私の家には来るのに親友は家に入れてくれません……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室135】
✳️今週のお悩み✳️
親友の家に迎えてもらえないことが悩みです。親友とは高校からの付き合いです。私が地元から東京に出てきた後、1、2年後くらいに親友もこっちに仕事で住むことになりました。私の部屋には何度も遊びに来たり泊まっていったりしますが、彼女は一度も誘ってくれたことがありません。行ってみたいな、と言っても、狭いしとかなんもないし、とはぐらかされます。なんとなくその子は人を部屋に上げるのが好きではなさそうとも思ってましたが、普段仲良くしてるのに、壁を感じてしまい寂しいです。好きではなさそうなんだから割り切ればいいといつも制してきましたが、ふとあっちが私の部屋で遊ぼうとか言ってきたりすると自分が入れてもらえないことを思い出し寂しくなります。私は変なんでしょうか?
(メメント・25歳・東京都)
宇多丸:
僕はね、むしろこの、自分の家には絶対人を上げようとしないっていうお友達側のスタンスが、500%わかりますよ!
完全にかつての僕ですよ。
こばなみ:
なんでそんなに拒むんですか?
私これ読んで、誰か部屋にいるんじゃないのかな、と思ったんですけど。
宇多丸:
いやいや、もちろんそういう可能性もゼロじゃないだろうけど、少なくとも僕の経験に照らし合わせる限り、そういうはっきりした隠し事みたいのがあるわけじゃなくても、それでも家には入れたくない、ってことは全然あり得るからさ。
僕の場合、大前提としてまずはやっぱり、単純に部屋が人に見せられるような状態じゃなかった、というのがありますよね。以前、イラストで描いた通りです。 DVDとCDと本のタワーが、誇張じゃなく、僕が寝るときの体のかたちだけぽっかり空いて、部屋じゅうにそびえ立ってましたから。その寝床のことは、「コックピット」とか「ツタンカーメン」とか呼んでましたよ。寝相が異常にいいから、周りの山が崩れないんだよね!
でね、さらに自己分析してみると、単に部屋が汚いからって問題でもないんだよね。もっと根が深い。 なんなら、実際に部屋が汚れてるとか乱雑であるとかとは、実は本質的にあんまり関係ないのかもしれない、というくらい。
要は、初めて一人暮らしして、誰かに見られるという意識がまったくないまま暮らしてたら、いつの間にかその状態になってた、ってことだからさ。 ある意味、自分の無意識がそのまんま部屋になっちゃったような感じと言うか、ダイレクトに脳内を見られてしまう!みたいな気分なんですよ。
皆さんが想像しやすいたとえで言うと、インターネットの検索や閲覧の履歴を他の人に見られる、みたいな感覚が近いかも。 それって、それこそエロサイトとか、特に後ろ暗いものを見てたってわけじゃなくても……って感じじゃない? そうじゃなくとも、自分がほとんど無意識にしていた思考の流れを客観的に見られるのって、なぜかものすごーく恥ずかしかったり、居心地悪かったりしないですかね。
こばなみ:
あああ~、なるほど。それが恥ずかしいって感覚はわかる。
宇多丸:
かつての僕や、おそらくメメントさんのお友達にとっての自室っていうのは、そういう内面のグチャグチャドロドロが、はからずも実体化してしまったもの、みたいに考えていただくといいんじゃないでしょうか。
だから、ちょっとやそっと片付ければ済むって問題でもないんだよね。 そもそも部屋というものに対する定義というか、捉え方から根本的に転換しないと、人を快く招き入れられるような空間とは、なかなか思えない。
で、言うまでもなく、そんな暮らし方は、決して褒められたもんじゃないですよ。 「他者」の視線を意識しないで生活してる時間が長くなればなるほど、社会的存在としては、はっきり言ってどんどん、狂気に近づいていくんだと思う。
僕の場合は、一部ラジオリスナーの間では伝説と化してる「ピエール瀧&水道橋博士&西寺郷太による自宅襲撃事件」っていうスーパー荒療治と(笑)、あとはまぁやっぱり、結婚を機に一念発起して、一応そこまで極端なところからは脱しましたけど。
こばなみ:
いまはどうです?
宇多丸:
そりゃあ引っ越し直後と比べたら、特に自分専用の蔵書部屋は、結局すぐ本棚に収まりきらなくなってどんどん物置化してっちゃってて、いいかげん抜本的な見直しをしないとな、って感じにはなってきちゃってたりしてますけど……。
とは言え、なんだかんだ言ってやっぱり、これは親兄弟だって基本的には同じことだと思うけど、同居人という「他者」とある程度の生活空間を共有していると、家全体がそこまでひどいことになる前に、なんらかの歯止めがかかるもんじゃないですかね、普通は。怒られたりしてさ(笑)。
ちなみに、かつての僕も、メメントさんの親友と同じく、自分は絶対人を家に上げようとしないくせに、人の家にお呼ばれするのは全然オッケー!でした(笑)。図々しくてすみません!
