もうすぐ50歳、「老けたな」とがっかりすることが増えました。死も怖いです。割り切れる考え方はありますか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室407】
✳️今週のお悩み✳️
私はもうすぐ50歳になる独身女性です。仕事もわりと好きで打ち込んでおり、大枠は楽しく過ごしているのですが、ここ最近、ふと自分の顔を鏡で見ると「老けたな」と感じ、がっかりすることが増えました。自分で言うのもなんですが、小綺麗にはしているつもりです。しかし、白髪もピンピン出てくるし、ほうれい線や目尻のシワも。シミも濃く、多くなっています。これまでは年相応に見えない、若いと言われてきたので余計がっかりしてしまうのだと思います。いよいよおばあさん時代に突入か、言い聞かせてはみるものの、まだ自分との折り合いがつけられません。小綺麗にするのをやめる気はありませんが、老けゆく覚悟がないと言いましょうか。正直、死も怖いです。抗うことはできないこともわかっているのですが、なにか割り切れる考え方はないでしょうか。
(よさく・もうすぐ50歳・会社員・東京都)
宇多丸:
加齢と死が最終的に決して誰も免れえないものである、というのは言うまでもない大前提として、一人の人間がそれとどう対峙してゆくべきなのか、ということについては、それこそ肉体的な個人差の問題も大きかったりして、この場では当然、ちょっとひとくちには答えきれないところもありますが……。
そこに簡単に正解が出せるようなら、たとえば人類は宗教なんかに頼ったりしなかったよ!って話だろうしね。
ただまぁ、とりあえず少しだけ整理を試みてみるならば……、「見た目の若さ」と「健康」は実はそれぞれ別件って気がするし、さらにそれらの根っこにはやはり、「精神の在り方」という一大テーマがある、といった感じでしょうか。
そのなかで言えば、やっぱ見た目に関することはまだ、特に50代手前でそれまでは若く見られがちなほどであったならば、ぶっちゃけお金で解決可能な範囲がまだまだ広いというか、やる気次第である程度までは抗いようがぜんぜんあるはずな領域、とは言えるんじゃないですかね。
まぁ、よさくさんは、そもそもそうやって、ついになんらかの手を打たなければならなくなった自分、というもの自体に凹んでもいるんだろうけど……。
僕も、特にお肌は歳のわりにピチピチだと長年言われ続けてきたので(笑)、改めて鏡をよく見てみたときに、当たり前ではあるんだけど「あれ? つってもやっぱり、それなりにちゃんと歳はとって見えんじゃん……!」と気づいて軽くショック、とかはよくわかりますよ。
周りからすりゃあ「何を今さら」って話なんだろうけどさ(笑)。
こばなみ:
宇多丸さんは老いに対してどんな思いなのですか?
宇多丸:
とはいえ僕の場合、ことルックスに関しては、「若いころは良かった」みたいな感覚がまったくと言っていいほどないため、そこのギャップで落ち込むということが、特にないんですよね。
昔の写真とか見るとつるんとしてて意外と可愛いじゃんとか思ったりもしますけど(笑)、やっぱ今のほうが経済的にも精神的にも余裕が段違いだから、トータルで明らかにマシになっている、という意識が強いので。
こばなみ:
どういうときに老けたなって思います?
宇多丸:
うーん、さっき言ったみたいに、改めてまじまじと鏡を見てみたら……的な瞬間とか?
あとは、若い人たちのありさまに年相応の距離感をおぼえたとき、とかですかね。
なんにせよ、どんな年代にもいい面悪い面は絶対あるんだから、あんまりネガティブ一辺倒には考えないほうだとは思いますが。
とにかく、容姿のアンチエイジングに関しては、そこにどれだけコストを割くモチベーションがあるか次第で決まるところはぶっちゃけあると思うので、頑張るなら頑張ってみれば?としか言えないところはある。
その意味ではアラフィフなんか、まだまだ余裕がある年ごろなわけでしょ。
ただウジウジしてるくらいなら、今すぐガンガン資本投下して、気分をアゲてったほうがいいよ!
それよりもっとシビアなのはやはり、今よりさらにグッと年齢も上がって、体が思うように動かないだなんだってレベルの問題が出てきたときじゃない?
