なんで自分より可愛いんだ!など、誰かと比べて妬んでしまいしんどいです……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室139】
✳️今週のお悩み✳️
好き嫌いが激しく、他人と自分を比べて、どーしようもないことで妬んでしまいます。嫌いな人ができれば、ふとその人のことを考えてしまい、気がつけば色々調べて知りたくもないことまで知ってしまい、とっっってもしんどいです。無関心になりたいのですが、どうしても何かしらの感情を抱いてしまいます。なんで自分より可愛いんだ! 親から家賃出してもらってんだ! 女子には無愛想なのに、男性陣にはぶりっ子して良い扱い受けやがって~!!!と、本当にここ最近しんどいです……。どうすれば気にならなくなりますか……。その人に限らず、これまでも誰かと自分を比べて苦しんでいました……。もっと気楽に穏やかに日々を過ごすには、どういう思考に持っていけばいいのでしょうか。アドバイスいただければと思います。
(キーサ・26歳・東京都)
宇多丸:
一読して、結構な割合の人が感じることなんじゃないかと思うけど……、キーサさん、その人のこと、大好きなんじゃん!
「妬ましい」と「嫌い」は本来全然違うものなのに、キーサさんはそこを混同したままだから、自分でもどんどんキツくなってきちゃってるんじゃないかな。
「妬む」って、要はその人に、自分より優れてる、恵まれてる部分を見ちゃって、羨ましく感じるってことから生じる感情なわけだからさ。 それを素直に認めることが悔しくて、ズルしてるからだとか、大したことないじゃんとか、手っ取り早く否定的な結論に落とし込んでなんとか自分を納得させよ うとしてるだけで、おおもとの部分で相手に一目置いてるところがなければ、そもそもそんなモヤモヤも生じてないはずなんですよ。
それに対して「嫌い」っていうのは、もっと「第一印象で上から目線で切り捨てておしまい、そのことに関しては特に後から心が揺らいだりもしない」もんじゃない? あいつってどうせこういうヤツでしょとか、生理的にイヤ!って最初に「感じた」だけで、そこから先、相手に対する関心もそれ以上わかないから、印象も固定されたまんま、こちらの心情的にはむしろ安定した状態っていう……。 「“愛”の反対語は“憎しみ”じゃなくて“無関心”」ってフレーズも、まぁ概ねそういうことから来てるんじゃないですかね。
こばなみ:
ホント、そうですよね! 『HERO』第5話で桜井幸子も「忘れられる女が一番不幸」だと言ってたのを、今でも覚えております……。
宇多丸:
あとさ、意識上では「アイツ、嫌い!」と思ってるような相手でも、どこかに認めざるを得ないようなところがある場合、内心ではやっぱり、いつか仲良くなれたらいいな、って願望を誰しも抱いてたりするもんなんじゃないかな、って思うんですけど。
少なくとも僕は、たとえば「いろいろあって今は仲悪くなっちゃった人と、ふとしたことから和解する夢」をたまに見るんですけど、やっぱめちゃくちゃ嬉しいですもん。 で、目が覚めてしみじみ、あぁ、心の奥底ではこれを望んでいたんだなぁって。
こばなみ:
私も話していて気づきました。
たとえば同じような仕事をしていて目立っている人、どっかの編集長とかの記事とか企画とかに、くーっ!とかってイチャモンつけたりしてるんですけど(苦笑)、でもそれって羨ましいし、本当は仲良くなりたいんですよね。
宇多丸:
誰にもそういう対象、いるんじゃない?
で、その「アイツ、気にいらねぇ!」「目ざわりだ!」は、単純な軽蔑とか無関心とは明らかに違うものだよね。
ましてキーサさんなんか、相手のこと調べまくったりまでしてるんだもんね。 ストレートに大ファンじゃん!
でね、前も言ったように、誰かを妬む気持ちを抱いてしまうのは、人間だもの、仕方ない。
その一方で、「これは嫉妬なんだ」って自分で認めるのって、嫌でも己の至らなさや醜さと正面から向き合うことになるわけで、それって誰にとっても、相当キツいことだと思うんです。 だからこそ、それこそキーサさんのように、知らず知らずのうちにどんどんこじらせてしまうことも多い、ある意味一番厄介な感情なわけだけど……。 それだけに、もしちゃんと自覚してコントロールすることができれば、人格的に、いきなりものすごーく進歩できちゃうかもよ、ってことじゃん?
こばなみ:
この連載でも「嫉妬は使いよう、踊らされるな」という回がありましたね。
宇多丸:
その意味ではキーサさんも、あと一歩なんですよ。
妬みゆえのモヤモヤだ、ってことまでは自覚できてるんだからさ。
ただ、それをいきなり「嫌い」っていうカテゴリーに入れて片付けようとしてるところに無理がある。 本気で「無関心になりたい」んだったら、それこそ相手を完全に「見切る」ところまで持ってかなきゃならないだろうから、どっちにしろこの段階でその人に対する関心を遮断しようとするのは、無理なだけじゃなく逆効果なんじゃないですかね。
なので、まずは、その人にどうしても認めざるを得ない部分があるという事実を、エイッと受け入れる!
見方によってはさ、他人の優れているところに敏感って、とっても素敵な能力だとも言えるじゃないですか。 たとえばだけど、それを素直に褒め言葉として口に出せるような人、結果としてほかの人をよく褒める人って、間違いなく感じいいし、自分だって気分いいはずだと思うんですよ。
「なんで 自分より可愛いんだ!親から家賃出してもらってんだ!女子には無愛想なのに、男性陣にはぶりっ子して良い扱い受けやがって~!!!」だってさ、そのまんま 「可愛くて羨ましい!」「育ちが良くて羨ましい!」「男にモテて羨ましい!」に変換可能なんだから、いっそ本人に直接そう言やぁいいんじゃないの?
