男性育休100%や無期限の介護勤務制度。1990年代の本気の女性活躍支援が、全社員の好循環へ
2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。
今回は、時代に先駆け、2007年より
「ダイバーシティ推進プロジェクト
(現:ダイバーシティ&インクルージョン推進プロジェクト)」を
進める大塚製薬株式会社の
取り組みをご紹介します。
プロジェクトを立ち上げたきっかけや
背景、これまでの取り組みをはじめ、
これからについて、
人事部の 田中 静江さんに
お伺いしました。
1964年に設立された大塚製薬株式会社は、世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造するという「Otsuka-people creating new products for better health worldwide」の企業理念のもと、事業を通じた社会課題の解決に取り組み、自らの持続的な成長と健康でサステナブルな社会の実現を目指しています。
<History>
「30年前、会社側が女性活躍についての姿勢をきちんと見せてくれたことが、励みになった」
——「ダイバーシティ」という言葉がまだ今ほど知れ渡っていない2007年に「ダイバーシティ推進プロジェクト」を立ち上げたことは、とても先進的だったと思います。大塚製薬のDE&Iのきっかけは、あったのでしょうか?
きっかけは1990年に開催された「女性フォーラム」だと思います。弊社の事業の1つである医療関連事業では営業やMR(医療情報担当者)の存在が重要です。当時は男性中心だったのですが、1990年から女性の営業やMRを全国で40名程度起用することになり、女性の働き方について考えようという動きが活発になったのです。
40名の女性を起用するにあたり、本人はもちろん、彼女たちの上司である男性に、女性にどのように活躍してもらいたいかという会社としての方針を伝えていく場として「女性フォーラム」が開催されたのです。女性MR本人とともに上長にも参加してもらい、アメリカのグループ会社の社員を呼び、女性MRのロールモデルの紹介をしてもらうなど本気の取り組みでした。
とはいえ、もともと女性も重要なポジションに起用されてはいたのです。例えば、1988年に発売された「ファイブミニ」は女性だけのプロジェクトから誕生した製品なのですよ。男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年なので、かなり画期的なことだったと思います。
女性フォーラムが開催されてから30年以上経ちますが、当時入社した女性は今も多く在職しています。会社側から女性活躍についての姿勢をきちんと見せてくれたことは、私たち女性の励みになったのだと思います。
そのような環境だったので、当時から比較的、女性が働きやすかったとは思うのですが、結婚をはじめ、さまざまな理由で退職をされる方もいます。女性が活躍するためには、もっと対策が必要であると考え、2007年に生まれたのが「ダイバーシティ推進プロジェクト(現:ダイバーシティ&インクルージョン推進プロジェクト)」です。
「会社にこうしてほしいとお願いするよりも、自分たち自身が積極的に変わることで会社を変えていくきっかけに」
——当時としては、かなり画期的な社風だったことが伝わってきます。2008年には、初の男性育児休暇を取った方がいたそうですね。男女に対してフラットな体質であることがわかります。
このことは、その後の取り組みへのきっかけになったと思います。当初は珍しさもあって受け入れムードがあったのですが、希望者がだんだん増えていくのに反して育休を取りにくい雰囲気になってしまった時期もありました。女性活躍のためには男性の育児参加も大切ということを研修などで伝えるので、社員たちも頭では理解をしているのですが、なかなか行動には出にくいことも。育休を取りたい若手社員と上司の考え方のギャップがあったのだと思います。
また、社内のほかにも、MRの取引先であるドクターたちに受け入れられないのではないかという不安もありました。でも、ドクターは男性の育休取得に好意的で安心しました。
ダイバーシティ推進プロジェクトとしては、育児参加や育休取得促進への理解を得るために上長と話をして考え方のギャップを埋めたり、広報部と一緒に呼びかけたり、地道に取り組んできました。2019年にはイクボスをどんどん増やすために役員を含む管理職以上の社員全員(約600人)を対象にした「イクボスセミナー」も実施しました。昨年はリアルとオンラインのハイブリッドで全社員を対象に開催し、反響も非常に大きかったです。
——社員の自主勉強会「WING」が制作した男性育休に関するムービーを、社内で共有したところとても評価されたとか。
「WING(ウイング)」のメンバーが自らの経験をもとに、男性育休について周知するためのビデオを制作しました。男性社員が育児休業を希望し、取得した場合のケーススタディを紹介したものです。素人なので手作り感のある動画ですが、わかりやすく、社員に受け入れられたようです。今でも管理職研修に活用されています。
こういった活動の結果として、2016年に3.7%だった男性の育児休業取得率は2020年に76.2%にまで上昇し、2022年には100%*を達成しました。
*1年間(1月1日~12月31日)に育休を取得した男性社員数/ 同一期間に配偶者が出産した社員数
——男性育休率100%は、すごいですね! また、自主勉強会「WING」の存在がD&Iに大きく貢献していると感じているのですが、どのような活動をされているのでしょうか?
