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男性社員育休取得率100%企業が、新人事制度で目指す“働きやすさ”と“働きがい”


2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。

今回は
育児用品を扱うメーカー、
ピジョン株式会社(以下、ピジョン)さんに
登場いただきました。

2015年に男性社員の育休取得率100%を初めて実現したというピジョン。以前から性別に関係なく活躍できる土壌があると言います。そんな環境からさらに一歩推し進めて、2021年からは年功序列を排した新しい人事制度をスタートさせました。

一人ひとりの適性、望む働き方、キャリアビジョンに寄り添う人事制度や研修制度ができた背景について、人事総務部の渡辺 雪香わたなべ ゆきかさんにお話を聞きました。


<History>

〜父親も当たり前に育児をする社会を実現するためのへの取り組み〜
●2006年 
 1か月間有給で取得できる育休「ひとつきいっしょ」の運用開始
 
1か月間の育休の半分は、会社が付与する「特別休暇(有給)」を利用し、残りの半分は、失効年休を積立てた「積立休暇」を利用する仕組み。

●2014年頃
 男性の育休取得率30%前後


2015年
 男性の育休取得率100%に。以降6年連続で100%を達成

●2021年 1月
 新しい人事制度がスタート

●2021年
 「社員で作り上げる育児制度プロジェクト」を発足
 育児制度の内容やナレッジの公開により、他の企業の育児制度設計を支援


「パートナーが妊娠したら、すぐ教えてくれる男性社員が増えました」


——30%前後で推移していた男性社員の育休取得率が、2015年に100%を達成されたそうですね。その後も100%を維持できているのはすごいと思います。100%を目指した背景について教えてください。

ピジョンは育児用品を取り扱っている会社です。外部からは、「当然、男性も育休はとっているだろう」という印象であるはずです。でも、実際は30%……。そのままではよくないということもあり、当時の社長が声を上げて100%を目指すことになりました。
「育休を取得できない場合は、理由を社長へ報告する」という新ルールを設け、強力に推し進めた結果、2015年に男性社員の育休取得率100%を達成。現在まで継続しています。

実は、最近は、自身やパートナーの妊娠が分かった際は、早めに人事に伝えてもらうようにお願いしています。もちろん本人の意向を優先することは大前提で、伝えたくない場合は強要しません。でも、準備期間が長くなればなるほど、会社としてサポートできることの幅が広がると思っています。その結果、女性だけでなく、パートナーが妊娠されたらすぐ教えてくれる男性社員も増えましたね。


ピジョン株式会社 人事総務本部 人事総務部 人事労務グループ マネージャー 渡辺 雪香わたなべ ゆきかさん


——準備期間が伸びることで、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

日本では安定期になってから報告するという雰囲気がありますが、実は体がつらいのはその前の時期。早めに伝えていただくことで、つわりでつらい時期に休暇を使ったり、在宅勤務に切り替えたりすることも可能に。もちろん個々のプライバシーはしっかり守ります。上長とうまく話せないときは、人事が間に入って調整することもできますしね。
また、どのように育休を取るか、人事も一緒にじっくりプランニングして決めていくことができます



「アンケートから、育休がただ長ければいいというものでなく、普段の働き方の柔軟さが重要だと分かりました」


——育休を取られた男性社員のご家族にアンケートを採られたと伺いました。印象的だった声などあれば教えてください。

ピジョンでは、男性社員も1カ月間の育休が取れる「ひとつきいっしょ」という仕組みがあり、社員にもその制度は評価してもらっていたと思います。でも、実際に社員のパートナー は1カ月の休みだけで満足されているのだろうか、と感じていました。
アンケートを採ったところ、育児はずっと続いていくので育休を長く取るよりも、普段から早く帰宅できたり、子どもが熱を出したときにパパも対応できるようにしたりしてほしいといった声が大半を占めていました。私も「そうだよね」と感じましたね。

