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意見を変えることが多い、どっちつかずな性格。この弱々しい自分を変えるにはどうしたらいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室371】


✳️今週のお悩み✳️
どっちつかずな自分の性格に嫌気がさしています。たとえば、オリンピック開催についてどう思うか。最初はコロナなのに……と思っていたのですが、始まってみたら楽しんでいる自分がいます。流されやすい体質だなとがっかりします。これだけではなく、仕事でも人の意見やその場の雰囲気で、意見を変えることが多いです。そのときどきでは考えて結論を出しているつもりですが、一貫性がないのではないか、自分がないのではないか、と、どんよりしてしまいます。宇多丸さんは、いつもきちんとご自分の意見があり、羨ましいです。この弱々しい自分を変えるにはどうしたらいいでしょうか。アドバイスをいただけないでしょうか。
(ヒヨ・36歳・会社員・東京都)


宇多丸:
まず先に言っておくと、今回の東京オリンピックの開催そのものに対する意見と、個々の競技の具体的な中身から喚起される感情というのは、まったく別の話ですからね。

むしろ、オリンピック開催には反対だけど競技には正直グッとくる自分もいるとか、逆に選手は応援してるけどいろんな状況を考えると手放しで楽しめる感じでもないとか、要はひとりの人のなかに何層もの考えや感情が折り重なっているというのは、ごくごく普通のことでしょう?

もちろん、反対なら反対、賛成なら賛成と、シンプルに振りきったスタンスの人だっていていいわけだけど、だからって、そうじゃない人を筋が通ってないみたいな言い方で責めたりするのは……、実際そういうこと言う人もちょいちょいいるようだけども、ぶっちゃけすっごく子どもっぽい揚げ足のとり方するなぁ、って感じがしちゃいますよ。

これ、コロナに対するスタンスの違いで生じる対立、とかにも通じる話ですよね。

こばなみ:
本当にそうですね。なんていうんだろう、なんもかんも矛盾をついてくる、変な方向で不寛容っていうんでしょうか。

宇多丸:
で、それに限らずですけど、そもそも「意見を変える」ってこと自体も、本来悪いことでもなんでもないはずなんですけどね。

「人の意見」を聞いた上で「そのときどきでは考えて結論を出している」って、なんの問題もないと思うんですけど。

「宇多丸さんは、いつもきちんとご自分の意見があり」とおっしゃっていただいてますけど、僕だっていろんな情報をさんざん参考にした上で、あくまで人から意見を求められたときに、とりあえずその時点で到達した結論を、これでいいのかなと迷いながらも述べているだけで、その言ったことにはもちろん責任は持つけれども、言うまでもなく訂正が必要になれば即座にしますし、時間が経てば考え方が変わることも当然普通にあるしで、要はずっと同じことを言い続けなきゃいけないとか、意見を頑なに曲げないとか、そういうつもりはまーったくないですから。

なんかさ、「ブレない」って言葉が100%善きことというニュアンスで出回りだして久しいけども、僕はそれ、本当にいい意味になる局面って実はけっこう限られるだろ、と思ってて。

もちろん、たとえば「あらゆる差別や抑圧、搾取は許されないし、不公正は是正されてゆくべき」とかそういう、要は「人権の尊重」にかかわるような、相対的にはひっくり返りようもない根本の倫理に関しては、そりゃあもちろん誰もがそう簡単に「ブレない」ことを目指すべきだろうけども……、あと、学術的に検証がすでに完全になされているような「事実」とかに関しても、そこがしっかり認識できてないと、しょーもない陰謀論や疑似科学にコロリとやられてしまったりしがちなので、まぁ間違いなく「ブレない」ほうがいいだろうけど。

でも、そんなレベルの話じゃなくて、ふだん我々が暮らしていて浮上する程度の見解の相違について、考えや立場があまりに固定的なのって、むしろあんまり褒められたことじゃないんじゃないの?って僕は思っちゃうんですけど。

異論反論には聞く耳持たず、己の考えを再検証することもない……つまり自分の“正しさ”にいっさい疑いを持たないような人のほうが、よっぽど危ないし、怖いですよ。

迷いなく他者を踏みにじれてしまう可能性が、圧倒的に高いんだもん。

だから、ひょっとしたらヒヨさんには、誰か声のでかい、はっきりモノを言う風の人がまぶしく見えてたりするのかもしれないけど、そんなのは単に独善的なだけかもしれないんだし、僕には、現状の「どっちつかずな」、言いかえれば柔軟でフラットなスタンスのほうが、よほど好ましく感じられますけどね。

こばなみ:
宇多丸さんが毎週やっている映画評についてはどうです?

宇多丸:
それはだから、さっき言ったまさにそのまんま、「いろんな情報をさんざん参考にした上で、あくまで人から意見を求められたときに、とりあえずその時点で到達した結論を、これでいいのかなと迷いながらも述べているだけ」「訂正が必要になれば即座にしますし、時間が経てば考え方が変わることも当然普通にある」ってことに尽きますよね。

人間誰しもその時点での限界はあるからこそ、瞬間瞬間ベストを尽くすしかないでしょう、ということですよ。

なので、たまに「何年前にはこう言ってたのに、今は違うこと言ってるじゃないか」みたいなことを得意げに指摘してる人とかを見ると、当たり前だろバカ、って思います。

こばなみ:
それはすごく同意です。仕事の方針とかもそうだと思うけど、外部環境も内部事情も刻々と変わってるわけなので、その時々で意見は変わっいくというか。

宇多丸:
10年前の自分とか、ほとんど他人だよ!(笑)

