも、〇〇さんはこう評価していた、と著名な映画評論家の方の発言を引用することはあったのですが、それまでは特になんとも思っていなかったのに、この件以降、彼が映画評論家の方の意見を引用するとなぜか少し嫌な気持ちになります。ただ冷静に考えても、彼は一切間違ったことは言っていないため、自分でも自分が何故嫌な気持ちになるのかいまいちわかりません。この胸に残るわだかまりはどうやって考えれば処理できるのでしょうか? またこのような場合無理に2回目を誘うのはよくないことでしょうか?
(パクチー本当無理・22歳・学生・静岡県)


宇多丸:
パクチー本当無理さんは、ここまでとても、大人の対応をしてると思いますよ。

こんなもん単に「は? 聞いたふうなこと言ってんじゃねぇぞ!」と一蹴したっていいところ(笑)、できるだけ彼の言いぶんを尊重しようとしてくれてる。

自分はそういう優しさに甘えさせてもらってるだけなんだってこと、わかってないんだろうな~、彼は。

ただたしかにね、僕は彼の気持ちも、正直よくわかるんです。

今のところそれが人としてダメダメなかたちで表出しちゃってる、要は人間的に未熟すぎる、というのは大前提としてなんだけども、特にそのくらいの年齢ならば、現状の自分よりちょっと背伸びした自画像を描きたくなるのはある意味自然だし、まさにそうした姿勢にこそ成長の余地というのは生じるものだろう、とも僕は考えているので……、僕自身もまさしくそうだったし。

たとえば、映画のファンというのもいろいろだけど、単にその場限り楽しむだけじゃなくて、作品の見方をより深くしたい広くしたい、というような向上心を抱いている人であれば、尊敬してたり信頼してたり参考にしてたりする評論家や研究家の1人や2人、やはり必ずいるもんだろうと思うんですよね。

で、自分が観たときはいいと思った映画をその人がけなしてるのを後から知ってしょんぼり、なんならこっちも微妙に評価を修正(笑)、みたいなことって、わりとよくあることだと思うんですよね。

そうやって、自分だけでは得られなかったような知見に触れて、それまでの自分の考えにゆさぶりをかけるためにこそ批評というものはある、とさえ言っていいくらいで。

むしろ、評論家がなんと言おうが関係ねぇ、自分が素直に感じたことがすべてだ!的な、威勢のいい「“素朴な正論”風の持論」に閉じこもって良しとしているようなタイプより、自分の見方はまだまだなってないのではないか? 理解や知識が浅いだけなのではないか?と常にぐらぐらぐらぐら自問自答して、なんとか他者から学び続けようとしている、たとえばパクチー本当無理さんの彼みたいな人のほうが、少なくとも僕はずっと好きですし、実際作品をより豊かに味わえる可能性が高まるのも、やはりそっちだと思います。

だから、パクチー本当無理さんと一緒に楽しんだはずの作品を尊敬してる人が低く評価してることを後から知りゲッ!となる、ここまでは、それこそ今の僕でもたまにあることだし(笑)、まぁしょうがないことだと思うんですよね。

ただ、おそらく彼はまだ、その評論家がなぜその作品をあまり高く評価していないのか、それに対して自分が初見では楽しいと感じたのはなぜなのか、といったことを、完全には消化しきれていないというか、自分なりの意見とかロジックに昇華する、というところまでは行っていない感じなんですよね。

本当は、自分が最初に素で感じたことや考えたことと、それとは異なるが傾聴に値する他者の見方、その両方の偏差を俯瞰して整理・分析したうえで、必要なら独自に資料を調べてみたり、なんなら作品を再見してみたり、そういうプロセスを経てようやく、とりあえずの「自分なりの見方」みたいなものが形成されてゆくわけで。

これは映画に限らず、どんな鑑賞体験に関しても同じことが言えると思うんだけど。

自分だけの傲慢な思い込みだけでもダメ。かと言って人の言うことに振り回されてるだけでもダメ。

何事も「主観」から始まるのは当然として、それを複数の「客観」で鍛え上げ、ひとつの「作品観」まで持ってゆく、みたいな順というか。

しかるに彼は、残念ながら今はまだ「人の言うことに振り回されてるだけ」の段階にいるっぽいので、ただ憮然と「もう観た当初のようにいいと思えなくなった」と言うことしかできなかったんでしょうね……、気持ちは痛いほどわかりますが!