女性フォーラムの後、女性社員同士で「もっと活躍したいよね」「女性の管理職が増えるといいよね」というようなことを話していました。加えて、当時の社長からももっと女性の活躍を推進したいという後押しもあり、だったら勉強会を起こそうと、2009年に有志メンバーから生まれたのが自主的勉強会「WING(ウイング)」です。始まった当初は女性管理職で構成されていましたが、現在は組織縦断型で、性別、役職を問わずに参加者を募り、「わたし達が変わり会社を変える」をテーマに課題抽出とその解決策を議論する積極的な活動を行っています。
これは立ち上げ当時から変わっていません。会社にこうしてほしいとお願いするよりも、自分自身が積極的に変わることで会社を変えていくきっかけになりましょう、というスタンスだからです。WINGの提案をきっかけに改定した制度もあります。女性活躍のための勉強会でしたが、今ではメンバーの男女比はほぼ同数になりました。
「介護はいつまで続くかわからない。だから、介護勤務制度は無期限です」
——これからの時代、育児とともに、仕事との両立の重要課題になるだろう「介護」についても力を入れているそうですね。
これまでは、短時間勤務や始業終業時刻の変更を可能とする「介護勤務制度」の取得は法定同様3年としていました。でも、介護はいつまで続くかわからず、不安になることも多いです。そこで、期間を決めず、事由がなくなるまで取得できるように2020年に制度を変更しました。
そこには、優秀な人材の介護離職を防ぎたいという思いがあります。育児休職においても休職期間を法定以上に延長していないのですが、それと同様に、介護休職も休職期間も延ばすのではなく、働きやすい環境を整え、少しでも仕事に関わり、介護中も終わった後も継続して仕事をしていただきたいと考えています。社会との関わりが少なくなってしまうこともあるなかで、仕事を続けていけば自分自身を保つことにもつながり、精神的にもメリットがある気がします。
介護を担う社員が、これまでと同様の働き方ができなくなったとき、休職を勧めるだけでは問題は解決しません。その人の将来を見据えて、仕事との両立ができるようなベストな方法を一緒に考える必要があります。
ただ、介護を担う状況になったとき、ほとんどの社員は人事ではなく、まずは直属の上司に相談します。上司が介護についての知識が薄いと、適切な判断がしにくいものです。そのため私たちはe-ラーニングなどでの研修を行っており、今後は、全社員に導入する方向で検討しています。高齢化社会において、育休同様、介護の制度についても理解を深めていく必要があると考えています。
——さまざまな立場の社員を考慮した制度がたくさんありますが、今後はどのようなサポートをお考えでしょうか?
社員たちから声が上がっているのが、不妊治療やPMS、更年期障害などへのサポートです。通院や体調不良などで「1日有休を取るほどではないけれど……」というケースが多いので、社員は誰でも時間単位取得可能な年休が1年間につき5日取れるようなりました。常に、どうしたらみんなが使いやすい制度になるのか、検討を続けています。
——女性が活躍し続けるために必要なこととは?
女性が活躍するためには、やはり「健康であること」がベースとして大事だと思います。私たちは健康生命関連企業ですから、これまで培ってきた知見やノウハウを活かしながら、社内のみならず、世界中の女性の健康をサポートし、あらゆる面で女性に活躍をし続けていただきたいです。
大塚製薬を代表する
「ポカリスエット」
「カロリーメイト」「ソイジョイ」
などは、
発売のたびにその新しい視点に
驚かされてきました。
そんな画期的な製品を
生み出す社員が育つのは、
多様性を認め、
それぞれの能力を活かす風土が
あるからなのかもしれません。
気負わず、自然と
D&Iに取り組んできたからこその
柔軟性に、
今後も注目したいと思います。
<お話を伺った人>
大塚製薬株式会社
人事部 部長補佐(兼)コンプライアンス部 部長補佐
(兼)ダイバーシティ&インクルージョン推進プロジェクト カウンセラー
田中 静江さん
取材・文:佐々木美穂 /撮影:鈴木愛子