セクハラを受けない女子になる方法を教えてください。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室30】
✳️今週のお悩み✳️
セクハラを受けない系女子になる方法、隙を作らない鉄仮面女になる方法を教えて下さい。
(愛犬家・28歳・神奈川県)
宇多丸:
まず最初にはっきりさせておかなきゃいけないのは、セクハラは、「受ける側」の問題じゃなくて「する側」の問題だからさ。改善されるべきは、あくまでセクハラしてくる同僚とか上司とか、それを放置黙認している職場環境とかのほうであって、愛犬家さん側が何か変わんなきゃいけない筋合いなんてないんだから……、本来はね。
あなたに隙があるかどうかなんて関係ないから!
ちなみにセクハラって、どのレベルなんですかね。お尻を触られるとか? それとも言葉?
こばなみ:
愛犬家さんにお会いしたことがあるのですが、言葉のセクハラだとは言ってました。だいたい触る人っていまだにいるんですかね?
宇多丸:
大企業とかはさすがにいまどきはもうないかもだけど……いや、わかんないよ~!?
ま、とにかく、職場側に厳しく改善を求める、というのが本来の筋なのは間違いないんだけどさ。
うーん…。でもこれは根深い問題だよね。 そもそも日本社会全体がまだ全然克服できてない部分だからな~。 正当な主張をしてるのに、そのせいで職場にいづらくなっなっちゃうとかも、残念ながらよくあることだろうし。 だから愛犬家さんにとっては、そう簡単に言ってくれるなよ、っていう話ではあるだろうけど……。
耐え難いほどのハラスメントが恒常化してて、上に訴えても改善の見込みがない感じだったら、はっきり言って、別の職場を探した方がいいかも、とは思います。 我慢し続けるのは当然よくないし、だからと言って、これからその職場を愛犬家さんがひとりで体を張って良くしてくっていうのも、もちろんできるもんならそれが一番いいんだろうけど、エネルギーも時間も必要だし、そんな義理もないし、っていう。
で、セクハラに関しては、発言をこっそり録音しておくとか、ちゃんと証拠をとっといて、法的にドーン!と行くこともできる状態にしておく。
こばなみ:
iPhoneを持ってればデフォルトで入っている「ボイスメモ」機能で録音できますし、その他にもボイスレコーダーアプリはたくさんありますからね。
宇多丸:
もちろん最初は、ふつうに強く抗議するところから始めてみましょうか。
「やめてください、セクハラですよ」と。
それも、微笑みながらとかじゃなくて、本当に不快なんだ、というのをちゃんと伝えるところからね。
で、本気にとってもらえなかったり、上に訴えても効果がない場合には、さっき言った録音作戦。「いまのセクハラ発言、録りました。こういう場合、訴えれば◯◯◯円くらいとれるって弁護士さんに聞いたんですけど。それでもまだ言います?」って。
こばなみ:
でもその後、いじめられたりするかも…。
宇多丸:
だから、そんな職場は辞めるつもりで、ってことだよ。
まぁ僕は無責任な立場だからこういうことが言えるっていうのもあるけど……。
日常的にハラスメントがある、抗議しても直してくれない、仕方ないから法的手段に訴えたら今度は陰湿なイジメ、って、だとしたらそんな職場、どっちにしろロクなもんじゃねぇよ! そんなところに気を遣って人生を浪費するなんて、馬鹿馬鹿しくない?
あと、セクハラする男って、ヘタすりゃ「ホントは嬉しいくせに~」くらい思ってたりするからね、マジで。確かに「嫌よ嫌よも好きのうち」っていうけども……。
あれは本来さ、あくまで男女間の艶っぽい「機微」、その繊細なニュアンスが読める、粋な男のみぞが使っていい言葉であってさ。 別に好かれてもいなきゃ相手の気持ちに想像力を働かすこともできてないような野郎は、そもそも口にする権利すらない表現なんだよ。
なんか、セクハラって言葉が世に浸透しだした頃にさ、男サイドからの文句として、 「セクハラセクハラって騒ぐけど、同じことをイイ男が言っても、それはセクハラにならなかったりするんだろ? じゃあ何がセクハラかなんて、オレらにはわかんねーよな! もう怖くて何も言えませんよ!」 的な突っ込みって、よく聞かなかった? いや、今でも全然あるかもだけど。あれ、いかにも気が利いたこと言ったった風だけど、すげぇバカだと思うのね。
たぶん、それを言ってる男だって、自分に置き換えてみればふつうに理解できる話だと思うんですよ。 「好意を持ってる相手にされれば嬉しいけど、イヤな相手にされれば超キモい」、 それこそ性的な行為って、すべてそういうものじゃん。 「ましてそれを、嫌だって言ってるのに、しつこく強引にされたとしたら……」、 訴えます!ってなるよね、そりゃ。
とにかくそういう、根本的かつ当たり前の道理が、ことセクハラとかの話になると、途端に通じなくなっちゃう人は多い気がするなぁ。 性差別というものに対する根本的な問題意識からしてもう、結構な割合でわかってないというか、まだまだこれだけ浸透してないんだなぁ、というのは感じます。
こばなみ:
わたしはそういったセクハラ経験はないですが、冗談でも性的なことを言われるのって、あまり得意ではないですね。たとえ飲み屋とかでも…。
宇多丸:
ただ、飲み屋との違いは、職場は逃げようがない固定された場で、しかも力関係の差があったりする。
こばなみ:
力の差を利用して言ってるのは、本当に卑怯ですよね。
宇多丸:
まぁ、性差別は立場関係なくあり得るけどもね。女性の上司を「◯◯さんは女だから……」で評するとか。
こばなみ:
残念ながら、それはけっこうありますよね……。そのままのフレーズで言われたことはないけど、そのニュアンスを感じることはありますね。このクソー! だったらやってやるぞ!って、その都度、憤慨してますもん。
宇多丸:
半笑いで「なにカリカリしてるんですか? 今日、生理なんじゃないですかぁ?」なんて言ってくる人とか……。
さすがにいまどきそこまではいないか。
いないと思いたい!
