友達への嫉妬。消すにはどうしたらいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室32】
✳️今週のお悩み✳️
友人は私の1つ下ですが、何かにつけて出来がいいです。同じ会社で働いているのですが社内の評価も高く、仕事の仕上がりもいいです。今まではすごいな、という気持ちと嫉妬が入り混じった複雑な心境だったのですが、最近その友人が結婚をしてマンションを買うと言い出しました。マンション購入なんて自分にはかなり先だと思っていたのに、年下の友人がそれを実現することに驚いています。また彼女の結婚相手の方が私の彼より年下であることも複雑な気持ちになるのかもしれないです。自分でもやもやするので嫉妬の気持ちを消したいのですが、どうしたらいいでしょうか?
(もも・千葉県)
宇多丸:
嫉妬って、あらゆる感情のなかでも、ひょっとすると一番厄介かもしれないよなぁ、とは常々考えていて。
というのも、何かにつけ心にそれが湧いてきてしまうのは人間だからしょうがないんだけど、ついつい、それが嫉妬であるという事実から目を背けてしまうというか、「自分はいま嫉妬している」と意識できてないまま、でも客観的にはモロにジェラシー発の醜い言動をしちゃってる場合が、結構多いんじゃないかと思うんですよ。 たぶん、現実を直視するにはあまりにも情けなさすぎるというか、ツラい気持ちだからだとは思うんだけどさ。
たとえば、人はなんで有名人のゴシップが大好きなのかってことですよ。誰それに批判が殺到したとか、泥沼の離婚劇になってますとか、ドラマの視聴率が振るわないとか……、そんなの本来、我々の人生にはいっさい関係ない話なのにさ。一番の大好物じゃん!
要は、とにかく「自分よりうまい汁を吸っているように見える」誰かの人生に、何かしらネガティブな事態が降り掛かってるのを確認することで、ならばやっぱり自分のほうがマシなのかもしれない、と思いたいからってことでしょ。それってつまり嫉妬だよね。 でも、自分ではまったくそうは思ってなくて、むしろ「正当な批判」をしてるつもりだったりするから、またタチが悪いっていう……。
こばなみ:
はっ! たしかにそう言われてみると……!? ゴシップ好きです……。
宇多丸:
その点ももさんは、「私はこの友人に嫉妬している」と、ここまで自分に厳しい言葉を連ねて自覚できてるんだから、僕は相当立派だなと思いますよ。
その時点である程度、自制心が働くじゃないですか。 これはなかなかできることじゃないよ!! ここで、自らの嫉妬心に自覚的になれない我々のような凡夫はさ、たとえば、山田洋次の『小さいおうち』って映画で室井滋の役がまさにこういうイヤミを言うんだけど、 「このご時世に家を買うだなんてねぇ~! 大地震があって、そういう財産を持っててもどうなるかわかったもんじゃないって、こないだ散々思い知らされたばかりだっていうのにねぇ~!」 みたいに、自分では「正論」のつもりで、余計なお世話でしかない否定的意見をついつい言ってしまったりする。
結婚相手のことだってさ、 「あら年下? あの人も大人しそうな顔して案外隅に置けないのねぇ~」 とか、いくらでもイヤな感じのことは言えるわけじゃん。 社内での評価が高いっていうのも、 「あの子ね、要領がいいから。私なんか不器用だし……」なんて表現してみたり。 一見褒めてる風だけど、要は「アイツはずるいだけ」って暗に伝えたいっていうね。
そうやって、「心配しているからこそ、あえて厳しいことも言ってあげてるのよ」と自分自身思い込みながら、その実ただ単に悪口を言いふらしてるだけ、みたいなことは、ライムスターの『余計なお世話だバカヤロウ』っていう曲の一番でまさにそういうことを歌ってるんだけど、僕も含め誰もがついついやっちゃってることだと思うんですよ。
こばなみ:
知らず知らずのうちに言ってるわ……。反省……。
宇多丸:
もちろんこれは誰しも覚えがあるはずの、実に人間的な心の動きではあるんだけど、褒められたもんじゃないのも当然だし、いい歳こいても無自覚なままその手の言動を連発していると、周囲の人にはしっかり、「嫉妬深い上に卑劣な人」という最低の印象を植え付けてしまいかねない。
だからもう、自分の気持ちにいちいち冷静に向き合うクセをつけるしかないんだけど……。 そこへいくと、ももさんはやっぱり、すでに一段上のレベルにいるんですよ。 嫉妬という気持ちを完全に「消す」ことは、たぶん人間という動物には難しいと思うんです。 でも、「これは嫉妬なんだ」と意識する、意識しようとすることならできる。 それこそが唯一の解決策なんじゃないですかね。
こばなみ:
嫉妬って消せないですもんね。
宇多丸:
感情は、意志に関係なく「湧いてしまう」もんだからね。
恐らくその根っこにはさ、生き物としての生存本能みたいなことがあるんだろうとは思うんだけど。こっちの餌は少ないのに、あっちはいっぱい持っている(ように見える)=生命の危機! ムキーッ! みたいな。
ただ、動物と違うのは、人間は、それがどういう理由で湧いてきてしまう気持ちなのか、そこに流されてしまうと長期的にどういう不利益が出てくるのか、後から冷静に分析することもできる。 だから、これは嫉妬なんだと自覚できてる時点で、きっと問題の大方は解決してるんですよ。
