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海外で途上国支援の仕事をしていますが、夫の退職や自分の職種が安定しておらず不安で……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室285】


✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さん、こばなみさん、こんにちは。海外から毎週楽しみに読んでいます。数年前から海外で途上国支援の仕事をしています。駐在員だった夫と結婚し一歳になる子どもがいます。半年前に夫が帰任してからはシングルワーキングマザー生活ですが、もうすぐ夫が日本での仕事を辞めてこちらに来ることになりました。こちらで職探しをすることにはなっていますが日本企業ではなく、こちらで起業している友人の会社を手伝う方に興味があるようです。夫が仕事を辞めてこちらに来ることについては、もともと会社に不満があり転職したがっていたのに加え、私は仕事が好きで続けたく、それならば子どもと三人で暮らすことを最優先しようと夫婦で相談した結果ではあるのですが、いざ夫の退職が近づいてくると不安でいっぱいです。一時的とはいえ私が一家の大黒柱になること、夫の友人手伝いというのもいわゆる定職ではないため収入や安定性が現時点では不明なこと、私自身の仕事も終身雇用ではなく常に世界各国のポストを探して試験に受からなければいけない職種のため、決して安定してはいないこと、将来のための貯蓄はできるのか(もう一人子どもを希望しているので)……などの不安です。いまさら周りの駐在員の奥さんたちを見ていて羨ましくなったり、自分で選んだ道なのにこのキャリアでよかったのかと悩んだりしています。一方で、家族三人で暮らせることをまずはもっと喜ぶべき、もっと夫を信頼してこちらでの仕事を応援するべき、ともわかっているので、上記のように考えてしまう自分に自己嫌悪もしています。このままでは夫がこちらへ来てもこの不安に押し潰されそうで怖いです。夫には打ち明けており理解をしてもらってはいます(私に負担と不安をかけないよう新しい仕事と育児を頑張ると言ってくれます)が、それでも上記の不安は減らず、結局は私自身の問題のような気がします。この不安にどう対処し、どのように気持ちを切り替え、これからの生活を楽しみつつ夫の新しい仕事をサポートしていけばいいのでしょうか? 長文すみません。ご意見いただけると嬉しいです。
(Saya・31歳・海外)


宇多丸:
将来に対する不安っていうのは、Sayaさんに限らず誰にでもあるっちゃあるものだし、パートナーにもその気持ちをちゃんと伝えて、なおかつしっかり誠意ある回答までもらってるんだったら、この時点でこれ以上できることってあるかなぁ、くらいの感じですけど……。

それにしてもこの半年、異国でのシングルワーキングマザー状態、よくがんばってきましたよね。
そっちのがよっぽど心細かったんじゃないの?って思っちゃうけど。

こばなみ:
すごいバイタリティーのある方ですよね。

宇多丸:
旦那さんもそれなりのキャリアをお持ちなんでしょうし、なんにせよ仕事に困るってことはなさそうな感じもしますけどね。

まぁ、どれくらいの経済的余裕を求めているかわからないけど、とはいえ子ども二人くらいはどうとでもなるんじゃないの?とか思っちゃうのは、無責任かな?

こばなみ:
どのレベルを目指すかによると思うんですけど、なにやったって、どっこい生きてはいけるんじゃないですか。

宇多丸:
ちょっと前の「アフター6ジャンクション」で、伊藤大輔さんという写真家の方が、リオデジャネイロのファベーラ、要はスラム街に何年か住んでいたときに撮った写真集の話をしてくださったんだけど、そのときに印象的だったのは、日本人はみんなすぐ、もちろん僕も含めてだけど、「ファベーラって怖いんでしょ?」みたいなことを聞いてくる、と。
 でも、たしかに行ったら危ないところややったら危ないこととかはあるんだけど、それは世界中のどこでも同じことだし、普通に人々が暮らしてる場所でもあるんだから、そこまでほかの地域とくらべて危険とか過酷ってわけじゃなくて……、実際、娘を2人そこで育てたのがなによりの証拠です、というようなことを伊藤さんはおっしゃってて。
そりゃそうだよな、と思って、自分のそれまでの視野の狭さを、ちょっと反省したんです。

その意味ではSayaさんも旦那さんも、そっちでの生活には慣れてるわけだし、キャリアもスキルもあるんだから、わりと余裕なほうなんじゃないのかな。

こばなみ:
あと、安定性ってよく言いますけど、どんな企業に勤めていたって、安定ってないですよね。つぶれるときはつぶれるし。

宇多丸:
まったくその通りですね。
終身雇用が安定してるなんて、昭和で終わった幻想ですよ!

