意識を変えるのは難しいから、丁寧に。100年企業のカンロが取り組むダイバーシティ改革。
2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。
今回は
「カンロ飴」で有名な誰もが知る企業、
カンロ株式会社さんにおじゃまして、
ダイバーシティに取り組む3人に
お話を伺いました。
ダイバーシティ推進の先進的な取り組みが評価され、令和2年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれるなど、広くD&Iに取り組んでいるカンロさん。取り組みを始めた経緯や現在の課題感、今後の目標とは?
人事部長 西ヶ谷 宏子(にしがや ひろこ)さん、人事部ダイバーシティ推進チームリーダー 池田 有美(いけだ ゆみ)さん、ダイバーシティ推進チーム係長 生井 由美子(なまい ゆみこ)さんにお話を聞きました。
<History>
「社員が前向きに働けるようになることで、それが社員や企業の成長につながる、というポジティブなループをつくりたい」
——2018年の「ダイバーシティ委員会」発足から2022年の現在まで、どのようにD&Iを推進されてきたのでしょうか。
西ヶ谷さん:
2018年以前も女性活躍のための取り組みは行われていましたが、ほかの会社に比べると遅れていることは否めない状況でした。そのようななか、2018年2月に経営トップである社長がダイバーシティ委員会を発足させたところから始まります。
目的は、働きやすい、働きがいのある会社になること。社員が前向きに働けるようになることで、業績や社員の成長につながるというポジティブなループを、ダイバーシティを通してつくりたいという考えです。
池田さん:
弊社は、2022年で創業110周年という、歴史ある企業です。社員同士に家族感があり、一人ひとりが商品に込める思いもあります。一方で、昔ながらの文化があり、悪く言えば風通しが良くないという一面もありました。そんななかで2016年に社長に就任した三須※が積極的に改革を実行します。本社の移転に伴いワンフロアー化、フリーアドレス化、また服装の自由化などの変革に取り組んできました。そういった変化の一環としてダイバーシティにも、よりいっそう注力するようになったんです。
※2023年1月1日付で三須和泰氏は社長を退任し、村田哲也氏が社長に就任。
西ヶ谷さん:
企業として変わらないことの利点もあるため、弊社では積極的に変化する取り組みを行ってきていませんでした。でも、これらの改革によって、会社としても全体的な雰囲気が変わってきたと感じます。
——ダイバーシティ推進チームには、自ら手を挙げてチームに加わった方がいると聞きました。
生井さん:
弊社は社内公募制を採用していて、ダイバーシティ推進の部署が新設された際に公募があり、立候補したうちの一人が私です。私は本社で初の2度育休を取得し、時短勤務をしながら育児と仕事の両立をしてきました。また当時所属していたお客様相談室には定年退職後のシニア社員や介護をしている社員がいて、雇用形態もさまざまなメンバーと共に働く中でダイバーシティに意識が向くようになったんです。
そういった自らの経験も踏まえて会社のダイバーシティ推進に携わりたいと思い、公募に手挙げし異動をしてきました。
発足当初、前任の室長や担当役員の方と一緒に全国にある工場や支店を行脚して、「ダイバーシティとは何か」「なぜカンロはダイバーシティに取り組むのか」を丁寧に説明して回りました。また社長からのトップダウンに加えて、現場からのボトムアップの両面から施策を検討し、具現化していきました。社員一人ひとりが、なぜダイバーシティに取り組むのかを語れるようになってほしいと考え、現在も地道に啓蒙活動をしています。
「特に管理職など上層部の意識が変わると、変革が全体に進むと感じますね」
——取り組みの中で、どのような点に難しさを感じましたか。
生井さん:
人の意識というのは簡単には変わりません。それぞれの施策が、ご自身のためでもあるし、みんなのためにもなるということを、地道に、丁寧に説明するように心がけていました。
いろいろな施策が網目状に絡み合っているからこそ、例えば、女性躍進だけにスポットを当てるのではなく、ダイバーシティ全体の中に、一つひとつの施策が存在するという位置づけで考えるようにしています。変わっていかないといけない部分に対して、特に管理職など上層部の意識が変わると、全体的に進むと感じますね。
池田さん:
弊社の「ダイバーシティ宣言」では、3つの視点「働き方改革」「多様な視点」「意識改革」を大切にしています。それぞれの視点から施策を提案することで、多角的にダイバーシティを推進してきました。2018年から取り組んできた多くの施策が、少しずつ広がり、つながってきていると感じでいます。
生井さん:
活動の中では、できるだけボトムアップで現場の意見を抽出するようにしました。各地に「ダイバーシティ推進リーダー」を配置していて、現場の声を拾ってもらったり、ダイバーシティの取り組みを説明してもらったりしています。少し前までは現地に行くのに時間がかかったりしていましたが、コロナ禍でオンラインが一般的になったので、現場の生の声も聞きやすくなりましたね。
育児や介護といった事情で退職した社員が会社に戻ってきやすいようジョブリターン制度や転居を伴わないリモート転勤といった制度を整えたり、介護者やLGBTなど多様な視点を深めるセミナーを行ったり。Web社内報でもいろいろな角度からダイバーシティ情報を発信することで、常に投げかけをしています。
池田さん:
