考えを整理する速度が遅い。聞かれたらパッと切り返しができるようになるには?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室332】
✳️今週のお悩み✳️
考えを整理する速度が遅いのが悩みです。仕事でもプライベートでも、何かを聞かれて、自分の考えを話すシチュエーションで、すぐに答えることができないのです。宇多丸さんは、聞かれたらパッと切り返しができると思うのですが、どうしたらできるようになるのでしょうか。もちろん、練習が必要だとは思うのですが、コツや練習方法などあれば、教えてください。
(ユキ・32歳・会社員・千葉県)
宇多丸:
まずですね、「聞かれたらパッと切り返す」って、たしかに僕はそれよくやっちゃってますけど、必ずしもいいことばかりとは言えないと思うんですよね。
むしろ、昔から僕はそれで失敗してきているとすら言える。
まさしく「早合点」というやつをしがちでして……、要するに、頭の回転が早い風なことと、適切な解を導き出せているかどうかは、実は別問題ということですね。
とりあえずなんか出しました!っつっても、それが使えないガラクタじゃしょうがない。
なので、少なくとも返答の早さそのものを目的化しないほうがいいのは、間違いないと思います。
それより、落ち着いてしっかりした内容を話すように心がけるほうが、当たり前ですがよっぽど大事。
もちろん、ちゃんとしたことを素早く切り返せれば一番いいんでしょうけど……、個人的には、なんに対しても最初から答えが用意されてるような話し方をする人も、それはそれでどうなんでしょうね、という気はしちゃう。
こばなみ:
宇多丸さんはもともと早いんですか?
宇多丸:
早いだけ。要はせっかちなの。
そのぶん間違いも多いから、恥かくばっかりですよ。
小学校に入るときに、知能テスト受けさせられたじゃん?
最初のページに子どもの絵が描いてあって、「目はどれでしょう? 鼻はどれでしょう? ○してみましょう」みたいなやつだったから、その時点で僕はナメきっちゃってさ。
「赤ちゃんじゃねぇんだからw」って感じで完全に斜に構えていたら、「かたつむりが何匹いるか数えなさい」って問題になって。
「はいはいはい、17~!」ってすぐ答えちゃったんだけど、実はそれ、ぜんぜん18だったの(笑)。
すぐに気づいて、あわてて「あっ、今のなしなし! 間違えた!」って言ったんだけど、取り合ってもらえなくて。
つまり、こういう早とちりしがちなヤツだってことも含めて測られていたわけで……、子どもながらに、「そういうとこだぞ俺……!」って、自分で自分にがっかりした瞬間でしたね。
というわけで、三つ子の魂百まで、今に至るまでそんなこんなの繰り返し。
恥の多い生涯を送ってきました(笑)。
なので、僕はあんまりおすすめしないですけどねー……。
あとさ、「聞かれたらパッと切り返し」ているように見える人も、実は大半、何も新しいことは言ってないことが多かったりするんじゃないですかね?
「○○○ですね」とか言ってるけど、実はそれは、単に相手の言ったことをちょっとだけ違う表現に置き換えて繰り返してるだけ、だったりすること、意外と多いと思いますよ。
こばなみ:
あ~、たしかに!
宇多丸:
あとは、自分が知ってる範囲のことに無理やりでも結びつけてなんとか言葉を継いでたりするだけで、必ずしも本当に的確だったり新鮮だったりすることを言ってるわけではない、というパターンが、実はほとんどじゃないかな。
たとえばテレビのワイドショーとかでもさ、専門でもない問題について「○○さんどうですか?」って聞かれて、コメンテーターが「いや本当に困ったものですね」かなんか言ってるけど、要はそこまでさんざん「困ったもの」として話が進んできた件を、改めて追認してみせているだけ、だったりするわけですよ。
むしろ、その流れを崩すような別個の意見とかは求められていない、場の空気に追従することこそが要求されていたりするわけで。
それは、とにかく会話がポンポン進むことが放送上望ましいと考えられているから、というだけで、そのなかで思考を深めてゆくとか、よりよい答えを模索してゆくとかとは、またまったく違う話なんですよね。
だから、そこをユキさんが目指すことはない。
ただ、とりあえず浮かんだ考えを、たとえ最終的な「正解」とは明らかにほど遠いうすぼんやりしたものでも、まずは口に出してみる、言語化を試みてみることで、だんだんと考えが整理されてゆく、という側面があるのも間違いなくて。
たとえば、会議ってそういうことじゃん?