だってももさんは、少なくとも、この友達の陰口を叩いて回るとか、そういう見苦しいことは間違いなくしない、というか、もはやできなくなってるわけでしょう。 自分は嫉妬してるって、ここまで正確に認識しちゃってるんだから。それだけでも十分、すごいことですよ。 あとは、嫉妬の原因となった「格差」と、ももさんが思っているものを、どう解消していくか。
ちなみにですね、仕事に関していうならば、たとえば僕の本業はラップですけど、明らかに自分より優秀だなと思うラッパーなんて山ほどいるし、若くてイケてるやつらは次から次へと出てくるしで、羨望や嫉妬は日常茶飯事。 そこでどうするかというと、これはもう、正攻法の「努力」の積み重ねしかないんですよねぇ。
まずは相手の優れている点を素直に認めて、学べるところは謙虚に学ぶ。その上で、自分が勝てるところ、相手にはない長所はどこかを、できるだけ客観的に分析して、そこを伸ばす。
なんか、ものすごーく真面目というか、当たり前の説教みたくなっちゃってますけど……、ホントにそうなんだから仕方ない。 つまり、相手を貶めたりするんじゃなくて、自分を高める動機として嫉妬や羨望を使えるのなら、あながち悪いことばかりじゃないかもよ、ってことですよ。
こばなみ:
ももさん、友達のこと、できる人って認めているような相談文の書き方ですしね。
宇多丸:
「評価が高く仕事の仕上がりもいい」って、相手の優れている点を正確に認識して、分析もできている。
で、こういう人は、自己評価とは裏腹に、本人もちゃんと優秀だったりすることが多いと思いますね。
優れたものを正確に評価できる時点で、実は結構な能力なんですよ。逆に言うと、それがない人はもう、スタートラインにすら立ててないというか。まぁ、その眼力を持ってることによって、ももさんみたいに苦しむことも当然あるでしょうけどね。
映画『アマデウス』って観たことないですか? 天才モーツァルトと同時代に生まれてしまったサリエリという作曲家が、なまじそこそこ自分も音楽の素養を持っているからこそ、圧倒的に自分よりモーツァルトの方が優れているということが「わかってしまう」。 他の誰よりも、わかってしまう! それゆえに、嫉妬に苦しむ話なんだけど。 でもさ、僕は思うんだよね。 天才の凄さをより正確に評価できる能力だって、立派に神のギフトやないかーい! サリエリー!!って。
少なくとも、他の人よりは豊かな世界を見れてるわけだからさ。ま、そういう人は評論家とかになるのが一番いいんだろうけど……。 とにかく、それはそれで、何もわかってない人よりはずっと素晴らしい人生じゃないの、と僕は言いたいですね。
一番ダメなのはさ、「なんであんなやつがチヤホヤされんだよー」って文句言うだけで済ませちゃう人ですよ。嫉妬に目がくらむあまり、なぜその人が自分より評価されてるかを冷静に見極めることができない。
で、そういう態度にとどまっているうちは自分自身伸びもしないから、さらに嫉妬心が増すような状況になっていったりして、負のサイクルに陥っていきやすいわけですよ。
でも、ももさんみたいな人は伸びる余地がある。 たとえば友達の仕事ぶりを分析して、取り入れられるところは取り入れて、足りてないところを自分なりに補ってみるとか、やれることはいくらでも出てくると思うんですよ。
だから、いいライバルと出会えて良かった!くらいに思えばいいじゃん。 相手がいるから高められる関係っていうのもあるでしょう。 悔しいって思えば思うほど、自分が高められる相手って思ったらどうでしょうかね。
こばなみ:
そう昇華できたらいいですね。嫉妬も使いようっていうか。
宇多丸:
マラソンでもなんでも、リードしてくれる人がいるほうが成績が伸びるっていうじゃないですか。逆に、前方には誰もいなくて、追われる一方の立場っていうのはそれはそれで結構キツいよ。だから、背中を見る相手がいることって、実はとてもラッキーなことなんですよ。
とにかく、嫉妬だって使いようってこと。 あと、嫉妬ベースの陰口だって、もちろんしないに越したことはないけども、絶対に褒められたもんじゃないってことをわかった上で、それでも彼氏とか、本当に気の置けない友達の前とか限定で口にすることで、心がちょっとでも晴れるんだったら、これまた「使いよう」のうちかもしれない。 要は、嫉妬に「踊らされない」ことですよ!
こばなみ:
私も以前、友達が結婚するとか聞くと、しんぱ~いとか言ってしまったり……。これは嫉妬だったのか!
宇多丸:
見境なく人に悪口を言うとか、嫉妬に目がくらんで相手の評価が正確にできないとか、そういうのさえなければいいんじゃない?
にしても、ももさんはたいしたもんですよ。
自分は嫉妬してるってことを、ふつうここまで言葉にできないって。
そんくらい嫉妬って、自分で認めるのが難しい感情なの。だから、そんなにもやもやしないで。
結論:
「これは嫉妬なんだ」と自覚できてる時点で問題の大方は解決!
正論のつもりで否定的意見を人に言いふらすなんてことはないはず……。
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年2月22日に公開したものを再編集し、掲載しています。