有名企業に勤めていて子どももいて……、計画通りな人生の友人と比べてしまう自分をやめたい!【ライムスター宇多丸のお悩み相談室239】
✳️今週のお悩み-1✳️
他人と自分を比べる癖をやめたいです。私のまわりは優秀な友人が多く、みな安定した有名企業で子どもがいて計画通りといった感じの人生を歩んでいます。私は彼らと同じレベルの企業には入れないし、結婚していますが子どもがずっとできず、将来もできるだろうかと不安を感じます。そんな状態なので、うまくいっている友人達に劣等感を感じ、正直会いたいと思えなくなっています。また、まわりのそうでない人たち(結婚していない、子どもがいない、就職活動に失敗したなど)の人を見て、安心している自分がいて、そんな自分にも嫌気がさします。結婚する/しないは個人の自由だし、自分の中で勝手に物差しを作ってしまっているのは自覚しているのですが、それを消すことができません。よそはよそ、うちはうち。なのに、内心他人と自分を比べてしまう自分をやめるにはどうしたらいいでしょうか。
(たぬきち・33歳・東京都)
宇多丸:
これはもちろん、かたちは違えど誰もが大なり小なりは必ず抱えている、普遍的な感情じゃないですか?
他人の人生と自分をつい比較してしまって、引け目や優越感を感じたりって。頭ではそんなの不毛だとわかっていてもね。
こばなみはどう?
こばなみ:
比べないようにはしていますけども、たぬきちさんのように、人を見て安心しているというのはあります。テレビでインタビューされている一般の方で自分と同じ歳くらいの方をみて、「よし! 私のが若く見えるぞ」とか。す、すみません!
宇多丸:
く、くだらねぇ~!(笑)
でもまぁ、気持ちはすごいわかります。
逆に、コンプレックスを感じることは?
こばなみ:
20代のときはよくありましたよ。まさに編集者の修行時代だった頃。高校の同級生はみんないい会社で働いてるし、大学の同級生は結婚してるし、それに比べて自分は忙しくてお金もないし、将来も不安定だし、なんかボロボロな感じだったので、あまり会合には行かなかったですね。
宇多丸:
堅実な道を歩んでるように見える皆さんに対して引け目を感じてしまう、というのは僕もわかりますよ。
こばなみ:
でも、30代になって、あるときふと、人のことはどうでもよくなってきたんですよね。
仕事ができるようになって楽しかったし、自分はそれでいいや!って思ったからですかね。
宇多丸:
要は、自分に自信がついてきたってことだよね。
つい人と自分を比べてしまったりするのは、誰でもときにはあることだし、仕方ないとして……、大事なのはそこで、自分側にどれだけ揺るぎないものが蓄積されているか、ってことなんじゃないかな。
たぬきちさんも、まずしっかり向き合うべきは、なぜ自分はこういう人生を選択してきたのか?っていう部分なんだよね、きっと。 そこんとこに自分自身あんまり納得行ってないとしたら、それこそが真の問題でしょ。 なぜそうなってしまったのか、今からでも改善してゆけるとしたらどういう道があるのか、そして一番大切なのは、自分は本当にはどうしたいのかということを、一度真剣に考えてみたほうがいいと思いますよ、他人に目を向ける前に。
こばなみ:
今回、もう1つ、コンプレックスに関する相談がきてるんですよ。
✳️今週のお悩み-2✳️
33歳既婚女性です。ここでしか言えないのですが、それなりの大学に入り、誰もが知っている大企業に勤めていました。が、3年前夫が海外転勤することになり、泣く泣く退職しました。転勤先でもブランクを作らないために働いたのですが、そこでは元のキャリアと繋がる求人がなく、少し違う仕事をしていました。現在すでに帰国し就職活動をしているのですが、元の企業のランクの企業では私のような社歴を重ねている人間は取らないようで、なかなかうまくいきません。ようやく中小企業の内定が出そうです。まわりの大学の友人は大手企業に勤めている人が多く、また両親も私にそれを期待しているため、肩身が狭く、友人・両親に会うのが辛いです。このコンプレックスをどのように克服したら前向きに生きていけるでしょうか。私のまわりでも学歴などのコンプレックスを抱えている人がいて、そういったコンプレックスを表に出す人と話すのは自分でもいやな気持ちになるので、そういう人間にはなりたくありません。
(のりこ・33歳・東京都)
宇多丸:
奇しくも、たぬきちさんと同い年ですね。
