新規事業を担当しているのですが先駆者が会社にいない……!!【ライムスター宇多丸のお悩み相談室125】
✳️今週のお悩み✳️
新規事業の担当をしているのですが、会社にノウハウがない、先駆者がいない、そのため自分で調べたりなんだりで、毎日大変です。もちろんやりがいはあるのですが、まわりの人たちは、口だけしか出さないし、やるほうは大変だっつーのと文句を言いたくなる日もあります。宇多丸さんも、もちろんご自身で開拓されてきたことが多いと思いますが、落ち込んだときなど、どう自分を奮い立たせていますか? 教えて&励ましていただけるとうれしいです!
(るーずべると・35歳・東京都)
宇多丸:
こばなみだって、女子部JAPAN(・v・)は新規事業だったわけでしょ?
そのへん、どんな感じなんですか?
こばなみ:
初めはやっぱり超手探りでした。自社事業なんてやったことなかったし、部員さんを集めてイベントなんてやったことなかったし、まわりからもいろいろ言われることもありますしね。
でも、だんだん、これだ!と思ったことは、まわりの意見をあまり聞かずにやっちゃう戦法に出たりしましたね。
たとえば、今年は宇多丸さんにゲスト登場していただく、クリスマス・イブ当日の女子会。 3年前に初めてやったときは、人が来ないんじゃないかとか、そういう日に集まる女子のイメージってどうなの?とかとか、いろいろとモメて。 さらには、編集部女子スタッフもその日はみなさん予定があって、結局私と、あと男子スタッフに手伝ってもらってやったら、思いのほか、人数も集まったし、やけに盛り上がって。 ほらみたことかーと(笑)。 振り切って、信じてやってみて、本当によかったです。 今では恒例行事になりましたし。
でもまぁ、その他もろもろ、凹むことはしょっちゅうありますけどね
宇多丸:
るーずべるとさん始め、先行者がいない領域を切り拓いていかなきゃならないような立場の人に特有の苦悩があるとすれば、「頼りにできる人がいない」ってことだよね。
前はどうやってたんですか?って聞く相手がいないっていう。
そもそもこっちの方向に進んでいいのか?ってことさえわからなかったり。
こばなみ:
それはあります!
だから、全部を全部、まわりの人の助言をシャットダウンするわけじゃないんだけど、最終的には「自分で決める」っていうのが重要になってくるかも。でも決めるのはいつだって怖いですけど……。
もうね、毎朝風呂に入りながら毎朝「サプリ(広告代理店で働く女子が主人公の漫画。モーレツに働いている)」を読んで、「私もやるっきゃない~!」って、魂を奮い立たせてますよ(笑)。
宇多丸:
僕が思うに、参考になるような先例がないことをやるって、もちろん大変なんだけど、その立場だからこそ経験できること、学べるものっていうのがたくさんあるわけじゃない? それは間違いなく、財産だと思うんですよね。
たとえば、やり方そのものをゼロから構築してかなきゃならないぶん、どうしたって「本質から考えてみる」ってことをすると思うんですよ。 何のためにこれをやるのか、ていうかそもそもこれは何なのか、っていうようなところから、考え始めなきゃならない。 そこに、自分なりの仮説や試行錯誤を積み上げていくうちに、なんとか使いものになる方法論、の・ようなものが、次第にかたちを成していく……って、それこそ、真の意味での創造的プロセスってやつでしょ! そこをちゃんと経ている人って、やっぱ圧倒的に「強い」んですよ、いろんな局面で。
そこへ行くと、後から来た人たちは、すでにあるその土台を元にどんどん改良していけるんだから、その意味では恵まれてると言えるんだけど、土台そのものの在 り方を問い直し革新するような機会はなかなかない……どころか大抵は、「それは元からそういうもの」として、特に考えもなく既存の枠組みに乗っかってるだ けになりがちだったりして。まぁ、それで済んじゃうんだからしょうがないんだけどさ。 とにかく、組織や社会が年月を経て進化していけばいくほど、何かを一から開拓するような余地は、どんどん狭まっていく(ように見える)ものではあるよね。
だから、たまたまその時代、その場所にいて、何かのオリジネイター的な役割を担わされるってこと自体が、後から望んでも得られないって意味で、やっぱりとても貴重な、幸運な体験なんだと思いますよ。
それに、周囲が口だけは出してきてウザいってことだけど、逆に言えば口だけしか出せない、部外者には「手が出せない」案件なのも確かなわけでしょ? 一会社員でありながら、一種自分がボスでもあるっていう……、それってやっぱり、すごいことですよ。
いずれにせよ、「自分が今、他の人はしてないような苦労をしているのは、まさしく、他の人にはできないような偉業に挑んでいるからなんだーっ!」っていうような密かな自負、誇りこそが、るーずべるとさんみたいな立場の人が改めて奮起する際の、一番大きな動機たりうるんじゃないですかね。
こばなみ:
そうですね。いま自分も奮い立ってきましたーっ!
