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社員の意志=Willこそが企業の新たな価値をつくり出す。ポーラが考えるD&I経営とは


2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。

今回は
美容サービスや化粧品を手がける
株式会社ポーラにお邪魔して、
人事戦略部ワーキングイノベーションチームの
廣川 直子ひろかわ なおこさんにお話をお伺いしました。

ジェンダーエクイティ(男女公正)と女性のエンパワーメントに力を入れるポーラは、2021年には「男性育休100%宣言」に賛同、23年には育休取得期間の目標を3カ月以上とするなど、育児と仕事を両立しやすい環境づくりのための積極的な施策を行っています。

施策を打ち立てても、社内浸透に苦労する企業も多い中、ポーラが実施した浸透のための秘訣とは? ヒントは、従業員の多様な価値観を尊重するという組織風土にありました。


<History>

●2020年 
  2029年に迎える創業100周年に向けて“誰もが美しく生きることができる社会”を目指す「サステナビリティ方針」を策定

 ・社内の有志メンバーによる「産育応援プロジェクト」が進行
 
子育てに関する悩みや復帰後のキャリアなど、産休・育休中の社員のさまざまな疑問や価値観を共有し合える場を設ける。

●2021年
  「男性育休100%宣言」に賛同

  産・育休取得者への評価制度を改正

2022年
  男性の育休取得率が90%を超え、前年度41%から大きく飛躍する

●2023年
  サステナビリティレポートにて2029年目標値として3カ月以上の育休取得率100%を掲げる


「数日間だけの"取るだけ育休”は避けたい、と思っていました」


POLA株式会社 人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム廣川 直子ひろかわ なおこさん


——2021年に「男性育休100%宣言※」に賛同されましたね。

実は以前からポーラは、社員一人ひとりの意志を尊重したいという思いからダイバーシティ経営やジェンダー平等をテーマに、さまざまな施策に取り組んできました。「男性育休100%宣言」には、性別に捉われることなく育児休業を希望する全ての社員が、育児にも仕事にも積極的に取り組んでほしいという思いから、賛同させていただきました。

※男性育休100%宣言:株式会社ワーク・ライフバランス社が推進するプロジェクト。男性の育児休業取得率100%を実現するために、企業の経営者が宣言し、目標をもってアクション及び発信していくというもの。


——さらに、2023年には育休取得の目標期間を3カ月としました。あえて「3カ月」という数字を設定したのには何か理由があるのでしょうか。

数日だけ育休を取得する"取るだけ育休"がよく問題になっていますが、それは避けたいと考えていました。生後3ヶ月までは、出産を終えたパートナーの体調ケアも特に必要な時期。まずはお子さまの子育てや家族のケアに専念することで、これから協力して子育てをしていくための体制を、家族間で整えてほしいと思い、推奨期間を設定しました。


——「男性育休100%宣言」に対して、社内の反応はいかがでしたか?

2021年に社内アンケートを実施し、取得する可能性がある方に機会があれば取得したいか聞いたところ90%以上の人が「取得したい」と回答しており、当事者も取得に積極的であることがわかったんです。

ただ、最初は「本当にとっていいの?」 という戸惑いの声がありました。会社に迷惑をかけてしまうのではという懸念のほかに、昇格や評価を心配される人が多かったですね。


——とはいえ、施策自体は浸透していますよね。前年41%から大きく飛躍し、2022年度は取得率90%だったとのことですが、浸透した理由はどんなところにありますか?

育児休業に入る前の男性に面談をしていますが、1、2日程度取得する人が多かった一昨年と比べて、まずは子育てに対する意識が大きく変わったなと感じています。また、その面談で、出産後3カ月間のお子さまとパートナーの体の様子を人事部としてお伝えするようにしたことで、その必要性に気づかれた人もいらっしゃいますね。

ポーラの育休は、お子さまが2歳になるまで(※正確には2歳になる月の末日まで)取得できますが、管理職に就いている男性でも、2023年7月時点で4名取得しており、中には1年取得した方もいます。


——名ばかりの制度で終わらず、社員が積極的に活用できる土壌がどんどん作られているのですね。

そうですね。最近では新入社員の採用面接をしていても、育児休業のことを聞かれることがよくありますね。入社の一つの軸として、ワークライフバランスを重視している人が多いのではないでしょうか。男性社員同士でも、育児休業について情報交換をする姿も見られるようになりました。