こばなみ:
声に出してそういうことを言える人って素敵だと思う。
宇多丸:
「クヤシーッ!」って付け加えてもいいからさ。
なんにしても素直な気持ちから出てるってわかる言葉なら、そんなに嫌な感じはしないはずですよ。
そしたら向こうも、キーサさんにより好感を持って接してくるようになるかもしれないし。 そこまで来たらもう、こっちにも悪感情なんて、たいして残ってないでしょ!
でね、そうやって改めてその人の実像に向き合ってみると、たぶん、遠巻きからじゃわからなかったようなことがいっぱい見えてくるんじゃないですかね。
それこそ、キーサさんが嫉ましく感じていたようなまさにその部分が、当人にとってはコンプレックスや悩みの種そのものだったり、全然あり得ることだと思いますよ。
たとえば「親に家賃出してもらってる」だって、向こうにしてみたら「いい歳してまだ自立できてなくて恥ずかしい!」って思ってることだったりするかもよ? 僕も、三十路近くになるまでのうのうと都内実家暮らし組だったので、その肩身の狭さ、ちょっとわかる気がするんですよ……。 むしろ、「それに引きかえキーサさんは、しっかりしてて羨ましい……」って、向こうこそキーサさんに引け目を感じてる可能性だってあると思いますよ。
あとは、「ぶりっ子してモテやがって」だってさ、とかく同性にそう見られがちなこと自体が、まさに彼女自身を悩ませ続けてるってこと、十分考えられると思うなぁ。
可愛いから男にチヤホヤされる→同性からの当たりがキツくなる→同性が怖くなってくるぶん、当然、優しくしてくれる異性のほうが接しやすく感じる→本人に悪気はなくとも、もともと反感を抱いていた同性陣には「女子には無愛想なのに、男性陣にはぶりっ子して良い扱い受けやがって」と見える→さらに同性からの当たりがキツくなる→以下、繰り返し……みたいなサイクルに、いつの間にか入りこんじゃって困ってるっていう人、たくさんいるんじゃないかと思いますけどね。
こばなみ:
それはあるかも!
宇多丸:
それにしても、やっぱ女子は自分と比べちゃうもんですかね、こと可愛さのこととなると。
こばなみ:
女子部員のみんなにアンケートしてみました!
なんだかんだみんな比べてますね。私は顔に自信ないけど、でも若い時はそりゃ多少はやっぱ、比べてました(照)。ただ、ある程度の年齢いくと、顔とかビジュアル的なことだけで比べてもどーにもこーにもねぇ、てはなりますよね。 「面白い」とか「仕事すげぇ~」とかの嫉妬は、しょっちゅうありますけど。
あと、そもそも顔に自信ない組は、最初からそこ(ビジュアル)の土俵であんまり勝負してない、したくないというのはあるかも。
なので、ちょっと思ったんですけど、キーサさんもけっこう可愛いんじゃいですか?
宇多丸:
なるほどね。
ルックスに嫉妬してる時点で、最低限そのレースに参加してるという意識はあるわけだもんね。
ま、客観的に見てどうなのかはまた別問題ではあるだろうけども……。
前も同じようなこと言ったけど、ホントはね、ルックスのコンプレックスに一番効くのは、やっぱりパートナーとか好きな人からの、「私にとってはあなたこそがベスト」っていう、日頃の言葉なんだと思うけどね。
たとえばさ、「誰々って可愛いよね~、アタシもああいう顔に生まれたかったな~」みたいなこと、女の人はよく言うじゃん? それにすかさず、「いや、オレはキミのほうが全然タイプなんだけど」って、サラッと真顔で返してくれる、みたいな!
こばなみ:
その言葉、私も欲しい~!
宇多丸:
大事な人からいつもそういう風にちゃんと褒めてもらえてれば、自分自身はまだそれほど自信が持ててなくとも、「でも、ひょっとしたらホントに、こういうのが好みって人も一定量いるのかも……」くらいは思えてくるじゃん?
きっとキーサさんも、そういうお相手が見つかれば、もっと心に余裕が出てくるはずですよ!
こばなみ:
ちなみに、男性はこういうことってあります?
宇多丸:
そりゃ男だって、人間だもの! 嫉妬してるのを認めたくなくて悪口に転化、僕も含めてみんなガンガンやっちゃってると思うけど、あえて言えば、より無意識というか、その自覚がないパターンが多いような気がしますね。
たとえば女の人が「ぶりっ子」に対して見せるようなむき出しの敵意、みたいなのはあんまりなくって、どっちかって言うと、自分自身正論だと本気で信じているような理屈のオブラートに包んだ上での攻撃、って感じじゃないですかね。男は基本カッコつけだから。 自己欺瞞の度合いが深いぶん、より悪質って面もあるかもなぁ……。
とにかくね、嫉妬をコントロールするには、その対象から目をそらすんじゃなくて、むしろいったんとことんまで向き合って、それに対して自分は本当にはどう思っているのか、なぜそう思うのかを、納得できるまで分析し尽くす必要があるんじゃないですかね。
その過程で、さっき言ったみたく、思いのほか好印象に転じることだってあるかもしれないし。 あるいは逆に、ひょっとしたら、でもやっぱコイツ裏表ありすぎだろとか、それにしたって感じ悪すぎだよなとか、結局ネガティブな気持ちしか持てなかったとしても……、それはまさにある程度「見切った」後の判断だからさ、相手に引け目を感じてただただモヤモヤするしかなかった以前の「妬み」モードよりは、やは り段違いで心穏やかになっているのは間違いないんじゃないでしょうか。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年3月26日に公開したものを再編集し、掲載しています。