【ライムスター宇多丸のお悩み相談室85】親友が変な男にハマってしまって、言動も性格も変に! 放っておくしかない?
✳️今週のお悩み✳️
親友のA子(26)が変な男にハマって以来、彼の言動をまねるようになり喧嘩してしまいました。彼女を彼から離すことはできないでしょうか。彼は自称ミュージシャンの男性(43)、バツ3でライブスペースのあるバーを経営していますが、黒字化できず水商売をやっているBさん(女)やCさん(女)に費用を提供してもらっています。私はA子に連れられて何度かお店に足を運びました。彼の話は合法ハーブを常用していることの自慢だったり、DQNな人生自慢のような説教のようなものばかりでだんだんうんざりし、もう会いたくなくなりました。いつからかA子は彼の真似をして自分のことを「オイラ」と言ったり、彼の受け売りの言葉を話すようになり、ドタキャンや遅刻が増えてきて、付き合いに耐えられなくなりました。 A子と彼には体の関係はありません。彼はA子が自分を好きだとわかっている感じでした。私は彼にはもう会いたくないし、A子もあまり深入りしないほうがいいと思う、人生ダメになるよと伝えたところ、「彼のこと、よく知りもしないで悪く言わないで!」と泣きながら怒られ、「私は彼のおかげで強くなれた。彼を守りたい」と言われてしまい、それ以来A子とどう接していいかわからず数ヶ月経ちました。A子から彼のお店で週末にバイトをしはじめたから会いに来てとメールが来ました。まだ返信できていません。彼女とは高校時代からの友人で、だんだん反社会的な性格に変わってゆく彼女が心配です。私はA子に彼から離れてほしいのですが、強く言うと私を拒絶されそうで、どうすればいいかわかりません。心変わりするまで放っておくしかないのでしょうか。
(森・26歳)
宇多丸:
今回の相談は何と言うか……もちろん森さんは真剣に悩んでらっしゃるんだろうから笑っちゃ悪いんだけど、でもこの自称ミュージシャンのキャラクターとか、「オイラ」とか、ディテールがいちいち面白過ぎて(笑)。
女の人で自分のこと「オイラ」って言う人、A子さん以外では昔の矢口真里一択だよ!
こばなみ:
たしかにー! よく言ってましたね。オイラ……、ごめんなさい、やっぱり笑ってしまう……。
宇多丸:
まぁ、自分が恋してるときにさ、その相手に対して「あいつはやめとけ」的なことを周りから言われたりすると、ものすごくカチーンと来てしまう、ということ自体は、誰にでもちょっとは身に覚えがあるはずの、結構一般的な話だと思うんですよね。
そこでね、たとえその意見が、「自分でも正直、うすうす納得できる部分がないではない……」というような、ある程度妥当性があるものであったとしても、反射的に感じる「余計なお世話だよ!」ってムカつきは、やっぱりそんなに変わらないんじゃないかって気がするんです。
これってなんでかって考えてみると、要は「自分で選択し、その責任を負う権利」を、先回りして否定されちゃってるから、なんですよね。
ある人に恋した結果、自分は傷つくかもしれない。 でも、それを含めて自分で「選択」したい。 なぜなら自分の人生だから!という……。 「正論」を振りかざしてその可能性をあらかじめ奪おうとする他人に怒りを覚えるのは、たぶんそういうことなんじゃないかと。 なので、少なくとも今は、頭ごなしに何か言ってもダメですよ。
こばなみ:
たしかに。友達に「その彼でいいの!?」と言って「うるさいなぁ」と言われたこともあるし、逆に「あの人、ダメじゃない?」とかって自分の彼のことを言われてカチンときたこともありますしね。でも、それもこれも自分で選んでることですもんね。
ちなみに私、友達の彼氏がどうしても苦手で、飲み会かなんかに「一緒に来るなら私は行かないや!」って言ったことはありますよ。
宇多丸:
それ、友達の反応はどうだった?