育児休業を機に部下にうまく仕事を任せられるようになった人もいます。一方で部下からも、以前より自分の裁量で判断でき、働きやすくなったという声も。育児休業を取得することは、よりよい働き方を模索するきっかけにもなると思っています



「男性育休100%宣言は、会社として"あなた(社員)の生き方を応援するよ”という姿勢の表明なんです」


——「男性育休100%宣言」当時は、育休を取ることを躊躇する声もあったとおっしゃいましたが、そういった不安をどのように解消したのでしょうか。

宣言の同年に、産・育休取得者への評価制度を見直し、改正を行いました。

ポーラでは昇格試験を受ける条件として規定の評価に達している必要があります。それまでは、育休前にどれだけ評価が高くても育休中に評価がリセットされてしまっていたんです。それを改正し、育休前の評価が据え置きになるようにしたことで、復帰後も条件を満たしていればすぐに昇格できる仕組みにしました


——逆に、業務を引き継いだ社員に対して、何か人事部からフォローを行っているのでしょうか。

育児休業に入る前に各自でマニュアルを作り、引き継ぎしていただくなどそれぞれの部門で対応している状況です。業務の属人化をなるべく避け、誰もがフォローし合える体制づくりを意識しています。ここはもう少し社員の負担を減らす方法はないか、模索中ですね。


——社内全体の理解促進のために、何か施策をされていますか?

最初はマネジメント層向けに、その後は全従業員を対象にして、男性育休をテーマにロールプレイングやディスカッションなどを行うD&I研修をコネヒト株式会社様とともに実施しました。

ロールプレイングでは、「育休を取りたくない夫と取ってほしい妻」の場合、逆に「育休を取りたい夫と働いてほしい妻」の場合など、参加者にさまざまな価値観を持つ夫婦を演じてもらいました。みなさん、どうしても自分の家庭の事情に合わせて育児休業が必要かどうか、判断してしまいがちですよね。そこでさまざまな家族のパターンを演じてもらうことで、その必要性は収入や家族構成など家庭環境によって変わることを知ってもらいたいと考えていました。

育休を取ることだけが正解なのではなく、それぞれの家庭にあった選択であれば、どれも正解だと考えているからです。


——育休を取っても取らなくても正解…、それは「男性育休100%宣言」に矛盾するものではないのでしょうか。

一見そう捉えられてしまいがちなのですが、「男性育休100%宣言」はあくまでも会社としての意志の発信だと思っています。家庭の事情もあるので、その選択するのは本人だけれど、「会社としては全員取っていただいて問題ないですよ」という姿勢の表明です。家庭内では取る必要がないという話になっているのに、会社が強制的に取得させるのも違いますよね。

そういう意味でもワークショップを通して、育児休業が必要かどうか、本質的に考えてほしいと考えていました。大事なのは選択肢を押し付けるのではなく、選択肢の存在を知ってもらうことだと思っています。


——研修に対して、社内の反応はいかがでしたか?

今のマネジメント層の中には、育休を取得していない人が多いのですが、宣言に対しても特に反発はありませんでした。研修でなぜ必要なのか、本質的な部分に迫ることができたからだと思います。「自分たちが若い頃にもほしかったなあ」という声はたくさん聞きました(笑)。



「企業として価値を生み出しつづけるためにも、社員が生き生きと働ける環境づくりは必須です」



——最近では、ジェンダー平等を掲げて育休取得を推奨する企業も増えてきていますが、どうしても形骸化してしまうケースが多いように思います。
ポーラさまの施策は社員にしっかりその理念が共有され、社内制度として機能しているようですね。

実はポーラには社員一人ひとりの意志を尊重しようという社風が以前からありまして。例えば1996年にはKT活動といって、今までのやりかたに固執せず、ありたい姿に必要なものは何かを吟味しながら、一旦"壊して"(K)また"作りなおそう”(T)という全社をあげてのプロジェクトを実施しました。年次や立場に関係なく皆の意志を大切にする風潮は当時から続いているように思いますね。だから、今回の男性育休についてもスムーズに理解を得ることができたのでしょう。


——「社員一人ひとりの意志を尊重する」という理念が、しっかり継承されているのですね。

ポーラでは社員一人ひとりが持つ、こうありたいと挑戦する「Will(意志)」と、それに対する「Empathy(共感)」が共鳴しあい、新たな価値創出につながっていくと考えています。そのためには、社員一人ひとりの能力や価値観の多様性が尊重される、環境づくりが何よりも重要。男性育休に関しても、より良い環境づくりの一環として、子どもを持つ社員が、性差にかかわらず育児に参画できるよう支援したいという会社の思いがあります。