むしろ、これからの時代は、まさにSayaさんたちみたいな、世界のどこでもなんとかやっていける知力とバイタリティを持ってるタイプのほうが、サバイブしてく可能性が断然高いと思うんですけどね。

僕は逆に、この日本っていう国の、ぶっちゃけいつまで持つかもわかったもんじゃない危なっかしいシステムに、それでも乗っかったままなんとかやってくしかないっていう、我々側のほうがよっぽど怖いよ!って思ってますけど。

こばなみ:
私もそう思う!

宇多丸:
Sayaさんが抱いている強い不安は、たぶん、世界というものの本質的な不安定性に、直で対峙して戦っている立場だからこそ、のものでもあると思うんです。

つまりそれはむしろ、本来感じて当然、感じるべき不安、ってことでもあるんじゃないか。
逆に、本当は世界はそもそも不安定なのに、今日が平穏だからと言って明日以降もそれが続くと、誰かがずっと守ってくれるはずだとたいした根拠もなく思い込んでいる、言ってみれば不安に感じる能力が衰えている我々のほうが、実はずっとやばいところにいるのかもしれない。

こばなみ:
たしかにやばい。

宇多丸:
こんな島国でどうにもなんなくなっちゃったら……、ねぇ。

あとさ、この先なにが起こるかなんてわからない、というどうにもならない真実に対してただただやみくもに心配している状態なんだから、そもそも根本的な解消は絶対にしないのが「不安」って感情、とも言えるわけだけど、Sayaさんはそこで、ちゃんとパートナーともコミュニケーションをとって、協力体制を整えようとしてる、つまりやれることはやっておこうとしてるじゃない?
不安が完全に消えるということは今言ったようにないかもしれないけど、現状できる備えとしては、すでにじゅうぶんなくらいじゃないですかね。
ご夫婦、かっこいいと思いますよ。

こばなみ:
強いですよね。

宇多丸:
そして、こんなご両親に育てられるお子さんたちは、さぞかし国際感覚豊かな、たくましい人間になってゆくことでしょう。
将来に対応できるのは、むしろSayaさんファミリーのほうだと言いたい!

てか、日本でどうにも暮らしてゆけなくなったら、そっちでご厄介になっていいっスか?(笑)

駐在員の奥さんっていうのもねぇ……、彼女たちは言ってしまえば有閑マダムにならざるをえない立場だから、一見優雅に見えるだけですよ。くらべても意味がない。

なんにせよ、決まった組織からだけサラリーもらってる立場ってホント、実は安定的でもなんでもないと思いますよ。
生殺与奪権を誰かに握られてるようなもんだし……、本当に強いのは、「他の人では代替不可能」な技術や能力を持っている存在だ、というのが僕の持論ですけど。

こばなみ:
繰り返しになりますけど、今は安定してても、会社もつぶれるだろうし、職もAIに取って代わられたりもするだろうし。

宇多丸:
そうそう。

それにひきかえ、「常に世界各国のポストを探して試験に受からなければいけない職種」って、どんなんだか僕らには想像つかないけど、それってなんか、最強じゃない?

ひとところにとどまらないでもいい、「ここじゃないと生きられない」ということじゃない、というのは、明らかに生き物としての強みですよ!
 憧れるし、うらやましく思います。

……って感じで、お気持ちちょっとでも、切り替わりましたかね?

こばなみ:
私はそのサバイバル力を見習いたいと本当に思いましたよ! そして海外でもこの連載を読んでくれてすごく嬉しいです。またなにかありましたら、ご連絡くださいませ。引き続き、よろしくお願いいたします!



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年7月6日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
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詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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