腹が立つことがあると、すぐ舌打ちしてしまいます。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室177】
✳️今週のお悩み✳️
腹が立つことがあると、すぐ舌打ちしてしまいます。直したいのですが、どうしたらいいでしょうか?
(ぱるる・32歳・千葉県)
宇多丸:
舌打ちかぁ……。
もちろん、よくないことだなんてのは誰だってわかってるけど、それでもやっぱり、出るときはつい出ちゃってる、って感じじゃない? みんな。
正直、僕もたまにやっちゃってると思いますね、ほとんど無意識的に。
ただまぁ、「腹が立つことがあると、すぐ」っていうのはさすがに、もうちょっと自覚的に慎んでいったほうがいい頻度かもしれないですけど。
ちなみに、そもそも舌打ちって、なんなんですかね? 人間という生き物が、本能的にとってしまう反射行動とか?
でも、たぶんだけど、腹立ちを示す反応として、別に全世界共通ってわけじゃないよね?
こばなみ:
日本では怒り、不快、あと悔しい時などにもしますが、ウィキペディアによると、
「中国や韓国ではちょっと感動した時や賞賛する時、シリアでは同情した時、インドでは『うん』『ううん』『へぇ』『そう』のような相槌代わりなど、国や文化によってこの動作の意味は大きく異なる。アフリカの諸語においては、数種の舌打ちに近い音が子音として用いられている(吸着音)。数種の音を使い分ける言語もある」
とのことでした。
宇多丸:
へぇ~! 面白いなぁ。
中国や韓国みたく、地理的にはごくごく近いところでさえ、全然ニュアンスが違ったりするんだもんね。やっぱ、自分の常識と他人の常識が同じだと思い込まないようにするのって、大事ですね。
とにかく、「つい出てしまう」と言いながら、普遍的な生理反応ってわけじゃなくて、あくまで後天的な、文化的な刷り込みありきの行為……、要は「お行儀」の範疇の話なんですね、どうやら。
じゃあ、お行儀を直すにはどうしたらいいかっていうと、普通に考えたらまぁ、いわゆる「しつけ」的なことになるよね、やっぱ。 その都度、誰かからうるさく怒られたり、場合によっては肉体的な痛みを与えられることで、「刷り込みを上書き」していくっていう……、舌打ちするたびに電気ショックが走るようにしとくとかさ(笑)。ホント、パブロフの犬だよ!
現実にできそうな範囲で言えば、やっぱ、周囲の人に協力してもらって、逐一、厳しく指摘してもらうってことじゃん? 「ホラいま舌打ちした!」って。 で、そのたびに手の甲とかを定規でビシーッと叩いてもらったりすれば、さらに効果てきめん(笑)。
あと、露骨に舌打ちし返してもらうとかね。 どっちにしろ、相当親切な人が周りにそろってないと難しいけど……。
こばなみ:
私、舌打ちをよくするメンバーに言うことありますよ。「うわ、いま出たよ!」とか。
ただ、一番多いのは、面と向かって舌打ちするんじゃなくて、見えない相手に対してうまくいかないときに、つい出てしまうパターンだと思うんですけどね。
宇多丸:
貧乏ゆすりとかに近い感じなのかな?
こばなみ:
そうですね。あと、指をめっちゃ早くトントンしたりする人もいますよね。顔見知りならまだいいけど、初対面でされたりしたら本当に怖い。
宇多丸:
いまちょっと思ったのは、舌打ち含めたそういうアクションって、なんだかとっても、「日本人っぽい怒りの表しかた」なのかな~って。
誰かに向かって、たとえば中指立てるとか、ののしり言葉を口にするとかさ、そういう明確な意思表示だったら、されたほうも怒り返すとか、とにかくなにかしようがあるし、それで衝突が起こるにしろなんにしろ、とにかく事態はなんらかの「進展」を見せてくわけじゃん。
でも、誰の、なにに対するものなのかを、あえて曖昧にしたような舌打ちとかってさ……、「私はいまイラッときてます」っていう、嫌な雰囲気「だけ」を周囲にまき散らして、そのくせ正面からぶつかり合うのは避けたいってことでしょ。
それってつまり、「言わずとも“察して”ほしい」っていう、周囲に対する「甘え」がベースにあると思うんですよね。言いたかないけど、他者にさえ同質性を求めてるって意味で、いかにも日本人っぽい話なんだけどさ、やっぱ。
その証拠にと言うべきか、甘えちゃ明らかにまずいような、改まった相手の前や状況下では、普通やっぱやんないでしょ、舌打ち(笑)。 だって、ただ単に「“機嫌が悪い”のをダダ漏れさせている」だけなんだもん! 問題を自発的かつ合理的に解決してゆこうとするような建設性は一切なく、ただただ「むずかってる」だけ。 卑怯とか陰湿っていうのもあるけど、要は子供っぽいんだよな、態度として。
それが半分自分でもわかってるからこそ、しちゃいけない場ではたいていしない……ってことは、ちゃんと気をつけてれば全然大丈夫なはずなんじゃん!(笑) ダメだ、オレら!
ということで、舌打ちの本質は甘え! これ、今回の発見だね。
こばなみ:
甘えてますね、ほんと。
宇多丸:
「舌打ち程度」だと思ってついついライトにしちゃいがちだけど、そのライトさこそがズルいんだよな。されたほうも、本気で追求するのも大人げないんだろうけど……みたいな感じにならざる得なかったりして。
なので、「出るときはつい出ちゃう」なんて、それこそ甘ったれたこと言ってる場合じゃないんだよ、きっと。
その意味でぱるるさんも、さっき言ったみたく、周りの人にいちいち叱ってもらう&罰してもらうっていう「しつけ」型矯正もたしかに有効だろうけど、できればというか同時に、舌打ちという行為のそういう幼稚さ、醜さを、改めてしっかり認識することで、あくまで意志的に克服するよう心がけることも、成熟したひとりの人間としては、やはり大事な姿勢なのかもしれないですよね。
舌打ちなんかするくらいなら、はっきり意見を表明して、自分の責任で他者との齟齬に立ち向かってゆくべきだし、そこまでする気もないのなら、そもそもそんなに怒るほどのことではない、ということ! 僕自身も、肝に銘じておきたいと思います……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年1月28日に公開したものを再編集し、掲載しています。