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仕事一筋でがむしゃらになることに疲れてきました。でも周囲の評価が怖くて肩の力を抜くことができません……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室55】


✳️今週のお悩み✳️

私は会社員です。個人の成果がはっきり表れる仕事をしています。出世したい、偉くなりたいと思っているわけではないのですが、成果を出して周りに認められ たいという思いが強く、プライベートもなげうって仕事に打ち込んできました。それなりに結果を出し、評価もされていると思うのですが、最近、仕事一筋でがむしゃらになることに疲れてきました。それなのに「あいつは最近ふるわないな」と思われることが怖くて、肩の力を抜くことができません。周囲の評価にこだわってしまう自分の気持ちとどう折り合いを付けたらいいでしょうか。
(さくら・27歳)


宇多丸:
僕も、特にここ数年は結果的にワーカホリックみたいなことになっちゃってるので、気持ちはわかりますよ。
もともと人間的にはむしろのんびり生きていきたいタイプのはずだったのに……。

要は、休むのが怖いんだよね。
休んだら、元の仕事のペースに戻れなくなるんじゃないかって気がして。

こばなみ:
私もその気持ち、わかります。でも、先月ちょっと胃が痛くなって、連鎖的にいろいろ調子を崩したんですよ。いや~、30代後半、急にきましたね。なので、早めに帰るようにしたり、酒を控えたり、いつもの8割くらいで過ごしてたんですけど、案外仕事ってまわっていくんだなって思いました。後輩が気を利かせてやってくれていたりとか。でも、さくらさんの場合は、チームプレイ仕事じゃないんですもんね。

宇多丸:
超シビアな実績主義、競争主義の営業とかですかね。
だとしたら、周りにもそう易々と気を許せなかったりするのかもしれないよね。

こばなみ:
宇多丸さんは疲れてきたときとか、どうしてます?

宇多丸:
やっぱり、適度に「自分を甘やかす」ってことですかね。

よく奥さんに「今日はもうこれ以上、仕事しなくていい?」ってわざわざ宣言してから、飲んじゃったりしてますよ。

僕の場合とくに、どこまでが仕事でどこまでがプライベートか、はっきりしない業種だからさ。
たとえば映画を観るにしても、ラジオでやってる時評のために、関連作をそれこそ寝る間も惜しんで観たりすることも多いけど、ときどき、余計な時間なんてないのはわかってるのに、「もうこれ以上、“仕事のための”映画は観たくない!」って気分が抑えられなくなることもあってさ。

要は、「まったく生産性のない時間」というのが、人間には一定量絶対に必要だってことだと思うんだけど。
だから、もう俺、限界かも!って感じたら、「今日はもう十分仕事したし、あとは遊んじゃっていいよね? その権利が、今の俺にはあるよね?」って、半分自分に言い聞かせるように口に出してみる。
奥さんはそんなの知ったこっちゃないから、「いいんじゃ~ん?」みたいな軽い感じで返してますけどね(笑)。
で、さしあたっての仕事とはまったく関係ない映画観だしたり、ゲーム始めちゃったり、フツーに飲みに行っちゃったりすると。

でもマジな話、そこでそういう「まったく生産性のない時間」とかを入れずに、ひたすら自分に厳しくし続けてばかりいるとさ、それこそいつか、「カラダ壊しました、精神をヤラれちゃいました」ってことにもなりかねないじゃん。
で、そうなったときこそ、誰も助けちゃくれないからね。ライバルにとっちゃ、しめしめってことじゃん。
限界を超えてまで頑張ってみたところで、長期的に見たらそんなの、結局「周囲の評価」にもマイナスになってしまいかねないってことですよ。

つまり、これまでは後先考えずがむしゃらに突っ走ってきてそれで良かったけど、ある段階からは、「長距離走」をする構えが必要になってくる、ってことは間違いない。
で、さくらさんは今、まさにその段階に差しかかっているし、そのことに無意識に気づいてもいるんだと思います。
野球のピッチャーだってさ、全試合に出場して、全部の回、全部の打席で全力投球なんてしてたら、すぐに肩壊して引退ですよ! 
特にさくらさんみたいな豪速球投手タイプは、それこそ適度に休み入れてかないと絶対にダメなんだからさ。

僕の本業の話をすると、ライブなんてホント、体力勝負なわけですよ。
特にライムスターは、ヒップホップのなかではかなり激しく動き続けるほうだから。ワンマンだったら毎回3時間近く、大声出しながらジャンプしたり走り回ったり……。40代も半ばになってまだ、よくやれてるわ、と我ながら思うけどさ。

