子どもにすぐ「勉強しなさい!」と言ってしまい反省。自分の理想を押し付けすぎ?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室48】
✳️今週のお悩み✳️
自分は親に勉強しなさいとあまり言われた記憶がないのに、自分の子どもには「勉強しなさい!」とすぐに言ってしまいます。勉強に限らず、「◯◯しなさい!」という言葉ばかり言ってしまい、子どもを怒っては反省する日々です。子どもはこう育ってほしい……という、自分の理想を子どもに押し付けているのでしょうか?
(くー・38歳・千葉県)
宇多丸:
お子さんはおいくつなんでしょうかね。それによっても微妙に答えが変わってくると思いますが……、何度も言うけど、みなさん相談文はもう少しくわしく書いてね~!
僕個人の話をしておくと、小学4年生で初めて中学受験用の進学塾に行きだしたときに、最初のテストの点数がすごく悪くって、今にして思えば軽く注意された程度だったのかもしれないけど、僕からすると今までにないくらい親から怒られた感じがして、かなりショックだったのね。 というのは、その時点の僕にしてみれば、なんで「成績が悪いと怒られる」のかが理解できなかったから。
それまで受けてた学校の授業やテストは、正直、特に努力しなくても普通にクリアできてたからさ。誰かにケツを叩かれる必要も別になかったし、そもそも何かのために改めて「頑張って勉強しなきゃならない」という意識自体がなかったのよ。
だから、実は塾に行く意味とかもよくわかってないまま、ロクに授業も聞かずに遊んで過ごしてたんだけど、そしたら当然のようにテストではまるで歯が立たなくて。 もちろんやってる内容も、普段行ってる学校とは比べものにならないくらい、いきなりレベル高くなっちゃってるしさぁ。
こばなみ:
小学校と塾の勉強の差ってびっくりしますよね。私も中学受験だったので、最初に塾に行ったときは、ちんぷんかんぷんでしたよ。
宇多丸:
でも、たとえテストの点が悪かったとしても、それが怒られるような「悪いこと」だって認識もまったくなかったから、親がプンプンしてる意味もよくわからなくて。
「なんでそんなことを急に言いだすの?」って感じで、ワンワン泣いちゃった。
ま、親もそれでちょっと反省したのか、もしくは僕の学力的現実に諦めがついたのか、その後はそれほど頭ごなしに勉強のことで怒られたことはないですけど……。
こういう風に、「勉強しなさい」とは言われるけど、なんのためにそれが必要なのかをわかっていない、納得していない、それゆえに積極的に頑張る気がどうしても起こらない、っていう子は、結構いるんじゃないかと思うんですよね。 単に怒られたくないから渋々やるような勉強は、絶対頭に入ってこないもんだしさ。
だから、くーさんを含め、まずは教育を受けさせる側が、ちゃんとその意義を説明できるくらいじゃないといけないでしょう。
では、なぜ「勉強したほうがいい」のか? ひとことで言えば、それは「人生の選択肢を広げるため」だ、というのが僕の考え方です。 ちなみにこれ、「子供時代は思いっきり遊んだほうがいい」みたいな言い分とも、実はそんなに矛盾はないと思ってて。 勉強するのも遊ぶのも、子供が世界のいろんな側面を知ってゆく、要は生き方の選択肢を増やしてゆくという点で、どっちも大事なプロセスなのに変わりはないんですから。
とにかく、およそ親や教師が子供にしてやるべきなのは、人生にできるだけ多くの可能性を示してやることに尽きる、と思うんです。 そのなかで、お子さんが何に興味や適正を示すかを見逃さないようにして、時にはさらにそちらへ導いたり、後押ししてあげる。
僕の場合で言えば、小学校高学年以降、どんどん映画に夢中になってゆくのに親も協力的だったのが、その後の人生でどれだけプラスになったことか……。
その意味で、「自分の理想を子どもに押し付け」るために勉強や習いごとばかり強いてロクに遊ばせなかったりするのは、ひょっとしたらまた別の、何か大事な芽を摘んでしまいかねないのかも、とは思っておいたほうがいいかもしれない。 だって、お子さんが本当は何に向いてるかなんて、誰にもまだわからないことじゃないですか。 ヘタすりゃ世界的な天才なのかもしれないしさ。何かの!