特に、なんと言うのかな……、人を招き慣れてるというか、お客が来ても大丈夫な前提で住空間を整える、というのを常識として育ったタイプの人たちっていうのがいるでしょ。要は、本当の意味で「育ちがいい」方々ってことなんだと思うけど。 僕みたいに、その方向のしつけがまるでなってない人間が、たまにそういうきちんとしたお宅に伺うと、つくづく感心させられると同時に、「俺んちなんか死んでも見せられねぇ!」っていう思いをますます強くするわけですよ(笑)。これは今でもちょっとそうかもしれない。
こばなみ:
私も片付けが苦手で、元にあったところに物を戻せないんですけど、これもしつけなんでしょうね。お恥ずかしながら、親が全部やってくれてた……。
宇多丸:
あぁ、そっちだ。
大元の原因をたどればやっぱり、しつけの問題ですよ。
こばなみ:
メメントさんちも、すごいちゃんと片付いてるのかもしれないですね。
宇多丸:
別にそこまでビシーッとキレイ!ってわけじゃなくとも、たとえば余計なモノがほとんどなくてさっぱりしてるとか、その程度でも、引け目はしっかり感じちゃいますよね。
向こうは「散らかっててごめんね~」とか言ってるんだけど……、どこが!?っていう。
たとえて言うなら……、家族写真のアルバムと、日記の差というかさ。
こばなみ:
なるほど!
家族写真はプライベートなものでもあるけど同時に人にも見せられるもの、日記は完全に人には見せられないもの、ですもんね。
宇多丸:
まぁ、さっきから言ってるように、そうやって自分の生活空間全体を「日記化」してしまうのがそもそも良くないんだけどね。せめて寝室だけにするとか……。
ただ、その現状が決して褒められたもんじゃないってことは、たぶん本人も、重々わかってはいることなんですよ。でも、それを恥ずかしいと思えば思うほど、人には絶対見せられない!という「症状」も悪化していく。
かと言ってさ、人の日記を、嫌がってるのに無理矢理見ようとするっていうのも、それはそれでいかがなものかじゃない?
ということでね、メメントさんがお友達に対して感じる不満やさびしさは、もちろんごもっともなんですよ。メメントさん側が悪いってわけでも変なわけでも当然ない。 ただ、かつてはそのお友達と似たようなスタンスだった僕から言わせてもらうと、どうしても人を家に上げたくないっていう人間にも、なにかそれなりの事情というか、思いがあるんだってことは、ちょっとだけ考慮に入れてほしいかなと思いますね。
それは、仮に最初のこばなみの予想通り、メメントさんには言いそびれてただけで、実は誰かとすでに同居してた……みたいなのが真相だったとしても、やっぱり同じことで。 言わないには言わないなりの理由が、きっとあるんだからさ。
なんにせよ、おそらくだけどそのお友達も、自分はメメントさんの家に上がらせてもらってるのに……というこの不均衡な関係性を、心苦しくは感じてるはずだと思うんですよ。 少なくとも、家に入れてくれないということと、メメントさんに対する友情の度合いは関係ないと思います。
だから、はっきり言えば一種の「病」にかかってるんだと思って、そこに関しては、今はちょっとそっとしといてあげたほうがいいんじゃないかな……。
僕も昔、そのことを人から突っ込まれたり責められたりするのがすっごく嫌で……、それに、家に入れたら入れたで、室内の状態にドン引きされたり、またあれこれ言われたりするのが目に見えてるしね。 それってつまり、僕らみたいな人間にとっては、自分でもどうかと思ってるグチャグチャな内面を、直接グサグサと、無神経に批判されてるようなもんだからさ。 それでさらに殻に閉じこもる傾向が強くなった部分もあった気がします。 さっき言ったピエール瀧さんの荒療治みたいのは、万人にはオススメできないですしね(笑)。
まぁもちろん、できればいつかは、その病から脱せるといいのは間違いないんですけど……、それにはやっぱり、よっぽど根本的な心境の変化が必要だから。 それこそ親友として、焦らず、優しく見守ってあげてほしいと思います。
いやしかし、僕には本当に、身につまされる相談でした……。
こばなみ:
ちなみに3/19(土)にときめき片づけコンサルトを呼んで「ときめきお片づけ勉強会」を開催しますので、片付けられない女子はぜひどうぞ。宇多丸さんも来ます?(笑)
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年2月27日に公開したものを再編集し、掲載しています。