大人の女性が狭い安い賃貸アパートに住んでいるのは人格を疑われる事態なのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室230】
✳️今週のお悩み✳️
こんにちは! いつも楽しく読ませていただいています。今回は私のクダラナイ相談に乗っていただけますか?
私は新婚ですが、見るからに昭和な狭い安アパート(賃貸)に住んでいます。ここに一生住むわけじゃないし、見栄はって新築のオシャレマンションに払うお金があれば、将来の住宅購入資金として貯金したいからです。ちなみに整理整頓は得意で、家の中は綺麗に片付いてると思います。しかし、周りには「なんでこんな所に住んでるの?」と言われます。価値観の違いと思って気にしてなかったのですが、最近親きょうだいも含めて、あまりにも言われるので「もしかしたら、いい歳したオトナがそれ相応の家に住んでいないのは人格を疑われる事態なのかな?」とも思い始めました。それで、最近は人を呼んだりすることも躊躇するようになってきました。確かに狭くて設備も古いですが、子どもの頃は貧しく、お風呂の無い家に住み銭湯通いをしていたこともあるし、住むのにそんなに不便は感じていません。お風呂あるし。宝飾品もブランドバッグも興味ない私ですが、たまたま見た目が清楚系なためか、昔から「お嬢様ですか?」「週末は白い馬に乗ってそう(!?)」とか言われる雰囲気なので、余計ギャップが激しいのかもしれません……。何を聞きたいかと申しますと、大人の女性が古くて安っぽいアパートに住んでたらイヤですか? 引っ越せよ!って思いますか?
(S・T・31歳・東京都)
宇多丸:
これさ、基本的にはもちろん、別に好きなところに住めばいいじゃん!って話なんだけど、正直言えばちょっとだけ、その人の社会的地位やたたずまいとあまりにもかけ離れた感じの住まいだと、一瞬「え?」って思っちゃう人が出てくるのも、理解できなくはないなと。
たとえば今の僕が、ボロッボロの、なんなら共同便所だったりするような昭和の安アパートにまだ住んでます、とかだったら、ぶっちゃけ若干、「なんなの、そのこだわりは?」って疑問符はどうしてもついちゃうと思うんですよね。
オードリーの春日さんみたいに、それがキャラクターの一部を成しているような方もいるはいるけども……。
こばなみ:
どのくらい昭和感があるのかとか、狭さにもよりますけど、やっぱりちょっと変わった人なのかな、とは思っちゃうかも。
宇多丸:
もちろんS・T さんは、そのぶんは「将来の住宅購入資金として貯金したい」っていう明確な目的意識もあってのことなんだから、その意味では、実は全然普通の上昇志向もあるわけだけど。
こばなみ:
で、大人の女性が古くて安っぽいアパートに住んでたらイヤですか?ってことですけど。
宇多丸:
もちろん、だからイヤってことはないですし、ましてキレイに暮らしてるならなんの問題もないとは思うんだけど……、ただ正直、僕は心配性なので、パートナーだったら、どっちかというとセキュリティや地震対策の面で、やっぱりもうちょっとしっかりしたところに住んでくれないかな、的なことはどうしても思っちゃうかも。
こばなみ:
イメージ的には本当にない?
宇多丸:
まぁ、程度問題というか、実際どんな感じの物件かにもよるけど……。
たとえばこれ、「服装」ってことに置き換えてみると、30代で決して収入も低くはないはずの女性が、学生の頃に買ったようなヨレッヨレのトレーナーばっかりいつも着てる、みたいな感じですかね……、「ちゃんと洗濯してるし清潔だから」「いやそういう問題じゃなくて!」みたいな。 まぁそれでもやっぱり、別に本人が良けりゃいいんじゃね?って気もするけど(笑)。
家は普段から人に見せるもんでもないし……、ただ、まさにその「家は人に見せるもんじゃない」という外部を意識しないスタンスこそが、一般的な感覚との乖離を生みやすくもあるんだけど。恥ずかしながら旧ゴミ屋敷住人としては、一応言っておきたいあたりですね。
振り返ってみると、僕も実家を出て最初に住んでたところは、古い上に恐らく違法な増築を重ねたような、見るからに危なっかしい建物だったもんなぁ(笑)。 で、歳もちょうどS・T さんと同じくらいだったけど、やっぱり別に「今はこんくらいでいいでしょ」って感じだったし。 人からはどう思われてたか知らないけど……。
こばなみ:
最初はそんなに気にしなかったけど、「ん? まずいのかしら?」っていま思ってきたわけじゃないですか。
だったら、住宅購入資金の貯金にそこまで差しつかえなければ引っ越せば?と思ってしまいましたが。
宇多丸:
んーでも、そこに本人があんまり納得してないのに、っていうのもおかしいじゃない?
要はさ、「本人が良ければいい」の「良ければ」の部分を、S・Tさん自身がもう少し突き詰めることができてさえいれば、あとはなんだっていい話なんですよ。
たとえば、目標金額をいついつまでに貯めるには毎月これだけしか使えないんだから、今んところはこのくらいのところに住むしかないの!って感じで、とにかく目的に対して明確な線引きがS・Tさんのなかでできてさえいれば、それに反する外野の雑音はすべて無意味でしかなくなるわけだからさ。
ただ、さっき言ったこととも通じるけど、そうやって自分の内部で論理を強化/完結させる思考法ばかりしてると、本当に必要な助言も耳に入らないような、ちょっと厄介な人にもなりやすいので気をつけなきゃいけないんだけど。
でもまぁとにかく、人からなんか言われたのを契機に、「ではなぜ自分はわざわざこういう選択をしてるのか」ということに改めてじっくり向き合ってみるっていうのは、間違いなく悪いことではないんじゃないですか?
そこでたとえば、「まぁたしかに、そこまでここに固執しなきゃならないわけでもないしな」とか、それまで思ってもなかったような選択肢が浮上してきたりしても、それはそれで全然いいわけだし。
あと、これはS・Tさんに適合することかわからないけど、たまに人ん家に行ったりすると、ちょっと考えが変わったりしますよね。 ちゃんと「いつでも人を招ける」体勢が整ってるようなお宅とかさ、「あっ、こういうのもやっぱいいな!」って素直に思えたりして。
こばなみ:
たしかに!
先日、友達の家のホームパーティにいったら、高そうな大皿がどーんと一人ひとりに配られて、そこにおしゃれな鍋や木の器に盛られたいろんなお料理を盛っていく方式だったんですけど、そらまぁ素敵だった~。
自分ちに友達がきて酒盛りするときと大違いで、憧れましたわ~。
宇多丸:
あと、趣味が同じ人だったら、そのジャンルのブツがめちゃくちゃいい感じで飾られてたりしたら、「いいな~! 俺もこういうのやりたい!」とか自然に思うじゃん。
そんなこんなで、不意に別の選択肢が見えてきたりする、っていうのはありますよ。
「それでも私はやっぱり今のままがいい!」と確信できるならそれを堂々と貫けばいいし。
ちなみに、新婚ってことですけど、旦那さんはどう思ってるんだろうね?
相談文にはなにも書いてないけど、狭いところに住んでると、ケンカしやすいじゃない? そこはちょっと心配ですが……、ま、それは余計なお世話か。
いずれにせよ、S・Tさん自身が考えをまとめるだけでなく、旦那さんとも改めてコンセンサスを取る機会を持ってみたらいいかもですね。 意外と違うこと考えてるかもしれないし。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年3月24日に公開したものを再編集し、掲載しています。