こばなみ:
ムッとしてた。で、悪い人じゃないんだよって話を長々とされたけど、「やっぱり苦手なんだよね……」ってまた伝えたら、一緒に遊ぶことを誘われなくなった。ただ、私の元カレのことも「あの人、サイテーだったよね」って言い始めて、結局「だからお互い様だよね」みたいなことでまとめられたけど(笑)。
宇多丸:
そうやって互いに適切な距離を保てるような、クレバーな友情なら問題ないんですけどね。
相手の選択を否定しないのと同じように、こちらの気持ちもちゃんと尊重してもらう……、その意味ではA子さんにだって、森さんが苦手な何かを無理強いする権利もまた、ないわけですからね。
だから、あんまりしつこく店に誘ってくるとか、断るとキレてくるとかだったら、森さんもそこはしっかり怒り返していいところかもしれないよ。 「あなたが彼のことを好きなのは別にいいよ。でもだからって、私にまでそれを強要しないで!」と。 それでケンカになるようなら、もう仕方ないんじゃん? 少なくとも今は。 だって、まともな友情が成立しようがないもん、それじゃ。
あとはもう、いつかこの恋が冷めて、ハッ!と我に返ってくれる日を待つしかないってことですよね……。
こばなみ:
彼にハマってからどれくらいなんですかね? 半年とか経てば、落ち着いてくる気もしますが。そして3人も虜にしているあたり、本当に気になる……!?
宇多丸:
問題はそこだよね。
はっきり言えば、意識的な「洗脳」の匂いが、ちょっとだけしなくもない。
この彼は恐らく、森さんがウンザリさせられた「DQNな人生自慢のような説教のようなもの」、まさにその話術をもって、BさんやCさん、ひいてはA子さんを「落として」きたわけでしょ。
なので、そういうツボにハマる人たちにとっては、ひょっとしたら最高に魅力的な、カリスマ性あふれる人物なのかもしれない……、いや、間違いなく彼女たちにはそう見えているわけですよね。 ある種の人たちにだけキャッチできる強烈なフェロモンを発しているっていう。
こばなみ:
「私は彼のおかげで強くなれた。彼を守りたい。」ってまで書いてありますしね。
私は彼の書いた歌詞に胸を打たれたんじゃないかと勝手に予想してるんですが。
宇多丸:
アツく弾き語りしてくれたりするんだろうね~(笑)。
にしても、43歳で合法ハーブやってる自慢って……、ここが僕は一番アレ?って思うポイントなんですけど。それ自慢として成り立つの?って。
まぁなんにしてもロクなもんじゃねぇな感はここからもビンビンに伝わってきますけど。
ただとにかく、彼女たちがハマるのにはそれなりの理由もまたちゃんとあるはずだってことですよね。 たとえそれが、客観的に見ればバカみたいなものだったとしても。 A子さんの「洗脳」を解くにしても、そこの正確な理解は必須でしょうからね。
こばなみ:
知りたい、その魅力を。店に行きたい!
自称ミュージシャンは白髪まじりの長髪で、ちょい古なロック系と予想してるんですが。
宇多丸:
あのさ、A子さんと森さんの共通の友人、それもどっちかって言うと森さん寄りの、いわゆる「話せる人」っていないのかな?
もしいるのなら、そのお友達と一緒にお店に行ってみるっていうのはどう? で、もちろんA子さんにはそれと気づかれないように、その彼の言動を細かく分析、吟味して、積極的に「面白がって」みるというね……、「あのオヤジ、マジか!(笑)」的に。 要は話のネタを仕入れに行くつもりで、ってことですね。 ま、悪趣味は悪趣味ですけど!
でも、そうやってA子さんや彼のノリを真正面から受けとめないで済むようにする、つまり、他人の負のサイクルに必要以上に巻き込まれないようにする、というのも、ひとつの知恵だと思うんですよね。
こばなみ:
ひとりで行くより複数でいったほうが、ハマっている理由も分析しやすそうですしね。
宇多丸:
でもどうする?
ミイラ取りがミイラにじゃないけど、連れてった友達もどんどん彼に心酔してっちゃったら……?
ってか、そこまでいったらもう、自称ミュージシャンのただ者じゃなさ、いよいよホンモノじゃん!
もしホントにそうなったら、改めてご報告ください!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年2月28日に公開したものを再編集し、掲載しています。