いろんなアイデアを、とりあえずでいいから言ってみる、言いあってみる、というのが大事で。
最初に言ったこと自体はダメでも、そこから連想ゲーム的に発想が展開して、思いもよらなかっなようなところにたどり着ける、というようなことは、本当に実際むちゃくちゃよくある。
おそらくユキさんは、そういう局面で、いきなり最終的な「正解」を言わなきゃいけない、と思い込んでて、それがまたプレッシャーになって何も言えなくなってしまう、みたいな感じなんじゃないですかね?
でも、実はそんな必要はまったくないんですよね。
たとえば、「○○ってどう思いますか?」などと聞かれて、すぐにはこれだという回答が思いつかなかったとしても、「○○ですか? うーん、難しいなぁ」って、要は「今のところ自分の思考はここまで来ています」というのを正直にそのまんま口に出す、というだけで、ひとまずは十分だったりするもんじゃないかなぁと思いますけど。
そしたらそこから、「なんでこんなに答えるのが難しいんでしょうね……、ひょっとしたら、こうだからかな」という風に、ちょっとずつでも、考えるとっかかりができるわけじゃないですか。
聞いたほうも答えやすいように助け舟を追加で出してくれたりするだろうし……、そうやって、互いにだんだんと本質に近づいてゆくことこそが、本当の「会話」ってもんでしょう。
考えているうちに話題が通りすぎてしまったような場合でも、「話が戻って申し訳ないですけど、さっきの件、こうかなってちょっと思いまして」とか、礼を失さない話し方さえしていればいくらでも切り出していいんじゃないですかね。
それに、仮にそこでは直接目立った発言をしなかったとしても、会話の流れをしっかり聞いて、記憶して、自分なりに思考しているというだけで、立派に「会話に参加している」うちだろうと僕は思いますよ。
一番よくないのは、声高に自分の主張ばっかりベラベラしゃべるばかりで、人の話は実はあまりちゃんと聞いてない、みたいなことですよ。一見話し上手のコミュニケーション下手! ま、それは僕もホントに気をつけなきゃですが……。
あと、僕がやっているラジオ番組などに関して言えば、ゲストとお話するにしても、当然のことながら事前に下調べや取材はしていますし、それを元にした台本や流れの想定も、ある程度はしっかり用意している。
つまり、丸腰でいきなり話し始めてるわけじゃないので、「パッと切り返し」ているように聞こえるだけで、そもそも普通の日常会話とは違うものなんだ、というのは言っておきたいと思います。
こばなみもわりとポンポン話すほうだけど、この件、どう?
