友情が破綻しバンドが解散。あと残り2回のライブにどう向き合えばいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室283】
✳️今週のお悩み✳️
わたしはいま趣味のバンド活動をしているのですが(全員女子のギャルバンでギターを担当しています)、ボーカルから「あなたとは考えが合わないので、予定しているライブを終えたらしばらく活動を休みたい」と言われました。わたしはいま30代で、昔から音楽をやっていたわけではなく、友人であったボーカルが作詞をしており、それにノリで曲をつけるという作業が楽しく、遊びの一環で結成したバンドですが5年ほど細々と活動を続けています。ボーカルははっきりド下手ですが(歌下手選手権のずん飯尾さんが、決してわざと下手に歌っているわけではないと実感できるほどに彼女は致命的な音痴でした)彼女の書く歌詞とそのド下手クソなボーカルに何か計り知れない魅力があり、そしてそれに曲をつけて形にするということに喜びを感じていたのですが、年月を重ねるうちに彼女とわたしの間にはどうにもならない断絶が生まれていました。もうやっていられない、と向こうから言われたときには正直ホッとした気持ちが強かったのですが、頑なに自分の考えを曲げない彼女に怒りと悲しみが込み上げ、あと2回控えているライブに対しどう向き合えば良いか混乱しています。
宇多丸さんは『ブルーバレンタイン』などの夫婦崩壊もの映画の評で、よくパートナー問題、なぜ愛だったと思っていた関係が壊れてしまうのか、ということにたびたび言及されていますが、彼女もわたしも人間的問題を抱えており(彼女は躁鬱、わたしはアルコール依存)、それゆえにお互い友人関係になり、そしてバンドを組むことで友情以上の何かを築けたのではと思っています。
友情が破綻しても音楽を通じて繋がり続けているバンドというのは音楽史上たくさんあるかと思いますが、はっきり言ってわたしたちはそこまでのレベルに至っていません。あと2回控えているライブに対し、「これが終わればもうオサラバ」という気持ちもありつつ、どう気力を持っていけば良いかわからず毎日ギターの練習をサボり酒に逃げ続けています。
曖昧なご相談で恐縮ですが、夫婦崩壊もののように、「バンド破綻もの」「友情崩壊もの」といった、人間関係にまつわる何かおすすめがありましたら教えていただけたら幸いです。まとまらないままで大変失礼いたしました。
(いーぶい・31歳・神奈川県)
宇多丸:
これ、早く回答しないと、あと2回のライブ、終わっちゃうもんね(笑)。
要は、彼女たちの今の境遇にふさわしい映画やなんかをオススメしてほしいわけね。
今週は『映画カウンセリング』ですね。
「バンド破綻もの」かつ「友情崩壊もの」、となると……。 まず、かなり有名な作品なんでいーぶいさんもとうにご覧になっているかもしれませんが、『ザ・コミットメンツ』(1991年)あたりはどうですかね。 主人公はダブリンのアマチュア・ソウルバンドのマネージャーなんだけど、いろいろ人間関係がこじれたあげく、結局グループは解散することになってしまうという話。 特に、ヴォーカルがとにかく性格最悪で、バンドの空中分解も実質ほぼこいつのせいって感じでもあるんだけど、こいつがまた、ひとたび歌いだすと誰もがひれ伏すしかない、圧倒的な天才でもあって。で、最後の最後に一夜だけ、全員笑顔の最高のライブをカマして、メンバーそれぞれは散り散りになってゆく。歌も演奏も本人たちがホントにやっているからこその、その場その瞬間だけ生じる音楽のマジック、みたいなものがしっかり刻印された、バンドもの映画の傑作です。さすがはアラン・パーカー監督作、という感じですね。