環境づくり以外に、社員のWillを伸ばすための施策として、会社のビジョンを自分ごと化するためのワークショップを行いました。

ワークショップでは、会社のビジョンをそれぞれ自由に解釈し発表していくのですが、ビジョンの捉え方は自由ですので、必ず肯定します。ビジョンを押し付けるのではなく、それぞれの社員にあった形で落とし込んでもらえればいいと考えています

📯ポーラStaff Voice📯
ブランドコミュニケーション部 PRチーム 佐藤 恭子さん(2022年入社)
会社の面談では、仕事の話以外に、業務とは直接関係ない自分の価値観や将来やりたいことなどの話を上司が聞いてくれます。労働力としてではなく意志を持った一人の人間として、会社に大切にされているな、と感じますね。



「性差や環境による不自由をなるべくなくし、誰もが主体的に自分らしい人生を送ることを応援したい」


——2029年に100周年を迎えるにあたり、具体的に今後どのような取り組みをされる予定でしょうか。

やはり会社としても、女性のライフステージに関わる健康課題を改めて社会課題として見つめ直す必要があると感じています。

そういった思いもあり、ポーラでは100周年を迎えるにあたり、社会に向けた取り組みとしてBeyond Actionという、ジェンダー、年齢、地域格差などさまざまな「壁」の解消を目指す取り組みをスタートしています。

例えば、働く女性の健康問題を考えるフェムケアプロジェクトを始動しており、有名写真家とコラボレーションしたデザインのサプリやブレンドティーを開発。また、15社の他企業とともに「タブーを自由にラボ」を毎月1回(5月から5か月間)開催し、フェムテックについて学び、実際の解決策を模索する企画を進めています。

男性育休に関しても、実際に育休を取得した人の声やそのご家族の声をまとめたYouTube配信もいたしました。実際の取得者の思いや価値観を、一例ではありますが色々な方に知っていただけたらと思っています。また最近ですと、育業復帰サポート手当という性差に関わらず利用できる制度が今年の7月に誕生しました。


——こういった具体的な施策を通して、100周年ビジョンである「私と社会の可能性を信じられるつながりあふれる社会」を目指すということですね。
もしこれが実現されたら、どのような社会が期待できるのでしょうか。

お子さまがいる家庭では、家族の協力が得られることで、仕事をしながら家事・育児をワンオペでこなす必要がなくなり、もっと長期的な目線でキャリアプランを立てられる女性が増えてくると思っています。

ポーラが昨年全国の小中学校約3万校に寄贈させていただいた『十代のためのジェンダー授業』という冊子には、ジェンダーと仕事の関連性を考えてもらうために、現在の職業別の男女比を掲載しています。

もし「私と社会の可能性を信じられるつながりであふれる社会」が実現すると、今後はこれが総人口の男女比と同じになるのではと思います。

つまり、女性の働き方や職業自体にも選択肢が広がるのではないでしょうか。

ポーラが、朝日新聞社とともに小学校向けに制作した冊子『十代のためのジェンダー授業』


もちろん性別に捉われることなく職業を選べるようになっても、体格や性格によってできる・できないはあると思います。でもその原因はあくまでも体格や性格にあって、生まれ持った性別によってあらかじめその選択肢を奪われることがない社会にできればいいなと思っていますね

そのためにもまずは会社の中から、性別に関係なく自分の「こうありたい」を実現できるような取り組みを、一つ一つ行っていければと思っています。



社員を尊重することが、
結果として
会社の新しい価値創出につながる。

揺らがない企業理念があるからこそ、
男性育休100%宣言をはじめ、
社員が働きやすい環境づくりを
追求しつづけられるのかもしれません。

社員の生き方を応援する
さまざまな施策に、
また一つ、
これからの企業としてのあり方への
ヒントをもらえた気がします。

<お話を伺った人>

ポーラ株式会社
人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム
廣川 直子ひろかわ なおこさん

社内のDE&I、両立支援、健康管理、コンプライアンス等の理解浸透を担当。社内事業の一つである「幸せ研究所」にも所属し、社員やその家族のほか、お客様、ステークホルダー、地域や社会における幸せな生き方を日々、調査・研究している。自身も1児の母。




取材・文:齊藤葉/撮影:鈴木愛子




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