逆に、なんであれ「お前には無理」的な言い方は、教育する立場の人は極力するべきじゃないと思うんだよな~。 たとえ客観的には「ま、無理だろな」「十中八九、やめといたほうがいいだろな」という案件だったとしても……。 そこで大人として本当にやるべきは、「正確なリスクの提示」だろ!と思うんです。 その方向に行くことももちろん可能だけど、その場合こういうことになる危険が高まる、それでもいいのか?と。
こばなみ:
たしかにオトナに無理!って言われたら、その時点でやる気なくなりますからね……。でも、学校の先生でそういう人もいたかも……。
宇多丸:
「頭ごなしに否定しないで、リスクを提示する」ってことで言えば、もっと全然幼い頃の話だけど、「大人になったら仮面ライダーになりたい!」っていう、まぁいかにも当時の男の子らしい僕の発言に対する母の答え方も、すごい印象に残ってますね。
「仮面ライダーになるには、まずお腹を包丁で切らなきゃならないのよ」って言うんですよ。 要は改造手術のことだと思うんだけどさ。ま、確かにそうなんだよね。 とにかく、「なれっこないよ」とか「やめなさい」じゃなくて、それ相応の大変な思いは覚悟しておけ、という言い方。
実際、僕はそれ聞いて、速攻で「お腹を包丁で切られるのはイヤだな……。じゃあ、ライダーはやめておくか」って結論を出したんだけどさ。 リスクを考慮したうえで自分が出した結論だから、子供ながらにすごく納得できたのをよくおぼえてるんですよ。
こばなみ:
それはすごくいい回答ですね。ほんといい! 仕事でも活用できそうな。メモメモ!
宇多丸:
それと、たとえ成績が悪くても、子供や生徒のことを、ふざけ半分にでもあんまり「デキが悪い子」扱いしないほうがいいんじゃないか、とは思いますね。
そうやって扱われ続けると、だんだん「どうせオレはバカだからな」と自己評価が低くなっていって、やる気もなくなっていくもんですよ。実際、中高6年間の僕がそうでしたから。頑張ったのは、ちょっとでも褒められたことがある現国と美術だけ。
そこからなんとか早稲田に受かるまで持ってった話は、長くなるのでまた別の機会にするとして……。
なんにせよ、できない子を叱って済むなら、教育に人間は要らない、ケツ叩きマシーンがあれば十分、ってことになっちゃいますから。
ちなみに、「なぜ勉強したほうがいいのか」については、『ふがいない僕は空を見た』という小説が原作の映画を観てもらえば、より骨身に沁みて納得していただけるのではないかと。あっ、R-18なので、くーさんはお子さんと観ちゃ絶対にダメですよ!
具体的には中盤からの、団地で極貧生活を送っている高校生、福田くんメインのエピソードなんだけど。 底辺の暮らしに甘んじながら、勉強は嫌い、金がないから大学も行かないとうそぶく彼に、バイト先の先輩、田岡がこう言うんです。 「金なんてそんなもん、無返済の奨学金とか推薦とか、いろいろあんだよ抜け道が」。
(以下、シナリオから引用)
福田「大学行ったって就職できない人いっぱいいるじゃないですか」
田岡「お前さ、今のままだったらまるっきし丸腰じゃん。親が金持ちとかさ、何か才能あるとかさ、そういうの今のお前に何にもないでしょ。せめて大卒ってステータスくらい装備しててもいいんじゃないの? 高卒の就職率分かってる?」
(中略)
田岡「まあ、店長みたいなアホにこき使われて、団地暮らしっつう一生も、それはそれで悪くないけどな」
福田「……それだけは絶対にいやです!」
田岡「じゃあさー。勉強しよっか」
……実はこの田岡先輩も、ある衝撃的な秘密を抱えていたりするんだけれども。
こばなみ:
先日、観ました。え、先輩!?ってビックリしましたけど、たしかにあの状況を抜け出すのって勉強なんだってのは納得できました。ほかの話もいろいろ衝撃的ではありましたが観て本当によかったです。
宇多丸:
要は、社会階層を下から上に移動するための、最も有効な、人によってはほとんど唯一の手段として「教育」というものがある、という、とても大事な話をしている。「学歴社会」って、みなさん、なんとな~くの批判的なニュアンスで口にしがちだけどさ……。
問題はあくまで、その大事さをちゃんと知っているのもまたある階層以上の話だったりする、つまり、結果的に教育の機会が万人に均等に開かれているとは言い難い、という部分であって、学歴の価値そのものを否定したら、階層間の格差がもっと固定的になってしまうだけなんじゃないの?っていう。
もちろん、学歴なんか関係なく成功した人だってたくさんいるだろうけど、言っとくけどそっちのがよっぽど過酷な、弱肉強食の世界ですから!
田岡先輩の言う通り、何代も続く資産家や権力者の子女というわけでもなく、かと言って己の力だけでのし上がってゆけるような突出した才覚も別にない、我々フツーの人間のためにギリギリ用意されたシステム、それこそが、勉強(≒努力)の結果に応じて得られる、学歴や資格ってものじゃないかと思うんですけど。
こばなみ:
わたしもそれは思います。フジツボ研究から編集という全然関係ない方向にきちゃったけど、その過程が活きてない、ゼロとは決して言えないし、選択肢は広がったと思います。
宇多丸:
……というようなことを、くーさんなりにさらに噛み砕いて、お子さんが「なるほどこれは確かに勉強したほうが良さそうだ」と心から納得するまで、じーっくり説明してあげたらいかがでしょうか? ちゃんと自信を持たせてあげるのも忘れずに!
【今週のお絵描き】
実話です……
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年6月14日に公開したものを再編集し、掲載しています。