でも逆に女性も「生理だから今日は機嫌が悪いの!」とか平気で言う人、いるじゃないですか。 それ聞いて、「じゃあやっぱり『女だから云々』って理屈もアリなんだな」と考えちゃう男は多いかもしれない。
こばなみ:
ちなみに生理って言われると男性って嫌なんですか?
宇多丸:
こっちがって言うか……そんなこと大声で話しちゃっていいの?とは思うかも。
こばなみ:
言うべきか迷う時がけっこうあって……。たとえば、お腹が痛い時とかに同僚男子に「どうしたの?」って聞かれて、「お腹が痛くて……」て返すと、「なんで?」って言われて……。
宇多丸:
あははは。でもそこでさ、いい年こいて、「なんで?」はなくない? 小学生じゃないんだから。聞いてどうすんだよ!
こばなみ:
なんかそんなことで嘘つくのもどーなんだろうと思い、ついつい「アレで……」とかって言ってしまったり。
宇多丸:
そんなことにいちいちバカ正直に答える必要はないよ!
「なんで?」ってアホか!
まぁ、悪気はないんだろうけど……デリカシーもないよね。
あのさ、これも一応聞いておきたいんだけど、
「きれいだね」とか「かわいいね」とか、そういうのもセクハラになり得るって聞きますけど、どう?
まぁ当然、相手や言い方にもよると思うけど。
こばなみ:
どうなんでしょうね。あまり言われたことがない……(苦笑)。ちなみに視線とかはどうなんですか? おっぱいばっかりを見てくる、とか。
宇多丸:
ただ、どうしても目が行っちゃうことはありますよね。
「わっ! 谷間だ!」とか……それって性的に興奮してるというより、もっと単純に「立派なおっぱいだなぁ」って、感心してるに近いんだけど。
女の人だって、別にそういうのが特に好みっていうんじゃなくても、腹筋が見事に割れてるボディとか見ると、問答無用でアガるでしょ?
「すご~い! ちょっと触らせて!」みたいな。まぁそんな感じですよ。
なので、そこに関しては、イヤな気持ちにさせちゃってたらごめんなさいね、としか言いようがないっス。 もし「さっきから私の胸ばかり見てませんか?」って怒られたら、「すみません、素敵なのでついつい……」って答えるしかないなぁ。
こばなみ:
その言い方だと、怒るに怒れないかも。
宇多丸:
でも、そこでさらに「不快なので見ないでください」とか言われたら、それはさすがに本気で気をつけるようにはしますよ。
ていうか、大して親しくもない、好意も抱いてない人から、顔あわせる度にジロジロおっぱいばっかり見られたりしたら、やっぱりあんまりいい気持ちはしないよなぁ。
もちろん逆に「自慢のおっぱいなんで、どんどん見てください!」って可能性も、ゼロではない。 ただその場合も、こっちも調子に乗っておっぱいおっぱい言ってると、周りにいるそれ以外の女性に対するハラスメントにはなり得るかもしれないし……。
だから、一概にどうこうというよりも、結局はコミュニケーションの問題なんじゃないですかね。 ここからここまでがセクハラ、って杓子定規に線引きをすれば済む話じゃなくてさ。 なにがお互いにとって不快なのか、なにが相手を傷つけているのか、自分のなかに確かにある性差別的な意識を見つめ直すことも含めて、そこを探り合う作業に、終わりはないはずでしょう。
日々の暮らしのなかで、お互いを尊重しながらそれが積み重ねていければベストなんだけどね。
こばなみ:
仲良しだったら、ちょっと「下ネタな冗談」になってしまうこともありますしね。
宇多丸:
だから、最初に言ったように、「隙をつくらない」とかそういうことじゃない。
「セクハラをうけないために鉄仮面女にならなきゃいけない」なんて、そんなバカな話はないよ。
愛犬家さんが悪いんじゃないんだから、自分を変えようとする必要は一切なし! それと、男だって全員が悪魔ってわけじゃないんだから。言えばわかってくれる人だって、味方になってくれる人だって、きっとそれなりにいるはずですよ。
でも、もし!
言っても全然わかってくれない、味方も出てこないような職場環境なんだったら、差し当たってご自分の身と、人生を守るという意味でも、とりあえずはそこから脱出することを考えたほうがいいかもです。
それが残念ながら今の日本のレベルということで……。
結論:
セクハラは「受ける側」の問題じゃなくて「する側」の問題
訴えてダメならば、そこからの脱出を考えたほうがいいかもしれません。
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年2月8日に公開したものを再編集し、掲載しています。