「男性性を求められるのが苦痛」と主張する彼。ありのままを受け入れるのが難しいと感じています。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室354】
✳️今週のお悩み✳️
はじめて付き合った人と4年になる25歳の女です。話しているととても楽しく、仕事を全力でやる彼を尊敬していて、隣にいてくれるだけで嬉しいなと心から思いながら、付き合いを続けてきました。が、ありのままを受け入れるのに、最近難しさを感じています。彼は「The彼氏」な振る舞いが苦手で、男性性を強制されることに抵抗を持っている人です。対して私は、ある程度男らしくいてくれたら、と思いはじめています。ホテルの部屋やお店の中に入る際、先にスタスタ歩いて行き、私が入る前にドアが閉まってしまっても気にしないこと、以前の私の一人暮らしの部屋で食事をした後、何度か言っても食器の後片付けを忘れるなど共同生活上の協力が感じられないこと、大きい荷物を私が持っている時でも手伝ってくれないこと(大きなスーツケースを一緒に動かしてくれない?とお願いしたことが2回ありますが、ものすごく嫌そうに持っていました。など、書き出すと些細なことなのですが……。自分以外の人がご飯を作ってくれたなら片付けはしましょう、と言われて育ち、それ以外も他人に気遣うことだと思ってきましたが、彼のお母さんが何でも一人でやってしまうスーパーお母さんなので、そのような教育は受けてきてないということかな、と思っています(荷物を持ってもらうととても嬉しいことを暗に伝えたくて、彼が重そうで私に余裕があるときは手伝います。みみっちい私です。笑)。引っかかりつつも、「男性性を求められるのが苦痛」と主張するそれが彼なのだなと自分に言い聞かせてきて、相手は私の思いを知りません。私はもともと駄々をこねる人が好きではなく、何か不満に感じても相手にわかる程に機嫌を悪くすることができません。この1年半は遠距離恋愛だったので4カ月に一度会うのみだったのですが、会っても言葉や行動に思いやりが感じられず、この半年ほど「好き!!」「今後も一緒にいたい!!」という言葉を素直に彼に対して持てないでいます。あと2年以上は遠距離恋愛が続く予定ですが、彼に「結婚には意味を見出せないのでするつもりがない」と言われ、将来どうするかについてはまだ決められていません。人と深く付き合うことで、何か貪欲でずるい欲望のようなものが自分の心に芽生えてきているようにも思え、罪悪感があります。が、自分のこの期待を、なんらかの形で伝えるべきなのか、それともそういう人だなと再び受け入れる努力をすべきなのか。ああ! 一度もう別れちゃいたい! それで何か、新しいことがわかるだろう!という気持ちが今は7割です(あとの3割は、会話が楽しいな・別れるのは寂しいだろうな、などです)。愚痴っぽくなってしまうので友人に話しにくいことだったのですが、なんとか打開したく投稿しました。お二人の視点でアドバイスくださると嬉しいです。
(でこ・25歳・大学院生・東京都)
宇多丸:
まず言いたいのは、その彼、「男らしさ」イズムの押しつけを拒絶しているがゆえにあえていろんなことをやらないんだ、みたいな理屈をなぜだか打ち出してらっしゃるようだけども……、でこさんのお話をうかがう限り、いわゆる「上げ膳据え膳」で甘やかされて育ってきた、むしろゴリゴリ家父長制ベースのマザコン、要は一番タチが悪い「男らしさ」に染まりきっている人に思えるんですけど?ってことだよね。
彼の振る舞いはさ、単に、横にいる人への気遣いが欠如しているだけじゃん、と思うんですよね。
それを、どこでおぼえてきたのか知らないけど、男性性が云々とかいう立派そうなお題目で包み込んで……、話のすりかえがひどすぎる!
あげく、でこさんの気持ちもすでにほとんど離れかけているわけでしょう。
こばなみ:
なんで付き合ってるのでしょうかね? まぁ、3割楽しいなってのがあるんでしょうけど。3回に1回楽しいとかの感じですかね?
それって結局楽しいのかな……!?
宇多丸:
要はこれも、「背中押してほしい」系の相談ってことでしょうね。
ならば喜んで、押してさしあげますよ。
そいつ、かなりダメ! すぐ別れたほうがいい!
こばなみ:
もっといい男性いますよね。
宇多丸:
いるいる、うじゃうじゃいるよ!