そういう声も参考にしながら、弊社の育児休暇制度は“長く取ればいい”というものではなく、一人ひとりの家庭に合わせて、柔軟に設計できるようになっています。

■ピジョンの育児制度全体像

ピジョン株式会社提供

また育休中=無給と思われている方もいますが、雇用保険の育児休業給付金も利用できます。社員は案外そういった制度をあまり知らないので、「もっと知らせた方がいい」という声もありました。


——1カ月間の育休をみんなが取った場合、業務への影響はないのでしょうか。

1カ月間の休みであれば育休に限らず、病気での入院などでもあり得る長さです。その程度の期間は乗り越えられる組織状態にしておくべきだと思います。
それに、育休は突然休むわけではなく、準備期間があります。ここがかなり重要で、事前に仕事を分散したり、やらなくてよいことを整理したり、計画を立てることができますよね。


——2021年から「社員で作り上げる育児制度プロジェクト」をはじめられたと聞きました。

ちょうど「育児・介護休業法」の法改正もあったので、ピジョンだからこそ作り上げることができる制度設計をしよう、とはじめました。まずは子どもがいる社員全員と、男性社員のパートナーに対してアンケートを実施。出てきた内容をまとめ、課題点を抽出しました。あわせて、協力者を募ったところ28人ほど手を挙げてくれて。一緒にワークショップを行いました。

このプロジェクトでは、育児制度という名前が付いていますが、その裏には「働き方改革」という大きなテーマにつながっています。なぜなら育児制度だけにスポットを当てすぎることで、育児をしていない社員にしわ寄せがいってしまっては元も子もないからです。育児しているかどうかに関係なく、社員全員が必要なときに帰ったり休んだりすることができる風土を、プロジェクトを通して作りたいと考えました。

その結果、今回お話したように、試行錯誤を経てできたのが今のピジョンの育児制度です。今後は、この経験を、必要とするほかの企業さまにも共有して、社会全体をよりよくする活動にも力を入れていきたいと考えています。

本社の1階にある、歴代哺乳器の壁面ギャラリー。その奥には誰でも利用できる「授乳・さく乳室」が用意されている。



「新しい人事制度で、自らのキャリアをつかみに行ってほしい」


——人事制度も刷新したと伺いました。まずはどのような制度なのか、概要を教えていただけますか?

以前の制度では、基本給が「年齢給」と「成果給」で構成されていました。成果給はがんばりに応じて変わり、年齢給は年を重ねることで上がっていく仕組みになっていました。

そのため、若手で実力のある社員の評価が給与に反映されにくくなっていたことが問題でした。また、社内では元々「年功序列は、今の世の中とマッチしていない」という声も。確かに、当時の等級制度上では、年功序列の要素が強い状態でした。

一方、新しい人事制度では、年齢や社歴によって何かが優先されるということはありません。その方が担う役割とその成果によって給与が決定されるため、能力がある社員がきちんと評価されるようになっています

だからといって、若い人にとって有利と言うことはありません。どのポジションでも、成果を残さなければ昇格することができません。全員にとって、ある意味で厳しい制度ではあると感じています。


——年齢が上がるだけでお給料が上がるというのは、社員さんにとってはありがたい制度だったと思うのですが、制度を変えることに対する社内の反応はいかがでしたか。

導入の半年前には、社員に丁寧に説明を行いました。まずは将来どういう会社になっていきたいかを共有し、会社として社歴や年齢に関係なく評価していきたいという考えを話しました。また、管理職向け、社員向けなど、階層別の説明会も実施しています。

あわせて、人事へ個別にメールで問い合わせしてもらえるようにし、説明会で質問できなかったことを受け付けました。届いたメールには、ひとつひとつ返信しています。導入後も、多くの問い合せをいただきましたね。

また、この制度は、評価をする管理職側の正しい理解と運用が重要になります。そこで、管理職に対しては、事前にどのように評価をつけるかを議論してもらう研修を行いました。人事が考える評価とご自身の考える評価との間にあるギャップを把握してもらい、実際の評価に生かしてもらうことが目的です。