生きてること自体に不快や不自由がつきまとってしまうような段階を、どれだけ先送りにできるか、というか……、要はいわゆる「健康寿命」という話ですけど。
具合が悪くちゃ、いくらガワをキラキラに整えてようと、すべてが台無しになっちゃうわけじゃん。
こばなみ:
私、この間まで、五十肩だったんですけど、結局10カ月ぐらい手が上がらないわ、服を脱ぐのができないわ、背中をかけないわ、とにかく痛いわで大変だったんです。
本当につらくて、これ治るだけでどんなに幸せだろうかと願っていましたよ。
だから改めて健康ってありがたいものだなぁと。
ちなみに、時がたてば治るって言われていたんですけど、本当にそうで、ある日ケロッと治りました。針とか電気とかいろいろやっても治らなかったのに突然ラクになった。姿勢が悪かったりいろいろ積み重なって五十肩になるとは言ってましたけど、実は明確な原因とかって、あんまりないんですって。
宇多丸:
そっか、それは大変だったね……。
原因がわかんないんじゃ気をつけようもないしね。
事程左様に、加齢にしたがって出てくる身体の変調というのは大なり小なり避けえないし、最初に言ったように個人差が何よりでかいので、じゃあどうすればいいというような回答はなかなかしづらいんだけども。
ひとつたしかに言えるのは、見た目のことは言っちゃえばあくまで各人お好きにどうぞの世界なのに対して、その土台となるボディの最低限の機能キープは、誰であれ絶対に長く延ばすに越したことはない、というのは間違いないわけじゃない?
そこの目的だけは万人にとって明白ではある、という。
まぁさしあたっては、日々できることの積み重ねしかないですよね。つまんない一般論になっちゃうけど。
個人的には「足腰」「歯まわり」「睡眠」「快便」、そしてもちろん「こまめな検診=病気の早期発見」などがキーかな、と考えてますが。
たとえば、いつもしつこく言ってますが、寝具選び、超大事!
ベッドマットに枕、ちゃんと自分に合うものを選び抜けば、眠りの深さがマジで違いますから。
こばなみ:
すごい! 教えて欲しい!
宇多丸:
いや、どういうのが合うのかはホントに人それぞれだから、とにかく自分自身で、お店などで実際にいっぱい試し寝して、ベストなセッティングを本気で探しだすしかないんですよ。
まずはベッドマットから! 気に入ったやつが多少値が張ったとしても、そこは決してケチらないほうがいい、というのが僕の心からのアドバイスです!
もろもろ自分なりのベストセッティングを整えたうえで、理想は毎日8時間睡眠が取れたなら、心身のコンディションもだいぶ違ってくると思いますよ。
まぁ実際には、そんなに睡眠時間が取れてないことも多いけど……、あとは、やっぱり毎日しっかりお風呂に浸かって、自律神経を整えるとか。
こばなみ:
睡眠状況によって、見た目とかも変わってきそうな気がしますね。
宇多丸:
確実にそうでしょ。
同様に、足腰や歯が弱る=生き物としての自活力がおとろえる、ということなのか、途端にヨボついてきちゃうらしいので、そのへんも今からケアを怠らないようにしたいものだし……。
そうやって、言ってみれば「生きていること自体がしっかり“快”に感じられる」状態をキープすることを日々心がける、ってことくらいしか、現状我々にできることもないですからねぇ。
逆に言えば、それができてりゃもう上出来、というか。
その意味では、若いときってむしろ、心身ともに刻々と変化を続けていて安定しないし、エネルギーはありあまってるのに社会的には無力だったりして、どっちかって言うと「生きてて不快」な瞬間が今よりぜんぜん多かったんじゃないか、とも最近よく思い返すんですよね。
少なくとも僕は、30代くらいまではずーっと、イライラモヤモヤし続けてた気がします。
ま、中年越えると今度は、更年期でまた心身のバランスが崩れてきたりもするわけだけど……、一難去ってまた一難だ。
こばなみ:
更年期、しんどい人はしんどいって言いますよね。私もちょこちょこ、そうかな?って思う症状が出てきました。
宇多丸:
もちろん男性も、ハードに喰らう人は少なくないみたいだしね。
ただ、更年期なら更年期で、そうとわかればそれなりの対処法もあるわけで。
若いときよりアラフィフの今のほうが、要は「自分の状況を客観的に見てコントロールする」ための経験や知識を積んでいる、という強さは、間違いなくあるはずだと思うんですよね。
かつてユーミンさんが僕に言った、「私達みたいなタイプには、“摂生する”という伸びしろがある」って名言がありまして。
不摂生を重ねてきた人間だからこそ、ちょっとちゃんとするだけで、だいぶ伸びしろが出るって。
たしかに!って思いましたよ。
あと、同じくユーミンさんに先日コンサート直後お会いしたときは、僕が「なんか前よりさらにパワーアップしてません?」と言ったら、「力の入れどころがわかってきたのよね」とおっしゃっていて。これも納得!なんですよね。
僕も、20代のころのほうがよっぽど、ライブ後バテバテになったりしてましたもん。今の半分以下くらいの時間しかやってないのに、すぐ喉はガラガラ、それこそ吐いちゃったりさ。
要は、全時間ムダに全力出しすぎてたんですよね。ちゃんと力を抜くとこは抜くべきなのに。
あと、快適に歌うためのいろんな環境をプロとしてきちんと整備する、という意識もまだ希薄だった。
こばなみ:
どれくらいの時期から、そういう変化があったんですか?