Web社内報などで積極的に発信することで、ダイバーシティについて「何かやっているな」「こんなことやっているんだ」と、知ってもらう機会が増え、意識改革にもつながっていると思います。
「コロナ禍でテレワークが広がり、女性活躍推進という面でダイレクトに影響がありました」
——女性活躍推進という面では、どういった変化を感じていますか。
生井さん:
テレワークが導入されたことは、働き方に大きな変化をもたらしたと思います。当初2020年夏開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックまでにテレワークを本格導入しようと、2019年コロナ以前より準備を行っていました。未曾有のコロナ禍で、急遽前倒しとなりましたが「ピンチはチャンス」と、一気に導入へとつなげることができました。
働き方としては大きな変化となったので、社員の戸惑いやルールの不具合もありましたが、子育て中の方や通院されている方からは「ありがたかった」というお声をいただきました。
また、これまでは私も子育てとの両立のために時短勤務をしていましたが、在宅中心の働き方に変えたことで、時間の使い方が変わってきたと感じます。働き方の選択肢が増えたことで育児休業からの早期復帰の後押しにもなりますし、ライフワークバランスが整えやすくなり、女性活躍推進という面でダイレクトに影響があった部分だと思います。
——男性の育休などについては、変化はありますか。
池田さん:
男性の育休については、今注力しているところですね。ご本人にどのような育休が取れるのか知ってもらうとともに、周りのチームの皆さんにもご理解いただく必要があります。会社では「育休サポート100」というスローガンを2022年4月に作成し、男女問わず、育休を取りたいと思っている人をサポートしていきたいと考えています。
生井さん:
育児休業取得推進に向けてスローガンや育児ハンドブックなど、さまざまな育児と仕事との両立支援をおこなっています。中でも「パパママcafé」という、パパとママの育児座談会を2019年より定期的に開催しているのですが、コロナ禍よりオンライン開催にするようになって地方にある工場勤務の社員達も参加できるようになりました。はじめた当初はママ中心でしたが、最近はパパの参加者の方が多いくらいで男性の育児休業取得への関心の強さを感じます。
——女性の管理職の数も近年よく言われる女性活躍推進のひとつの指標ですが、御社ではどのような取り組みをしていますか。
西ヶ谷さん:
男性も女性も、管理職になりたいと思わない人が増えているように感じます。キャリアの描き方も多様化しているのかもしれませんが、どうなりたいのかが描きづらい時代なのかもしれません。
できるだけキャリアビジョンを描いてもらえるようにということで、人事としてもさまざまな施策を行っています。そのひとつに「経営塾」があります。毎年、係長クラス数名を全国から選抜し、自分が経営者だとしたらという視点で研修を行います。メンバーには毎年必ず女性も選抜されています。
また、主体的にキャリアを考えてもらうために、社員には年に1回キャリアプランシートというものを記入してもらい、上司との面談の場を設けるなどの取り組みを行っています。
生井さん:
主体的にキャリアを考えるためにも、20代中盤の女性社員を対象に「若手女性の意識改革セミナー」も開催しています。女性は出産という選択肢もあるので、さまざまな生き方・キャリアビジョンがあるということを早いうちから考えてもらえるよう機会を設けています。
「意識改革が変わることで、社内の風土として根付き、視野を広げることにつながる」
——最後に、今後の展望について教えてください。
池田さん:
やはり意識改革が、すべてにつながっていくので重要だなと感じています。意識が変わることで社内の風土としても根付いていきますし、裾野を広げることにもつながる。そうやって、ダイバーシティがそれぞれの人の中にも根を張っていくことができればと考えています。
西ヶ谷さん:
「女性活躍推進」という言葉はよく目にしますが、どうしてその必要があるのかを私たち自身が深く考え続ける必要があると思っています。
また、ダーバーシティの取り組みのなかでも、グローバルな多様性に関してはまだまだ弊社は遅れています。世界には多くの異なる考え方を持った人々がいますし、障がいのある方やシニアなどの活躍も、ダイバーシティを考える上で外せません。もう一度、ダイバーシティについて改めて考えつつ、発信をし続けていきたいです。
生井さん:
アットホームなところは、カンロのいい面だと思います。この雰囲気を生かしつつ、これまでとは違う新しい一致団結感を目指して、柔軟に変化してカンロならではのダイバーシティ推進をしたいですね。
池田さん:
「ダイバーシティ=多様性だよね」とは思っていても、どうして多様性について考えなければいけないのか腹落ちしていない人も多いと思います。背景についても地道に、丁寧に発信して、知ってもらう機会を作っていきたいですね。
企業パーパス
「Sweeten the Future
心がひとつぶ、大きくなる。」
のもとD&Iへ取り組むカンロさん。
2018年のダイバーシティ委員会発足から
5年たった今でも、
社員一人ひとりに届ける難しさを
感じているそうですが、
それでも取り組み続け、
発信しつづけることが大切だと言います。
いろいろな角度から
D&Iに取り組むカンロさんが、
その先に見ている景色ーーー
一人ひとりが働きがいをもって
仕事に取り組むことができれば、
自分も成長して、会社も成長する。
それが、また自身の働きがいにつながる。
そんなポジティブなループをめざしている
という姿勢がとても印象的でした。
<お話を伺った人>
取材・文:ミノシマ タカコ/撮影:鈴木 愛子