でもね、実は若い頃のほうが全然バテやすかったんですよ。
喉も一発でかれちゃってたし、終わった直後にいちいち吐いたりもしてたくらい。
たぶん、力の抜きどころがわかってなかったんだよね。

もちろん全力でやることの価値はあるんだけど、年を取ってくると、無駄な力みが抜けてくるというか、力まかせの戦いかたはできなくなってくるぶん、より効率よくエネルギーを配分するコツがわかってきて、結果としてパフォーマンス全体の質も上げられたんですよ。

で、これって、仕事というもの全般にも通じる話だと思うんですよね。
力を抜いていいところは抜くし、ダメージを引きずらないためにこそちゃんと休んだり、遊んだりもする。
その結果、より少ない労力で効率良く成果を挙げることができる、歳を取っても若い頃以上のパフォーマンスが発揮できるようになる……、つまり、これは年齢相応のスキルアップ、キャリアアップのうちだってことですよ。

あと、いずれ人に指示するような立場になったとき、そういう案配がわかってるかどうかって、結構大きい気がします。
がむしゃら型の人がそのまま管理職になっちゃうと、人を使うっていう、要はまさしく「労力の適切な配分」に慣れてないもんだから、すぐに「自分で」全部背負おうとしちゃって、結果能率も悪いし無理もたたっちゃうし……とか、よく聞く話でしょ。

こばなみ:
あるあるある! 自分もそういうとき、未だにありますよ。結局は自分で自分の首も締めてるっていう……(苦笑)。
それと、「『あいつは最近ふるわないな』と思われることが怖くて」ということですが、わたしよく思うのは、一度そう思われちゃったほうが楽だなって。一度ポシャると、あとは上がるしかないじゃないですか。気持ちが楽になるというか。

宇多丸:
そもそも、全試合で勝とうとしなくていいじゃん!ってこともあるよね。
必要な負けってあるからなぁ……。
逆に、勝ってばかりいると学べないこともあるし。

まぁ、さくらさんの職場はとにかくイケイケな空気が支配的で、そういう長期的な「成長」を見守ってくれるような雰囲気ではないのかもしれないけど。

こばなみ:
社内はみんなライバル!みたいな会社もありますからね。
わたしが知ってる営業メインの会社の人は、30までに独立するために20代はむちゃくちゃ働きます!と言っていました。しかも、それは目標のためだから苦じゃないとも言ってました。本音はわかりませんが……。

宇多丸:
僕の知人でも、あるジャンルで成功してそれなりの地位を築いている人なんだけど、彼は「生涯全体で稼ぐべき賃金はもうすでに稼いだ」って言ってました。保険とかいろいろ上手くやると、若くしてそういう人生設計も可能になるみたいよ、よく知らないけど。

とにかく、稼ぐだけ稼いで早めにリタイヤするとか、そこから今度は人を雇う側にステップアップするとか、そういう選択肢も当然あるはある。
いずれにしてもさくらさんは、20代後半にして「疲れる」ところまで来れてるぶん、ホント大したもんですよ。
僕、最初に「自分を甘やかす」ことの利点について話しましたけど、普通の人はもっと手前の段階、下手すりゃ何ひとつ具体的にはやってもいない時点でもう「自分を甘やかす」ことを優先しちゃうので、こんな悩みにはそもそも到達しないんだもん。

「頑張りすぎる人に、ちょっとだけ自分を甘やかすことを覚えてもらう」なんて、「自分を甘やかしてばっかりの人に、本気で頑張ることを覚えてもらう」のに比べたら、どんだけ簡単な話なんだ!ってことですよ。

こばなみ:
たしかに!

宇多丸:
だいたい、もともと金持ちとか、天才とかじゃないかぎりさ、何か「いい仕事」に就こうと思ったら、学歴や資格の取得、あるいは職業上最低限必要なスキルや実績の習得でもいいけど、自分がステップアップするためにそれこそ「寝ないで頑張る」ような時期って、一生のうちのどこかで、少なくとも一度は、誰もが必ず経験しておくべきことなんじゃないの、とも思うんですよね。

逆に、その過程を経ずにずっと来ちゃうと、どうしたって職業選択の幅は狭まってくる……という現実は、みなさんもっと切実に覚悟しておいたほうがいいんじゃないかな~、と。前に言った学歴の件とも通じる話ですが。

こばなみ:
そう思うと、がむしゃらにやってるさくらさんの今回のお悩みって、なんだか前向きですね。

宇多丸:
まとめると、
時には「自分を甘やかす」ことを覚えよう
そろそろ「長距離走モード」へ移行してゆくべき段階
・いずれにせよフツーの人よりアンタは偉い

以上でどうでしょう!


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年8月2日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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