でも、今の自分からしたら、それはまぎれもなく成長や進化の証だし、そう思えているのはとても嬉しいことだと考えてますよ。

つまりさ、さっき言ったように、文明的人間として最低限のベースとなる価値観や知識、みたいなことに関してはもちろん、決してブレるべきでないというのは本当に間違いないんだけども、そういう次元の話じゃなくて、あくまで相対的に立場や見方が変わりうるような問題については、今この瞬間に正しいと思っていることが、のちに修正を迫られるような局面も、いずれまぁまぁの確率で訪れるかもしれないわけでしょう? 我々誰しも例外なく。

なのに、そういう可能性に対する想像力をまったく働かさないまま、自分が信じる「正しさ」を、特に他者への攻撃になんの躊躇もなく振りかざせるような人って……。

こばなみ:
怖いし、理解不能……。

宇多丸:
逆に、外から見たらとんでもない言動をとってるような人ほど、その人自身は絶対に自分が正しいと思い込んでるはずなんですよ。

そういう人間になってしまうのが、一番恐ろしいことじゃない?

こばなみ:
あとは、意見を見極める力が必要?

宇多丸:
そうですね。

ヒヨさんの言ってることで唯一引っかかるのが、「その場の雰囲気」に流されやすい、という点で。

場合によっては、ある集団全体が客観的に見ればアウトな判断に「その場の雰囲気」で傾いてしまうということはぜんぜんありうるし、それが、さっきから言ってるような人として死守するべき一線を越えてしまうような事例だって歴史を振り返ればゼロではないわけで、そこにはやはり、容易に飲み込まれないようにしたいものですよね。

だからまぁ、常に今の自分を疑いながら、「ちゃんとした勉強」を重ねて、考えの精度を上げてゆく、ってことしかないんじゃないですかね。

こばなみ:
自分が納得いくまで考える、みたいな行為を積み重ねていくこと?

宇多丸:
というか、ただ「自分なりに考えた」だけではやっぱり独善性には簡単に陥ってしまうから、まずは謙虚にファクトの積み重ねから学んでゆきましょうよ、ってことですよね。

でもさ、会社の会議程度なら、だいたい最終決定権を持つ、責任者みたいのがそこにいるはずだよね?

こばなみ:
そうですね、たいていは責任者が決めますね。

宇多丸:
だから実は、意見ったって、そこまで確定的なものである必要はない場合が、日常的にはほとんどなんじゃないのかなぁ。

それよりも、とりあえずいろんな角度の見方や考え方を提示してゆくことのがよっぽど大事ですよ。

これは勘違いしてる人が多いと思うんだけど、会議とかで意見を言うってのは、最初から「正解」を出せってことじゃないから、っていう。

仮に異論が出たり否定されたりしたとしても、「これじゃない」が明確になることで問題の輪郭がよりくっきり浮かび上がったりもするんだから、それもまた立派な前進なんですよ。

あと、そのレベルの話であれば、さっきの「その場の雰囲気」というのも、言われてみればみんなの言うことももっともだ、とホントに思えたんなら、そこに合わせてゆくってこと自体が悪いというわけでは、別にないよね。

ダメなのは、内心それは絶対に良くないと思っているのに、「その場の雰囲気」で黙ってしまう、というようなことですよ。

それは、その集団にとっても最終的にはよろしくない結果を招きかねない態度ですし……。

つまりさ、「人の意見をしっかり聞く」というのには、「自分の心の声にきちんと耳を傾ける」というのも含まれているんですよ。

なんでそう思うのか、自分にもちゃんと聞いてあげる、という。

そのセルフ問い直しに時間がかかるようなら、普通に「考えてるからちょっと待って」って言えばいいだけですから。

そこでたとえば、みんなはこうだと言ってるけど、私にはこういう懸念があるんですけど……みたいな視点が提示されるというのが、何より一番有意義なことなんだしね。

ちなみにそういう場では、「ブレない」自慢してるようなやつのほうが、明らかに使えないでしょ。

たとえば、みんなで相談してどの色にしようか決めようってときに、「僕は一貫して、こういうのは赤と決めてるんで!」とか言ってたら、バカでしょ!(笑)

あとはそもそも、別にそれでお金がもらえるわけでもないのに、みなさん何に対しても明確な意見を言わなきゃいけないと思いこみすぎ、というのもある。

こばなみ:
それ確かに感じます!

宇多丸:
何に対しても旗色を明確にしなきゃいけない、というのは、特にSNSが発している圧なのかもしれないけど、それゆえ最初に言ったみたいに「振りきったスタンス以外認めません」みたいな雰囲気が強くなってしまうのだとしたら、そことは意識的に線を引くようにしてゆくのもありじゃないかな、と僕は思います。

むしろ、やたらとデカい声の断言口調でいろんなことを言っている人がいたら、まずは抵抗感や疑念を感じるくらいでちょうどいいでしょ、というのが僕の考え方です。

少なくとも、何かいつでもはっきりした意見を言ってるから偉い、とかいうことじゃないですから。

白黒そこまではっきりつけられない、つけるべきでない件というのも、この世にはたくさんありますよ。というかそっちのが多いよ!

こばなみ:
それ、まさにそうですね!

だけど、頑固というか、思考停止というかで、それ一択、みたいな人も本当に多いですし、自分もそうなってしまいそうなときもあるから、注意せねばって思いました。

というわけで、ヒヨさん、弱々しいってこともないんじゃないでしょうか。

意見を変えるというのは、自分がないのではなくて、それだけ考えてるってことですし。どんよりが晴れることを祈っています!!



【今週のお絵描き】

画・宇多丸



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。




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