その『ザ・コミットメンツ』はそれでも、最後にちょっとだけポジティブな余韻を残してくれる作品ですけど、さらにヘビーで苦~い、それだけに忘れがたい一本として、2014年の『FRANK-フランク-』もオススメしておきたいと思います。監督のレニー・アブラハムソンは後に『ルーム』で大変評価されましたね。 主人公はシンガーソングライター志望で、ひょんなことから、あるアバンギャルドなバンドに代打キーボードとして参加することになる。マイケル・ファスベンダー演じるヴォーカルのフランクはかなり精神を病んでいて、常に巨大なマスクで素顔を隠していないと生活できないくらいだし、ほかのメンバーも衝突やら自滅やらが絶えない超厄介者揃いなんだけど、バンドとしてはやっぱりオリジナルな輝きがあって、主人公はフランク以外には疎まれつつも、そこで居場所を得ようと彼なりに頑張るわけです。でも、色々あってやっぱり、グループは最悪のかたちで崩壊してしまう。 この映画がすごいのは、最終的に主人公が、やはり自分がいないほうがこのバンド本来の良さ、フランクの天才性が発揮されるんだ、という真実を目の当たりにしてしまう、もっとはっきり言えば、自分はフランクやグループにふさわしくない凡才だったんだということを、さびしく自覚させられてしまう、というところなんですよね。こんな厳しい結論で終わる映画も、そうそうないよね……。
ただ僕は、『アマデウス』とか観てても思うんだけど、天才の天才性をちゃんと理解できる感性だって、それ自体が才能じゃん、とは前から考えてますけど。
とにかくこの『FRANK-フランク-』、エキセントリックで不思議な魅力があるヴォーカルとそれをサポートする側、という関係性がいーぶいさんのケースとちょっと重なるかなと思ったんだけど……、かなり後味キツめなんで、摂取は要注意で!
あと、僕はまだ観られていないんですが、マネージャー小山内さん曰く、現在劇場公開中の『さよならくちびる』が、グループ解散決定後のツアーという、まさしく現在のいーぶいさんたちに近い状況を描いたなかなかの傑作のようなので、そちらもいかがでしょうか?
こばなみ:
これらを観つつも、まずはあと2回控えているライブをがんばりきるってことですかね?
やるはやるんですもんね。
宇多丸:
僕も長年音楽グループをやってきた身として、解散が決まってからのライブって、消化試合みたいに考えちゃうとどうしても、どんどん萎えてくる気持ちはわからないじゃないけれども……。
でもたぶん、そこでベストを尽くさないと、あとですごい後悔するんじゃないかな。
その残り2回で、やれることはすべてやりきるっていうことが、これで終わるにせよなんにせよ、「その先」に進むためには大事なんじゃないかなっていう気が、僕はします。 そうしないと、もっとできることがあったはずなのにとか、心残りを引っ張ることになるんじゃないかと思うんですよね。
あと、それとは別に、アルコール依存はとっとと専門機関で治療したほうがいいんじゃないの?とは普通に思うけど。 まぁでもね、ライブ、気分悪い状態でやるのも大変なのはわかりますよ。
こばなみ:
そして練習してないっぽいですもんね……。
宇多丸:
ギタリストの人は、毎日ギター触ってないと調子を戻すのが大変だって、何人かのプロから聞きましたよ。
なので、いますぐギターを手にとれ!
あ、そうだ、アルコール依存症の人が主人公の音楽ものっていう意味では、ジェフ・ブリッジス主演の『クレイジー・ハート』なんかも、どうかな。 これはバンドものじゃないけど、酒で致命的な失敗をしてしまう、懲りてるはずなのにまたやってしまう、それでも音楽によってなんとかまた立ち上がる、そういうミュージシャンの姿を描いているので。
同じく酒でダメになるミュージシャンが出て来る最近の映画といえば、ブラッドリー・クーパーとレディ・ガガの『アリー/ スター誕生』もそうですよね。 こっちは結局、完全にダメになってしまうわけだけども……、これだってやっぱさ、最後に一発いいライブとかができてれば、話は違ったんじゃないかってことじゃないですか。
あと、公開が終わっちゃってるところも多いけど、ローレル&ハーディという凸凹コンビの元祖のキャリア終盤を描いた『僕たちのラストステージ』も、腐れ縁的二人組が最後につける落とし前、という点で、いーぶいさんたちの現状に通じるものがあるんじゃないかな。
こばなみ:
でも、最後にライブの機会があってよかったですね。私はSMAPのことを思い出してしまいましたよ……。
宇多丸:
ホントだよ!
とにかくね、あと2回のライブも、来てくれるお客さんがいる限りは、The Show Must Go Onですから。
悔いを残さない内容にできるといいですね……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年6月15日に公開したものを再編集し、掲載しています。