パクチー本当無理さんからしてみりゃ、そりゃ納得いかないよねぇ……。

そもそもその彼みたいなめんどくさいヤツは、人と映画なんか行かないほうがいいんだよ!(笑)

実際、映画好きほど基本ひとりで観る率は高いと思いますよ。フットワーク軽く連チャンしたい、とかもあるし。

こばなみ:
じゃあ、パクチー本当無理さんのモヤモヤやわだかまりはどうすればいいのですかね?

いったんは意見が合って、盛り上がったのに一転……って感じだから、納得いかない感はハンパないと思うんですよね。

宇多丸:
要は、映画の見方を人から学んでる最中なのは彼の勝手だけども、一緒に観に行った人を同意なくそこに巻き込むのはマナー違反だろ!ってことですよね。

ましてパートナー同士、二人にとっての楽しかった思い出や楽しみにしていた約束を、片側が後から一方的に書き換えてしまうというのは、あまりにもフェアじゃないし、身勝手すぎる。それはホントに、間違いない。

だからまぁやっぱり、以上のような全面的にこっちに理がある抗議を、もちろん深刻な傷は残さない程度に言葉は選びつつも、機会を見てきっちりする、ってことじゃないですかね、すでに生じてしまったわだかまりをなんとかしようとするならば。

こばなみ:
しっかし、○○さんが言ってたって……、なかなか堂々とは言うの、なんか恥ずかしいですよね?

宇多丸:
まぁ、価値観を共有してない相手に言えばほぼ100パー嫌われるかバカにされますね(笑)。

それこそ僕とか、その流れ弾でどんだけ嫌われてるかわかんないよ!

「何かと言うと『宇多丸がこう言ってた』と持ち出すやつらウザい」的な……、いやもちろん、そうやって影響を受けていただくこと自体は大変光栄なんですども。

出し方出す場所、ちょっと考えて!(笑)

これはだから、さっきから言ってる学ぶ姿勢とかいうこととは別の、コミュ力の問題ですよね。

どんな考えや知識も、それを忌憚なくぶつけあってもいいという合意がとくにない場でひけらかしたり、まして異なる意見を否定するために持ち出したりしたら、不快に思われるのは当たり前でしょう。

僕だってプライベートでは、たとえば誰かがいいと言ってる映画を面と向かって否定したりなんか、絶対しないですもん!……今はね(笑)。

まして今回のケースでは、パクチー本当無理さんはその映画をまた一緒に観るのを心底楽しみにしてる、ということははっきりわかってるわけだからさ。

個人的に気が進まなくなってしまったのはある種仕方ないことだとしても、彼女への伝え方、もしくは伏せ方については、最低限の礼儀としてよーく考えて臨むべきだし、実際の彼の言動からはそういう気遣いみたいなものがまったく感じられない。

ダメですね! 言うまでもなく。

こばなみ:
たしかに彼は説明不足。そして、モヤモヤに追い討ちをかけてきましたよね。

宇多丸:
たぶんだけど、さっきも言ったように、彼もそこまでちゃんと説明できるほどには、その評論家の評価の論拠みたいなものを理解してるわけじゃないんだと思いますよ。

だいたいさ、「作品そのものに内在する確定的な価値」みたいなもんがあるわけじゃべつにないし、だからこそプロの評論家同士、映画研究家同士でも、人によってまるっきり言ってること違うのがむしろ当たり前で健全なわけで。

その彼も、1回目であれほど面白く感じたものが、否定的な視点を入れた2回目以降どう変わるのか?ということをたしかめる意味でも、普通にもう一度観に行ってみればよかっただけなのにな、と僕は思っちゃいますけどね。

たとえば僕はラジオでの映画評のために、その週のうちに最低でも2回は課題の作品を観直すんですけど、なぜかと言えば、毎回新たな発見や気づき、感触の変化というのがほとんど絶対にある、と断言できますし、もっと言えば、「どんな映画も2回目以降のほうが必ず面白くなる」から、なんですよね。

もちろん一度目の新鮮な印象というのも、決して再現はできないんだから、それはそれですごく大切にしなきゃいけないし、パクチー本当無理さんの彼はまずそれがちゃんとできてない、とは言えるかもしれないけど。

一方で二度目以降というのは、なぜこんなに良く感じるのか? もしくは良くなく感じるのか?という理由が、より明確に見えてきたりもするので。それってめちゃくちゃ「面白い」ことじゃないですか。

あとはそれこそ、あんなに当時は面白く感じたのに、久しぶりに観直してみたらなんかそんなでもねぇな、とかだって、ザラにありますしね。

もちろんその逆で、ようやくこれの良さがわかってきました、というパターンもある。比率としてはそっちのが多いかもしれない。

いずれにせよ、こっちもそれなりに成長……、少なくとも変化し続けてるわけですからね。

こばなみ:
そういう観点で2回目に行くのはあり?