まぁね、たとえば「レディファースト」的なことってさ、言ってみればマッチョな思想がベースにあるからこそ、なものでもあるのはたしかだろうし、そういう意味では今どき無自覚に振りかざすようなもんじゃないのかも、という問題意識を男性側が持つこと自体は、悪いことではないのかもしれないけど。
でもね、僕は思うんだけど、後からくる人のために、ちょうどいい場所ちょうどいいタイミングでそこにいる人がドアを押さえてあげるとか、見るからに体格的キャパを超えた荷物を大変そうに運んでいる人がすぐそばにいたら、余裕がある側がちょっと手を貸してあげるとか、そういうのは男女関係なくおこなうべき、「親切」の部類だろうと思うんですよね。
少なくとも僕は、年がら年中ドア押さえてますよ。相手が知らないおじさんだろうとなんだろうと。
自分が使った食器の後片付けをするしないとかにいたっては、「お行儀」の問題ですからね。
なんでそんなことまで、でこさん側が忖度してあげちゃうのか……。
こばなみ:
初めて付き合った相手だから、比較とかもできないのですかね。
これの逆ですけど、男女でご飯を食べに行ったときに「サラダとかを取り分けるのとかって女性らしいじゃないですか」っていう意見があって、私のまわりは男女関係なくやってくれるので、それは単に「気遣い」じゃないのかな?って言ったんですけど、でも女性側もそう思い込んじゃってる人もいる。
でこさんも「The彼氏」な振る舞いって書いてあるけども、案外そうやって役割や魅力と性別を結びつけている人は多いのだなって。
宇多丸:
そうだね。言うまでもなく、万人のなかにそういう刷り込みやバイアスは、大なり小なりあるわけだけど。
でも、たとえばそのサラダの取り分けで言うと、それをされた側がなんで嬉しいのかと言えば、何よりまず、「親切にされたから」なはずでしょう。
そして、親切にしてくれた人には、当然ながら相応の好意を抱きやすい。
サラダを取り分ける人がモテるとしたらあくまでそういう理由の順番からであって、それをいきなり「女らしいから」と解釈するのは、原因と結果を完全に取り違えている、としか言いようがない。
だって、男がやったって、やっぱりそりゃ喜ばれるんだから!
そこに性差を持ち込んじゃう人はたぶん、食事のことだから女の領域だろう、力仕事は男の出番だろう、というような古くさい役割イメージに、おそらくほぼ無意識にとらわれてしまっているだけなんですよね。
無論、そういう考え方をする人がいまだに少なからぬ割合を占めている、という現状もあるだろうけど、間違いなくそこはどんどん変化しつつあるし、させてかなきゃいけないことでもある。
だから、こばなみのさっきのエピソードみたいに、その場でそういう議論をサラッとするのって、すごくいいことだと思いますよ。
ホントは性別関係なく、人から好かれるにはつまるところ、「素直に、そして親切に」、これ以外ないのにね……。
その点、でこさんがお付き合いしている彼の言動からは、「親切」がものの見事に欠落しているんですよね。
そこが一番肝心なところなのに!
こばなみ:
人として大事。男女の話じゃないですね。
宇多丸:
ただこれ、でこさん側も、何を不満に思っているかっていうのをこれまで言葉や態度にして伝えてはいないので、彼からすれば、改善する機会もなかった、とは言えるかもね。
だから彼的には、でこさんのなかに今、こういう葛藤が起こっている、ということ自体も、おそらくまったく知らないんじゃないかな。
こばなみ:
結婚までいかなくてよかったじゃないですか!
宇多丸:
でこさんは大変謙虚な方で、自分がわがままなのかも?的なことをしきりと気にされてますけども、そんなことはないですから!
ひとつだけ、でこさん側の改善の余地というか、仮に今後また別のお付き合いが始まったりした際に心配なのは、やはりその、「飲み込み癖」ですよね。
何しろ、「何か不満に感じても相手にわかるほど機嫌を悪くすることはできません」って……、「機嫌を悪くする」がコミュニケーションの方法だと思ってるのは、なかなかヤバいですよ!(笑)
そこは面倒でもいちいち、ちゃんと言葉にして伝えてゆかないと。
そうやって、お互いの違いやへだたりをこまめにすり合わせてゆく努力は、誰かと継続的な関係を築いていくうえで、絶対に不可欠なものですからね。
そこをすっ飛ばして、いきなり怒り出したりしたってもちろん不毛なことにしかならないし、
黙って飲み込み続けるのにも限界がある。
最終的にあるポイントで結局は閾値に達して、突然爆発!となるほうがよっぽど厄介だし。
その意味では、お相手側からすると、近いうちにでこさんから切り出されるかもしれない別れ話も、かなりの寝耳に水というか、さぞかしショックを受けるんじゃないかとは予想されますよね。
こばなみ:
別れるときに揉めないといいですね。
宇多丸:
向こうからすると、ひとつひとつの理由は「そんなことで?」って話に思えるかもしれないけど……、こっち的にはその総体でもう無理!となってるというのが、ちゃんと伝わるといいですよね。
だからこそやっぱり、「だったらその都度言ってよ……」って言い分にもそれなりの理が出てくるわけだけど。
ま、それは次回以降への教訓とするとして……。
あと、個人的願望としては、これはバシッと言ってやってほしいな。
「あんたは自分を、いわゆる男性性にとらわれない進歩的な男、みたいに自己規定してるようだけど、それ完全に勘違いだから! 私からすれば、ただの病的に気が利かないマザコンマッチョだよ!」とか(笑)。
でもマジで、彼はこれまで、誰にもそうやって率直に指摘してもらえなかったから、そこまでおかしな人になっちゃった、という面もあると思うから。
逆に言えば、でこさん側にもはやそこまで彼への親切心もないようであれば、わざわざ波風立てるような捨てゼリフを言う必要もないだろうけど。
とにかく僕は今回、その彼の言い草、同じ男性として余計にイライラさせられましたねー(笑)。
何をワンランク上の男ヅラしてやがる!って。
こばなみ:
次、いこう!
宇多丸:
25歳、まだまだいろんな人と出会うはずですから。
もちろんそのたびに傷ついたり、いろんなことがこれからもあると思うけど、そういう経験ひとつひとつが、でこさんにしか味わえない人生の糧なわけでね。
その意味では今回も、いい勉強した!ってことでいいんじゃない?
次、いこう!