また、管理職は、自身の部署のメンバーの評価について「なぜこの評価にしたのか」について、他の部門の管理職も参加する評価会議の場で説明するようになっていて、メンバーにも納得感のある評価が行われるようになりました。

社員側は、各等級に役割定義が設定されているため、それぞれの等級において目指すことがクリアになったと思います。新しい評価制度を導入してから、若くして等級をどんどんあげる社員も出てきました。もともと性別は関係ありませんでしたが、さらに年齢も関係なくなってきたなと感じています。


——評価制度とあわせて今回注目したのが、研修制度です。どのような研修が用意されているのでしょうか。

内容としては、基本的なビジネススキルを学ぶ人事主導のもの、職種や部門別の職能に合わせて行うもの、選抜で行うもの、キャリア支援のためのものなどがあります。

ピジョンの社員向け研修体系(ピジョン株式会社 Webサイトより)

研修自体は外部の会社に協力していただいたり、内製したりと研修目的と内容によって異なります。

基本的なビジネススキルについては全社員が対象ですが、例えば選抜で行うような研修などは、立候補してもらったうえで参加者を選抜し、選抜された社員のみプログラムに参加してもらうという仕組みになっています

また、研修制度は人事評価にも関連し、指定の研修を受けていないと昇格できないようになっています。そのため、社員自ら、今の自分の役割等級を確認し、昇格するためにどのような研修を受けなければならないか考え、募集時に手を挙げる必要があります
いざ昇格できるのに必要な研修を受けていなかったということにならないよう、管理職も気にして、一緒に確認しながら進めていくスタイルになっています。


——お話を聞きながら、大学の単位取得を思い出しました。仕事しながら研修も受ける必要があると、うっかりできないですね。

そうなんです。以前の制度では、ある程度まで年齢で上がっていけるようになっていました。一方、新しい人事制度では、与えられるキャリアではなく、自分で自分のキャリアをつかみに行ってほしいという考えで設計しています

それに、自ら手を挙げて研修についても参加するようになったため、参加する人の意識も変わり、取り組み方も能動的に変わってきたと感じます。



「育児をしながら働く管理職が増えることで、若手社員もこういう働き方ができると意識してもらえるはず」


——女性活躍やダイバーシティといった視点で、今感じられている課題はありますか。

ピジョンは、あまり性別は関係ない職場環境ではありますが、女性管理職の比率に目を向けるとそれほど高くはありません。その点については、課題として感じています。

以前は、管理職も男性がほとんどで、プライベートの時間を割きながら働いている管理職もいて、それを見ていた社員のなかには「子育てをしながら、その働き方は自分にはできない」と感じていたことも、女性管理職が少ない一因だったと考えています。

それを変えていこうと、人事では様々な取り組みをしてきました。ほんの5〜6年前まで有給取得率が30%ほどでしたが、今は80%まで上昇できてきているように、社員の働き方に対する考え方は、今どんどん変わってきています。

私自身も管理職になり、男女での不公平などを感じることなく働くことができていますし、仕事とプライベートの両立がしやすくなってきました。

今は自分も含め、育児をしながらマネージャー職に就いている社員もたくさんいます。こういったロールモデルがふえることで、若手の女性社員も「こういう働き方ができるんだ」とキャリアの幅が広がっていくと思っています。




一人ひとりの考え方を変えるのは
容易ではありません。

育児に関わる会社だからこそ、
率先して新しい研修や評価制度を導入し、
社員の考え方、そして働き方を
変えていったピジョンの取り組みは、
新たなにヒントにつながるのでは
ないでしょうか。

さらに、
その取り組みを他の企業にも広めていきたい
という思いから、
育児制度の設計・運用の相談を受けるという
次なる一歩を踏み出したとのこと。
気になった方は、
問い合わせてみてはいかがでしょう。


<お話を伺った人>

ピジョン株式会社
人事総務本部 人事総務部 人事労務グループ
渡辺 雪香わたなべ ゆきかさん

新卒で同社へ入社し、人事部へ。2022年からマネージャー職に。現在は労務を中心に担当。




取材・文:ミノシマタカコ/撮影:田中亜玲




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