こばなみ:
でもですね、会話はいいんですけど、会議とかで「あなたの考えは?」となると、あわあわしてますよ。
宇多丸:
いきなり振られても困るような案件は当然ありますよね。
我が社の業績をアップさせる秘策、小林どうだ?とか急に言われてもね(笑)。
こばなみ:
なので、それは準備不足なのだなと、いま話していて思いました。そういう議題になると予想できるのだから、事前に考えとけって話かも、ですね。あとはもうひとつあるとすれば、思ってることがあるのだけど、どっから話したら伝わりやすいか、そういう整理が遅いなぁって。
宇多丸:
それもさ、「どっから話せばいいのかな……」って言えばいいじゃん、と僕は思うんだよね。
心の声をダダ漏れにしておけば、ひっきりなしに話せるよ!(笑)
こばなみ:
でもメンツや場所によって、言えるときと言えないときがありません? たとえばこのお悩み相談取材ではダダ漏れできるけど、初めて行ったところ、初めて会った人だと、緊張して言えない。
宇多丸:
そりゃあ、終始きちんと、理路整然と話す必要があるような場なら、それ用の仕込みをしておくしかないよね。
こばなみ:
そうなんですよね。だから結局、準備不足問題にも戻るという……。
宇多丸:
僕にとっての番組ゲストや、映画評と同じでしょ。特に映画評は、一週間調べたり考えたりした成果を、3時間くらいかけて台本ノートにして、25分で吐き出す、という作業ですから。手ぶらで話してるわけじゃまったくない。
で、もうちょっとゆるめに話していい場なら、さっきから言っているように、頭に思い浮かぶことをそのまんま、「なんも浮かばねぇ」まで込みで、素直に口に出してゆけばいいと思うし……。
こばなみ:
いま話しながら気づきましたけど、私、かっこつけてるんだと思います。
なんかいいこと言わないといけないと思ってるから、緊張してるんだ。
宇多丸:
さっき言った、「いきなり正解を言わなきゃいけないと思い込んでる」問題だよね。
でも、そんなの幻想だし、あんまり目指すべきでもないと個人的には思います。
そんなことよりさ、たとえば「思ってることがすぐにはうまく言語化できない」というなら、それをそのまんま言えばいいじゃん、と思う。
それこそまさに「思考の言語化」だよ!
僕も、まだうまく言葉にできないんだけども、って話を始めること、いっぱいありますよ。
そこで、僕の知能テストの話じゃないけど(笑)、はいはいはい!って即座に「わかったようなこと」を言ったりするほうが、よーっほどダメですよ。
こばなみ:
心の声ダダ漏れ作戦はいいですね。
宇多丸:
サトラレ作戦!
そして、それ以上に最も肝心なのはやはり、相手の言っていることをちゃんと聞いて、できる限り理解しようとする姿勢ですよ。
話し上手は聞き上手っていうのは本当で、そっちの能力がなけりゃそもそも会話にならないわけだから。
インタビューを受けたりしているときも、答えが出しづらい質問だなぁと感じるとときは、率直にそう伝えてますよ。
そういうときってだいたい、質問自体が曖昧だったり大きすぎたり、そもそも返答しづらい要素を含んでたりもするもんだし。
そうするとインタビュアーも、すぐにちゃんと聞き方を変えてくれたりしますしね。
こばなみ:
取材をする側としてすごくわかります。ぼやっとした質問しちゃった、やっちゃったー、など、多々ありますよ。
でもそのときも、なんとか会話を転がし、それぼんやり聞かれても困りますよね、などと言いながら考えて、進化させていくのはできるかもしれないですしね。
ただ、まぁ取材側の準備不足というのもあるだろうし……、これは私、反省点、たくさん思い当たります。
宇多丸:
いやいや、その探り合いこそが他者同士が対話する醍醐味というか、意義でさえある部分なんだから、それはそれでぜんぜんいいんですよ。
これは、日常の会話にも完全に通じることだと思う。
とにかく、最初からなにかうまいこと言ってやろうとかあんまり思いすぎないほうがいいし、即座にわかったようなことを言えばいいってもんでもない。
とりあえずは、黙りこくるばかりで相手を不安にさせないように、という礼儀の範囲で何かを言う、答えがすぐに出なさそうだったり考え中だったりするならそれをきちんと伝える、ってことでいいんじゃないかなと思いますけど。
「答え」っぽいものはそこから先のやりとりのなかから見つけて行こうとすればいいし、そのほうがコミュニケーションとして楽しいし豊かだしで、なんの問題もなしですよ!
こばなみ:
なにかいいこと言わなきゃってので、コミュニケーション本来の「楽しさ」を忘れていたかも、です。まずは心の声ダダ漏らしてサトラレ、私も強化していきます~!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年8月15日に公開したものを再編集し、掲載しています。