あと、奮い立つ、かつ気合いが入るのは、社外の尊敬する人と会ったりすること。相談もするけど、元気になったり、くよくよしてる場合じゃなかった、とサッパリしますね。 るーすべるとさんがすげーぞ!と思える人と話すとか、どうですか?
宇多丸:
社外とか異業種の人でも、同じように「敷かれたレールの上じゃないところで戦ったことがある者同士」だからこそわかり合えること、みたいなのがあったりするんだろうしね。
そしたら、自分は孤独じゃないって思えるかもしれない。
こばなみ:
ぜひぜひ編集部に、遊びにきてください! お話したい!!
そして、女子部員のみなさんからもたくさんの応援コメント、いただいておりますー!
宇多丸:
まぁ、やっぱりだいたい、そういう感じになるよねぇ。
少なくとも、そんな大役をまかされる程度には、るーずべるとさんが職場で優秀と評価されているのは間違いないんだからさ。 その位置に行きたくても行けない人だっていっぱいいるのに、文句なんか言ってたらバチが当たる!的な考え方は、僕も、ついつい愚痴っぽくなっちゃったときとかに、するようにしてますね。「お前、現時点でどれだけ恵まれた立場だと思ってるんだよ! 甘ったれんな!」って、自戒するようにしてる。
ちなみに僕は、日本語ラップのオリジネイターというわけではないんですけど、それでもかなり黎明期に近い段階、80年代末からやり始めて、たしかに、今となっては完全に最古参の部類ではあります、恥ずかしながら……。
で、今回の相談でひとつ思い出すのは、世間的には当然まだ箸にも棒にもかかってないような時期、90年代の中頃にはすでに、「いま自分たちがしてる活動は、いずれ必ず、後の世代の伝説になる!」というイメージを、なぜかわりと明確に抱き続けていたよなぁ、ということ。 たぶん、僕だけじゃなくて、あの頃のアンダーグラウンドシーンにいた連中はみんな、大なり小なりそういう意識を持ってたと思うんですけど。 で、実際そうなった!
そんな感じでさ、るーずべるとさんも、「今回の新規事業立ち上げが見事軌道に乗り、どんどん拡大していって、やがて何代にもわたって受け継がれる一大セク ションへと成長してゆく……」みたいな、超都合のいい未来を想像してみたりすると、さらにやる気も湧いてくるんじゃない? 何世代も後の社員から見れば、るーずべるとさんなんか、ほとんど神話に出てくる英雄ですよ!
この女子部JAPAN(・v・)だって、ずーっと続いていけばそうなるかもしれないよ。 「あなたはまさかあの……、伝説の初代編集長、こばなみさんですか~っ?!(号泣&失禁)」みたいな。
こばなみ:
そんなこと言われたら、やってよかったなって心底思える~(こっちが失禁かもw)。
ただ、続く人がいないっていう悩みはありますけどね……。あ、私の相談になっちゃいましたね!?
宇多丸:
パイオニア的な仕事を成し遂げた人って、さっき言ったように特有の強さがあるぶん、特に直接の「子供世代」は、萎縮しちゃったり単に縮小再生産的になっちゃったりで、若干人材が育ちにくいという傾向は、どこの世界にもぶっちゃけちょっとあるかもしれないよね。
それが「孫世代」以降になると、もうちょいのびのびと、「オリジネイターの偉業!」的な権威からも適切な距離を取って、自分たちなりの改良・進化ができるようになってきたりするんだけど。
要は、どの世代だろうとやっぱり、「本質から考えてみる」ってことを自分なりにやり直すプロセスを経てない人は、モノになりづらい、ってことかもしれない。
だから、あんまり方法論をメソッド化、マニュアル化しすぎないほうがいいのかもね、少なくともある程度のクリエイティビティが要求されるような仕事は。
ま、現段階のるーずべるとさんは、四苦八苦してそのノウハウのベースを確立しようとしてるところなんだから、それどころじゃないと思うけども……。
なんにせよ「それは元からそういうもの」という決めつけで思考停止しないようにする、というのは、常にフレッシュでいるために、全世代共通の教訓ってことかもしれないですね。
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年12月19日に公開したものを再編集し、掲載しています。