兄が「人生の目標がないから40歳で永眠したい」と言います。私にできることは?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室34】
✳️今週のお悩み✳️
兄が「人生の目標がないから40歳で永眠したい」と言います。地元で働いていますが、とりあえずお金を貯めるためだけに働いているそうです。あと5年ほどしたら貯めたお金でとりあえず海外旅行にいって、5年くらい周遊して過ごして、その後すぐ死にたいと言っていました。
目標や、趣味も無いようで、ふと思いついたのが旅行だったようです。
お付き合いしている彼女もいるようですが、結婚する気はなく、この先一生結婚したくもないそうです。私は、もっと楽しく過ごして長生きしてほしいのですが、住む距離も離れていますし、兄に何をしてあげられるかわかりません。私にできることはありますか?
(のぺりー・三重県)
宇多丸:
でもさ、人生はつまんねぇけど旅行とかに行きゃあそれなりに楽しめるって人なんだったら、じゃあ別に問題ねぇじゃん! みんなそんなもんだよ!って感じはしちゃうよな。
逆に、日頃から「天気がいいね」とか「海がきれいだね」とか「ご飯がおいしいね」とか、そういうことにも別段喜びが見出せないし……ってテンションなんだったら、「とりあえず海外」なんか行っても、やっぱりあんま面白く感じられないんじゃないかなぁ。 まぁもちろん、旅先で何か強烈なカルチャーショックを受けて、人が変わったように前向きな人になって帰ってくる可能性だって全然あるし、実際お兄さん自身だって無意識に「何かが変わるかも」くらいは期待してるからこそ、「5年くらい周遊」なんてモラトリアム期間を設定してるのかもしれないよね。 だから、別にいーんじゃーん? 好きにさせとけば。
ちなみにお兄さんは、相談文から推測すると、30歳くらいってことですよね。 そう考えると僕もね、ちょうどその頃、20代終わりまでくらい、1日10回以上は「死にたい」って、人前でも口に出して言ってましたよ。
こばなみ:
ぎょぎょ!
宇多丸:
つっても、「痛いのと苦しいのは死んでも嫌だから……、ボタンを押したらコロッと逝けるスイッチがあるなら、今すぐ押す!」みたいな、超甘えた仮定の話。でも当然、まわりの人は困った顔してたよねぇ……。
こばなみ:
ライムスターのメンバーをも困らせていたのですか?
宇多丸:
メンバーってよりは、後輩とか知り合いの女の子相手だよね。
朝方、クラブが終わってから流れてきたファミレスで、まだビール飲みながら、突然「あぁ、死にてぇ~!」って。そりゃまわりは困惑する以外ないわ!
でもね、そう言えば、最近話した20代後半の人も、やっぱそういう「愚痴としての“死にたい”」、ちょっと口走ってたわ、確かに。 なので、お兄さんは今「そういうことを言いがちな年頃」なのかもしれませんよね!
こばなみ:
本当に死にたいと思ってるんですか?
宇多丸:
行動に移すわけじゃないけど気持ちとしては本気、みたいな……、わかります?
要は「自分の人生の限界が見えたような気がして、絶望的な気分になってる」みたいな感じかな~。
こばなみ:
「見えた気」になってるだけ?
宇多丸:
でも、それまでは一応「若者」のカテゴリーに入る年頃だったわけだからさ、初めて「自分の人生に限界が見えた……気がする」っていうのは、やっぱ当人にとっては十分、ズズーンとのしかかってくる件だったんじゃない?
今になってみれば、「結局、そんなのは別に限界でもなんでもなかったよな」というのがよ~くわかるし、 同時に「お前、どんだけ“自分の人生”とやらを高く見積もってたんだよ?」とも突っ込みたくなるんだけどさ。 容赦ない言い方をすればこれ、単なる「駄々」だもんね……。
ともあれ「愚痴としての“死にたい”」、言い出す原因は人それぞれだろうけど、少なくとも僕はそんな感じだったと思います。
こばなみ:
いつ頃から言わなくなったんですか?
宇多丸:
気がついたら数が減ってた、って感じですかね……。たぶん、30代を通して自分なりに壁を乗り越えられたってことなんだろうけど。
あ、でも、今も1日1回くらいは言いますよ。シャワー浴びてるときとか。
こばなみ:
今も?
宇多丸:
いやもう、今となっては。英語で言う「damn!」とか「f○ck!」みたいなもんで、言葉本来の意味よりはずっと軽いニュアンスでつい口にしてしまう、けどやっぱり褒められたもんでもないからあんま人前で言わないほうがいいよなっていう程度の、要は僕なりのcurseってだけですよ。
だから「死にたい!」も「死ね!」も、実はほとんど同じ気持ちだったりする、僕にとっては。
みんなそんな感じじゃないの?
こばなみ:
妹さんにできることって何でしょう?
宇多丸:
ほっとけ!
かつての僕と似たような症状ならば、そのうち直ります。
そうでなかったとしても……極端な話、人生投げるのもお兄さんの権利だからさ、最終的には。
これがもし、お兄さん自身からの「とは言えホントは迷ってます」的な相談だったらまた話は違ってくるんだけど……。 仮にそうだったとしたら、とりあえずはやっぱり、「30代程度で人生見切った気になってしまうのは、心情としては理解できるけど、客観的に見れば中途半端な若さゆえの思い上がりでもあると思う」というようなことは言ってあげるかもね。 それこそ僕は今40代ですけど、後から振り返れば当然「あの頃の俺、青かったな~!」ってことにもなるんだろうし。
こばなみ:
いくつになっても、まだまだ途中。仕事だってある部分では楽になるけど、違う部分でまた壁にぶつかったり。終わりなんかないんじゃないかって最近よく思いますよ。
宇多丸:
ちなみにその「死にたい」連発期に友達とよく話してた件なんですけど、せめて「人様にはいっさい迷惑をかけない」方法でこの世からおさらばできないものか……とかいろいろ考えてみても、
「誰かにいっさい迷惑をかけない生」がありえないのと同じで、突き詰めていくとそれも、実際のところなかなか難しいんですよね。
で、その結論に達した途端、
「あっ、これただの甘えじゃん」と自分で思えた部分はあったかも。僕の場合はね。
もちろん、本当に深刻な状態に陥ってる人はそんな気楽な思考実験もしてられないだろうけど……。 あと、もうひとつちなみに言えば、このお兄さん、「彼女はいるけど結婚願望ゼロ」っていう点も、当時の僕と一致してますよ。でも、そんなのもさ、何年か後にはどう転んでるかわかんないから。いやマジでマジで!
結論:
ひとまず、ほうっておこう!
「愚痴としての“死にたい”」ならば後に
「あの頃の俺、青かったな~!」ってことになるので。
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年3月8日に公開したものを再編集し、掲載しています。