宇多丸:
ただ彼はもう、その作品に対してはっきり否定的な発言というのを、パクチー本当無理さんに向かって直接してしまってますからね、

仮に結局二度目に行くことになったとしても、当初の「二人で一緒に盛り上がった」感じからは、どうしたってほど遠いものにはなってしまいますよね。

その意味で、今さら強く誘い直したところであまりいいことにはならない、というのはほぼ間違いないと思う。

つくづく、彼の無配慮がすべてを台無しにした、という話なわけですけど……。

本来デートで行く映画って、何よりも二人が楽しく過ごすというのが最優先の目的なわけで、そもそもシビアな「評価」なんかべつに求めてないよ、ってことなんだけど、今の彼はそれより、「あの人が低評価していたものを最初うっかり面白いと感じてしまったオレ」を、一刻でも早く完全なる過去に押しやりたい!という、その一心なんでしょう、おそらくは。

つまりやっぱり、あらゆる意味でちゃんとは考えきれてないレベルなんだよね、まだ。

なので、残念ながらそれなりに軋轢が生じるのは覚悟のうえで、ということにはなってしまうかもだけど、パクチー本当無理さんが本気で今回のモヤりを解消したいのならやはり、「あなたの振る舞いはアンフェアで失礼だったと思うし、私はそれで無用に悩んだし傷ついたんだ」ということは、彼に伝えていいと思う。

彼はまず、その事実にすら気が回ってない状態だろうから……、それゆえ、痛い指摘をされて逆ギレなどをしてくる可能性もありますが、だとしたらそれはもう、現段階での彼の人間的限界そのものなので。それ以上こちらができることは今はない、と言うしかない。

そのうえでなお、彼に聞く耳がまだありそうならば、「一緒にせっかく映画に行くなら、意見が完全に一致しなくてもいいけど、それで嫌な気持ちになったりはしたくないじゃん? 逆に言えば、そこでお互いの感じ方を尊重しあえないなら、そもそも一緒に行く意味ないってことになっちゃうじゃん?」「それでもどうしても“自説”を曲げたくないというなら、今後はそういう、議論を戦わせたくてしょうがないような人同士で行ってください」とか、そんなことまで言えたらいいですけどね。

こばなみ:
まっとう!

宇多丸:
そこまでがっつり苦言を受け入れてくれるような人だったなら、そこからさらに、こっちもちょっとだけ歩み寄ってあげる、というところまで行ってもいいかもしれない。

それこそ、あなたがそこまで心酔している評論家ならば私も興味あるから、読んでみようかな、とか。

それで結果ホントにお互いガンガン意見を戦わせるようなとこまで行ったとしたら、それはそれでぜんぜんいいわけじゃないですか。

同い年の大学生カップルだからこその、張り合うことで互いの成長をうながす関係性、というかさ。僕はそれ、とっても素敵なことだと思う。

で、いずれ問題の映画に関しても、パクチー本当無理さんが「○○さんの言ってること、あんた誤読してるよ!」とか逆襲したりね(笑)。

あるいは、「○○さんが言ってることも理解できるけど、また別の評論家○○さんはこういうことを言っていて、こっちにも理があると思うし、私の考えはどっちかというとこっちに近いかな」とか。

そのうち彼のほうが、パクチー本当無理さんの「○○先生が言ってた」シリーズに「うざっ!」ってなりだしたりして(笑)。

まぁとにかく、彼がそこまで影響を受ける対象に興味を持ってあげる、というのもひとつの手かもしれないとは思いましたが、それもこれもまずはやっぱり、彼が自分の無神経さに気づいて反省・謝罪してくれてからじゃないとな、という気がします。

そうじゃないと、パクチー本当無理さんが一方的に不愉快さを飲み込んだままになってしまうから……。

こばなみ:
うまく伝わって、わだかまりがなくなるといいですね。

宇多丸:
それにしても、映画は何で、評論家は誰なんだろう?
僕はむっちゃくちゃ気になります……!(笑)


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2022年10月1日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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