こっちの場合は、元々は人がうらやむようなレールに乗ってたのに、という。
映画なんかでよくある構図ですよね。 トム・クルーズの『ザ・エージェント』とか、ピクサーの『カーズ』とか……、要はエリートがふとしたことで出世コースを外れちゃって、都落ちとか左遷みたいなことになるんだけど、そこで初めて、調子こいてた頃には気づけなかったような真に豊かな生き方を知る、的な。
とりあえずお二人に共通してるのは、どちらも、「安定した有名企業」「誰もが知っている大企業」っていうのに、わりと迷いなく圧倒的な権威を認めてるってところですよね。 僕はそれ、正直かなり旧態依然とした価値観に思えるっていうか、いまどきそこまで全面的な信頼を託すに値するほどのものなのか、わりと疑問なんですが……、実際、そういうところに勤めていて、古い会社ゆえの体質に苦められてた人も知ってるし。
加えてのりこさんは、親の期待というのもプレッシャーに感じられている。 いずれにしても、権威とか他者の意向っていう、外部要因しか価値判断の基準がないんだよね、相談文を読む限り。 前に離職したのも、自分の意志じゃなくて、ダンナの都合に合わせた結果なわけだし。
その意味でのりこさんもやっぱり、「ほかでもない自分自身が、この人生を選んできたんだ」「自分なりにここまで積み重ねてきたんだ」っていうような、ご自分のなかに蓄積された揺るぎない誇りが、乏しい状態なのかもしれないよね。 厳しい言いかたをすれば、まだ本当の意味での「アイデンティティ」が確立できてないっぽいというか。
こばなみ:
でも、会社=自分のアイデンティティになってる人って、けっこう多い気がしますよ。学歴とかも。
宇多丸:
ホントは、そういう外部要因を全部はぎ取られても、それでも残る「自分」こそが、アイデンティティというものなはずなんだけどね。
ただそれはもちろん、一朝一夕にどうこうできるもんでもないわけで……。
とりあえずお二人には、やはりまず、考え方の比重を徐々に変えてみることからおすすめしたいですね。
思うに、たぬきちさんがおっしゃってるように「自分の中で勝手に物差しを作ってしまっている」のがダメというよりは、「物差しのバリエーションが貧困」なのが良くないんじゃないかな、って気が僕はするんですよね。
たとえば、僕の大好きな『葛城事件』とか観ると、家庭や子どもを持つことイコール幸せだなんて、とても思えなくなる。家族というのは、容易に最低最悪の呪いにもなり得る、という物の見方を学ぶことができる。
あるいは、これは番組でトミヤマユキコ先生に教えてもらったんだけど、『凪のお暇』を読むと、ドロップアウト人生にも豊かさはあるし、レールに乗っかってるから偉いってもんでもない、ってあたりが心底実感できたりするし。
あとは、前から言ってるけど、もっと視野を広げてさ、たとえばシリアの人たちのこととか考えてみなよ!とか。 僕のおすすめのドキュメンタリーで、『アレッポ 最後の男たち』というのがあるんだけど、過酷にもほどがある状況下で、それでも尊厳を保ちながら人生を歩もうとしてるみなさんというのが、現実にいるわけだからさ。 僕らもこの程度で腐ってる場合じゃない!って、背筋が伸びますよ。
それから、どうせ他人の人生と比べてウジウジするなら、「歴史に名を残すような人たちと比べて、自分はなんと無意味な生を生きていることか!」とか、そういうレベルで絶望してくださいよ!(笑) 「あたしとビヨンセのなにが違うっていうの!?」とかさ(笑)。
でも、そういう風に必ずしも世間的な成功を収めることだけが「偉大な人生」の条件ってわけじゃないよな、というのは、これも素晴らしいドキュメンタリーで『シュガーマン 奇跡に愛された男』なんか観ると、本当に身に染みるあたりだし。
とにかくそうやって、いろんな人生の物差しを自分のなかにストックしてゆくことが、まずはお二人の考え方のデトックスにかなりなるんじゃないかな、と。 少しでも気分がお楽になる手助けになればいいのですけど……。
こばなみ:
誰でも人と比較してしまうってことはあるし、そんなときに物差しのバリエ増やしとくって、本当に知恵ですね。
『凪のお暇』、読みました! 次は私も『アレッポ 最後の男たち』、いきます。
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年6月9日に公開したものを再編集し、掲載しています。