宇多丸:
あるポイントで一気にというより、少しずつ学んで学んで、という感じかな。
とにかく、歳をとって身体の使い方というか、「自分の使い方」をだんだん心得てきたから、エネルギーをより効率よくいろんなとこに配分できるようになり、仕事などの能率もどんどん上がってくる。
燃費が良くなったというか。
これはほかの仕事や一般の生活においてもきっと同じで、加齢=パフォーマンスの低下っていうような単純なもんでも、たぶんまったくなくて。
トータルで見たら、いい面もいっぱいある気がするんですよね。
それと、歳をとるということをあまりネガティブに考えすぎないようなマインドセットをしてゆくためのひとつの指針として、たとえば誰かしら目標になるようなロールモデルを見つける、というのも、非常に有効な手なんじゃないかと思います。
あの人はご高齢になってもむしろ素敵さ増してるじゃん!っていうようなパイセン、たくさんいるでしょ?
その人が実際どう歳を重ねてきたのかとか、すでに亡くなっている方ならどんな晩年を送っていたのかとか、参考にするだけでちょっとは希望が持ててきたり、しないですかね。
この間テレビに料理研究家の有元葉子さんが出てらっしゃいましたけど、たぶん80歳とか? でも、普通にシャキッとしてて、めちゃくちゃ輝いてらっしゃいましたよ。
僕の母とかもバリバリの後期高齢者ですけど、ありがたいことに今のところまだまだ元気で、毎日楽しそうに働いてますからね。僕よりタフだよ、たぶん(笑)。
だから、結局のところその、いくつになっても本人が楽しく生きてるかどうか、ってことに尽きるんじゃないか、という気もするんですよね。
じゃあその、「楽しく生きる」ってなんだ?っていうことになるんだけど。
それはやっぱり、いつも言っているように、自分を機嫌よく保つ方法を知ってるというか、もっと大きく言えば「世界に楽しさとか美しさを見出す」感性が豊かである、というようなことなんじゃないかと僕は考えてますけど。
要は「好き」をいっぱい、もしくは強く持ってる人、というかね。
理想は死ぬ間際までそういう生の充実を感じながら生きる、ということだろうし、逆に、いくら若くても喜びを実感しながら生きられてないなら、それこそ問題なわけで。
そこへ行くとよさくさんは、おそらく大半の同世代とくらべても、けっこういいあんばいの生き方がすでにじゅうぶんできてそうな感じも、文章からはなんかしますけどね。
とにかくなんにせよ! 老いや死からはどうせ逃げられないんだから、あとは生きてる間、できるだけ悔いなく過ごせるよう頑張るってこと以外、なんかできることあります?
社会とか世界とかそれこそ「時間」とかって、我々一人一人の人間よりも言うまでもなくはるかに強大なわけだから、行動面でも精神面でも意識的にその無慈悲さに対抗するようにしてゆかないと、気づけばただ飲みこまれて不快指数ばっかり高まってしまいがち、というのも、当たり前っちゃ当たり前のことじゃないですか。
なので、たとえお花畑と言われようとも、安易にニヒリズムに陥らないようにするマインドの持ち方って、「楽しく」生きる基礎としてやっぱすごく大事なんだと思うんですよね。
たとえばアラフィフならアラフィフの強みを生かせる楽しいことだって世の中にはいくらでもあるんだから、それこそ財力にモノ言わせるでもなんでもして、今この瞬間を貪欲に堪能してけばいいじゃない!
だってさ、若造は指くわえて見てるしかないようなもんが、バンバン買えたりするんだぜ?(笑)
それだけでもう、僕は毎日幸せを噛みしめてるけどなぁ。即物的な人間ですみませんが……。
こばなみ:
財力、たしかに! ある程度自由にお金が使えるようになって、それはけっこうストレス減にもなりましたわ!
宇多丸:
若きゃ若いで、ニキビが治らないだの、髪型や服装が思うようにならないだの、見た目の不具合だってやっぱあるわけだしさ。
まして精神面に至っては、エゴは手に負えないほどふくれあがってるのに、行動は著しく制限されてるわ、主張は完全に軽んじられてるわで、最悪な状態と言っていいくらいでしょ!
そんな感じで、若いって実はぜんぜん良くなかった! むしろツラいだけだった!と、僕のように青春期を再定義するのもオススメですよ(笑)。
ただそれも、やはり今の自分を肯定できていればこそ、なので。
長くなって結局とっちらかってしまったかもですが、考え方としては、だいたいこんなもんじゃないですかね。
よさくさんの気がちょっとでも楽になるお手伝いが、できてるといいんですけど。
こばなみ:
アラフィフ、いいこといっぱいある!
よさくさん、ほぼ私も同世代なんで、ともにポジティブ思考で楽しく生きていきましょうぞ! おー!!